プロローグ
初夏の風が吹き抜けていく。まだ早い時期なのに、蝉が鳴いている。
蝉が祖母を連れていってしまった。まだ、幼い和花はそう思った。
境内にある池を眺めながら、和花は唇を引き結んだ。泣いてしまいそうになったから。泣いてしまったら、本当に悲しいことが起こったのだ、と思えてしまうから。
不意に、涼しい風が和花の頬を撫でた。
ふわり、と頭に重みを感じる。和花は顔を上げた。おだやかな瑠璃色の瞳を見つけて、和花は喉に詰まったものが無くなるような心地がした。
和花の前に現れた男性は微笑みかけてくれた。大きな優しい手で和花をすっぽり包む。
彼に人の肉体はないのに、和花には体温を感じることができた。彼が神で人間と違うと知っていても、その温度に縋りつくよりほかはなかった。
「辛い時ぐらい泣いても良いんだぜ、君」
その言葉に和花はくしゃり、と表情を歪めた。
大好きだった祖母が死んでしまった。そのことが改めて和花に突きつけられた。
目の奥がツンと熱くなり、大粒の涙が溢れ出した。歯を食いしばって泣き声を噛み殺す。
「よしよし」
穏やかな声が和花の耳に届いた。
その途端、和花の視界が大きくぼやけた。景色が歪んで何も見えない。
大粒の涙が溢れ出し、声が出た。人目も気にせず、泣き続けた。
和花が泣いている間、ずっとあの暖かさが包んでくれていた。
泣き止んで顔を上げた時には、和花は一人だった。
煩いぐらいに蝉が鳴いている。
照りつける真っ白な日差しの中、和花はただ、立ち尽くすしか出来なかった。
──以来、和花は神様を見ていない──
次の話は明日にでも投稿する予定です。
目指せ毎日更新。