5話
さてその夕木様ご本人というと、非常に変わった性格をしており、俺としては捉えどころがない。
間違いなく抜群に頭が切れるのは誰もが知るところだ。
現在、この離島に唯一ある中学校に通っているが、およそそこでの勉強は夕木様からすれば退屈に違いない。全国一斉学力テスト等でも全国的に一桁代の成績を特に一夜付けで勉強することもなく、しばしば資産家らのパーティーやらに列席する片手間で取るのだから、天才と言っても過言ではないだろう。加えて、語学や将来に向けた多様な勉強を同時並行で進めているらしいので、夕木様もまた、俺のような庭師兼雑用などよりよほど多忙である。
また、その容姿はどこか日本人離れしている。非常に彫が深く、髪も茶か光の当たり方によっては金や灰に見えることさえあり、そのはっきりとした二重瞼の瞳は吸い込まれそうになる。というか、要するに俺にはハーフにしか見えない。
だが、旦那様と奥様は(互いに俺よりも大分歳を重ねていらっしゃるとは言え)、ともにどうみても生粋の東洋人風の顔立ちである。それでも旦那様は俺のような十人並みに比べれば、かなりの男前で、奥様もマダムと呼ぶに相応しい気品をお持ちだが、それにしたって、この両親にこの娘が遺伝的に生まれるものなのかと疑問は未だ溶けない。
実際俺は、夕木様はどこかから来た養子なのだと思っている。しかし、その件で旦那様と奥様に質問してみるなんてことは絶対にしない。いや、実際屋敷に来た当初は古時計の件しかり、それとなく質問を繰り返すことも多々あったが、最早俺はそういうことは絶対にしない。
そもそも夕木様が両親と血が繋がっているのかいないのかなど使用人如きの俺には無関係な話だからだ……というもっともらしい意見はさておき。
率直に言うと、俺はあの旦那様と奥様がどこか怖いのだった。
中年で妻子持ちの男が「怖い」なんて何を馬鹿なことをと言われるのかもしれないが、あの二人は時折異様な雰囲気を醸し出すことがある。それは大抵俺が屋敷の事情のようなちょっと突っ込んだことを言おうとした時にしばしば発生するのだ。
実際あの二人は本当に気の良い人で、最近は何かと用事を頼まれることが増えたとはいえ、いつも俺のことを気遣ってくれるし庭の手入れの良さをいつも褒めてくれる。また実利的な面で、待遇もすこぶる良い。
妻と娘が向こうで何不自由なく暮らしていけるのは旦那様のお陰に他ならない。
だが、いつも心のどこかで俺は彼らの顔色を窺っていた。
いや顔色というより、「そのもの」を窺っていた。
何か本能的な直感だった。
だが他の使用人、例えば仲の良い調理の高戸さんにこれを聞いた時は、彼は全く気にしていない風で、朗らかに笑うのみだったので、やはり俺の神経質過ぎる精神が影響しているのかもしれない。
ひょっとしたらクビにされるんじゃないかという、中年リーマンにありがちな危機感がただ単に強く出てしまっているだけなのかもしれない。特に一般的な会社と違いこの洋館屋敷は広く、風変わりな海外製のアンティークも多くあるため、ただここにいるだけでも日本人の俺には心が浮足立つような感じがするのも無理はない。
そう、気のせいといえばそれまでなのだ。