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12話

 どれくらい経っただろうか。

 窓も締め切りエアコンも効いていない蒸し暑い書斎で、飲まず食わずのまま、激しく弁明し合っているのは最悪だ。

 ああ。

 さっさと警察を呼んでしまえば良かったのに。


 朦朧とし始める意識の中でおもむろに部屋にかかっていた時計を見ると既に午後1時に突入していた。

 

 はぁ。

 

 だがここまで来ると、俺もポケットにある携帯電話を握る手が震えて通話に踏み切れない。

 警察に電話されるということは犯人にとって最悪なことのはずだ。

 電話を始めた俺にこの中の誰かが突然斬りかかってくるかもしれない。


 勿論、高戸さん以外は女性だし、全員でその一人を取り押さてくれれば済むかもしれないが、件の旦那様の凄惨な死体、犯行時間を思うに犯人は複数だと考えられる。つまり、下手をすればこの激しい罵り合いは完全なペテンであり、犯人グループに良い様に時間を稼がれているという可能性さえある。

 現に、幾ら夕木様がこの書斎を『檻』と表現したからと言って、この中に馬鹿正直に全員留まっている今現在がそもそもおかしい。中村さんなんて一目散に書斎を飛び出していっても不思議ではないし、筑波さんのような冷静なタイプならすぐさま警察に連絡してもおかしくない。

 誰も連絡しない、誰もこの書斎を出ようとしないという今の状況が不自然なのだ。

 実際、この人達は俺が書斎に着た途端、真っ先に犯人扱いしてきた。

 当初の計画では、俺に濡れ衣を着せるつもりだったのではないか。

 そう考えると、俺だけなぜか蚊帳の外で騒ぎに気付けなかったというのも合点がいく。

 

 だがただ一人異物が混入していた。

 イレギュラーがあった。


 夕木様である。

 所詮は中学生である夕木様が、思いの外冷静に皆に指示を出し、俺の事を犯人ではないと断定してきた。

 今も旦那様の死体と皆に睨みを利かせつつ静観している。

 この存在が犯人グループにとって予想外だったのではないか。


 そこまで考えを巡らせると、我ながら何故だか本当にそんなような気がしてくる。

 

 待てよ。でもそもそも犯人が複数、例えば中村さん、高戸さん、筑波さんだとすれば、シロなのは俺と奥様と夕木様だけだ。車椅子の夕木様と細身の奥様には殆ど抵抗される心配もないだろうし、今すぐにでも俺に三人がかりでいきなり飛び掛かって殺してしまえば良いじゃないか。そのあと夕木様も奥様も殺してしまえば良い。

 そうしないということは、犯人側は旦那様以外は殺すつもりがないということなのか。

 旦那様殺しは後で警察が来てもやりくりできる自信でもあるのだろうか。

 あるいはそもそも複数犯ではないのか。

 それとも高戸さんがメンバーではないために、中年とはいえそれなりに腕力の在りそうな男が二人いるから抵抗を恐れているのか。


 わからない。俺には所詮、こうして想像を働かせることしかできない。

 

 ――ん?


 ふと。


 背中の腰のところが酷く痛むような気がした。

 おかしいな。背の方には何も無かったはず。

 

 モノに当たるなんてことは。


 意識が汚濁していたため感覚が麻痺していたのか、しかしその明確な激痛も数刻の後にはやってきた。

「いっ、ああああああああああああああああああああああああああ」

 突き刺すような猛烈な痛みで俺は叫び声を上げる。


 すぐ後ろを振り向くとそこにはなんと。


 筑波さんが立っていた。

 そして俺の腰には、大柄なナイフが突き刺さっていた。


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