啓示
あの後俺達は宿に移動した。
流石にあんなところでずっと話をしてる訳にもいかない。人目を気にしなくていい宿で話すことにした。でもまぁ部屋を取る時にも色々あったんだが。
「取り合えず3人と1人部屋1つずつ。」
「あら、私同じ部屋でも問題ありませんわよ。」
俺が宿の受付でそう言ったら、アリアが続けてそう答えた。
「いや、そういう訳にはいかないだろう。年頃の女性がいい年の男と一緒の部屋で一晩過ごすのは駄目だろう。」
「いえ、むしろウェルカムですわ。それか3人部屋1つでも結構ですわよ。私部屋の隅でじっと息を殺してますので。」
「いや、それの方が駄目だろ。」
宿の人が引いてるし。そりゃ美少女っぽい子がそんなこと言ったらドン引きするわ。
とりあえず俺の言った通りに宿には3人部屋と1人部屋を用意して貰った。そして3人部屋の方にアリアも来てもらって座って落ち着いて話をすることにした。
「とりあえず紹介しておこうか、俺の名前はダイゴ、そして一緒に旅をしてる仲間のガイとブランだ。」
俺はそう言って2人を紹介した。
「ガイだ。」
「ブランじゃ。」
2人共えらく簡素な自己紹介だな。まぁ2人らしいけど。
紹介を受けたアリアの方がなんか目の焦点が合わず、うふふふっと笑っている。なんか別の世界に行ってないか?
「アリア?」
俺がそう声を掛けるとハッとした様子で姿勢を正した。
「失礼しました。私は先程も名乗りましたが、レスティア教の神官をしておりますアリアと申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。この度はこんな素敵なパーティに迎え入れて下さって・・・うふっ、うふっ、ぐふふっ。
はっ、失礼しました。今度の事を考えると笑みが零れ落ちそうになりました。本当にこれからが楽しみでなりませんわ。」
いや、それは笑みなのか?物凄くヤバい感じの笑いなんだけど。しかも零れ落ちてるのはそれだけじゃない気がするんだが。零れ落ちるというより垂れ流しているんだけど、いろんなもんをさぁ。ガイとブランも若干困惑気味なんだけど。
「ともかく一応よろしく頼む。」
俺がそう言って話を〆た。ホントに色々と頼むよ。
「それでアリアには色々と聞きたいことがあるんだけどいい?」
「はい、私で分かる事でしたら何なりとお聞きくださいませ。」
「とりあえず知ってる事全部話して欲しいんだけど。」
「全部でしょうか?どういう事についてお話すればよろしいんでしょうか?」
「とりあえず勇者と魔王とか知ってる事全部かな。」
俺はそう言う。俺はグラントの国では特にそこまで勇者と魔王の事については調べてなかった。調べて疑われたりするのを避けるためだ。だからあまり勇者と魔王の事については知らない。アリアはレスティア教の神官ということであれば詳しいんじゃないかと思ったんで聞いてみた。
「勇者様と魔王ですか・・・。しかし私も伝承を知っているくらいですわ。」
「そうなの?その伝承って?」
「昔から伝わるお話ですわ。
『魔王が現れる時、異世界からの勇者が現れこれを討つだろう。』
これが一般的に伝わる勇者様と魔王の伝承ですわね。」
「詳しいこととかは残ってないの?勇者がどんな人物かとか、魔王がどんなやつだとか。」
「そうですわね、そこまで詳しいことは言い伝わっておりませんわね。」
うん?おかしいな。神レスティアが言ってたけど、今まで何度も勇者ってこの世界に召喚されてるはずだよな。前にも勇者がいたって言ってたし。でもその詳しい話が残ってないのは妙だ。勇者は世界を救ったんだろ。普通世界が救われたりしたらその話を後世まで残そうとかしないのかな。わざと情報を隠したりしてるんだろうか。まぁ今ここでは何とも言えないし話を続けるか。
「魔王が現れる時に勇者も現れるってことは魔王が出てきたから勇者も召喚されるってことだよな?ってことは魔王が先にこの世界に現れるんだよな?俺は召喚されてから魔王の話をあんまり聞いたことがないんだけど、誰がどうやって魔王が現れたことを知るんだ?」
「あぁ、それは私と同じように神託を受ける者がいるのです。いついつに魔王が現れますと。」
えっ?なに。そう言うお知らせがあるの?
「じゃあ今回も誰かが神託を受けて、魔王が現れたことが分かったから俺達を召喚したってこと?」
「恐らくは。実際に神託を受けたのが私ではありませんので確証はございませんけど。」
「そもそも神託ってどういうことなの?」
「スキルで【神託】を持っている者が自分が仕える神より、お言葉を頂戴することですわ。」
そうか、俺もスキルで【神託】自体は付けれる。でも付けたところで何もおきないんだ。多分信仰してる神とかいないからかな。レスティアも会ったことあるだけで信仰してるって訳でもないしな。
「神託ってそんな頻繁に受け取ったりするの?」
「いえ、私は今回初めでした。人によるものだと思います。」
「今回受けた神託ってさっき話したので全部?」
「そうですわね、まずダイゴ様にお会いして、時が来るまで一緒に行動すること。そしてダイゴ様の詳しい・・・、えっと、そう、そうですわ色々なスキルをお使いになれるという事をお聞きしましたわ。」
うん、言葉を濁したね。一応言ったことは守ってくれるつもりらしい。
「この町で俺に出会えるって知ったのも神託で聞いたの?」
「いえ、それはもう一つの【天啓】と言うスキルで分かりましたの。」
「神託と天啓って違うの?」
「神託は神のお言葉を頂戴するものです。天啓はそうですね、何かを閃いたり、頭にその時の光景が見えたりするのです。それが神から送られているのかはわかりませんが。その為別のものと考えております。」
「じゃあ今回のも?」
「えぇ、この町で食い逃げをすれば出会えることが見えました。」
それは凄いな、出会えなかったらどうするつもりなんだろう。でもそれだけ信用出来るスキルってことか。俺は【天啓】は使ったことなかったな。
「そう言えば勇者って3人召喚されたのは知ってる?」
「はい、存じております。」
「どうして今回俺だったの?他の2人についていくとかじゃなかったの?」
「はい、今回はダイゴ様でした。レスティア様からそう伺いました。恐らく今後のダイゴ様の行動を見越してのお話だと思います。」
「そうなの?この後俺が勝手に行動してもいいのかな?」
「えぇ、問題ないと思います。レスティア様もわかってらっしゃると思います。」
そういうものなのか。じゃあ別にどうしろこうしろと言われるわけでもないのか。
でも結局話しててもあんまり得た情報ってないな。余計に分からなくなったとことかあるし。
「もっと勇者と魔王について詳しい話を知ってる人って知らない?」
「どうでしょう、古い文献などを研究している学者の方などはもしかすれば。後はやはり神様でしょうか。この世界に住んでいる神様もいらっしゃいますし、遥か古来より色々と見聞きされていると思います。」
「なるほどね、でもどちらも簡単に知り合えそうにないな。」
「そうなりますわね。」
まぁしばらく様子見ってことかな。なんかよくわからないことになってるな。いつか全てわかる時が来るんだろうか。でもその時は多分魔王と対峙することになるかも知れないよな。前途多難だ。
お読み頂きありがとうございます。




