商会設立に向けて
翌日俺達は午前中はキースの実家に行ったり、街の中をうろついたりした。そして昼食を取ってからアンダーソン商会へ行った。今回はガイとブランも一緒だ。
アンダーソン商会に行って受付の人に話すと昨日行った中庭に通された。今日もこっちで話をするようだ。まぁ俺は直ぐにでも畑を作りに行きたいんだけどね。
中庭に着くともうすでにヒューイさんやロイドさん、そしてケビンさんがいた。
「すいません、お待たせしてしまったようですね。」
俺は謝りながら3人の元へ行った。
「いえ、こちらでも話したいことがあったので先に集まっていただけです。」
ケビンさんがにこやかに答えてくれた。
「簡単に【ストーンフロッグ】を倒されたそうですね。」
ヒューイさんが聞いてくる。ロイドさんが話したんだろう。
「えぇ、倒したのはこのキースですがね。相性が良いので苦労しませんでした。」
そう俺は答える。言った通り今回【ストーンフロッグ】とキースは相性が良かったんだ。
これがガイだったら近距離攻撃しか出来ないから苦戦したかもしれない。一応斬撃は飛ばせるけどそこまで射程が長い訳でもないし、離れれば威力は下がって通じなくなる公算の方が高い。
ブランが戦っても人形を作っても粘液を掛けられたところが石になって動けなくなるかもしれない。そうなると近づいて戦うことになる。ブランは他の土魔法はそこまで得意じゃなかった。
その点キースは遠距離からの一撃必殺の攻撃手段を持っていた。だからキースが今回は最適の相手だったんだ。これがもし【タイガーキングクラブ】だったらCランクの魔獣だがキース1人では倒すことは難しかっただろう。外殻に矢が弾かれたりするだろうし。
「しかし異常だわな。Aランクの冒険者でもあんなこと出来るか怪しいもんだ。」
ロイドさんが言う。俺はAランクとかの冒険者見たことないからどんな感じなのかわからないからな、俺達の方が強いんだろうか。
「それはそうと今日は畑を作るという事を伺いました。」
ヒューイさんが話題を変えた。
「そうですね、出来るだけ早目に作り始めた方が良いかと思いまして。私達も旅をする冒険者なので、ある程度したらこの街を離れて旅をしようと思っています。」
「そうなんですか?商会を作るからてっきりこの街で落ち着かれるのかと思いました。」
「いえ、私の考えはある程度商会としての形作りが出来れば、運営はどなたかに任せて旅に出てしまおうかと思っています。」
「それは・・・、本気なんですか?」
ヒューイさんが俺の言葉に驚いている。ロイドさんとケビンさんも同様に驚いた顔をしている。そう言えば行商隊の事は言ってたが旅に出ることは伝えてなかったか。
「えぇ、考えているのが生産と運営して頂ける方と、行商隊を率いる方それぞれを選んで任せようと思っています。取り分は生産、運営を担当されるところで全体の5割、行商隊のところで4割、街の為に使う分で1割で儲けを分けて貰おうと考えています。
そして出来れば生産、運営はケビンさんの所のアンダーソン商会で、行商隊は私の勝手な意見で申し訳ないんですがグラハさんでまとめて貰おうと思っています。」
俺の言ったことにヒューイさん達3人が絶句している。おかしなことを言ってしまったか?
「私何かおかしなことを言いましたか?」
「そうですね、色々と伺いたいことがあります。」
それの質問にヒューイさんが姿勢を正して言う。
「まず一番の問題なんですが、取り分の中であなたの取り分がないように聞こえたんですが?」
「えぇ、私は特には必要ありません。あっ、ただ商業ギルドに支払って頂くお金がありましたね。失念していました。それはどちらかの方に払ってもらわないといけませんね。」
「いえ、そういう問題じゃなく。ギルドに収める金額なんて今回の商売の内容を考えたら微々たるものです。そう言う事ではなく、商会を作るのにあなたの懐にはお金が入らないことが問題なんです。だったら何の為に商会を作るんです?」
「それは、そうした方が私がやりたいことに一番早く到達できるかなって思ったんです。ケビンさんと話した時もケビンさんの所に塩の成る木を下ろして欲しいと言われましたけど別に私が儲けたい訳じゃないんですよね。この街自体が活性化していって貰えばいいと思ってるんです。そうなった時にケビンさんの所はもう一つの商会として出来上がってるので、こういう言い方は大変失礼と思うんですがアンダーソン商会だけが大きくなるってことになってしまうじゃないかって思いました。出来れば私は他の人達もこの商売にもっと参加できないかと考えたんです。
それでグラハさんとの所には行商隊をまとめて貰おうかと思ってます。そこには申し訳ないですけど私の勝手な意見も入ってしまっています。仲間の家族だから優遇するのかって思われるかもしれませんがその行商隊を作る為に、このキースも大いに活躍してもらおうと思ってます。魔獣を倒したのもキースだし、頑張るんだから少しくらい大目に見てもらえるかなっと思ってるんですが。
そう言った点でも私の我がままの部分がありますから今ある商会に任すんじゃなく、自分で作った方が自由にできるんじゃないかなって思いました。
それで私達は旅をするつもりなので作るだけ作っても、運営とかは多分まかせっきりになってしまうと思うので私の取り分は必要ないんです。
やっぱり問題ですか?」
「いや、なんと言いますか。こんなこと今までになかった話なので。商会を作るけど自分は儲けはいらないなんて人がいるのかと信じれなかったんです。
ケビンはそれでいいのか?」
「えぇ、先日その話はダイゴさんから聞きました。ここまで詳しい話ではなかったが。
私はそれでいいと思っている。正直5割も頂くのは貰い過ぎだと思うけどな。それだけでも今の売り上げの数倍になるだろう。今より儲けが出て街が活気づくんだったら断る理由はないよ。」
「それと、1割は街の為に使うとおっしゃっていたが?」
「そうですね、今回の件で昨日も言った通り冒険者の方は護衛の仕事が無くなってしまうので、その分の補填という訳ではないですが冒険者の人が安く泊まれる宿を作るとか、それか今ある所に補助としてお金を渡したりでもいいかもしれません。ただ街の為になることについてはヒューイさん達の方が良くお分かりになると思うので相談して決めて頂いた方がいいと思います。」
「お前そんなことまで考えていたのかよ。」
ロイドさんが言った。
「とりあえず私が思ったことを実現する為には、自分で商会を作って自由にさせて貰う方が一番手っ取り早いかと思った次第です。私の作った商会はこういう商会ですってあらかじめ決めておいたら後から文句もでてきにくいかなって思ったんです。ただどうやって運営していくかは全く考えてないのでその点はお任せしてしまうと思うんです。大変な事を押し付けることになってしまうかもしれません、申し訳ないです。」
「いえ、私は元々商人として今も商会を取り仕切っているんです。大変だとは思いませんよ。」
ケビンさんは笑顔でそう言ってくれた。
「そんな事を思って商会を作ろうと思ったんですけど駄目ですか?」
「いえ、商業ギルドとしても毎月の料金を納めて頂いて、商品には問題もない。犯罪を犯す訳でもないので設立を認めない理由はありません。
商業ギルドとして商会の設立を認め、商売する内容も認めますよ。具体的には商品の生産、加工、販売を主として、他の街へ商品を届ける行商隊の発足、運営。そして街の発展事業という事でしょうか。」
ヒューイさんがそう言ってくれた。
「そうですね、後は人を育てて雇用するとかでしょうか。」
「育てる?昨日おっしゃったような冒険者を鍛えるといったことですか?」
「そうですね、可能であれば冒険者の方を鍛えてそのまま行商隊に入って頂くことが出来ればだいぶ楽にはなると思います。ただそれ以外にの方でも育てる方法があるんです。商売についてのスキルだとかも育てることが出来るので。商会に役立つ人材の育成事業とかも出来たらいいんですけどね。みんなで学ぶところを作るってことでしょうか。」
「はぁ?」
ヒューイさんが何言ってんだこいつって顔して言った。
「あぁ、それだ。俺もそこんところを詳しく聞きたかったんだ。
どうやったら一月そこらで魔獣を倒せるように鍛えられるってんだ?」
「いやいや、それもそうなんですけど。戦い以外のスキルを鍛えられるっていう事をおっしゃったんですか?それは一体どういう事なんですか?」
俺の言葉にロイドさんとヒューイさんが一緒になって聞いてくる。
う~ん、話がどんどん脱線して行ってる気がする。畑を作りに行きたいんだけどな~。
でも先に説明しておくのも手かな。全部話してから行ってもいいか。そう思って俺は話を続けた。
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