我思う
俺にも色々と思うところはある。街に向かって歩く俺の後ろに凄い形相をしたロイドさんが付いて来てる。もうちょっと下手に出て話をすればよかったかな。そんなことを考えながら今日の一連の行動を思い出す。
グラハさんの足を治したぐらいから、自分で商会を設立して行商隊を作って商品を売るってことは思いついた。キースの家族がこのままだったら食うにも困る様になる、それだったら何か新しい商売を出来ないか考えた。
塩の成る木は作ってあったからそれを渡して栽培してもらって儲けて貰ってもいいかと思ったが、そんなものがあることが誰かにも知れたら盗賊に狙われたりするかもしれない。それとか騙されて横取りされるとか。まぁ商売を元々してるからその点は問題ないかもしれないけどね。それにまたどこかへ行くときにモンスターに襲われる心配はずっとある。なんか冒険者の護衛って頼りにならないんだよね。今までの見てきた冒険者の護衛って失敗してるのが多い気がする。俺の知らない所で失敗の数よりも多く成功してるんだろうけど、失敗するとかなりのリスクがあるしな。
そう言ったリスクを減らす為に強い護衛を俺達が作り上げたらいいだろうとも考えた。俺の持ってるスキルでそれが出来るんだからやらないでおく理由がない。
街単位で儲ける商品を作って自衛も自分達でする、そうした方が俺が心配することが無くなると思った。今回単純にそう思って行動したんだけどなぁ、ふ~む。
年上で俺よりも色んな社会的経験をしてる人たちに、どういう風に話を持っていけばいいのかが分からないんだよな。俺自身社会人経験はない。ネットや、今まで勉強してきたことを元に考えただけだ。舐められたくないばっかりに虚勢を張っている気がする。でもお願いします、お願いしますと下手に出てる人間がこんな大それたことをしようとして認めてくれるのか。そんな考えもある。
行商隊を作ると冒険者の仕事を取ってしまうことは、思いついた時から気付いていた。しかしそうなるのは冒険者達が何もしていないしわ寄せが来ただけだろうと思っていた。
俺はチートなスキルを持っていて強い、そんな奴が出来ることを他の人間も同じように出来ると思うな、と思われる言われるかもしれない。でも俺も努力はしているし、どうやったら強くなれるかしっかりと考えている。そして俺の周りにはそうして努力をして強くなった仲間がいる。持ってるスキルの恩恵はあるかも知れないが、みんなそれ以上に努力してるのを俺は知ってる。そうじゃなくっちゃスキルのレベルが上がっただけでここまで強くなるという事にはならない。それを知ってるからどうしても他の冒険者に対しては良い感情を持ってないんだ。努力をしていないのに仕事は欲しいって言ってるんだろうって。もちろん努力をして頑張っている冒険者は沢山いるだろう。ただ今まで俺はそんな冒険者に会ったことがない。
なんていうかみんな、手近なモンスターを狩ってお金を稼いで、その内強くなったら上のランクに上がってまた稼ぐ。ただお金を稼ぐためにモンスターと戦っている感じだ。それが悪い訳じゃないけどなんだか納得できないんだよな。
命を懸けてお金を稼いでるんだから大変だってことは十分わかる。無理をしたくないっていうのも納得する。でももう少し努力して人を助けたり、街をどうにか救いたいとかって考えないのかなって思ってしまう。強く、強くないは別として強くなる為の方法だったらいっぱいあるのに誰もそれに気付かず、実行しようとしないのにモヤモヤする。
あぁ、駄目だまたこんなこと考えると負の無限のスパイラルに落ちていってしまう。
単純に言うと「強くなる為の努力もしないような冒険者の仕事が無くなっても知るか!」なんだけど、それに近いことをロイドさんには言っちゃった気がする。はぁ、こういう場合なんて言ったら穏便に事が運んだんだろう。ガイとかブランだったらもっと上手く話せたんだろうか。う~ん、でもガイとか意外に世間知らずっぽいしな、ブランにしても「お主達が弱いのだからしょうがないだろう」とか普通に言っちゃいそうだな。
でもとりあえずロイドさんには謝っておこうかな。ずいぶん失礼な態度取ってたと思うし。こういうのって間を空けると言いにくくなるしな。この街で色々と活動するんだったら顔を合わすこともこれから沢山出てくるだろう。
「あの、ロイドさん。」
俺は立ち止まって振り向いて声を掛ける。
「なんだ?」
ロイドさんが警戒しながら聞いてきた。
「先程から横柄な態度を取って、すいませんでした。」
「なんだいきなり。」
「いや、少し考えまして。ずいぶんとロイドさんに失礼な態度を取っていたなと反省したんです。」
「どう考えたらそんなことになるんだ?大口叩いたかと思えば、それをホントに実行出来たんだろ?」
「それもです、言い方があまりよくなかったと思いました。
それに冒険者が強くならないから、そんなのに頼らずにこっちで勝手に強い人間を育ててやる、みたいなことを言ってしまって。ハッキリ言って喧嘩を売っている様な物言いでしたよね。」
「その事か。」
「ロイドさんはどうお考えなんですか?もし私が魔獣を倒さず、商会も作らず、行商隊も作らなかったとしたらエデバラはどうなっていたと思いますか?」
「そりゃまぁ、魔獣のせいで冒険者も寄り付かず、商人は街の外にも出れない。街としては衰退していっただろうな。」
「俺はこの街にそうなって欲しくなかっただけなんです。でもなんて言えばいいかが、ちょっと、わかんなくて・・・。」
「おかしな奴だな。
俺達をえらく強気に相手取ったと思ったら、言っちまったことを反省して謝るとか。」
「兄貴は優しんすよ。」
今まで話を聞いていたキースが横から言った。
「兄貴は優しいんで言いたいことは言ったけど、その態度と言葉でロイドさんの事を傷付けてしまったんじゃないかと思ったんじゃないっすかね。」
「そうか、なるほどな。」
ロイドさんは納得したように言った。
「兄貴は優しさの塊なんっすよ。今回の件も俺の家族の事を思ってやってくれてると思ったら、この街全部の事を考えてくれてて。冒険者にも仕事を取ってしまって悪いなと考えながらも、強くなる方法があるだからそれを使って強くなって依頼をこなせる様になればいいとか思ってるんすよ。
普通だったら人の事なんて考えないっす。自分だけ儲たらいい話っす。
でも兄貴は優しいからちゃんと皆がもっと安全に暮らしていけるように考えてくれてるっす。」
「そうか。」
いやいやいや、キース何俺の事分析してるの?めっちゃ恥ずかしいんだけど。そんな事思ってないよ。ロイドさんもさっきの厳しい表情はどこへやらで優しい目をしてるんだけど。なにこれ、公開処刑?なんで俺の仲間はみんな俺の事を良い方へ良い方へと捉えてくれるんだろう。そんな風に俺の事を見てくれてるのは嬉しいけどさ、面と向かってそんなこと言われると恥ずかしいんだけど。この後俺はなんて言ったらいいんだよ。
「俺はお前の事を少し勘違いしていたのかもしれない。」
ロイドさんがそう言ってくれた。これは良い風にまとまったと思えばいいんだろうか。
「あっ、いや、そんなことないです。」
「俺も冒険者が今のままでいいかは考えていた。強くなる、ならないは本人が希望するかどうかだと思っていた。ギルドとして冒険者達を鍛える、そんなことを今まではしていなかった。全て冒険者任せだったんだ。考えてみると冒険者ギルドはただ冒険者に依頼を与え、依頼を達成したから金を払う、そんなところだった。
しかし冒険者ギルド、そして冒険者は元々モンスターを討伐して人々の脅威を取り去ることを目的として設立されたものだ。それをすっかり忘れていた気がする。今の冒険者はそこに住む人達を守るという意識に欠けている。
俺は今分かった。今の冒険者ギルドは本当の冒険者ギルドじゃない。決めた、俺もこれからは冒険者を鍛えて人々を守れる位にはしてみせる。」
ロイドさんが目に炎を宿してそう言った。あれ?なんかスイッチ入っちゃった?でもそうやって冒険者を鍛えて貰えばこの街の安全はもっと確かなものになるだろしね。俺としては大賛成だ。
「えっと、とりあえず街に戻ってこれからの話を待たしましょうか。」
「あぁ、よろしく頼むぞ。」
俺がそう言うとロイドさんは俺の肩に手を回してガッチリ組んでそう言った。
え~っ、こういうキャラだったのか。人ってやっぱりわからないもんだな。
そう思いながらロイドさんと肩を組みつつ俺は街への道を歩き出した。
お読み頂きありがとうございます。
 




