秘密の共有
奴隷商の店から出て俺は黙って次の目的地に向けて歩いている。俺の後ろには先程購入した奴隷の2人が俺と同じように黙って付いて来ている。
2人ともポンチョの様な外套を羽織っていた。
肩から足元まですっぽりと覆うような長さで中には着ている服が見えないようになっている。中の粗末な服が見えないようにしているのか。
肩から覆うような感じなのでドワーフ奴隷の腕がないのもパッと見わからないだろう。
一応そう言った気遣いはされているらしい。
後ろをついてくる2人の表情は硬い。
これからどんな生活を送ることになるか不安があるんだろう。
そして自分達を買った俺にも思うところがあるのかもしれない。
今俺はスキルの【偽装】を使って顔や、雰囲気を変えている。他人が見ると40代位で、人でも殺してそうな凶悪な顔つき。雰囲気も凶悪なのを醸し出すようにしている。
奴隷商に行くにあたって顔バレしたくなかったのと、二十歳の若造が買いにきたと思われて舐められたくなかった為だ。
奴隷商があった地区はスラムに近いので変な奴に絡まれても嫌だったから、街を歩いている途中に路地に入ってスキルを使った。
まぁそんな凶悪な面をした人間が主人になったらこれからどんなことをされるのか不安にしかならないだろう。
そんなことやこれからのことを少し考えながら街中まで歩いてきた。そして目標の建物を見付け中に入っていく。
「いらっしゃいませ。」
若い女性の声で出迎えられる。
しかし俺の姿を見て笑顔が引きつるのが分かる。
「一泊だが部屋は空いてるか?」
俺は気にせず足を進め女性が立っているカウンターの近くまで行って声をかけた。
今入ってきたのは街中にある宿屋だった。
「えぇ~っと、何名様でしょうか?」
女性は俺の顔を見ずに聞いてくる。
「3人だ」
俺は3本指を立ててそう伝える。
「うちには3名用の部屋と言うのがございませんで・・・・
2名用の部屋でもよろしいでしょうか・・・。」
受け付けの女性は声が段々小さくなっていく。
どうやら緊張してるようだ。別に怒って暴れたりしないって。
「それで構わない、いくらだ?」
少し可哀想になったので目線を外して聞いてみる。
「朝と晩の食事がついてお一人銀貨3枚です。」
「わかった。それで頼む。」
俺は袋から銀貨を出して並べて答えた。
「お部屋は2階の一番奥です。こちらが鍵です。
食事はそちらに進むと食堂兼酒場になっていますので席について部屋の鍵を見せて頂ければご用意いたします。」
女性が指し示した方を見ると扉のない入口の奥にどこかで見たことのあるような西洋酒場が見えた。
宿屋とは別に食事処を営んでいるのかテーブルには何人かの人間が座って思い思いに食事をしている様だった。
「決まった時間以外にもお金をお支払いいただければ利用できますので。」
俺が食堂を見ていると女性が補足説明をした。今はそんなに腹は減ってないから別にいいか。
それよりもとっとと部屋に行きたい。
また何かあれば聞きに来たらいいだろう。
「いくぞ。」
そう言って俺は2階への階段へと向かう。
「ごゆっくり・・・。」
後ろで受け付けの女性の消え入るような声が聞こえた。
スタスタと階段を上り廊下を奥へと進む。もちろん後ろには2人が付いてくる。
今日泊まる部屋の前まで来て鍵を開け中に入る。ざっと見ると部屋は8畳ほどの大きさでベットが2つ置いてあった。
それ以外の物はあまり置いていなく正面には窓が付いてあった。右手に扉があったので開けてみると質素なトイレだった。風呂は付いていない様だがそれがこの世界の常識だった。風呂があるなんてそれこそ貴族や城にくらいしかない。
「2人ともベットに座れ。」
後から付いて来ていた2人を部屋に招き入れて扉を閉めながら俺は言った。
2人は俺の言われた通りに1つのベットに並んで腰を下ろした。
俺は2人の正面に周り、もう1つのベットに腰を下ろした。やっと落ち着ける。
しかしやることは山積みだ。少しずつ片づけていくか。
俺は大きく息を吐いた。
目の前の2人はこれから何が行われるのか不安そうに見ていた。
「2人共これから起きることは絶対に秘密にしてほしい。これは命令だ、俺の許可なしに誰かに伝えることは禁止とする。」
俺がそう告げると並んだ2人は頷いた。
次の瞬間目の前の2人は声を出すことも忘れ驚いた様子だった。
なぜ驚いたのかは俺が2人の前で【偽装】のスキルを解いたからだった。スキルを解いた瞬間に俺の見た目は厳つい顔からいつもの俺の顔に戻る。
目の前で一瞬にして顔と雰囲気が変われば驚くのも当然だろう。
「そんなに驚くことでもないですよ。スキルで姿を変えてたのをやめただけですから。」
俺はそう説明した。
それよりも多分この後に起こることの方がもっと驚くことになるだろう。
「ドワーフの人、上着脱いでもらっていいかな?」
俺が伝えるとドワーフの奴隷がモゾモゾと外套を脱ぎだす。ただ手の先がない為かなかなか脱げない。
それを見かねたもう一人が脱ぐのを手伝ってあげ、外套が脱げる。
すると両腕がない姿が現れる。
ドワーフは暗い表情で俯いた。もう1人も沈痛な表情をしている。
「少しじっとしておいてくれ。悪い様にしないから。」
そう言って俺は少し目を閉じて集中する。
よし、いける。
そう思って俺は口を開き言葉を紡ぐ。
「【復活】」
俺がそう唱えるとドワーフの頭の上には光の輪が出来た。
キラキラと光を放つ直径20cmぐらいの輪から光の粒がドワーフに降り注ぐ。そしてその光の粒がドワーフの両手に集まってくる。
段々両手の光が大きくなったと思ったら肘先の肉が盛り上がり腕が伸びていく様に見える。2人はその様子を言葉をなくしてじっと見ていた。
俺自身もこうなるのかとちょっとびっくりしてるけど。
徐々に光が収まるとドワーフの手は指先までしっかりあるのが見て取れた。
「動かしてみて。」
俺がやさしくドワーフに伝えるとドワーフはにぎにぎと元通りになった手を握ったり開いたりして感触を確かめている様子だった。
問題なく動くみたいだな。
俺がそんなことを思っているとドワーフはいきなりベットから飛び降りて床に膝をついた。そして声にならない声を上げ、涙を流して俺に対して祈る様に手を合わせた。
「いやいや、そんなのはいいから。」
俺は少し慌てて声をかけた。そのセリフを聞いてドワーフは土下座の体勢に移行した。
別にそんなことしてもらいたい訳じゃないのに。
「部位欠損の再生・・・?最上位の回復魔法じゃないのか・・・。
上級治療術師だったのか?それも最高レベルの。」
もう1人も目の前の光景に驚いたのかベットから立ち上がって俺に向かって聞いてきた。
主人に当たる人物に対して物言いではなかったがそれだけ驚いて口を突いて出たんだろう。
俺も特に気にする訳でもないし構わない。
「ん~、上級治療術師なのかと聞かれたらそうかもしれないけど違うとも言えるかな。
すべては俺のスキルのおかげだから。」
俺はそう答えた。
俺が神から貰ったスキルは実のところ【偽装】ではない。
俺が神から貰ったスキルは【八百万のスキル】と言う。
神にスキルを貰う時に俺はリストにないスキルを作ってもらい、それを貰うことが出来ないか確認した。するとそれは出来るとの事だった。
だったらと俺は自分が欲しいスキルを作ってもらうことにした。
そうして作ったのが【八百万のスキル】だった。
このスキルは今この世界に存在スキルを、好きな時に自由に変更することが出来るというかなりのチートスキルだ。
正直そんなスキルが作れるものかと思ったが、今俺の前にいるのはスキルを司る神の様だし、人にスキルを選んで与えることが出来る力を持っている。
であればその力を使って俺の希望するスキルも作れるじゃないかと予想した。
その事を神に伝えると、しばらく間があってから可能だと答えてくれた。
だったらそのスキルがいいと俺はこのスキルを手にした。
そしてこの世界に召喚された時に事前に調べておいた【偽装】のスキルを自分に付けて発動した。それ以外にもいくつか付けていたけどね。
それからというもの1人の時はどんなスキルがあるのかを探した。その中で有用なスキルをリストアップしていったり、付け替えて試したりもした。
先程ドワーフの腕を治したのは【回復魔法 LV.10】スキルをつけて、【無詠唱】【魔力操作 LV.10】も一緒に付けた。
後、俺はレベルが低くてMPが足りず使えないから【MPブースト】と【MP消費半減】のスキルも合わせて付けた。
それでやっと部位欠損を治す【復活】を使えるようになった。
城で勉強してた時に死んでいる以外ならほとんどの傷を治せると本に書いてあったから使ったらホントに腕が生えてきた。
先程の聞かれた話に戻すがスキルを好きなように付け替えれるので上級治療術師かと聞かれたら今はスキル持ってるからそうだろうけど別のスキルに付け替えた時にはそうではなくなるから何とも答えにくいのである。
ちなみに俺の偽装していないステータスは
名前:大山 大悟
年齢:20
種族:人族
性別:男
レベル:1
HP:120/120
MP:10/110 +300
STR:30
INT:27 +150
AGI:28
DEX:35
スキル:
【八百万のスキル】
【偽装】
【倉庫持ち】
【鑑定眼】
【回復魔法 LV.10】
【無詠唱】
【魔力操作 LV.10】
【MPブースト】
【MP消費半減】
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称号:勇者 交渉人 クリエイター 奇想天外 奴隷の主 奇跡の体現者
こんな感じである。
なんか称号が増えてる感じがするけど。
当然の様に主人公はチート能力を持っていました。
2016/10/15 上級治療魔法⇒回復魔法にしました。