商会
ケビンさんが警戒している。
それは俺にも分かった。息子の命を助けた冒険者が、大きな店を持っている親の所に直ぐにやってきた。普通に考えたら命を助けた礼にを寄こせと言いに来たと思うんだろう。あながち間違いでもないけどな。
「それでお話っていうのはどういう事でしょうか?」
ケビンさんが聞いてくる。俺達は低めテーブルを囲んですでに座っている。ケビンさんもエリックも椅子には背を付けてない。緊張してるのが分かる。
「そうですね、端的に申し上げます。エリックさんを助けたお礼を貰いに来ました。」
俺がそう言うとエリックが驚いた。ケビンさんも少し眉を跳ね上げた。
「お礼ですか?お幾らぐらい私共はご用意させて頂ければよろしいんでしょうか?」
ケビンさんが静かに聞いてきた。
「いえ、お金は結構です。私が欲しいのは情報です。」
「情報ですか?」
俺の言葉にケビンさんは眉を顰めた。
「はい、この街の現状だったり。商売に関しての事。私はそう言うことに疎いので色々とご教授頂きたいんです。
私は腹芸はあまり得意ではないので、こういった言い方をさせて頂きます。
気に障ったら本当に申し訳ないです。そして助けた恩を返せというやり方でお聞きするのもどうかと思うんですが他に頼れる人が思い当たらないんです。ですからどうぞお願いします。」
俺はそう言って頭を下げた。
「まさかそんな真正面から恩を返せとおっしゃるとは思っていませんでした。
しかし変に恩をチラつかせて金をむしり取ろうとする輩とは違って好感が持てます。
私で分かる範囲でお話いたしましょう。」
ケビンさんは笑顔でそう言ってくれた。目の奥の剣呑な感じも消えていたし一応話を聞いてくれそうだ。
「しかし本当に情報だけでいいんですか?」
今まで黙って聞いていたエリックが口を開いた。
「えぇ、世の中情報というのが一番必要な時もあるんです。正直俺達は別にお金に困ってませんし。」
「そうだぞ、エリック。情報というものは場合によっては金貨100枚以上の価値になることもあるんだ。」
ケビンさんが諭すよう言った。そうそう、俺の元いた世界も情報社会と言われてたくらいだし。物を買うにしても安いところを知っていればそれだけ安く買えるし、売る時だって必要としているところに売るとか売る時期を見定めるとかで大きく儲けが変わってくる場合もある。それは全て情報次第だ。
「先に紹介しておきます。こちらはグラハ・ブルーマンさんの息子のキース・ブルーマンです。私の冒険者仲間です。」
「あぁ、グラハさんの息子さんだったんですね。」
俺がキースを紹介するとケビンさんは知っているみたいだった。
「ご存知ですか?」
「えぇ、私は商業ギルドで役員をやっておりますので存じています。
ただ今グラハさんは足を怪我していらっしゃるとか?」
「そうですね。ただ足の方は私が治療しました。もう歩けるようになってらっしゃいます。」
「そうなんですか?大きな街でも行かないと治らないと伺っていたんですが・・・。そう言えばエリックの事も治療して頂いたんでしたか。」
「はい、そこグラハさんに色々とお話を伺っている時に思う事がありまして、その事で色々とお話を伺いたいと思っています。」
「そうですか、分かりました。なんでも聞いて下さい。」
「こちらのアンダーソン商会でも買い付けや、売り付けをされてるんですか?」
「えぇ、ほぼ商売の8割方がその儲けですね。この街には産業と呼べるものはほとんどありません。その為他の所から買った物をこの街で売るか、他のところで売るかでしか商売としては成り立たないんです。」
「グラハさんの所で聞いたんですがここら辺に魔獣が出るようになったとか?」
「そうですね、それで私達も頭を痛めています。いくつか帰ってこない商隊があります。」
「冒険者ギルドはその魔獣を討伐しないんですか?」
「今回この近くにいる魔獣はBランクの魔獣の様で、討伐できるような冒険者がいない様です。」
「そうですか。商業ギルドというのはどう言ったものなんでしょうか?」
「商業ギルドですか?
そうですね、まず何らかの商売をしている人が加入できます。月にいくらかのお金を収めることになりますが万が一怪我などを負い、商売するのが難しくなった場合は一時的にお金も貰うことが出来ます。
それにギルドに入っているという事はお客様の信用に繋がります。商業ギルドは物の値段を決めたりしています。どこで買っても一定の金額にする為です。商人が扱う商品に対して品質などを確認をして価格を決めたりもします。その為購入する側からすると商業ギルドに入っている商人の品だから信用出来る、という事になり購入してもらいやすくなります。商業ギルドに加入している商人だからしっかりした物を、ちゃんとした価格で販売しているとお客様に簡単に伝えることが出来るということです。お客様がギルドに入っていない商人の安く売っているものを買って、粗悪品を掴まされることが良くありますからね。
それから新しい商品の開発をしていることもありますね。魔法具だったり、新しい武器や防具も作られた時に商業ギルドが値段を付けています。」
「そうですか、例えば私が商会を立ち上げたりは出来るんですか?」
俺の台詞にケビンさんとエリックさんが固まる。
「何か商売をなさるおつもりなんですか?」
「そうですね、一応世に出せば売れるようなものを私は持っています。
ただそれは私がスキルを使って作り上げたものなので、まだ世の中にはないんです。
だからそれを売るとなるとどこかに下ろすか、自分で商業ギルドに加入して商会を立ち上げて売るしかありませんよね?」
「そうですね、恐らくそういうことになるでしょう。
しかしそれは一体どういうものを売ろうと考えていらっしゃるんですか?」
「あまり人にはまだ言いたくないんですが。
いいでしょう、ケビンさんに商品として市場で売れるかどうかの意見もお聞きしたいのでお見せします。」
俺はそう言って袋から小さい石の様なものを取りだした。
少し赤みがかった小指の先程の大きさで、息を掛けるだけで手の中でコロコロと動くくらい軽い。
「これは一体?」
「これは植物の種です。ただこの植物は世界のどこにもありません。私が作りました。
この植物の実から塩が取れるんです。」
「塩ですって!?」
「えぇ、そういう植物を作ったんです。それも簡単に栽培出来て、収穫できるようになるまでの期間も短い。1つ実みから結構な量の塩が取れるんです。大体手の平1杯分ですかね。」
「そんなことがあり得るのか・・・。」
「今度実際の物をお見せしてもいいですよ。その種だけ見せてもとても信用できないでしょうしね。しかしもし事実だとしたらどうでしょう。塩は売れると思いませんか?」
「それはそうでしょう。こんな内陸の地域では塩は高級品です。ここで栽培して売ることが出来たらどれだけの利益が出るかわかりませんよ。」
「ちなみに他の香辛料も作れるんですけどね。甘い蜜とかも大量に取れる花もあります。」
俺がそう言うとケビンさんは絶句していた。
今の話だがキースに先程話した俺の色々な考えの中の1つだ。
まず塩の成る木から話そう。
これは俺が旅の途中での思い付きから始まった。この世界ではまだまだ調味料が高級品だったんだ。旅に出る前に料理をする時にも塩やその他の香辛料と呼べる物を購入したが、ものすごく高かった。この世界でも塩は基本的に海から取る。俺達がいたグラントや、今いるエルバドスも内陸で海が近くにない。その為塩なんかは流通している量が少なくて物凄く高額だ。
そもそもこの世界にインフラが整備されているという事はほとんどない。流通は商人が自身で街を巡ったりして買ったり、売ったりしなければいけない。途中にはモンスターや盗賊に襲われたりする危険がある。そんな中を商人は行かなければいけない、だからそこまで品物が世界に流通するはずがなかった。その為塩や香辛料は高価で手に入りにくいものなんだ。
でも俺は色んなスキルがあるんだし何とか出来ないかと考えた。やっぱり美味しいものは食べたいしな。そこで旅の途中でこれまた色々と研究したんだ。しかしこの世界に塩を作れるような魔法やスキルは簡単にはない。一番は塩を生み出す何かを作りたかった、そうすればずっと継続して手に入れることが出来ると思ったからだ。そこで生み出すとしたらと考えて一番に思いついたのが植物だった。
塩を作る植物とか出来ないのかな、そんなことを考えた。元の世界では何を考えているんだと思われただろうけど、この世界では普通の法則に囚われていない魔法とかもあるんだし何となく出来るような気がした。失敗したら失敗した時だし試してみようと思った。
そこで使ったのが【予測演算】というスキルだった。このスキルは俺がこうしようと思った事を事前に頭の中でシミュレーションしてくれる。その結果を教えてくれるだけではなくて、結果からどうすればその結果に辿り着けるかの過程も教えてくれる物凄いスキルだった。
ただそのスキルでも過程を考えてはくれるが、それが実行出来るかが問題なんだ。まず結果が割と人智を越えた「塩を生み出す植物を作る」という事なんだから、スキルで提示された過程もかなりぶっ飛んでいた。
簡単に説明するが、ある植物とある植物を掛け合わせて新しい品種を作る、これだ。
言葉にすると簡単だが作るのにはかなりの数のスキルを使った。まずその指定された植物を探すのだか【索敵】では植物の気配なんか読み取れないから、新たに【探索】というスキルを【鑑定眼】や【地図作成】などのスキルを組み合わせて作った。
それで見付けた植物を掛け合わせるのに【錬金術】というスキルを使った。それぞれの植物を分解して一つの植物に再構築する。その時に塩を作るという器官だったり、どういう植物になるのかの情報を魔力を使って入れ込んでいった。この時には別に施設とかは必要なかった。全て俺の魔力とMPを使ってやっていくだけだったし。ただその時には【精密魔力操作 LV.10】や【想像力アップ LV.10】【思念伝達力アップ LV.10】【確定結果改竄】とかどこでどう使うのかわからないスキルもいっぱい使った。そうして何とか塩を生み出す植物を作り出すことが出来た。
1回育ててみたけど、木にグレープフルーツみたいな大きな乳白色の実が出来て、中を割るとそのまま塩が粒が詰まっているという恐ろしい植物が出来た。まさか精製された塩がそのまま実から取れるとは思わなかった。てっきり実を絞って出てきた汁を天日干しとかしたら塩になると思ってた。正直そんな感じで出来た塩で問題ないか心配になった。ただスキルで【判定】というスキルがあり、それで問題ないか確認したが人体には全く問題ないと判定されたので大丈夫なんだろう。実際に使ってみたが普通の塩だった。
これと一緒に胡椒みたいな実や大量の蜜を作る花なんかも作ってみた。もしかしたら醤油を作る木とかも出来るのかもしれない。流石にそれは怖い気がするけど。せめて大豆を作るところから始めようか。
お読み頂きありがとうございます。




