現状把握
「それで話というのはいったい何のことでしょう?」
そう言ったのはキースの親父さんのグラハさんだった。
グラハさんの足を治した俺は、少し話をしたいという事を伝えた。
それで居間にあたる部屋に通して貰った。部屋には俺と、ガイ、ブラン、キースの4人とグラハさんとソフィアさんの6人がテーブルを囲んで座っている。
「えぇ、色々と聞いておきたいことがあったんです。」
俺がそう言う。
俺はグラハさんの足を治して、じゃあと言ってみんなとそのまま旅に出て終わりだとは思っていない。多分今ある状況を変えないとまた同じ事か、もしくはもっとひどいことになるんじゃないかと思っている。
「これからグラハさんの家の事を色々聞いしまい言いにくいことが出てくるかもしれません、その点は先に謝っておきます。すいません。ただ出来れば正確に教えて頂きたいんです。色々と大変な状況になっていらっしゃるという事が先程のお話から推測できました。それを俺達の出来ることであれば改善したいと思っています。」
「そんなことまで考えて頂けてたとは。足を治して頂いた恩もありますし、ちゃんとお話しします。」
俺の言葉にグラハさんは丁寧に答えてくれた。こちらが素なんだろう。さっきは足があんなことになっていたから自暴自棄になって荒れていたって感じがする。
「まず、こちらのお店は他の所から買い付けをした物を店舗で販売するお店ですか?」
「そうですね。後はこの街や他の街で仕入れたものを他の街へ売りにいったりもします。」
「なるほど。
先程ソフィアさんからのお話であれば今は商業ギルドからお金をもらっているという事でしたがそれはいったいどういう事なんでしょうか?」
「あぁそれですか。商業ギルドでは月にいくらかのお金を収めておけば、何かあった際にしばらくの間生活するお金をくれるんですよ。」
保険みたいなものか。商業ギルドは互助会みたいなもんかな?
「しかしそれももうすぐ終わってしまうんですよね?そうなった場合また他の街へ買い付けに行かれたりするんですか?」
「そうですね、とりあえず今は店の在庫だけで何とかしようとはしていますが。このまま買い付けや売り付けに行かないと店は潰れてしまうでしょう。」
「その買い付けや売り付けなどはグラハさんがされているんですか?」
「えぇ、街の外に出ると危険がありますし。商品の目利きもしなければいけません。」
「街の外に出るには護衛で冒険者を雇ったりするんですか?」
「そうですね、何があるかわかりませんし。命あっての物種です。」
「でも冒険者を雇うにはお金がかかるんですよね?」
「はい、馬鹿にならないお金がかかります。しかし雇わない訳にもいかないですしね。雇わないまま外に出てモンスターに襲われれば終わりですし。」
「これからはどうですか?足が治って外に出れると思いますが行かれるんですか?」
「今は街の近くに魔獣が出るようになってしまっています。しかしこのままずっと街にいても生活が出来なくなるので行くしかないってところでしょうか。」
「この街で一番大きな店を持ってらっしゃるのはどなたでしょう?」
「それだったらアンダーソンさんの所でしょう。店というより商会として多くの人を雇って色々な事をされていますから。」
「そうですか、分かりました。
とりあえず俺はそのアンダーソンさんの所へ行ってきます。その後商業ギルト、冒険者ギルトに行くかもしれません。決して悪いようにはしませんしご迷惑をおかけしないようにしますのでしばらくの間家でゆっくりされて下さい。」
俺は話を聞き終えてグラハさんにそう言った。
それから俺達はグラハさんの店から出た。
「しかし兄貴どうするつもりなんですか?」
店を出たらキースが少し心配そうに聞いてきた。家族の今後が掛かってるし気になるのは仕方ないだろう。
「う~んと、色々考えていることがあるんだ。でも今はまだ情報が足りなさすぎるんだ。だから何とも言えない。もう少しいろんなところでいろんな話を聞きたいと思う。」
俺はキースに素直な感想を伝えた。
「そうっすか。」
キースはまだ心配そうな顔をしている。そんな顔するなよな、こっちまできが重くなる。
「わかった。キースはこのまま俺に付いて来て。
ガイとブランは申し訳ないけど宿を探して貰っていいかな。その後は冒険者ギルドに行ってここら辺のモンスターの様子とか、この街の冒険者の様子なんかを確認してきて欲しいんだ。お願いしてもいい?」
「あぁ、わかった。」
「うむ、わしも大丈夫ですぞ。」
2人は了承してくれたようなのでお金を大目に渡す。
「こちらの用事が済んだら【念話】で連絡するよ。もしくは冒険者ギルドで合流することになるかもしれない。そこら辺はその場の状況で。」
俺はそう言ってガイとブランと別れた。
「じゃあ行こうか。」
キースにそう言って街を歩き出した。
街中を歩いているうちに露店で食い物を買い、ついでにアンダーソン商会の場所も聞いて。街一番の商会という事もあって誰でも知ってるみたいだ。
一番大きな通りに面している他の建物の倍はある店の前に到着する。上を見上げると「アンダーソン商会」の看板がデカデカとかかっている。
そのまま中に入ると広いスペースの半分が棚に商品が並べられていて、半分がテーブルや椅子が並んでいる。商談するスペースか何かだろうか。俺はとりあえずテーブルや椅子が並んでいる方へ進みカウンターにいる人に声を掛けた。
「すいません。こちらにエリックさんっていらっしゃると思うんですが、お会いできないか確認して頂けますか?私は冒険者のダイゴと申します。」
そう言うと受付の人は戸惑ったような顔をしたが「お待ちください」と言って奥へ消えていった。
しばらくすると奥からエリックが現れた。
「こんなに早く顔を出して頂けるとは思いませんでした。」
エリックはそう言って俺に握手を求めてきた。それに答え握手を交わす。受付の人は少し怪訝な顔をしていた。冒険者のカッコをした男がエリックと親しそうにしてるのが気に入らないのかもしれない。
「いきなりで申し訳ないんですが、エリックさんのお父さんってもしかしてここの偉いさんだったりします?」
「えっ?えぇ、まぁ。父はここの代表です。」
「そうですか。大変失礼なお願いだと思うんですが、そのお父様にお話を伺う事ってできませんか?」
「父にですか?えぇ、父にダイゴさんの話をしたらぜひお礼が言いたいと言ってましたので問題ありません。」
エリックは一瞬考えてからそう言った。
「こちらへどうぞ。」
エリックはそう言って俺達を先導して店の奥へ歩いて行く。
俺達もその後を続く。店にいる人間が俺達の事をチラチラ気にして見ていた。
エリックは廊下を進み、ある大きな扉の前で止まり中をノックした。
「代表、エリックです。入ります。」
そう言ってエリックは扉の中に声を掛けてから中に入った。俺達も続く。
部屋の中は仕事部屋と言った様相で、大きな机とその前に打ち合わせ用かテーブルと椅子もあった、ギルドマスターの部屋をもっと豪華にしたような感じだな。
机には厳しい表情をした男性がいた。年の頃なら40歳くらいで。エリックと同じ髪と目の色をしている。この人がエリックの父親なんだろう。
「父さん、この方達が先程お話しした、私の命の恩人のダイゴさんとそのパーティの方です。」
エリックが俺達をそう紹介する。
「そうでしたか、失礼しました。」
エリックの父親が椅子から立ち上がって俺達の前にやってくる。
「私はエリックの父のケビン・アンダーソンと申します。こちらで代表をしております。
この度はエリックを助けて頂きありがとうございました。」
ケビンさんは先程とは違う優しそうな顔で言って俺に手を差し出してきた。俺も手を握り挨拶をした。
「ダイゴさんは父さんにお話ししたいことがあるようで、こちらまでいらして下さったんです。」
「お話ですか?伺いましょう。お座りください。」
エリックの言葉にケビンさんの目の奥に剣呑な色が浮かんだ。
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