姉弟
「兄貴~、やっぱりやめときませんか~。」
「いいからさっさと案内してくれ。」
キースと何度目かの同じやり取りをしている。
エリックと別れてからキースの家に案内させているんだがずっと行きたくないだの、今日は日が悪いだのなんだの言ってる。そんなに家に帰りたくないのか。
「ここまで来て何言ってんだよ。男だろ、しゃんとしろ。」
「そういう事じゃないんっすよ、兄貴は何も知らないから。」
「知ってようと知るまいと同じだよ。俺達がキースの家族に挨拶したいの。」
「いや、いいっすよ~。そんなの気にするような家族じゃないっすよ~。」
「あぁ~もう、うるさいな。わかってるかどうか知らないけど俺は別の世界から来たんだよ。
だからもう親とは会えないんだ。別れも告げないでいなくなったんだぞ。
お前が勝手に出てったかどうかは知らないけど、もしかしたら旅の途中でどうにかなることもあるんだ。その時には会いたくても会えなくなることだってあるんだぞ。それをわかってるのか?」
俺はちょっと真剣になってキースに言う。今言ったことはホントに思ってる。一応元の世界に帰れる希望はあることにはあるが、絶対でもない。俺は気付いたらこの世界にいた、元の世界で俺がどういうことになってるかはわからない。俺にだって家族はいる、だたもう2度と会えない可能性の方が高いんだ。
「それは・・・。まぁ家を飛び出す時に考えたのは考えましたけど。」
「こうして機会があるんだからその機会を逃すべきじゃないんだ。これから俺達はずっと旅を続ける予定なんだから。」
「兄貴がそう言うんだったら、仕方ないっすけど。」
「仕方ないで結構。とっとと会ってそれで会いたくないと向こうから言われるんだったら、この街から離れたら済む話じゃないか。」
「わかったっす。」
キースはそう言って俺達の前をやっと自分の足で歩き出した。
しばらく歩くとある1軒の店の前でキースは足を止めた。
俺達も足を止め看板を見ると「ブルーマンの店」と書いてあった。そう言えばキースの苗字ってブルーマンだったっけ。ってことはここがキースの家族が営んでる店なんだろう。
しかしキースは店の前で足を止めたままで中に入ろうとしない。決心がまだつかないのか?
そんなことを考えていると後ろから声が掛かった。
「キース・・・キースなの?」
声がした方を振り返るとカゴを抱えた女性がこちらを驚いた顔して見ている。
「姉ちゃん・・・。」
キースの口からそう漏れた。
この女性はキースの姉なのか。そう言えばキースより少し年上で髪の色も一緒、目元も少し似ているかもしれない。エプロンをしていて、抱えたカゴの中には野菜とかが見えた。どこかに買い物に行ってたのかな。
「キース!」
女性が持っていたカゴを捨ててこちらに駆けてくる。
なんだお姉さんは心配してたんじゃないか。
キース以外の俺達はその場を譲り、キースまでの道を空ける。姉弟の感動の再開に邪魔をするほど野暮じゃない。
お姉さんは駆けてきてキースにそのまま抱き着くものだと思っていた。
しかしキースの前に着た瞬間に足を肩幅より少し大きめに開き、少ししゃがんでから伸びあがる様にして下から拳を放った。アッパーカットだ。その拳はキースの顎を正確にとらえた。そのまま拳を振りぬく。キースの体が1m位浮き上がった。
おぉ、すげぇ。綺麗に入ったな。
キースはそのまま後ろ向きに吹っ飛ばされ、道に転がる。お姉さんはそのままキースとのところまで行って胸倉をつかんで引き上げる。
「てめぇ、今までどこで何やってた、このごくつぶしが!」
そうかキースのお姉さんはこういうキャラなのか。キースが帰るのを悩んだのが分かる気はする。しかし俺は一人っ子だから姉弟がいるって感じが良くわからないし、こういうもんだと思っておこう。うん、そうだ、それがいい。しかしお姉さん【鑑定眼】で見たら【拳闘術】のスキル持ってるんだけど何者なんだろう。キースにあれだけの攻撃食らわすって相当だよな。
「姉ちゃん、いきなりこれはないだろ。」
あっ、キースちゃんと生きてた。流石に死ぬとは思ってなかったけどね。
「あん?姉に意見するとはいい度胸だ。今日でこの世とお別れしたいらしいな。」
ほんとにお姉さん何者なの?
「ってか向こうで兄貴達が固まってるだろ。俺は今は冒険者やってて旅の途中で寄ったの。パーティ組んでもらってる兄貴達が俺の家族に挨拶したいっておっしゃったんだよ。」
キースがそう言うとお姉さんはくるっと俺達の方を見た。お姉さん怖いです、その顔。
するとお姉さんはキースを離し、パンパンと自分のエプロンをはたきこちらに来た。
「弟がいつもお世話になっております。キースの姉のソフィアです。」
キースの姉はにこやかな笑顔で優しい声を出して挨拶した。
なるほど、こういうキャラだったのか。まだまだ俺の読みは浅かったという事か。
「いえ、こちらこそキースにはいつもお世話になっています。ダイザンという冒険者パーティのダイゴと申します。」
俺も笑顔でソフィアさんに挨拶した。怒らすのはまずいと俺の中の警鐘が大きく鳴っている。敵にしちゃ駄目な人だ。
「まぁ、そんな。出来の悪い馬鹿な弟ですが、お役に立てているのであれば喜ばしいです。」
「多少女癖が悪いみたいですが、それ以外は問題なく信頼できる仲間です。」
俺の言葉を聞いてソフィアがギロリとキースを睨む。キース、別に悪く言うつもりはないが、全部褒めると逆に怪しくなるだろ。それとこれで少しは懲りるんだったら懲りた方がいいと思うぞ、その女癖。
「そうそう、こんなところで立ち話もなんですしどうぞ中にお入りください。」
そう言ってソフィアさんは俺達に中へ入る様にと勧めてくれた。
いつの間にかソフィアさんが放り捨てたカゴと中身をガイが拾い集めて持っていた。
「なかなかいいパンチだった。」
ガイはそう言ってソフィアさんにカゴを渡した。いや、初対面の女性を褒める言葉じゃないと思うけどね。
「昔少々嗜んだことがありまして。」
ソフィアさんは少し照れてそう言った。
そこ照れるとこ?そして何を嗜んだの?
色々と突っ込みが思い浮かんだが、キースの二の舞になりそうなので心の中にしまっておいた。
まだ倒れてるキースの近くに行って回復魔法をかけてやった。
もしかしたら帰ってきたのは失敗だったかもな、ごめんな。そうキースに心の中で謝罪した。
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