巣
俺達は国境から少し離れた位置まで移動した。
俺が向かってる先は次の村や町なんかじゃなかった。
「俺はこのまま【アーミーインセクト】の巣に行こうと思う。ちゃんと潰さないとまた同じことが起きると思ってるんだ。みんなはそれでもいい?」
俺は三人に聞いた。
本で読んだが【アーミーインセクト】は巣を作り、そこで繁殖する。一番上に女王がいてそいつがどんどん子供を産んで増えていくらしい。今回【アーミーインセクト】を撃退はしたがまだその女王っていうのは倒していない。多分この近くに巣があるんだろう。そしてそれを放っておくとまた増えてさっきの様に襲ってくるかもしれない。だったら巣ごと全部殲滅した方がいいだろうと俺は思った。
「俺は問題ない。」
「わしもじゃ、喜んで行くぞ。」
「俺も兄貴について行きます。」
三人はそう答えてくれた。
依頼があった訳でもないけどやっぱり放っては置けない。
「ただ働きになるけど、ごめんね。」
3人には謝っておく。俺の希望を聞いて貰ってるんだから。
「なに、この国にはわしらの家族がおる。じゃから害になりそうなものは早めに摘んでおいた方が良いに決まっておる。」
「そうっすよ。俺達の国のこと思ってくれてるんすから本当なら俺達がお願いすることっすよ。」
ブランとキースがそう言ってくれた。
俺も別に英雄を気取りたい訳じゃないけど、仲間の家族がいるこの国の手助けを少しでもしたかった。国境でエルバドス側に魔獣が出たと聞いた時のキースとブランの顔が忘れられない。
「行ってとっとと片を付けて旅を再開しよう。」
俺はそう言って歩き出した。
撤退した【アーミーインセクト】を【索敵】で追っかけていたからどこに巣があるかはわかっている。それも考えていたから撤退していった【アーミーインセクト】を放っておいたんだ。
俺達がしばらく歩くと目の前の地面に大きな穴が見えてきた。【アーミーインセクト】はここに入っていった。この穴が巣なんだろう。直径2m位の大きな穴が地面に空いている、思ったよりもでかいな。体長1mくらいだし這って進まないといけないような巣かと思った。まぁ個体差があるし、自分より大きなモンスターとかを餌として巣に持って帰る習性があるからこれくらい大きくないと通れないのかもしれない。
【アーミーインセクト】の巣の中を【索敵】を使ってしっかり確認してみた。中は結構広く入り組んでるな。しかしあまり中に【アーミーインセクト】の姿がない。もしかしてさっきの襲撃はこの巣総出で来たのかも。だったら攻め込むのは今がチャンスだろう。
一応みんなにも中の様子を【念話】を使ってどんな感じか伝えた。目指すは女王との所かな。女王さえ倒してしまえば【アーミーインセクト】が増えることもないし、巣から出ているやつは他の冒険者位でも倒せるから脅威ではないだろう。
そう思っていたが巣の中に【アーミーインセクト】ではない気配を見付ける。まさかと思ったが【索敵】で詳しく確認したが間違いないようだ。急いだほうがいいか。
「【岩の人形】」
俺はまた岩の人形を10体ほど作った。1m50cmくらいで全部が岩で出来ている盾と槍を持っている。
「中に入って探索して、【アーミーインセクト】を見付けたら倒せ。」
作った人形に命令をする。人形達は1列に並んで順番に穴の奥へ降りていく。とりあえず中の【アーミーインセクト】は任せよう。
「俺達も行こう。」
俺はそう言って穴の中に入って行った。
穴は入口からなだらかに傾斜していた。普通に俺達も歩いて行ける作りだった。この巣も恐らく土魔法を使える個体が掘っていったんじゃないかと思う。盗賊が山に作ったアジトの様に結構壁が綺麗だった。まぁ魔法で穴が掘れるんだったら、わざわざ自分達で掘ろうとは思わないだろうな。
しかしアリの巣のような作りで道が枝分かれしていたりするので目的の場所に着くまでに結構歩かないといけなくなる。
「【奈落の穴】」
俺は【索敵】で位置を確認しながら魔法で穴を空ける。俺達の少し前に下に通じる穴が空く。ショートカットして行こう。壁とか魔力で補強してるみたいだからよっぽどの所に穴を空けなければ崩落しないだろう。
俺は空けた穴に飛び降りる、他の3人も続いて上から飛び降りてくる。
それから俺は進んでは穴を掘ってを繰り返した。足元を掘ったり、壁の方を掘ったり。後はトンネルの様に結構な距離の通路と通路を結ぶ様に掘ったりした。そして何とかお目当ての場所に到着した。
そこは結構広いスペースだった。20m四方はあるぐらいか。
そこには色んな動物やモンスターの死体が転がっていた。
ここは恐らく【アーミーインセクト】の食料庫。
俺はその中で弱々しい気配を感じ取ったんだ。その気配の元に行ってみると1人の男性が倒れていた。両足は変な方向に曲がっている。恐らく【アーミーインセクト】に餌としてどこかで捕まったんだろう。幸いなことに命はあるみたいだ。
「【復活】」
俺はその人に回復魔法をかけた。光の輪から光の粒子が零れ落ち、倒れている男に吸い込まれていく。
「うっ。」
男が呻いた。意識を取り戻したらしい。
「大丈夫ですか?」
「ここはいったい・・・。」
俺の問いかけに男が頭を振ってこたえる。
「ここは【アーミーインセクト】という魔獣の巣です。恐らくですがあなたは奴らにさらわれてきたんだと思います。」
「そうか・・・、俺の他には誰かいませんでしたか?」
男がハッとした様子で俺に詰め寄る。
「いえ、この近くにはあなた以外はいませんでした。」
もしかしたら向こうの沢山の死体の中に探せばいるのかもしれないが、見付けても多分その人はもう・・・。わざわざいう必要はないだろう。
「そう・・・ですか。」
「それであなたはどうしますか?」
「どう、というと?」
「私たちは旅の冒険者です。この巣に来たのも【アーミーインセクト】の女王を倒すために来ました。途中であなたを見付けたんですが私たちはまだやることがあるんです。このままここで待っていてもらうか、もしくは外まで仲間の1人が付いてお送りしましょう。」
「そんな、いいんですか?」
「えぇ、流石に放っておくことは出来ません。」
「ありがとうございます、私はエリックと言います。エデバラという街で商人をしています。国境を越えてグラントへ商品と届けようとしていたんですが途中で魔獣に襲われたんだと思います。そこら辺の記憶があやふやなんですが。」
「えっ?」
エリックの言葉にキースが反応した。もしかしてエリックの口から出たエデバラってとこがキースの生まれた街じゃないのか?そう思って【念話】でキースに確認してみると間違いないらしい。そうかでも顔見知りでもなさそうだけどな。そう言えばキースって結構若い時に街を飛び出したんだっけ?エリックはそこまでの年じゃないしキースがいた街にいた時にはまだ子供だったかもしれないな。
それは良いとして、だったらちゃんと街に返してあげたいし一旦外に出てもらう。ずっとこんなところで待っているのもしんどいだろう。
「俺はダイゴと言います。ブラン申し訳ないんだけど、このエリックさんを外まで連れていって貰えるか?」
「主がそう言うのであれば了解した。」
俺はブランにお願いすることにした。この中のメンバーではブランが一番防衛に向いている。人形を作れるからだ。それに人形を使ったり土魔法を使えば俺達が来た道をそのまま帰れる。ガイやキースだけなら飛び上がって空けた穴を通って上の階に言ったりすることは出来るがエリックさんを連れてだと難しい。その点ブランなら人形に持ち上げて貰ったり、そのまま土魔法で足場を作って高くしていけば上っていけるだろう。
その辺のことは【念話】を使ってブランには説明しておいた。別にブランをのけ者にしようなんて考えてないからね。一番頼りにしてるからね。という気持ちを込めて。
【索敵】で確認しているが巣の中にいる【アーミーインセクト】もほとんどいなくなっている様だし大丈夫だろう。俺の作った人形達が頑張ってくれてるんだろう。
これで気になることも無事解消したし後は【アーミーインセクト】の女王を倒しに行くだけだ。
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