仲間
城から離れていく様に歩いていく。
俺には目的地がある。そこへ向けて城下町を歩いていく。
目的地の場所やルートは城にいた時に調べている。
俺は迷うことなく道を進んでいく。
歩いている間に辺りの様子を見ながら考える。
城の様子から想像した通り町並みは中世のヨーロッパと言った様相だった。レンガ造りの家に道には馬車が走る。生活もそれぐらいの水準だろうか。
道端には店先で野菜や果物を売っているところも見かけた。
人の様子も見るが俺の様に帯剣していたり、違う武器や鎧を纏った人も見かけた。あれが冒険者達なんだろう。
俺のカッコが街中で浮いているってことはない。
街の様子なんかもある程度ハインツさんに聞いていたが実際に自分の目で見ると違った印象を持つ。
そんなことを考えながら歩みを進める。
俺は街の中心街からドンドン離れていき人通りの少ないところへ向かっていた。
街に出て一番初めに冒険者ギルドに行って登録する。ハインツさんにはそう進められたが俺は別のところに向かっていた。
しばらく歩いてやっと俺は目的地に到着した。
俺は一度深呼吸してから目の前の扉を開いた。
「いらっしゃいませ。」
俺の姿を見た店の者が声をかけてきた。営業スマイルを浮かべ俺に近づいてきた。
「本日はどんな奴隷をご所望でしょうか?」
店員はニッコリほほ笑みながら問いかけてきた。
そう、俺が城を出て一番最初に訪れたのは奴隷商だった。
この世界には奴隷制度がある。
犯罪を犯したものや、借金のカタでなど様々な理由はあるらしいが何らかで奴隷に身を落とすものがいる。
そしてここではその奴隷を買うことが出来る。
旅をすると考えた時に到底一人では満足に旅を続けることが出来るとは思わなかった。
仲間がいる。
そう思い色々と調べてみた、冒険者ギルドでパーティの募集も出来るみたいだった。ただそう簡単に人が集まると思えないし、まず俺の素性を教えるわけにいかない。
自分の事を隠したやつと一緒に冒険をしようなんて酔狂なやつはそうそういないだろう。
だから別の方法として奴隷を買うことを思いついた。
奴隷は主人と主従関係を結び、その関係が脅かされた時には罰を与えることが出来る。
この世界には【刻印術】と言うスキルを持った者がいる。そのスキルで色々な契約を作り出すことが出来る。
奴隷の隷属契約もその一つで、奴隷に隷属紋と言う印を刻み色々な誓約を課したり出来るらしい。
もしその誓約した内容を破った場合は、最悪奴隷に死を与えることもできるとのこと。
そうしたことでこの世界では奴隷制度が成り立っている。
「こちらには様々な奴隷をご用意させて頂いております。
戦闘向き、家事向き、もしくは愛玩用などもおりますがご希望をお聞かせいただけますか?」
俺が黙っていると奴隷商は聞いてきた。
「あぁ、今回は旅に役立つようなのがいいんだ。」
俺は落ち着いた声で奴隷商に告げる。内心緊張しているが表に出ないようにしている。
ビクビクしてたら足元見られるかもしれない。
「左様でございますか。ではこちらへどうぞ。」
奴隷商はそう言って手で行く先を案内してから歩き出した。
俺は大人しく後をついていった。
奴隷商は俺より背が高くスーツの様な服を着こなしていた。
顔はモデルの様なそれなりに綺麗な顔立ちをしていたが、ずっと薄ら笑みを浮かべているのが少し気味が悪い。
奴隷商はゆっくりとした動作で目の前の扉を開けると階段を下りていく。
それに俺も続く、どうやら地下に行くみたいだ。
「愛玩用などは上の部屋で着飾っているのですが、旅に役立つとなると戦闘用などになりますのでどうしてもこう言った場所になります。申し訳ございません。」
奴隷商は前を歩きながら俺に声をかけてきた。
これから行くところはそれなりの場所でそれなりの奴隷がいるってことだろう。
地下まで降りきるとどう考えても地下牢としか見えない光景が目の前にあった。岩や石がむき出しの地下空間に鉄の檻があった。
その檻の中には何人もの影が見える。明かりは蝋燭の明かりだけ、それもそんなに多くない為ほとんど見通せない。
奴隷商は近くのランタンを持ってきて蝋燭の火を移した。
それによって辺りが何となく見て取れるくらいには明るくなった。
俺はあまりこんなところに長居したいとも思っていないので自分から檻に近づいて中の様子を覗いた。
檻の中には20人位の男が床に座り込んでいた。
どいつもこいつも俺のことを睨んでいる。
顔も厳ついのが多いし弱腰になりそうだが負けずに見返してやる。
そしてずらっと檻の中の男達を一通り見終わり檻から離れる。
「いかがですか?」
俺が檻から離れ後ろで控えていた奴隷商の近くまで戻ってくると声をかけてきた。
「あの、右奥の体格が良さそうな濃い茶色の髪をした、服が白と黒の縞々のやつ・・・」
「あぁ、あれですか。お目が高い。
あいつはそれなりに戦闘スキルを持っているので旅をするのであれば役に立つでしょう。」
俺が気になったやつを伝えるとそんな答えが返ってきた。
「いくらだ?」
俺はとっとと商談に入る。
「左様でございますね、色々と使えますからそれなりの料金になります。
金貨20枚でございますね。」
奴隷商は値踏みするように俺を見ながら言った。
この世界の金銭は人が暮らすアルメデでは同じ通貨が使われている。
銅貨、銀貨、金貨、などがあり銅貨で元の世界で100円、銀貨が1000円、金貨が10000円ぐらいの価値だった。
その上の金貨もあるらしいがほとんど流通していないらしい。
それで考えると俺の希望した奴隷は20万円の価値だという。一般的な値段がわからないから何とも言えないけどこの世界の金貨20枚は結構な金額だ。
「いいだろう。」
俺はそう言うと背負っていたリュックの様な物から袋を取り出した。そしてその袋の中から数えた金貨を奴隷商に渡した。
俺が金貨を渡すと奴隷商は少し驚いた様子だった。
俺のカッコは冒険者だったからそんなに大金を持ってるなんて思っていなかった様だ。
「お買い上げありがとうございます。」
奴隷商は金貨を仕舞いつつ営業スマイルに戻った。
「それと、あの一番奥にいる髭もじゃのやつなんだが。」
俺がそういうと奴隷商は眉を顰めた。
「あぁ、あれですか。ドワーフの奴隷は珍しいんですが。」
奴隷商は嫌なものを見るような顔をして言った。
俺が言った髭もじゃの事だろう。
ドワーフか、初めて見た。
というか初めて見るのがこんな場所っていうのが何とも言えない。
ドワーフと言われた人物は立派な髭を蓄えて俯きがちに奥に座っていた。
その体躯は他の奴隷とは違って小さい。ただ小さいのは背丈だけで横幅は結構ある様子だった。
ずんぐりむっくりと言う言葉が似合いそうな体格をしていた。
「昔は冒険者をしていたらしいんですが、今は役に立つかどうかわかりませんよ。」
奴隷商はそう説明する。
ドワーフは、両腕が肘から先がなかった。
「ある冒険中の怪我のせいで両腕を失ったようです。その為戦うことも満足にできず、ドワーフの持ち味である器用さも意味がなくなっています。」
奴隷商は首を振りながら続けた。
「いくらだ?」
俺はそれでも交渉する。
「まぁ、荷物持ちくらいには使えるかもしれませんね。後は盾の代わりですとか。」
「いくらだと聞いてる。」
奴隷商が何やら言っていたがさえぎって俺は同じことを聞く。
「先程高額の買い物もして頂いたので銀貨5枚で結構です。」
奴隷商は俺の態度に気圧された様で金額を言ってきた。かなり安いな、さっきの男とは大違いだ。
両手がないからってことなんだろうが何とも言えない気持ちになる。
俺は黙ってまた袋から銀貨を取り出して奴隷商に渡す。
「この二人だけでいい。」
俺はそう言って元来た階段を帰りだした。
「すぐにご用意しますでの契約の間でお待ち下さい。」
奴隷商は少し慌てた様子で俺の後を追いながら言ってきた。
階段を上り周りを見回してドアに【契約の間】と書かれた部屋に入る。そこは応接室の様な作りでテーブルと椅子が並べてあった。
俺はドカッと椅子に腰を下ろした。
しばらくそのまま座ってくつろいでいるとドアをノックされた。
そして扉が開き先程の奴隷商と買った奴隷2人、最後にローブを着た人物が入ってきた。
「お待たせいたしました。ではさっそく主従契約を行いたいと思います。」
奴隷商がそう言うと最後に入ってきたローブのやつが俺の前まで来た。
「契約は初めてですか?」
感情を見せないローブの男が聞いてきた。
「あぁ」
俺は答える。
「では簡単に説明させて頂きます。私はここの刻印術師です。
今から奴隷に課す誓約を決めて頂き印を刻みます。
まず誓約の内容はどのようにしましょう?」
「俺の命令を絶対守ること。それに反した場合は俺が許すまで激痛が走る様にしてくれ。
そしてそれでも従わない場合は死を与える。」
俺のセリフに奴隷の2人の表情が固まる。
まぁ初めて会ったやつに命を握られるなんてたまったもんじゃないよな。しかもどんな非道な事命令されるかもわからないのに絶対に守れだなんて。
「かしこまりました、ではその様に。」
刻印師は俺の正面の椅子に座り手に持った紙に何やら書き込んでいく。
さっき伝えた内容だろうか。
「出来ました、ではこちらの印に血を頂けますか?」
刻印師は書き終わった紙を俺の方に向けナイフを渡す。
そして紙の中心にあるなんて書いてあるかよく分からない印を指さした。
俺はナイフを受け取り右の親指を少し切りつけた。親指の腹から血が浮いてくる。
そしてその親指を紙の印の上に置いた。親指を離すと紙には俺の血が滲んでいた。
「これでいいのか?」
「結構です。」
俺が聞くと刻印師は満足そうに頷いた。そして何かを呟きだした。
刻印師がしばらく呟いていると俺の前にあった紙が少しずつ光に変わっていった。
へぇ、こんなことになるのかと興味深く見ていると紙は全て光の塊になった。
そしてその光の塊は2つに分かれ奴隷の方へ飛んで行った。その光の塊が奴隷に当たるとすっと体の中に消えていくように無くなった。
「これで契約は完了しました。」
刻印師が告げる。
もう終わったみたいだ。えらく簡単なんだな
「じゃあ俺はもう行く。」
そう言って俺は立ち上がる。
「またのお越しをお待ちしております。」
奴隷商はにこやかにそう言った。
奴隷商の店から外に出ると奴隷の2人も後ろにきっちり付いてきていた。
「黙ってついてこい。」
俺は2人にそう言って歩き出した。