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美人局

 学ぶことはハインツさんのおかげで少しずつだが進んでいる。


 しかし俺にはそれ以外にも色々とすることがある。

今まさにそれをしているんだが・・・



「ほら、そこ隙だらけですよ。」



 その声と同時に俺の右脇腹に木刀が飛んでくる。

 バシッと音がして結構な衝撃と痛みが走る。

一応皮の鎧が大事にならないように保護してくれているがそれでも痛い。



 俺は外の世界に出る為に勉強以外に剣の訓練をしている。

 目の前には俺に一撃を加えた男がやれやれと言った様子で木刀を肩に担ぎ俺のことを見ていた。



 目の前の男はランスと言い近衛兵団の副隊長をしている。金色の短髪で鋭い眼をしている。正直あまり好きなタイプではない。

 目がどうも人のことを蔑ん(さげす)でみているようにしか思えない。



 ここは城の中庭のにある訓練場。周りには城勤めの兵士達がそれぞれ訓練を行っていた。

 俺もこの生活になってから、その兵士達に混ざって訓練に参加している。



 でも剣など扱った(あつか)こともない俺はランスから一方的に殴られる日々を過ごしていた。

 正直ランスは俺のことを殴る対象としか思ってないんじゃないかと思う。国王から俺に剣を教える様にと言われたようだが、それが不満なのか教える気はない様だ。ただただ見て覚えろと言わんばかりに組手をして一方的に殴りつけてくる。

 ハインツさんとは大違いだな。小さい男だ。



 俺から離れたところには近衛兵団の団長と訓練している勇と彰の姿が見える。向こうは剣の振り方から何からちゃんと教えてもらっている様だ。

 不公平とは思わない、こちらも色々と騙している身だしな。



「はぁ、一旦休憩にしましょ。手加減するのも疲れるんですよね。」



 ランスはそう言って俺の前から離れていった。俺は打たれた脇腹をさすりながら壁際に移動した。



「大丈夫っすか?」



 外壁にもたれて休憩していた俺に近づいて声をかけてきたのは勇だった。その隣には彰の姿もあった。



「えぇ、まぁ。なかなか難しいものですね。剣を扱うっていうのも。」



 俺は苦笑しながらそう答えた。2人も休憩なのか俺の近くに寄ってきた。



「そんなもんですか?俺は結構器用でなんでもこなせちゃうからわかんないんですよねぇ。そういうのって。」



 勇は剣を片手で軽く振りながら言った。あぁ、はいはい。心配してるのも振りなんだろう。

 心配っていうよりは同郷のよしみで同情してるぐらいか。



「才能があるって凄いですね。俺も生き残る為最低限のスキルぐらいは手に入れるつもりです。」



「俺達と比べたら難しいと思うけど、頑張ってね。」



 俺の褒め言葉に気持ちをよくしたのか上機嫌で返してくる勇。勇は一日で【剣術】のスキルを得たらしい。持ってる称号のおかげかもしれないが。

 俺はもしスキルを得たとしても隠すつもりだけどな。ここでは何もできないただの一般人と思われたい。変に才能があって勇者の為に働けとか言われたらたまったもんじゃない。



「勇様~っ、彰様~っ」



 そんな黄色い声が遠くから聞こえた。そして俺達に近づいてくる人物。高そうなドレスに身を包み、満面の笑みでやってきたのはこの国のセレナ姫だった。



 セレナ姫はスラッとし出るとこは出た抜群のスタイルに整った顔。かなりの美人だった。よくあの国王からこんな人物か生まれたと思ったが見かけた妻の方が美人だった。国王に似なくてよかったな。



「勇様、彰様、訓練お疲れ様でございます。怪我などなさっていませんか?」



 そんなことを考えていると精一杯の愛想を振りまいているセレナ姫がいた。

 俺はそもそも眼中には入っていない。勇者様に気に入られる為に必死なんだろう。

 この世界で勇者は特別な存在だし、子供でも出来れば凄まじいスキルを持って生まれてくるかもしれない。取り入ろうと必死になるのはわからないでもない。



 勇はニコニコしながらセレナ姫と話している。満更でもない様子だな。

 彰の方は目を合わせないようだがチラチラとセレナ姫の顔を見て顔を赤らめている。真面目なやつかと思ったが、ただのムッツリなのかもしれない。



 俺はそんな様子を見ながらその輪から離れていった。正直俺にはどうでもいいことだったし。




 そんなこんなで城で色々してるうちに一月という時間はあっという間に過ぎていった。



 俺は今城の門の前にいる。城での一月が過ぎ、約束通り旅に出ることにした。

 周りに人はいない。

 俺のことをわざわざ見送ろうなんて人はこの城にはいないってことだ。



 腰には剣を差して皮の鎧も付けている。しばらくは生活できる金も貰った。これ以上は必要ない、これからは自分で手に入れていくんだから。



 俺はこれからの生活に心躍らせて歩き出した。

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