浪漫技
俺は無言で2つの死体の下に土魔法で落とし穴を掘る。
ドサッとそれぞれの穴の奥から音がした。完成した落とし穴はそれなりに深く、落ちた死体を見ることは出来ない。それからまた土魔法で穴を覆った。そこには何もなかったかのようにただ地面があるだけだ。
そんなことをしてるとガイとブランが俺の方にきて合流する。
「アジトに入ろうか、俺が先行するから2人は少し後から付いてきてもらってもいい?」
2人が頷いたのを確認してから俺は洞窟の中へと進んだ。
洞窟の中は人が2人位なら並んで通れるくらいの大きさがあった。洞窟の壁の表面は綺麗でやっぱり土魔法を使って人工的に作った洞窟なんだろう。やっぱり魔法って使えるよな。住む所も作れるんだから。中は結構広そうな作りだな。
俺は【索敵】を使う。【索敵】は屋内だろうが関係なく使える。地図も表示されるんだからダンジョンとかに行っても楽にクリアできそうだ。この世界にダンジョンなんてあるのかはわからないけどね。
【索敵】で見るとそれなりの洞窟の中に部屋数があった、盗賊団はそれなりの人数いるはずだしここで暮らしてるのなら色々必要だよな。近くに盗賊の気配はない為、部屋らしきところを【索敵】1つ1つ調べた。食料庫とか人の気配のないところは飛ばしたから割とすぐに村の女性は見つかった。
ある部屋で鎖につながれていた、もちろん見張り付きで。
大人数のいる部屋の真っただ中にいるとかじゃなくてよかった。それだったら助けるのが格段に難しくなってしまう。いきなり盗賊たちに囲まれて乱暴されてるかもと思ったが、盗賊たちは一番大きな部屋に集まって酒盛りをしている最中の様だ。もしかしたらこの後そこに連れていかれるかもしれない。早めに助けないとな。後見張りがいなくなったのがバレても面倒だ。まだ出口の方には誰も向かってこない。交代するタイミングが分からないが、それで中に侵入したのがバレる可能性もある。とっとと行動しよう。
俺は【索敵】のナビに従って一直線に女性の元に向かった。
女性が繋がれている部屋の前までやってきた。
ただこれからどうするかが問題だ。
この部屋には扉がある。そして中には見張りが2人いる。
扉を開けて中に入り、見張りを倒すことは簡単だと思うが、倒す前に大声を出されて他の盗賊に気付かれてしまう可能性がある。入口の見張りみたいに始末するだけなら数秒なんだろうが扉を開けてるとその時点で気付かれる。
流石に扉をすり抜けたりするスキルはなかった。
そして女性の行動も読めない。見張り2人を目の前で殺したのを見て叫ばれたら厄介だ。女性をこのアジトから逃がすまでは極力盗賊に気付かれたくない。俺達だけなら問題ないが女性を守りながら戦うには場所が悪い。ここは相手のホームだし洞窟なので土魔法を使って俺達の所だけ崩落とかされたらかなりまずいことになる。
俺の中で考えられる手は2つある。
【支援魔法】の中にある【眠り】で中にいる人間を全て眠らせてから中に入って見張りを始末する案。ただこの場合は出来るかどうかは賭けになる。【眠り】使ったからといって必ず人を眠らせれる訳ではない。状態異常に耐性を持つ人がいるんだ。後はその時の体調とかにもよる。だから上手く見張りの2人に効いてくれたら問題はない。だがもし1人だけしか効かなかったら、いきなり隣の奴が話をしていたのに眠ったという異常事態になる。確実に怪しまれる。だから確実に成功するかはわからない。
もう1つは単純に正攻法。1人をおびき出して始末して、気を取られて瞬間にもう1人も始末する。女性が叫ばない様に口を塞ぎ事情を説明する。まあやるとしたらこっちかな。
俺はガイとブランに今からすることを伝えてきた道を戻って待ってて貰うようにした。
軽く深呼吸してミッションスタートだ。
俺は軽く扉をノックする。中から「なんだ?」という声がするが無視してもう一度ノック。
すると見張りが扉に近づいてきたのが気配でわかった。
扉が開き見張りが扉の外を見る。しかし誰もいないことが見えたのか、更に扉を開いて部屋から出て左右を確認する。
俺は扉の陰に隠れている。スキルも使ってるから全く気付かれない。
何もないと思って見張りが部屋に戻ろうとした瞬間に後ろに回り見張りの口元を抑えナイフを胸に沈めた。見張りにナイフを突き立てたまま部屋の中を確認する。女性は膝を抱えうずくまっていた。こちらを見ていない為気付いていない様だ。もう1人の見張りが驚き声を無くしていた。見張りまでは少し距離がある。ここから辿り着くまでに声を上げられてしまうかもしれない。普通ならな。
次の瞬間俺はもう1人の見張りの後ろに立っている。そしてもう何度目か、見張りの口を塞ぎ胸にナイフを突き立てた。
今見張りの後ろに一瞬で回り込めたのは【影移動】と言う魔法を使った。
この魔法は【闇魔法】に属しているが俺が【魔法作成】を使って作った俺のオリジナルの魔法だ。
【闇魔法】は基本的に魔族がよく使う魔法で、人族はあまり適性がなく使える人が少ない。使える人が少ないという事は研究などがされていなくて世に知られている魔法も少ないという事だった。影を使った魔法があるなど本で読んで知っていたので、だったら夢の影から影の移動が出来るんじゃないかと思った。
【倉庫持ち】のスキルがあることから別の次元か、別の異空間が存在することが分かっている。その空間同士を繋いだら可能になるだろう思った。旅に出てから【魔法作成】を使ってちょちょいと作ってみた。そしたら割と簡単に出来上がった。
しかし問題は出来上がってからだった。誰も使ったことのない魔法だから安全性とかは自分で調べるしかない。別の空間とかに移動して大丈夫なのか、とか誰もやったことないだろうしな。空間と空間を完全に繋いでるから大丈夫、とか思ってみたけど実際に自分の身で試すのはかなり勇気がいった。
そこで途中で捕まえたモフモフ・ラビットを使って実験することにした。魔法を発動して俺の影とブランの影を繋げてからモフモフ・ラビットを俺の影に入れてみた。すると問題なくブランの影から一瞬で現れた。調べてみたが体には全く異常がなかった。
そして俺も実際に影を渡ってみた。ホントに一瞬で移動が出来て体にも問題がないようだった。こうして男の浪漫技の【影移動】を使えるようになった。ただ今は目に見える範囲の影にしか移動できないんだけどね。そのうち遠くの影でも移動できるようになってやる。
そんなことを考えてると最初に始末した見張りが倒れる。その音を聞いた女性が顔を上げる。俺は瞬時に動き女性に近づいて手で口を塞いだ。
「大声は出さないで。他の盗賊に気付かれる。俺はココちゃんに頼まれてあなたを助けに来た冒険者です。エミルさんですよね?」
一気にまくし立てる様に女性に言った。ココとは俺に姉を助けてほしいと依頼した女の子で、目の前の女性の名前も確認するため用に聞いてきていた。
エミルは俺の言葉に驚きながら頷いた。
「今から手を離しますけどさっきも言ったように絶対に大声を出さないでくださいね。
ここで他の奴らに見つかったら無事に帰れないかもしれないので。」
そう伝えエミルの口元から手を離した。
エミルは確かに美人だった。元いた世界の海外モデルの様な端正な顔立ちとスタイルをしていた。俺じゃなかったらこのシチュエーションはグッとくるんだろうな。優しく声かけるんだろう。「怖かっただろ?俺の胸に飛び込んでおいで」とか「ここからは俺が絶対に守ってやる」とか。
ないな、あぁ全くそんな言葉今心に浮かんでこない。
「さぁ早く村に戻りましょう。他の奴らがいつ気付くかもしれません。」
そう言って見張りの身体を調べてエミルを繋いでいる鎖の鍵を見付け外してあげた。
「さぁ行きますよ。」
エミルの手を引くこともなく俺は部屋から出た。そして少し進みガイとブランに合流する。
「彼女を連れて先に村に戻ってくれ。俺はやることがあるから後から行く。」
そう言ってエミルをガイたちに任せた。【索敵】で確認するが他の盗賊はまだ大部屋から誰も移動していない、まだ俺達に気付いていないだろう。エミルを連れてこのまま出口に向かえば誰にも会わずに外に出れるはずだ。そこからは三人だけでも村に帰れるだろう。俺にはまだ仕事が残っている。一人奥へと向かおうと思って思い出す。
「それから二人ともエミルを口説くのは禁止だからな。」
俺はそう言って1人洞窟の奥へ向かった。ヒロインの座はそう易々とは渡さないぜ。
そう言えば移動と言えば前に【瞬行】という技があると書いてました。
【影移動】じゃなくてそっち使えばいいんじゃね?と思いますが。
【瞬行】は障害物があると使えなかったりします。素早く動くだけのスキルなので。




