二度目の決意
村長の家から出て2人にどうしようか相談しようとした。
「あの。」
そう思ったら後ろから声を掛けられた。声のした方に振り替えると女の子が立っていた。
声の感じからこの目の前の子が俺に声を掛けてきたんだろう。
「お兄ちゃん達は冒険者なの?」
女の子は俺達に近づいてきて聞いた。
年の頃は8歳くらいだろうか、オレンジの髪を三つ編みにしている。顔は目が大きく可愛い。将来美人になるだろう。
「そうだよ、旅をしていてこの村に寄ったんだ。」
俺はしゃがんで目線を合わせて答えた。
「お願い、お姉ちゃんを助けて!」
女の子に言われて俺達は後ろに控えている二人に顔を向ける。2人とも複雑な顔をしていた。
「盗賊にさらわれたっていう女の人の妹さんかな?」
「そう。」
俺の質問に顔を伏せ、女の子は沈んだ声で答えた。
「俺達からもお願いします。」
そう声がしたと思ったら女の子と同じ年頃の男の子が3人村長の家の陰から出てきた。
隠れてた?もしかして俺達と村長のやり取りをどこかから覗いていたのかもしれない。
「お願いします。」
女の子が頭を下げて言う。面と向かってこうお願いされると断りにくいな。しかも小さい子が頼んでくるとなると一層心に来るものがある。
「えっと、お姉ちゃんはとっても美人なの。」
顔を上げて女の子がいう。
美人って単語に食いついて依頼を受けると思ったのか?
すまないが俺には全く効果がないな。
これがもしさらわれたのがお兄ちゃんだったら少し心が動かされたかもしれない。
そして
「髪は短くてツンツンしてて、顔は強面なんだけど時々見せる笑った顔が少年の様に無邪気な感じになるの。体は農作業を真面目にしてたから筋肉もしっかりついてて真面目過ぎて24年間誰とも付き合ったこともないんだよ。普段は怖い見た目を気にしてて人と目を合わせて話せなかったりするんだけど、夜になると寂しいからたまに一緒に寝てくれないかって言われたり。お兄ちゃんを助けてくれたら、お兄ちゃんのベットの横を空けるから泊っていってもいいよ。
だからお兄ちゃんを助けて。」
って言われたら今すぐにでも盗賊のアジトに向かうよ。
盗賊も有無を言わさず全員抹殺してくるよ。
いかんいかんまた暴走した。
正直まだ依頼達成した時の報酬の話もしていない。村の感じを見たけどそんなに裕福な村でもないから報酬もそんなに出せないだろう。ただこの感じだと断れそうにないな。
俺は立ち上がって振り返って2人にどうするか聞いた。
「どうするかはダイゴが決めたらいい。」
「うむ、わしは主決めたことに従うだけじゃ。」
俺がどうするかを決めていいらしい。
「わかった。出来るかわからないけどお姉さんを助けに行ってくるよ。」
女の子に振り返りそう伝えた。
女の子は涙を流して喜んでくれた。その後ろの男の子達も一緒に喜んでいた。
「後ろの子たちは君の兄弟?それとも友達?」
もしかしてあの中にもさらわれた女性の兄弟がいるのかと思った。
「ううん、私の親衛隊。」
そうか、この子なかなかやるのかもしれない。さっきの台詞といい侮れない。
俺達はもう一度村長の家に戻って依頼を受けることを伝えた。
それから依頼達成時の報酬についての話をした。やっぱり大した額は貰えそうにない。後村長の家に泊まってもらっていいと言われた。宿屋よりいい待遇で泊まれるだろう。今回は報酬目的でもないし俺達に問題はない。
俺達はすぐにでも盗賊のアジトに向かうことにする。夜も近づいてきてるので村の人は驚いたが。俺にとってはあまり関係ない。早く助けてあげた方がいいだろう。美人なんだったら時間が経つと乱暴されている可能性も出てくる。村人には大丈夫だとだけ伝えて村を出て山に向かうことにした。
村から出てその盗賊のアジトがあるという山に向かう。そこまでの距離ではないらしいので走っていく。山道を全力疾走しても俺達は疲れることはない。そんじょそこらの冒険者とは違うんだから。
ほどなく俺の【索敵】に盗賊らしき影が見えた。ここからは慎重に行くか。
なるべく気配を殺しゆっくりと進んでいく。人の姿を視認できるくらいでの距離を隠れながら進む。俺の【索敵】に引っかかったのは盗賊の見張りの様だ。
見ると山の斜面に洞窟があり、その前に二人の見張りがいた。【鑑定眼】を使って2人のステータスを確認する、大したスキルは持ってないが称号にはどちらも盗賊の文字があった。
洞窟は人工的に作った洞窟の様で入口が自然にできたものと違って綺麗だった。土魔法を使える奴が掘っていったのかもな。という事は盗賊にも魔法使う奴がいるってことだ。
見張りはそこそこ若いやつが2人しゃべりながらしていた。下っ端なんだろう。こんなところに誰か来ると思ってないんだろうか、緊張感が全くなかった。
「とりあえず俺が行ってくるよ。」
俺はガイとブランに告げた。
見張りに見つかるとさらわれた女性を人質として使われるかもしれないので中の人間に気付かれずに無効化したい。俺はスキルでどうとでもなるんだが、2人は基本的に普通に戦うしかない。それだと絶対に中の人間に気付かれるだろう。
それに俺がこの依頼を受けると決めたんだから俺がやらないといけないと思ってる。
ガイとブランは今回も了承してくれた。
俺はスキルを付け替えて大きく深呼吸してから動き出した。
今回は【暗殺術 LV.10】をメインにして、【隠匿】や【無音】を使う。【暗殺術】はそのまま暗殺に適した動きを出来る。【隠匿】は気配や、姿を気付かれないようにしてくれる。完全に消えてしまう訳でないんだけどいるけど意識しなくなるってことらしい。【無音】は俺の行動した時に発生した音が無くなるっていうスキルだった。完全に暗殺者だな。
ひっそりと見張りの後ろに近づく。
もう少し近づいただけで体に触れられるぐらいで側にいるのに気づかれた様子はない。
さっき拾った石を少し遠くに投げる。ガサッと音がしたので見張りの2人が顔を見合わせてそちらに意識を向ける。
その瞬間に俺は1人の後ろに回る。後ろから左手で口元を抑え、右手に持ったナイフを胸に突き刺す。【暗殺術】のスキルのおかげでどこを刺せば肋骨の間を通り心臓に到達するかが自然とわかる。
ナイフを抜き、音もなくもう1人の後ろに回り先程と同じように始末する。
2人目の胸からナイフを抜くと1人目に刺した男が地面に倒れた。それから俺は2人目の体から離れた。するとその男も力なく地面に倒れこんだ。その間10秒位だ。
地面に倒れ伏した男を見下ろして思うことは、少し呆気なかったなという事だった。
人を殺したからもう少し衝撃があるものかと思ったがナイフを刺した感覚はモンスターを剣で斬った時と何ら変わらない。俺はこれまでにいくつもの命をこの手で摘み取って慣れてしまったのだろうか。慣れたくはなかったがこの世界にいる限りこうしたことを繰り返していくんだろう。
今更自分のしたことを悔い改めて、これからはどんな命も奪わない様にしますっていう訳にはいかない。この世界に俺が呼ばれ、自分でこの世界をどう生きていくかはとっくに決めたことだ。こんなことがあることも予想していた。
俺はこの業も背負って前に進む。一番最初に命を奪った時に決めたんだ。後悔や後ろめたさは持たない。もう一度心に決めた。
そんなお兄ちゃんをさらってどうしようと思うんでしょうかね。




