ラッキーストライク
次はと思っていると遠くから音が聞こえる。戦闘音?誰か戦ってるんだろうか。この森には俺達の他にも冒険者がいるはずだから、おかしくはないだろう。気になるな。他の冒険者がどう戦うか興味がわく。
「ちょっと向こうで他の冒険者が戦ってるみたいだな。気になるから見に行ってもいい?」
「あぁ、俺も冒険者がどう戦うか興味がある。」
ガイからの了承も得られた。
行ってみようと思うがその前にと。
俺は【支援魔法】を使う。
【隠れ蓑】と言いう魔法だ。
【目隠し】ほどの効果はないが姿が消える。完全に姿が消えたりしない、よく見ると透けて見える感じだし、出した音とか匂いは消せない。ただ人に対して使えるのでこのまま動くことも可能だ。
「行こうか。」
俺達はそう言って音のする方に向かった。
人の怒声や何かを打ち付けた様な音がどんどん大きくなってきた。そのまま進むと少し開けた場所でブル・ボアと対峙する冒険者パーティがいた。
俺は木の陰に隠れて冒険者達を観察する。4人組みたいで、1人が剣、1人が槍、さらに弓と杖をそれぞれ持っていた。杖を持っているのが女性でそれ以外は男だった。年の頃は全員俺より少し上くらいだろうか。4人共一様に慌ててる様子だった。
対峙するブル・ボアは俺が戦ったのよりも少し小さめだった。外傷はない様だが鼻息が荒く怒ってるようだ。
「もう、だからあんな怪しいとこで買った麻痺茸なんて使うなんて反対だったの!」
杖を持った女性が喚いている。
「しょうがないだろ、俺達金ないんだから。だから起死回生でブル・ボア狩ることにしただろうが。」
槍を持った男が女性に食って掛かる。
「それはそうだけど、あんな安くて怪しい麻痺茸が効く訳ないじゃない。」
「あいつが食べて動きが鈍ったから、いける!って言ったのお前じゃねぇか。」
「知らないわよ、そんな事。全然効かないなんて思ってもなかったんだから。
一発で仕留められなかったあんたが悪いんでしょ。」
「避けられるとは思わなかったんだよ。お前もフォローしろよな。」
と2人はそんな感じで口喧嘩してた。喧嘩の内容で今の状況が全部分かった気がした。キノコが大好きなブル・ボアを狩る時に麻痺茸というキノコを使うらしい。そのキノコを食べるとしばらくの間麻痺して動きが鈍ったりするのでその間に倒す方法があった。今回それをしたが安物のキノコを使ったから思ったような効果が出なく今に至るってことだろう。
しかし戦闘中に余裕だな。まぁ一応突進が来ても大丈夫なように4人は一塊ではなく少し離れた位置にそれぞれいる。それなりの知識はあるようだ。
ちょいと【鑑定眼】を使って冒険者たちのステータスを覗いてみる。全員がレベル10前後でスキルのレベルも1~2ぐらいをそれぞれ持っていた。特に珍しいスキルも持っていなかった。これぐらいのレベルのパーティってギルドランクで言うとFかE位なんだろうか?罠にはめれなかったブル・ボアに対してどうやって戦うんだろう。
ブル・ボアが剣を持った冒険者に突進する。剣を持った冒険者は他の冒険者よりも前に出ていた。自分が攻撃されるように調節はしてるんだろう。ブル・ボアの突進を横に飛んで大きくかわす。そしてそのまま地面を転がる。そのまま通り過ぎたブル・ボアの背中に矢が刺さる。剣の奴が突進を誘って避けた隙の他の奴が攻撃するって作戦かな。しかしブル・ボアは矢が刺さってるのを物ともしていない様子でゆっくり振り返って頭を低くして突進する体勢を作っている。
それを見て慌てて剣の冒険者が前に出る。そこへまた突進が来る。今度も何とかギリギリで飛んでかわす。
「大地よ、我に力を。我が前にいる敵に岩の一撃を。【岩の弾】」
女性冒険者が魔法を使う。バレーボール程の岩の塊が地面に作られ、浮き上がりそれなりのスピードで突進終わりで方向転換をしようとしているブル・ボアにぶつかる。ドンッ、と音がしてよろめくがあまり効いた様子はない。
「うそ、全然通じない。」
女性冒険者が落胆の声を上げる。
う~ん、普通の戦闘ってこんなもんなのか?避けるスピード遅いし、魔法の威力も大したことないし。多分このままいったらこのパーティはブル・ボアに負けるだろう。突進を避けるのも一回一回やっとみたいだし、有効的な攻撃がない。少しずつダメージは与えられるだろうけどその前に冒険者達の体力が尽きる方が先だろう。結構詰んでるな。どうするんだろう。
「おい、フェイ。次の一撃に全部注ぎ込め。このままだったらじり貧だ。やるしかない。俺もずっと避け続けれる自信はない。」
今まで黙ってブル・ボアの突進を避けていた剣の冒険者が女性冒険者に言った。こいつがリーダーなんだろう。
「でも大してMP残ってないし、通じるとは思えないよ・・・」
「このままチマチマやってても倒せそうにない。
もし駄目だったら何とか時間を稼ぐからお前だけでも逃げろ。」
「そんなのやだよ。」
「MPが底を付いたお前がいたって足手まといなんだ。お前が逃げてから俺達もバラバラに逃げるから・・・・だから、な。」
「そうそう何とかして見せるって。」
2人の会話に槍の冒険者も加わる。
どう考えても死ぬ気だよね?フラグ思いっきり立ててるけど?
どうしようかと考える。ここで俺が出ていってブル・ボア倒すのは簡単だと思う。でもこの国で目立ちたくないしな~。でも手を出さないと多分このパーティは全滅するだろう。バラバラに逃げても街に戻る前にモンスターに出会う可能性もあるしな。
「わかったわ。やってみる、でも失敗しても一人だけ逃げる気はないからね。」
フェイという女性冒険者は覚悟を決めたようだ。仕方ない俺もどうするか決めた。そう思いスキルを付け替える。
フェイが詠唱を始める。地面にまた岩の塊が出来ていく。先程よりも大きな塊になりそうだ。それをブル・ボアが見付け攻撃対象をフェイに移す。
「お前の相手は俺だ。」
そう言って槍の冒険者が何を思ったか持ってた槍をブル・ボアに向かって投げる。投げる用の槍ではない為か槍は届かず地面に刺さる。しかしその光景を見たブル・ボアが怒り、槍を持っていた冒険者に向けて突進する。突進を受けた冒険者は命からがら地面を転がり難を逃れる。それを見てフェイが渾身の魔法を唱えた。
「【岩の弾】」
先程からずっと詠唱して魔力を込めた1mぐらいある岩の弾がブル・ボアに向かって飛んでいく。そしてぶち当たる。しかしその攻撃を読んでいたのかブル・ボアは足を開いて衝撃に負けない様に踏ん張ったようだ。大したダメージも与えられていないだろう。そこで俺が小さな声で唱える。
「【岩の槍】」
俺がそう口にするとブル・ボアに当たった岩の塊から、鋭く尖った岩の槍が飛び出しブル・ボアの身体を貫いた。ちょうど心臓辺りを狙って岩の槍を出した。それからすぐ魔力を操作して岩の槍を塊の中に戻す。
音を立てて岩が地面に落ちる。それと共にブル・ボアの体も横に倒れ動かなくなる。
「やった・・・のか?」
しばらくの静寂の後リーダーっぽい冒険者が口を開いた。
そして慎重にブル・ボアの近くまで行って死んでることを確認する。
「やったぞ、俺達でブル・ボアを倒したんだ。」
そう言って4人の冒険者達は喜び合った。
とりあえず目の前で死なれても目覚めが悪そうだったので手を貸した。魔法で作って飛ばした【岩の弾】はその時点で岩である。だからその岩を材料に【岩の槍】を作った。魔力を岩の表面にコーティングして固くしたりしていたら別だけどそこまでの力量はフェイにはないみたいだ。まぁそれでも魔力操作の力は俺の方が上なんで干渉出来るけどね。冒険者からの位置だったら岩の影でブル・ボアを仕留めた岩の槍は見えなかっただろう。体には直径1cmくらいの穴は開いてる。しかも心臓貫いたから血がいっぱい出てきそうだけど。岩の弾にたまたま尖ったところがあったと思うかもしれないしそれぐらいいいだろう。
見るものも見たしこれ以上ここにいてもしょうがないから俺達もモンスターを狩りに行くとするか。




