道程
「とりあえずそんな感じでお願いします。」
俺はドグマ船長にそう言った。ここは大和のドグマ船長の個室だ。
ひとしきりさっきあったことをドグマ船長に説明した。ドグマ船長はコルカルには宿を取らず大和で生活するみたいだ。まぁこっちの方が快適だと思うし。
「了解だ。一月ほど様子をみる。」
俺はドグマ船長に一月ほどこのコルカルで過ごして貰って、もし万が一俺が帰ってこないことがあればアルメデに戻る様に伝えた。ウィクルーアで俺達が何かあって帰ってこれないような状況であればアルメデにいた方がまだましだろう。
「お前達が帰ってこないなんて考えられないがな。」
「そう言って貰えると嬉しいです。長引きそうでも一旦は帰るようにするので。ここに俺は一瞬で帰っては来れますから。
もし何かあったら全部のティグが機能停止になるのでそれで分かると思いますけど。」
「おい、不吉なこというなよ。」
ドグマ船長は俺の言葉で自分の肩に座ってるティグのタンクを見る。見られたタンクの方はん?という感じで首を捻った。その姿を見たドグマ船長が若干ニヤける。気に入って貰ってるのは嬉しいんですけど・・・、まぁいいか。
ティグは俺の分身体だ。俺が死んだりすれば全てのティグの機能が停止する。そんなことになったらドグマ船長ショックを受けるだろうな。下手すれば俺が死んだってことよりも悲しむんじゃないか?
何かあれば大和には【転移の門】の端末を置いている。ここなら取られるってこともないだろう。どれだけ距離が離れててもウィクルーアの大陸の中からなら飛んでこれるはずだ。
「船員とエミリオ達をよろしくお願いしますね。」
「あいつらはあいつらで上手くやってくだろう。失敗したところでそこまでの事じゃないんだろ?」
「まぁそうですね。失敗してもいい経験になると思います。なにせ全部初めての事でしょうしね。失敗したからって全財産なくなってこの大和も売り払わないといけないことにはならないでしょう。」
「そうなったら困る。」
「そうですよね。若い二人に任せます。」
「じゃあな、無事に戻って来いよ。」
「はい、こちらも十分注意して下さい。」
そう言って俺はドグマ船長との話を終えた。
------------------------------
久々だなって思いながら俺は歩いていた。
ドグマ船長と話した後エミリオ達にも挨拶してすぐに出発することを告げた。この町で長々していてもしょうがないし。
そしてタイザンのメンバーと共にコルカルの町を後にした。
町を出てしばらく行くと木がうっそうと生え揃った森に出た。ウィクルーアではこうした森がずっと続くみたいだ。迷宮のどっかの階層みたいだな。キュクロさん元気かな~。向こうも神様なんだし元気なんだろうけど。そう言えばエルフの里にキュクロさんが打った剣があるんだっけ。そこも回収しないといけないな。伝説の剣ってことなんだろうか。人を選ぶみたいなこと言ってたけど。
そんな事を考えながら歩いている。走ってスピードを上げれなくはないが微妙なとこだな。地面も平坦じゃないし草とかも生えてる。アリアはちゃっかり小さ目の水の馬を作ってその背に乗っている。全員分作ってもいいけどそんなに早くは進めそうにないしいいか。一応は何があるかわからないしMPは温存しておいた方がいいだろう。人数分作って動かすとなるとそれなりにMPを継続して使うことになるだろうし。
隊の先頭はシータ、その横にガイ。アリア、ブランと続き俺が殿だ。
何かあっても対処できるだろう。【索敵】で確認もしてるし不意打ちをくらうこともない。俺達の【索敵】や【気配察知】を潜り抜けて接近出来る奴なんてそうそういない。
という事でエルフの里への道程は順調だった。3日程経ったが途中飽きてきたガイが見付けた魔獣を狩ったりしていた。わざわざこっちからちょっかいかける必要がないことは言ったが、腕が鈍るだの、ウィクルーア魔物の強さもわかってないといけないだのと色々と言ってきた。
だったらお好きにってことでガイ1人で狩りにいっていた。シータもついて行ったけど手は出さなかったみたいだ。なんか狩った魔獣を見たら四本腕のゴリラみたいな魔獣だった。食う訳にはいかないけど何かの素材に仕えるのかもしれないので俺の【倉庫持ち】の中に入れておいた。
その後の道程も順調に進むのかと思った。
しかしそれはいきなり起こった。
俺の影が大きく揺れたんだ。
「まずい!」
俺が叫ぶ。
「何があった?」
すぐにガイが俺に聞いてくる。
「エミリオ達に何かあったみたいだ。戻らないと。」
そう言うと全員の顔に緊張の色が浮かぶ。俺はスキルで小さな分身体を作る。その分身体は地上に着地して【鳥獣戯画】を使い小さなモグラみたいな姿に変わり地面を掘り出す。この場所に帰ってくるための起点として置いて行く。分身体は地中に潜り近くの木の根元まで行って【同化】を使う。そうすると木と同化して分身体に気付く者なんていなくなる。
それより問題は早く戻らないとってことだ。俺の影は既に【転移の門】を発動している。実はエミリオ達には何かあった場合にとある魔法具を渡してあった。それは石の付いた首飾りだ。付いてる石は当然の様に魔石で【転移の門】ともう一つの魔法を封じてあった。その使い方は簡単で石を砕けばいい。砕くのはそこまでの力もいらない。自分達で対処できそうにない案件が発生した時に迷わずに使う様にと言ってあった。今がその時なんだろう。
「早く俺の影に!エミリオ達の所に飛べるから。」
俺がそう言うと皆迷わずに俺の影に飛び込んだ。そして俺も自分の影へと身を投じた。
一瞬にして景色が変わる。
ザッと地面に降り立つと草や大地ではなくレンガの様なきっちりと舗装された道だった。コルカルの町の中か?俺は直ぐに周りの様子に意識を向ける。【索敵】と【探索】を使い現状を把握する。ここはコルカルの町で町の中心部から少し東に行ったところだ。【索敵】には人影がまばらに町中に分散している感じがする。しかしおかしな気配だ。そしてスキルを使わなくても聞こえる悲鳴。遠くの方では煙も上がっている。
「グルルルルルッ。」
俺の近くで低い唸り声を上げる一体の黒い獣。外見はおおよそ狼と言った風貌。俺が影魔法で作った【影法師】だ。
影を使って色々な姿を模すことが出来影を使った攻撃や移動が出来る。ある程度の自立行動が可能で今回は使役するものを守る様にとの命を課して作られている。町に残していったエミリオ達が何かあった時に俺達が駆けつけるまでに身を守る存在として魔法具に封じてあった。火や水なんかの使役物でもよかったんだが相手の属性もわからないし、影だと最悪大和に影を使って退避する事も出来るからだ。
そしてその影狼が吠えて向かっているのは一見しては町の住人、どこかで見た服を着ていた。しかしそれとは別に巨大な肉の風船の様なものがスッポリと頭に覆いかぶさっていた。
なんだ?どういうことだ?
「申し訳ありません。」
俺のすぐ近くから声を掛ける者がいた。エミリオだった。この影狼はエミリオに渡した魔法具に封じられていたものだ。エリックの方には虎を模した【影法師】を渡している。
「何があった?簡潔に説明してくれ。」
俺は北斗を抜いて目の前の住人に構えスキなくエミリオへ意識を向ける。
「自分達にも詳細はわかりません。急にあんな頭におかしなものをつけた住人が現れて近くにいた他の住人を襲いだしたんです。襲われた人が捕まったりするとあの頭についた肉の塊からもう1つ塊が生み出されるというか、分裂するというか・・・そんな感じでもう一個増えた塊が捕まった人の頭に取り付いて同じ様に他の住人を襲いだしたんです。」
なんかどっかのファンタジー物でありそうな増殖して仲間を増やしてくタイプのモンスターか何かか。
「他の皆はどうしてる?」
「船員さん達は襲われていない人を大和に案内して避難させてます。残った俺達が何とか出来ないかって思って町を回ったんですが、手を出していいものかもわからないので・・・。」
「うん、それで正解だ。後は俺達でやる。」
とりあえず今からは現状の把握、仲間達への指示、敵への対処方法。一気にやることが多い。仕方ないあいつを出すか。
俺は少し前に作ったスキルを使う。
「はいは~い。おまた。」
そう軽い感じの言葉を吐いて俺のすぐ隣に出てきたのは体長20cm位の空飛ぶイルカだった。
こいつは【HELP】と言うスキルだ。体は魔素で出来ているホログラフの様なもので実体はない。
スキルを色々と作れるようになってこう言いうスキルを作ろうか、その為にはどうしていったらいいかなんかを考えないといけなかったんだけど、それが結構面倒だった。【高速情報処理】や【並列思考】を使ってやってるんだけど他に考えが出てくるとどうしてもそっちに気を取られたりするし、これとこれを合せてそれからこうしてとかをずっとひたすら考えるのが面倒と言えば面倒なんだ。最初は色んなスキルが作れて面白いなって思ってたがそれも段々と飽きがきて作業って感じになってしまったのでもうそう言った作業をしてくれる存在を生み出して管理させようと思って作ったのがこのスキルだ。
分身体と言うか自動思考するもう一つの自分という存在を作ってという感じなんだ。思考は別々に行う様にリンクは切ってある。一緒にするとぶわーっとイルカがやってる思考が流れて来て頭が疲れる。
だからこうして虚影を出して俺との会話で言うやり取りにしてる。こうして姿を現す必要はないんだけど頭の中に声が響くって感じのもなんかやだったのでこの形をとることにした。やっぱり色んなスキルを使えて同時に色んなことを考えれるからってそれ自分の中で本当に処理できるかって言うのはまた違うもんだ。この方法が俺にはあってると思う。
「目の前にいるあいつをスキャン。どうすればいいか教えてくれ。」
「なんじゃあのけったいなん。気持ちワルっ。」
「そんなの良いからさっさとやれ。」
そう、なぜかイルカは関西弁。とりあえずイルカが関西弁話したら可愛いかなって思ってそうしてみたがなぜか漂うおっさん臭。
「ほいな、じゃあスキャン開始。」
イルカが相手の情報を確認している間に俺は現状の把握に勤しむ。【索敵】と【探索】で仲間の位置を把握する。そしてそれぞれの仲間たちの行動も。ガイとシータはどうしていいものかと攻めあぐねてるみたいだ。そりゃそうだ。頭にくっついてる肉塊を斬っていいかわからないだろうし。
アリアとブランはそれぞれ魔法を使って交戦と言うか足止めしてる感じだな。アリアは水で、ブランは砂を使って肉塊を付けた住民の体を拘束していた。今の所はそれが無難か。
「みんな、どうしたらいいかははもうちょっとしたら判明するからその間は今のままの行動を続けてくれ。間違っても肉塊を斬ったり、近づいたりしないようにな。」
俺は全員に【念話】で伝える。
「終わったで~。」
イルカがそう言って俺の周りをクルクルと飛んだ。
「あれはなんだ?」
「まずは特定のモンスターじゃないみたいや。元々こういうモンスターがいるってことではないみたいやな。
なんつーか、端末みたいなもんや。」
「端末?」
「せや、大本があってそれの子分みたいなもんやな。」
「ってことは近くに大本がいてそれを叩けばいいのか?」
「いや、話はそんな簡単ちゃうな。大本は近くにはおらんみたいや。周囲2kmを探してみたけど見当たらんかった。」
「どういうことだ?こいつらだけを置いて行ったってことか?」
「そうなるわな。」
「じゃあこいつらはどうしたらいいんだ?」
「中見てみたけどガッチリと触手みたいなもんが頭ん中に入り込んでるよって斬ったり焼いたりしてあいつが死んだら道連れやろうな。」
「マジかよ。んじゃどうすれば?」
「ちょっとまちや。そう言うと思って今作っとんねん。」
「何を?」
「薬や。」
「薬?そんなんで何とかなるのかよ。」
「あぁ、せやで。あいつらの行動パターンなんかを解析して、あいつらは人族に取り付いて仲間を増やすってだけの目的をインプットされてるみたいなんや。そこで取り付いた人族の体を一時的に仮死状態にして、なおかつあいつらの方にもその人族から離れる様な命令を出す物質を混ぜ込んだ薬ってとこやな。」
「そんなの作れるのかよ。」
「当たり前や。出来へんもんをわざわざ作るなんて言うかいな。あいつらの体はの作りは至極簡単やからな、それぐらいの意思変更させるんは簡単なもんや。」
「ってことはその薬を与えてあの肉塊が離れた所で片を付けたらいいんだな?」
「せやせや。一応この町におる奴ら分のはもうすぐ作れるさかいちょっと待っとき。ただこれ以上増えると薬が足りなくなるかもしれんから増えんように注意しいや。」
「わかった。」
俺は今聞いた内容をまた【念話】で皆に伝えた。俺自身も【索敵】で町の中のあのおかしな肉塊を全部見張る。今はその周囲には他の住民はいないみたいだから問題ないだろう。無事な住民は大和の甲板にいた。乗組員やドグマ船長が皆を避難させてくれたんだろう。ドグマ船長の許可があれば登録している人以外でも甲板までなら入れるし。今のこの場では大和が一番安全な場所だろう。
「出来たで~。」
イルカがそう言うと俺の手には小さな注射器の様なものが現れる。イルカは分身でもあるので俺の【玩具箱】なんかも使える。正直これを作ろうと思ったら俺だけならもっと時間がかかっていただろう。やっぱり自分とは別に思考してくれる存在ってありがたい。
「よし。」
俺はそう言ってその注射器を目の前の肉塊を付けた住民へ投げつける。
住民は影狼が【影縫い】と言う魔法で影を縫い留めて動けなくしていた。だからずっと同じ位置で止まっていたんだけど。
注射器が刺さり中の液体が減って行く。すると住民の体がビクンと震えた。そして頭に付いた肉塊もビクンと震え、ブルブルとその肉を震わせる。
するとその肉塊は上にでも引っ張られた様に伸びたと思えばだらりと地面に垂れていった。最後に触手の様なものも見え住民の耳からズルズルと引っ張られる様に出てきた。うん気持ちの悪い光景だ。肉塊は完全に住民から離れ地面をヌタヌタと動き回っている。
「ガウッ」
影狼が吠えたと思えば地面から真っ黒の槍が生え肉塊を貫いた。影で作った槍に串刺しにされ動きを止める肉塊。倒すのは簡単のようだ。
俺は住民の方を【鑑定眼】で確認する。ステータスは仮死とはなっていたけど死んではいないみたいだ。回復魔法で何とかなるかもしかすればこの仮死状態から戻す薬をイルカが作るのかもしれない。これで何とかなることが分かった。
お読み頂きありがとうございます
 




