海龍
「本隻九時方向に巨影あり!」
大和のブリッジに緊張が走る。
出航してから大和はドグマ船長と約束した通りに海龍討伐に向け、その海龍が生息する海域に舵を向けた。その海域に入る前から大和は警戒態勢に入り今レーダーを担当していた乗組員からの報告があったという事だ。
「巨影のデーター取得。確認終了。巨影は海龍レヴィアタンと判明しました!」
レーダー係の隣に座る解析担当が声を上げる。
この船にはレーダーがついている。基本的にはソナータイプと言えばいいんだろうか。ただソナーだと超音波を発生させるが大和が発生するのは魔素による共振と言えばいいのか。ある一定の波長の魔素の波を大和から発信してそれを読み取るタイプのレーダーだ。俺のスキル【索敵】を魔法にしてそれを大和に搭載している感じだ。スキルの【索敵】程高性能ではなく地図表示とかは出ないし相手の大きさとか大和からの距離とかが分かるぐらいだ。そこから発見した目標物に向け再度【鑑定】とかのスキルから組み合わせたものを魔法に転化した波を当てて目標物の詳細を確認するようにしている。
「いやがったな・・・。」
ドグマ船長が苦い表情でつぶやく。
「海龍レヴィアタンが本隻に気付いたようでこちらに急速接近してきます!」
レーダー担当が叫ぶ。
だろうな。この船は【天狗の隠れ蓑】で姿が見えないようになってはいるがレーダーなどの装備は少なからず魔素を使っている。高レベルの【気配察知】を持っていればその魔素の動きなどで気付かれるという事だ。特に今回は相手の情報を得る為に更に強い魔素を発する波を出した。相手はSランクの魔獣だから気付くのは当たり前か。
「準備はいいな、野郎共!」
「「「ウーラァ」」」
ドグマ船長が気合を入れた声を上げ、船員達がそれに答える。
「海龍レヴィアタン本隻に20秒後に接触します。」
「防壁は?」
「システムオールグリーン、問題ありません。」
「よし!」
ゴッっと大きな音が響く。ただ大和自体に揺れなどはない。
「右舷後部にレヴィアタン接触。損害なし、防壁で衝撃は全て吸収されました。」
今度は大和の船体のモニターしている船員からの声が上がる。
レヴィアタンが大和の底へ体当たりをかましたが大和が張った防壁によってその衝撃は全て無効化されたという事だ。
「レヴィアタン距離を離しました。距離50。」
「魔素の動きを検知、パターン青。水魔法を行使しようとしています。」
別のレーダー担当している者からの報告が届く。こちらは周囲の魔素自体のモニターをしている。近くに魔素の乱れなどがあればわかる。具体的には魔法や一部のスキルに対しての対抗策だ。普通のレーダーだけだと魔法などは魔法自体が完成してからではないと反応しない。そうなるとこちらの対応も遅れてしまうのでそう言ったレーダーを作ったんだ。
「それに合わせこちらも水魔法での防壁を更に張れ!」
「了解!防水壁起動。」
「水魔法来ます。」
ブリッジのモニターには大和を囲む先の尖った柱が何本も見える。そしてそれが伸びて大和に向かってくる。しかしその柱は大和に届く前に光る膜によって阻まれ四散する。
元々魔法での壁は大和の周りに張り巡らせてはいるがどちらかと言うと物理衝撃などを受け止める様だ。大型モンターの体当たりだったり、岩や氷山などにぶつかった時用。魔法に対しては別途魔法の防御壁を張った方がいい。ここは基本海上なので殆どが水の魔法によるものだと思うが一応全属性壁を張れるようになっている。火を吐くやつとか風で攻撃されるかもしれないし。
「攻撃全て防水壁で防ぎました。」
「よしっ!今度はこっちからだ。右舷スパイクアンカー用意!」
ドグマ船長がそう言うと右舷の壁の一部が左右に開き中から大砲の筒の様なものが顔を出す。
「スパイクアンカー準備完了、いつでもいけます!」
「待て!まだだ、焦んじゃねぇ。」
ドグマ船長はモニターをじっと見つめそう指示をする。
「来た!」
ドグマ船長がそう叫ぶと船から少し離れた海面が盛り上がる。そしてそこから海龍レヴィアタンが姿を現す。
モニターに映る姿は龍と言うよりも巨大な蛇と言う印象。顔は竜の様に角が生えている訳でもなくのっぺりとした印象だ。鱗は黒と緑と言うフォルム的には青龍とかと同じ東洋の龍の様な感じなんだがハッキリ言ってあまり綺麗って感じでもない。まぁモンスターに綺麗さを求めてもしょうがないんだろうけど。
「スパイクアンカー発射!」
ドグマ船長が叫ぶと武装、射撃担当の船員がガンタイプのコントローラーの引き金を引く。その瞬間に右舷にある大砲から大きな釘の様なものがレヴィアタンに向け発射される。発射された釘の様は凄まじいスピードでレヴィアタンに迫り突き刺さる。レヴィアタンの苦痛の鳴き声が響き船内まで聞こえる。
スパイクアンカーは火薬ではなく火魔法の爆発力で発射され、風魔法によって空気抵抗を受けず推進力に変え突き進む。そのスピードは音速並みだろう。そのレヴィアタンに刺さったスパイクアンカーはレヴィアタンの体内で変形し大きく広がる。簡単には抜けない仕様だ。そしてスパイクアンカーの後ろには鎖が繋がっており、それは大和とも繋がっている。
レヴィアタンも魔素の動きを感じとりあえず体当たりをかましたが何も起きず、水魔法を使って様子見をしたんだろう。しかしそれも効果なく自らの目で確認しようと海上に姿を現したという所だ。そこへスパイクアンカーをぶっ刺してやった。スパイクアンカーも水の中にいる敵を狙うことが出来るがどうしても飛ぶスピードは遅くなる。水の中ならレヴィアタンも素早く動けるから避けられる可能性があるからドグマ船長も奴が海上に姿を現せるまで待ったんだろう。
レヴィアタンもこれはまずいと思ったのか頭を垂直落下させ海中に身を潜らせる。スパイクアンカーに繋がる鎖が伸びる、それも下方向にだ。レヴィアタンは鎖で繋がっているのであれば深く潜り大和を海中に引きずり込もうとしているのだろう。
しかしその考えは甘い。大和は水魔法を使いある一定以上は水に沈まない様になっている。いくらレヴィアタンが海中深くに潜ろうがそれに引っ張られて大和が沈むことはない。先に大和が使っている魔法をどうにかしないことには沈む訳はないのだから。
だがこのままレヴィアタンが水中にいるとこちらからも有効打になりそうな攻撃は出来ない。だから。
「トールハンマー発動!」
「了解、トールハンマー発動。」
ドグマ船長の呼びかけでもう一人の武装、射撃担当の船員がスイッチを入れる。その数秒後にスパイクアンカーから伸びた鎖がたるむ。
「よっしゃ引き上げろ。」
ドグマ船長の指示を出しスパイクアンカーの鎖を巻き取り始める。先に繋がれたレヴィアタンが抵抗する様子はないようだ。それもそのはず今レヴィアタンは満足に動けずにいるだろう。
先程ドグマ船長が発動と言っていたトールハンマーとはスパイクアンカーの中に搭載された魔法具だ。その魔法具には俺が新たに開発した雷魔法と言うものが封じ込められている。最初の内俺は雷とか電気とかどうやって作ればいいかわかってなかった、だが今では色々なスキルを使える様になって作ることが出来る様になったんだ。職業スキルとして【学者】も作った。このスキルがあればスキルが勝手に原理、理屈を解析してくれる。この世界には魔素ってものがあるし要は静電気だったりの電気が発生した時に魔素がどういう働きをしているかを確認してそれを再現したリ増幅したりすればよかっただけなんだ。それさえ判明すれば魔法として組上げることが出来簡単に使える様になった。
トールハンマーはそのまま【雷神の槌】という魔法を魔法具に封じたものだ。魔法具を発動するとそこに蓄積された電流が一気に放たれる。スパイクアンカーは体内に突き刺さっている状態なので体の中で一気に電流が放たれ全身を駆け巡るんだ。魔獣であれば即死はしないかもしれないが動けなくはなるだろう。一度使うとまた魔法具を補充しないと使えないのが欠点だが一発で動けなくするには十分だ。
「レヴィアタン海面に到達します。」
「スパイクアンカーを切り離せ。」
ドグマ船長の言葉でスパイクアンカーから伸びる鎖を大和から切り離す。レヴィアタンはもう海面にその体の一部をさらけ出していた。
「続いて氷地獄を狙いを付け発射!」
「了解、発射。命中しました。」
「よし、距離を取りつつ主砲準備。」
武装、射撃担当の船員が新たな武器を使う。氷地獄とは大和から発射される砲弾で目標に当たると【凍てつく棺】が発動して対象物を氷に閉じ込めると言った兵器だ。
レヴィアタンは砲弾が当たった所から凍り付きドンドンと氷の厚みが増していき最終的には全身を分厚い氷の中に閉じ込められる事となった。レヴィアタンも水魔法を使える様だから氷を解かすことが出来るだろうがまだトールハンマーの効果で魔法を行使するまでには回復していないんだろう。氷山の中にレヴィアタンが閉じ込められ海面に浮いている。
「主砲エネルギー充填率80%・・・90、100%、行けます!」
「距離問題なし。」
「よっしゃ、主砲ディストーションカノン発射!」
距離を取り氷山に閉じ込められたレヴィアタンとへと大和の主砲が発射される。
主砲準備とドグマ船長が発してから大和は旋回しつつその船首をレヴィアタンとへと向けた。
船首が左右に開きそこから一本の筒が現れる。大きさは中央マスト位の太さがある。その筒は主砲であり表面などにはびっしりと魔法陣などが描かれていた。
そしてその主砲から光が発射される。白と黒が入り混じった光の線が真っすぐとレヴィアタンへと延びる。その光は氷漬けになったレヴィアタンの真ん中を通過する。光が通過する瞬間にその場所にあったものは消え失せる。氷もレヴィアタンの体もだ。
氷山の真ん中に大きな穴が空き支えられなくなったのかガラガラと氷山が崩れ落ちる。
「やったのか・・・。」
「目標の活動停止を確認。やりましたぜ、船長。」
「あぁ、俺達だけであの海龍をな。」
ドグマ船長がそう声にするとブリッジの中が沸いた。そうこの船だけでSランクの魔獣を倒したんだ。
大和にも色々な武装がある。その中でも一番の威力を誇るのが先程発射した主砲のディストーションカノンだ。簡単に言うと俺の【黄泉の門】直線状に発射している様なものである。【黄泉の門】はその魔法の有効範囲内にあるものを空間ごと削りとるといった魔法だ。俺が普通に魔法として使うと距離や範囲なんかをしていていある一定の空間を削り取るような感じになる。この魔法の凄い所は魔法や物理での防御が出来ない点にあった。空間自体を削り取るので魔素で壁を作ろうが全て範囲内はかき消される。魔法も魔素の動かしてのはずだから防御出来そうなもんなんだけどね。俺の【絶対防御】でも防ぐことが出来ないし。
まぁその凄い魔法なんだけど今回は主砲としてリメイクした。同じ様な効果の魔法は距離や範囲の演算ができず無理だった。俺でも綺麗な球体とかに出来ないし。そこで何とかレーザーみたいに発射出来ないかと色々試行錯誤してたんだけど、光魔法を組み合わせれば出来ることが判明した。闇魔法と光魔法で反発するとかがあるのかもしれないが、光魔法で筒を作りその中を【黄泉の門】が通っていくような感じだ。ホースの中を水が通るみたいな感じだな。
そうすれば指向性のあるレーザーみたいになった。そしてそのレーザーの範囲全てを異次元に斬り飛ばす最強の兵器だ。
いくつかは問題はあるんだけど、まずポンポン気軽に打てない。一度打つのに暫く充填の時間が必要で光と闇の属性の魔石をかなり消費する。一日打てて2回ぐらいだろう。そして射程距離がかなり短い。遠距離から狙い撃つとは無理で500m位しか射程がない。だから相手を拘束して打たないと避けられる可能性がある。その為に氷地獄があるんだが。
発射しながら旋回すれば薙ぎ払いとかは出来るかもしれないけどそこまで時間は持たないだろう。
しかしながら防御不可の一撃必殺の主砲となれば問題ないだろう。主砲って言うのはそうこなくっちゃね。発射されたらかわす以外方法はない。俺は一応ガード出来るんだけどね。昔は出来ないと思ってたが光魔法と闇魔法を合成して作った壁であれば防御できるみたいだから作ってみた。お披露目することはあんまりないだろうけど何があるかわからないから一応ってことだ。
実のところまだまだ大和の武装はあるんだけど使わなくても海龍レヴィアタンを倒すことが出来た。
あっ、そう言えばと思い俺は分身体を作ってレヴィアタンの下へと送る。レヴィアタンの死骸を回収しておかないとな。倒した証拠になるし、何かの素材として使えるかもしれないし。分身体は魚に姿を変えて海に潜っていった。【倉庫持ち】持たせてるからその中に入れておくか。
ブリッジの中はお祭りモードだ。なんかどっかで見た光景だな。あぁ、あれか俺達が迷宮をクリアした時の冒険者ギルドもこんな感じだったかもしれない。
今回は身内だけという感じだし一緒に盛り上がってもいいかな。折角だし宴会でもするか。【倉庫持ち】の中には酒も結構入れてある。パーッと振舞ってしまってもいいだろう。多分これ以降、特にイベントはなくウィクルーアへ行く到着することになるんだろうし、皆とこんな風にして過ごせるのはしばらく先になりそうだしな。
お読み頂きありがとうございます。




