シータとガイ
さてとどうやって時間を潰そうか。
俺はそんなことを思っていた。
トレーラーハウスにいるシータとタタラさんの会話がどれぐらいの時間がかかるかわからない。
生まれて初めて会った親子なんだから積もる話もあるだろうし途中で切るような真似もしたくない。
「どうしようかな~。」
「どうするつもりだ?」
俺が自然と口にしたことにガイから質問が飛んでくる。
「ん~、まぁあんまり離れるのもあれだし、ここら辺で何かする程度かな。」
多分終わったらシータが【念話】で伝えるかトレーラーハウスから出てくるなりするだろうし俺はそう答えた。
「あっ、そう言えば今後の話何もしてなかったね。」
俺は思い出したように言った。
昨日の夜は俺はずっとひたすら天ぷらを揚げまくっていた。皆と話してる余裕もなかった。【料理教室】が幾ら自動でやってくれるというものの、どの素材をどれぐらい使うかとかは俺自身が決めないといけない。そこら辺もオートに出来なくもないけど初めてだったしどうなるか試し試しでやってたからだ。
「でもそれならシータも一緒の時の方がいいか。
いや、もしかしたらもしかするのか・・・。」
「もしかしたら?」
アリアが聞いてくる。アリアも暇なんだろう。
「実際に父親と対面できたからこのままタタラさんと一緒にいるっていう選択肢。」
「それはない。」
俺が言った台詞に食い気味でガイが答えた。
その言葉を聞いた瞬間に俺とアリアは顔を見合わせ、そそくさと離れた場所に行く。
「まぁ聞きましたアリアさん。断言ですわよ、断言。」
「えぇ、しかも食い気味にですわね。」
「そうそう、絶対にシータさんが離れる事がないってわかってらっしゃるみたいですよね。」
「その通りなんじゃありませんか?それだけの自信があるってことですわよ。」
「まぁ羨ましい。自分に惚れてるから離れる訳ないってことですわよね。」
「えぇえぇ、まさにそれ。」
「断言できるって言うのが、これまた。」
「「ねぇ~~っ。」」
俺とアリアでチラチラとガイの方を見てそんな会話をする。
「おいっ。」
ガイから低い声で突っ込みが入る。
「あぁ、怖い怖い。」
「モテる男は愛想がなくても大丈夫だとでも思ってるんでしょうかね。」
「そんな冷たい所も好きとか言われるんでしょ。」
「クールな感じが堪らないってことでしょうね。」
「どうやったらあんな風におモテる様になるんでしょうねぇ。」
「そうですわね、是非ともご教授頂きたいところですわね。」
俺達はまたこそこそとそんな会話を続けた。
「いつまでやるつもりだ?」
ガイが呆れた口調で言ってくる。ちぃっ、ノリが悪い。
「いやいや、ホントの話。ガイがいるからシータはパーティから離脱しないってことじゃないの?」
「そんな訳ないだろう。あいつはお前達の事を家族だと呼んでたんだ。そんなやつが血が繋がっているからて最近知った父親と一緒にいるとは思わんだろ。」
「まぁそうなんだろうけど。シータも一応父親に会いにはるばる来たんだし。」
「亡くなった母親の伝言も伝えられたんだ気は済んだろう。」
「ん~、じゃあタタラさんがシータに一緒にいて欲しいって頼んだりしたら?」
「それは・・。これからウィクルーアに渡ったらシータの協力がいるんだろうが。こっちとしても一緒に来てもらわないと困るだろうが。」
「そうだけど。それだけ~?ガイが個人的に一緒に来て欲しいってことじゃないの~?」
「はぁ!?何でそうなる?」
「えぇ、じゃあガイは一緒に来て貰わなくてもいいの?」
「誰もそんな事言ってないだろ。」
「ガイもシータには一緒にいて欲しいんでしょ?」
「何故俺がそんなこと答えないといけないんだ、行く行かない、それはあいつが決める事だろ。ただあいつだったら絶対に一緒に行く、って言うに決まってるんだ。」
う~む、はっきりとは言わないんだけど耳まで真っ赤なんだけどな、ガイ。
でもそれを指摘するとそろそろ本気で怒られそうだから止めておこう。
なんか青春って感じだよな~。いいな~、俺もそう言うのしたいな~。
そんなこと考えながらブランの顔を見るがキョトンとした顔で見返された。そうなるよな。
「なんにせよこの面子でウィクルーアに渡るのは確定だろうが。だったら決まったことをシータに伝えればいいだろう。あいつもそれに文句は言わないだろう。」
なんだかんだでガイもシータの事を良く分かっているというか信用しているというか。お似合いだと思うしね、応援はするんだけどな。またこれでからかうとヤバそうだからやめとこう。そろそろガイが本気出したら俺なんて簡単に倒せるんじゃないかと思う。
「じゃあ、ちょっとまともな話をしようか。
とりあえず船は出来て俺の【倉庫持ち】に入っている。
ただ後船員とか揃える必要があるかな。一応自動でも進んだりできるんだけど向こうについてから港に置いておかないといけないだろうから、その置いている間の管理をしてくれる為にも必要かな。
また俺の【倉庫持ち】に戻すという選択肢もあるけど極力したくないかな。港の方も困るだろうし。停船して貰ってるから稼げるところもあるだろうし。
後シロウさんの話でもあったけどどうせなら商業ギルドの方で船舶登録して、タイタン商会から誰か連れて来て向こうで仕入れや商売をしてもいいかなって思う。タイタン商会もそれで更に売り上げが上がったりするかもしれないし。船がウィクルーアでの拠点になるだろうから。
だから船員の確保とタイタン商会へ報告と人員の確保をしようかなっと思う。
船員はタタラさんの知り合いの線から当たろうと思う、その前後で一回エデバラに行こうかなと思ってる。
そこは皆全員でもいいんだけどね。
先だっての予定はそう言うとこかな。」
「なるほどな。」
ガイが答えた。ブランやアリアも何も言わない所を見るとこの案で問題ないと思ってるんだろう。
「主。」
そんな話をしていたらシータから【念話】で話しかけられた。
「あれ?どうしたの?もう話は終わったの?」
「はい。」
「もっとゆっくりでもいいんだよ。つもる話もあるだろうし。」
「いえ、母の事を少し話しただけです。なんと言いますか、どういう話をすればいいのかわからないもので。父の方もその様です。」
「あぁ、まぁタタラさんも饒舌って感じでもないからね。じゃあそっちに戻ることにするよ。」
俺はそう【念話】でシータに告げた。
「話が済んだみたいだから戻ろうか。」
俺はガイ達にそう声を掛けた。
そして俺達はトレーラハウスの中に戻った。
そこにはなんだか照れ臭そうにしているシータとタタラさんがいた。
「もういいんですか?」
俺はソファに座りながら2人に聞いた。
「まぁな。こういった場合にどういう話をするのが正解なのかもわからない。」
タタラさんが答えてくれた。
「それに関しては俺達にもわかりませんが、お2人がそれでいいというのであれば問題ないです。」
「それよりも今後の事だ。」
タタラさんが急に話題を変えた。とりあえず別の話でもして落ち着きたいんだろうか。
「はい、そうですね。」
俺はその話に乗る。このまま多分2人に会話の主導権を任せてもずっと照れた感じで進まないだろうし。時間が解決することもあるだろう。
「ウィクルーアに渡るのだな?」
「はい、魔王討伐の為エルフの協力は不可欠でしょうし。交渉をしに行かなければいけません。
それ以外にも獣人族なんかにも交渉できるのであればしたいですし。」
「そこまでの事なんだな?確かに魔王を倒すとなるとそう言った話になるのも頷けるが。
ただエルフが本当に協力するのだろうか?」
「それは、して貰わなくては困るという所ですね。今回の魔王はかなりの力を持っていて到底人族だけでは相手するのは難しいでしょう。」
「神から何か言われているのか?」
「えぇ、そうですね。レスティアや別の神からもそう伝えられました。」
「そうか・・・。」
タタラさんが何を考えているの少しわかる気がする。
俺達がこのままウィクルーアに渡りエルフに協力を得ることになった場合、シータがどうなるかだろう。
ハーフエルフであるシータがエルフの里に行けばどんな目に合うかを危惧してるんだろう。
エルフは純血を重んじて人族との間に生まれたハーフエルフはその存在自体が禁忌にも近い。
イオタさんも身籠っただけで里から追放されたみたいだし、シータがエルフの里にいけばどうなるか何となく想像がつく。
しかし俺は何とかなるんじゃないかと思っている。
それはアリアの天啓だ。
そもそもシータが俺達の仲間になったのはアリアの天啓のお陰だ。
そしてその仲間にするべきだという話になったのはエルフの里に行くことに関して有利になるからだと俺は思っている。
シータをエルフの里に連れて行ったお陰で協力を得ることが出来る様になる。
俺達的にはそれが一番ベストなんだけど、わだかまりが解けてとか。
ただもしかするとエルフの里への道案内の為にシータが必要だったという事で、その後はやっぱりエルフにはシータの存在が認められないという事態になるかも知れない。
しかしアリアの天啓は、見た天啓通りに事が進めばそれが一番いい状態ってはずだからシータが問題でエルフの協力を得ることが出来ないってことはないだろう。エルフの協力が得れないなんて一番いい状態とは思わない。俺達がシータに道案内だけさせて後は知りませんなんてことはしないだろうし。
だから俺はシータがエルフの里に行くのは問題ないことだとは思ってる。
だがそれをタタラさんに説明する訳にもいかない。アリアの天啓でとかも言えないしな。
「タタラさんが危惧していることは何となくですがわかっているつもりです。
ただそうなった場合俺達はシータをとります。」
俺はタタラさんを真っすぐ見据えてそう告げた。
「そうか。ありがとう。」
タタラさんが俺にお礼を述べた。
「大丈夫だ。こいつには俺達がついている。これからもな。」
そう言ったのはガイだった。タタラさんに少しでも安心してもらおうという気持ちで言ったんだろう。
「こいつだと・・・?」
それを聞いたタタラさんの目に剣呑な光が宿った。
「うちの娘をこいつ扱いだとはどう言った関係なのだ?」
「関係と言われても同じパーティーの仲間ってことだが。」
「ほ~っ、本当にそれだけか?前の依頼の時にも思ったが他の奴らよりも距離が近いのではないか?距離が。」
「気のせいだろう。」
「気のせいか・・・、シータはどうなのだ?この男はこいつが言った様にただの仲間なのか?」
「えっと、それは・・・。」
話を振られたシータが少し俯き顔を赤らめた。あ~あ。
「どういうことだ?貴様うちの娘に何をした!?どう誑かした!」
「何もしてない。」
「年端もいかないうちの娘が関係を聞かれただけで顔を赤らめたのだぞ。何もないとは到底思えんぞ!」
「そんなの知る訳ないだろう。」
タタラさんがカッと目を見開いてガイに詰め寄る。
ガイも挙動不審だな。ホントに何もしてないんだろうけどこういうことに慣れてないだろうし。
こういう時は動じず冷静に答えた方がいいと思うんだけど。
当事者でない俺達が口を挟むと更に被害が大きくなりそうだし、こっちにまで食って掛かってきそうだからほっておこうか。
ふとアリアの方を見ると先程食事後に出したお茶をすすっていた。関わり合いにならないって姿勢だな。ブランの方を見るとブランも【倉庫持ち】から魔法具を出していじっていたりする。うむ、2人共なかなかのスルースキルだ。
よし俺も見習おうと思って俺も【倉庫持ち】から何か飲み物を出して遠い目をして飲んでいようとした。
「おい、お前も何か言ってくれ。」
そう言ってきたのはガイだった。
はっ?巻き込んできた!?何か言ってくれと言われてもこんな時になんて言うのが正解なんだよ。こんんな現場に遭遇したことなんてないし。
なぜかタタラさんも俺の方を見ているし。そこら辺は当事者同士で解決して欲しいもんだ。
いっそあれか。大丈夫です、ガイは俺と相思相愛ですからと言うのが正解か?
絶対に不穏な空気にしかならないので止めておこう。
いや~、マジにどう言えと。もうしょうがないな。
「ガイとは一緒に旅をしてきている仲間ですが、年端もいかない女の子に何かするような奴ではないですよ。」
と俺は当たり障りのないこれぞ正解だろうと思う言葉を口にした。
「本当だろうな?」
タタラさんが鋭い目をして聞いてきた。
「本当かどうかはわかりませんが、俺はそう信じています。
タタラさんもご自身の娘さんを信じてみては?」
「イオタの子だからな・・・。」
あ~っ、そう言えばイオタさんは助けてもらったお礼としてタタラさんと・・・。
そう言えばシータも初めてあった時助けてもらったお礼を体でとか言ってたような気も。
「タタラさんの子でもあるという事ですよ。ご自分の娘さんを信じてあげて下さい。」
「うむっ・・・。」
ここら辺が落としどころだろう。こう言っておけばタタラさんが何か言えばシータの事を信じてないって言っている様なものだからこれ以上は言えないだろう。若干卑怯な気もするけど結局はガイとシータの問題であって親であってもタタラさんが踏み込むことじゃないと思う。
まぁ長年離れ離れになった親子が再会したら子供の事を心配するのは当然なのかも。
親バカって感じだな。
正直そういう感じは俺も子供がいないしわからない。
将来的にも子を持つってこともないだろうし、想像でしかないけど。
タタラさんも心配して言ってる事だからあなたには関係ないことでは?とは言えない。
ただ流石にフォローを入れといた方がいいだろう。
「そうです。ガイとはそう言った関係ではありません。」
シータがそう言った。俺が【念話】でシータにそう言う様に促した。シータの言う事であればタタラさんも納得するだろうし。
「まだ・・・。」
「まだ?」
その後シータが一言付けたした。それに過敏に反応するタタラさん。
あ~っ、また余計な一言が飛んだな。
「まだとはどういうことだ?これから予定があるみたいではないか!?」
「何故俺に言う?俺が言った訳じゃないだろう。」
タタラさんがガイに食って掛かる。
これはまだしばらく続きそうだ。いつになったら今後の話が出来る様になるんだろうか。
お読みいただきありがとうございます。




