Sランクの意味
「ではリーダーのダイゴ殿、そしてパーティーメンバー4名もSランク冒険者として昇格を認め、Sランクギルドカードを授与します。」
そう言ってシロウさんが俺に新しいギルドカードを両手で差し出した。
俺はそれを卒業証書を受け取る時の様に一礼し頭を下げたまま両手で受け取った。
俺達がいるのはギルド本部にある部屋だ。
調度品はほとんどなくどことなく礼拝堂と言うか謁見の間と言うかそんな感じの部屋だった。
綺麗な絨毯が敷かれているが王座や長椅子なんて物はない。式典用の部屋ってところだろうか。
そうはいっても冒険者ギルド。こういう所もあまり使う事はないんじゃないかと思う。
昨日シロウさんに今日になってからギルド本部へ来て欲しいと言われてきてみたらここへ通された訳だ。そこからSランクギルドカードの授与式としてこうして欲しいと告げられた。そこはまぁこちらとしても不満はないので言われた通りに整列して、俺が代表してSランクのギルドカードを受け取った。
今まで使っていたギルドカードは全員分返却した。Sランクのギルドカードは今までのカードとは違っていると聞いた。
そうして実際に貰ったカードを見てもその違いは一目瞭然だ
カード自体が金色だった。
裏面を見るがスキルに関しての項目はなかった。防犯上と言うか他の人にもし見られてもどんなスキルを持ってるかバレない様にかも知れない。
Sランクの冒険者となるとそこそこの有名人になる。
俺はてっきりこうした授与式があるって言うのなら一般人に公表して大々的にやったり、見物人とかが見にきたりするのかと思っていた。
そこまでの事をされても困るんだけど。あんまり顔を売りたい訳でもないし。
ただそれぞれの冒険者ギルドには通達がされてるみたいだけどな。そう言えばギルドカードを登録する魔法具みたいなもので色々と情報のやり取りとか出来るみたいだ。
パーティ名や名前は出回ってしまうんだろう。
ってことはグランドの国の冒険者ギルドにも情報が流れるか。
それでもしかすれば国王とかも気付いたりするかもしれないが・・・。今更の話しか。
今更あそこの国に知れたところでどうのこうの出来る訳でもないしな。今や俺はSランクの冒険者になったんだし、あの国に属してる訳でもない。
あの国王だったらこの世界に呼んでやったからその地位につけたんだとか言いそうだけど、どうでもいい。
「これで授与式は終わりです。別室で書類を書いて貰ったり説明があるので移動して貰ってもよろしいですか?」
シロウさんが俺達に対してそう言った。
一応そう言うのがあるんだな。Sランクになってからの話もバロンさんとかから詳しく聞いた訳でもないしちゃんと聞いておいた方がいいだろう。
「わかりました。」
俺はそう返事をした。
そして俺達はシロウさんと一緒に別室へと移動した。
移動した先は初めてこのギルド本部に来た時に通された部屋だった。
ここで問題ないっちゃ問題ないんだが他の部屋ってないのかな。
「では、まずこちらの書類に目を通して下さい。」
席に着いた俺達にシロウさんがA4サイズの用紙を渡してきた。
渡された書類に目を通すと少し馴染み深い様式だった。
恐らく元いた世界の書類とかを基にしてシロウさんが作ったんだろう。文章の書き方が分かりやすい。要点を抑えていて、それでいて難しい表現は使っていない。学校で配られるプリントみたいな感じがした。
「書いている内容は大まかに言うとSランクの冒険者としての注意点の様な事でしょうか。」
シロウさんが書類に目を通している俺達に声を掛けた。
俺は目線を上げシロウさんの顔を見る。読みやすい文章だったしもう全て頭に入っている。
「Sランクの冒険者はギルドからの依頼を受けなくてもギルドカードが失効することはありません。
ランクの降格もありません。Aランクになったりという事がないんですが、犯罪を犯せばギルドカード自体の剥奪があります。
ただその点である程度の裁量が与えられています。
理屈まではわかりませんが、もし人を殺めてしまっても殺人をしたような称号が付かないんです。」
シロウさんがそう説明する。
ん?と思い俺は自分のステータスを確認する。すると称号の欄にSランク冒険者の称号が追加されていた。
Sランク冒険者としての称号を得たことによって何らかの特殊な効果を得たってことかな。
称号には隠れたスキルっぽいのが着く事もあるし。
「しかしながら殺人を望んで行っていけば殺人者の様な称号が付きSランク冒険者の称号はなくなります。
恐らくなんですがこの世界では冒険者が犯罪者を捕まえたり、断罪したリすることがあるからだと考えられます。」
なるほど。
この世界には警察なんてものはない。裁判なんてものも行われることはほぼない。
人が人を殺そうとしている現場でそれを防ぐ為に殺してしまっても仕方がないとでもなっているのか。
そこら辺は誰が決めているのかもわからない。そもそもこの世界の罪って言うのもどこまでがどうって言う線引きがあるのかも怪しい。
人の物を盗めば窃盗になるが、行き倒れやモンスターに襲われた人の物を頂いても元の世界なら拾得物を横領したってことになるんだろうがこの世界では問題ない。
Sランクの冒険者になればそこら辺基準がもっと甘くなるって感じなんだろう。
こちらとしてもわざわざ犯罪に手を染めようなんて思ったりしない。
だからその点は俺達にとってはどうでもいいことだ。しかしギルドからの依頼を受けなくてもギルドカードが失効しないのはありがたい。これから別の大陸へ一体することもあるんだから簡単にギルドからの依頼も受けることは出来ない。そう言った点で考えると別の大陸へ行く冒険者はSランクが多いんだろう。制限でも設けてるんだろうか?Sランクとかにならないと別の大陸へ行くほどの力量はないぞとか。考えすぎか。
「あなた方がそう言った行為をされるとは思ってはいませんが、説明させて頂きました。」
シロウさんが若干申し訳なさそうにそう言った。
シロウさんも俺達の正体と言うか俺が勇者であることに気付いている。
勇者と言う人物が好き好んで犯罪を犯すとは思ってないんだろう。実際の勇者がなんであるか知った後ではそれも勝手な妄想だってことだがな。
俺達勇者3人は特にこの世界での制約ってもんがないんだから。恐らく犯罪に手を染めようが他の人と同じ様なお咎めを受けるだけだろう。そう言う点では一般人と何にも変わりがないんだから。
「後はSランクでしか受けられない依頼についてなんですが・・・。」
シロウさんが言葉を続ける。
「Sランクの冒険者の方への特別な依頼と言うものが存在します。
簡単な例えであればSランクの魔獣の討伐などになります。
しかしそれも必ずしも受けて貰わないといけないという事ではありません。
その点は他の冒険者と同じで自分達の力量や相性などを判断して貰わないといけませんし。
敵わない魔獣の討伐を無理やり受けろとは申し上げません。
ただ出来る限り可能な限りで受けて頂きたいとは思ってます。
もしくは受けざる得ないという状況になる可能性も今後出てくるとは思います。」
「それはどう言ったことでしょう?」
シロウさんに俺が聞き返す。
「どうやっても今後Sランクの冒険者ともなれば有名になっていくという事です。
有名になれば有力者や権力者に仕事を依頼されれば断りにくくなる。その後の事を考えると仕事を受けなかった時のデメリットが大きくなりますからね。
Aランク以下の仕事の依頼であれば他の者でも受けれたりするので問題ないでしょうが、Sランクともなると受けることが出来る冒険者など限られています。
断れば心証が悪くなるのは当然。その後の評判に繋がりますから。
評判を気にしないという事であっても有名人ともなれば至る所にその情報が流れれば不都合も出てくるでしょう。
Sランクになるという事はそう言ったこととも向き合っていかなければいけなくなるという事です。
ただし、それなりのメリットもあります。
Sランクの冒険者になればいて貰えただけで安心できるという事で色々な国で優遇されるでしょう。
Sランクの冒険者と言うだけで尊敬の念を得られたり、信用されたりという事もあるでしょう。
確かこの後はウィクルーアへ渡られるんでしたよね?」
「えぇ、そのつもりです。」
「でしたら向こうの大陸へ渡り、船を港に停船する時にかかる諸費用も無料になる筈です。」
「そうなんですね。」
「その裏にはもし何か困ったことがあれば手を貸して欲しいという含みがあるでしょうが。」
「なるほど。」
「そうなると依頼を断るのも難しいでしょう?手を貸すくらいならお金を払うというのも印象が良くないでしょうし。」
「そうですね。そこら辺は上手くやっていくってことしかないですよね。」
「えぇ、そこもSランクの冒険者の力量という事でしょうかね。」
有名になるって大変なんだな。
しかしいつまでもこそこそ隠れて活動していく訳にもいかない訳だし。
勇者とSランク冒険者の肩書どっちで活動するってことになればまだSランク冒険者の方がいいだろう。勇者だと公表すると魔族を呼び込む恐れもあるし。
「説明はそのぐらいでしょうか。
Aランク以下との差と言えばその程度ぐらいでしょう。基本的な事は変わりませんので。」
シロウさんの言葉に頷いて返す。
まぁそうだろうな。俺達もとりあえずウィクルーアに行く為にSランクの冒険者になっただけと言えば間違いではない。ギルドカードの期限がなくなって、信用される立場を手に入れる。それぐらいがSランク冒険者になるって意味だったんだから。
おまけでやっても怒られない範囲が広がったぐらいか。
ただ有名になるって言うデメリットも増えたみたいだけど。
俺達にそれぐらいの目的しかないのだから説明を受けなくても良かったのかもしれないが、知っておいて損はないだろう。今後俺達にその情報を教えてくれる人はいないだろうし。
これから俺達はSランク冒険者として行動する。今までと違いはない気もするが。他の冒険者ってSランクになったらこれやろうとか考えてるんだろうか。
タタラさんはSランクになってやろうとしていたことがあったのか。ウィクルーアに渡るという目的の為にSランクになったとか。聞いてもてもいいかな、この後も話するだろうし。
「皆さんはこの後はどうされるおつもりですか?
ウィクルーアに向かうという事はわかっていますが。」
シロウさんが聞いてくる。俺達の動向が気になるんだろうか。
「えっと一応船に乗れるというか船員と言うか、そういう人をまず探そうかと。」
「それは・・・、船はご自身で用意すると?」
「はい、もう出来上がってます。私の【倉庫持ち】の中に入ってます。」
「そう、なのですね。」
シロウさんが驚いた顔でタタラさんと見合わせる。
「そんなに驚く事ではないのかもしれませんが・・・。私の常識の中ではなかったもので。
でしたらその件はタタラに相談されるのが良いでしょう。
顔見知りや知り合いにいるはずです。」
「えぇ、まぁ。」
シロウさんに声を掛けられてタタラさんが少し困った顔をして答えた。
ん~、どういう感じだろうか。知り合いにいるにはいるが紹介したくない系かな。俺達も色々と訳の分からない存在だろうしな。説明したりするのが面倒だったりとか。
まぁでも他に伝手もないし頼らせてもらう気満々だけど。
「ただ船の件に関しては冒険者ギルドに登録が必要になると思いますので、その手続きはお願いします。
いや、もしかして商業ギルドに入ってらっしゃったりしますか?」
「はい、一応商会を持ってるので。」
「はっ?商会をお持ちなんですか?」
「そうですね、流れ的になんかそうなったって感じですが。
一応代表ってことにはなっています。『タイタン商会」と言う商会なんですが。」
「『タイタン商会』!?最近出来た商会で凄まじく勢いがある商会ですよね?」
「そうなんですかね。経営は他の人に任せっきりなんで良くわからないんですが。」
「えぇ。護衛を冒険者に頼まずに行商を行う、そしてその扱う商品は今までの商品とは一線を画すものばかりだと。」
「あぁ、そうか。冒険者が護衛の仕事が少なくなった、なんかの情報は冒険者ギルドに入りますもんね。」
「いえ、それだけではないんですが・・・。」
「それで商業ギルドに入っていると何か?」
「あぁすいません。基本的に船舶の登録は冒険者ギルドか商業ギルドのどちらかになるんです。
貴族や国が持っている以外の船ってことですが。
その為どちらかの登録が必要になるんです。
船員を登録して帰船しない場合の対応や港の使用の際に受付を簡単にするなど。後は税ですね。港の維持などに使われるお金になるんですがそれをどちらで納めるかという事です。
商業ギルドなどは物品で納める方法もあります。冒険者ギルドはお金ではなく依頼をこなすという事でも可能です。冒険者ギルドが依頼を受ける代わりに港へ支払うという事です。
ダイゴさんの都合のいい方で登録されればよろしいかと思います。
ただ冒険者ギルドでの税の金額や登録方法についてはこちらで説明できますが、商業ギルドでの登録方法や詳しい内容はそちらで確認して下さい。
先程も申しましたが差としては何で税を納めるか、後は目的でしょうか。
冒険者ギルドで登録すればその地への冒険を意味し、商業ギルドであればその地で商売をする為に行くと周りは認識するので人を集める時など雇い易くなったり、変わってくると思いますが。
冒険者で冒険に行くと言っても人は集まらない可能性もあります、危険な所へ連れて行かれる可能性があると感じるかもしれませんし。ただ逆に商売で行くとなるとどれぐらいの護衛があるかわからないから人が集まらない可能性もあります。船旅は危険が多いですから。
ダイゴさんの所はSランク冒険者が人を集めるのであればさほどの差ではないとは思われますが。」
「なるほど。船員の人は港に残ることになるでしょうし、その間の事なんかもありますよね。」
「はい。『タイタン商会』さんであれば向こうでも商売が成り立つんじゃないでしょうか。」
そうか、そういう手もあったのか。
タイタン商会の人間を何人か連れて行って向こうで商売をする。もしくは向こうの大陸にしかない様なものを持ち変えって売ってもいいかもしれない。植物や動物も違うだろうし、俺が見ればまた別の何かを作り出せたりするかもしれない。『タイタン商会』にはプラスになるか。
誰か連れて行こうか。キースは無理だろうが、弟子がそろそろ育ってる頃だろうから誰かはいけるだろう。一度エデバラに戻ってみることにするか。
「わかりました。こちらで検討してみます。もし冒険者ギルドで登録する時はまた伺いますね。」
「はい、その他わからないことがあればまた訪ねて下さい。暫くはこちらにいらっしゃるんでしょう?」
「そうですね。船員を集めたり、登録なんかもありますし。」
「ではまた何かあれば。
ご武運を。」
シロウさんが立ち上がって右手を俺に差し出した。
俺も立ち上がりシロウさんの手を握り握手を交わした。
「可能であれば向こうの話を聞かせて下さい。」
シロウさんはそう言って笑った。
そっか、俺が勇者で別世界の人間であることを確認したんだから、元の世界の話をしたいのか。
「はい、またゆっくりお話ししましょう。」
俺もそう言って笑った。
お読みいただきありがとうございます。




