忍び寄る影
「えっと、それとこちらの方はタタラさんと仰って俺達のお目付け役と言うか・・・。
元Sランクの冒険者で俺達がSランクの冒険者になる為の試験を監督している方です。」
俺はそう言ってタタラさんをマイヤーさんに紹介した。
すでに仲間達は一通り紹介している。俺に紹介されたタタラさんはマイヤーさんに軽く頭を下げた。
「お目付け役・・・?監督、でしょうか。」
マイヤーさんが俺の言葉で気になったことを聞いてきた。
「えぇ、今回俺達はSランクの冒険者に上がる為この村に来ました。今回の依頼を無事達成出来ればSランクの冒険者になれるんです。だからまだ俺達ってBランクの冒険者なんです。」
「Bランク・・・。」
「あぁ、心配されるのも無理ないと思いますが一応Sランクになろうとしているのでそれなりの実力はあるとは思っているのですが。」
「失礼しました。」
露骨にがっかりした表情で言ったマイヤーさんにそう説明する。まぁこんな説明もしなくていいんだろうけど。
「それでさっそくなんですがその異変のあった山に向かおうと思ってます。どっちの方角ですか?」
「えっ?もうですか?ここまで来るのにお疲れの事でしょう。暫く村で休んで行かれては?」
「いえ、しっかりと英気も養ってから来たので問題ありません。」
「いや、しかし。」
そう言ってマイヤーさんは表情を曇らせる。そして俺の後ろにいるタタラさんも同様に。
タタラさんにはさっきこの村に着いてからの事は言ってある。しかしそれだと情報を集めてから探索に向かうと言っていた。今俺は言ってたこととは違い、情報も得ずにその異変のあった山に向かおうとしているんだ。おかしなことを言っていると思ってるんだろう。
ただ仲間達はどこ吹く風で俺の言ったことに対して何の不満や不信感もないような素振りだ。
ありがたいことに俺のやることを信じてくれてるんだろう。
今までも何かしら言ってたことと別の事をするって言う時にはちゃんと考えがあっての事だという事が分かって貰えてるんだろう。
「マイヤーさんも早急に今回の一件の解決を望んでいらっしゃることでしょうし、すぐに行動しようと思っています。
ただ今回はざっと辺りを探索してみてと言った感じでしょうか。そう時間を掛けずにこの村に戻ってくると思います。その時にはお世話になろうとは思っていますがよろしですか?」
「えぇ、是非に。私の家にお越しください。大したものはご用意できませんが問題の解決に当たって下さる皆様には出来る限りのおもてなしをさせて頂きます。」
「ありがとうございます。ではさっそく行ってまいります。どちらの方向ですか?」
「えぇっと。あちらに大きな山が見えていると思いますが、あの山です。」
「なるほど。じゃあ行くとするか。」
マイヤーさんに山の方向を聞き、俺は仲間達に声を掛ける。とりあえずさっさと移動したいところだ。
「軽く探索をしてくるだけなのですぐに戻ってくると思いますのでまた後程マイヤーさんのお家にでも伺いますね。」
「そうですか、私の家は村の中心にありますので直ぐに分かると思います。」
「わかりました。ではまた。」
俺は去り際にマイヤーさんにそう笑顔を向けて伝えた。そして先行する仲間の所へ速足で近づき合流してから村から山の方へ向かう。
村から出ても俺達は無言のまま進む。
さてどうしようか。
俺は歩きながら考える。今回の事は予想していた範疇から飛び出てる。ふ~む。
そんなことを考えて歩き、村からもある程度離れたところまでやってきた。
ここら辺でいいか。俺はそう思い立ち止まる。それを見た皆もそこで立ち止まった。
そして俺はある魔法を詠唱する。
「【秘密基地】」
俺が魔法を唱えると俺を中心として5m位の光る円が地面に走る。そしてキンッと甲高い音を出した後光る円の光量が落ち着く。
完成した。
【秘密基地】は昔よく使っていた【退魔陣】や【目隠し】を組み合わせてい更に発展させたオリジナルの魔法だ。
この光る円内の光景、音や気配なんかは円の外側からは知覚することが出来ない。この光る円内の中で起こったことが外では何もわからないってことだ。今の光景を見ている者がいたとすれば光る円が出来て俺達の姿が一瞬で消えたように見えただろう。しかし【気配察知】近くに誰もいないってことはわかってる。近くには誰もいないだろうが念の為にこの魔法を使った。
この空間にいる限り色々と内密な話も出来るというもんだ。
【目隠し】とかだけでもいい気がするがこれには一応他の機能もついているし。それはいいとして何故この魔法を使ったかと言う話だ。秘密裏に色々と進めたい。
「さてとこれでゆっくりと話が出来るかな。」
「どういうことか説明をして貰おうか。」
俺の言葉にタタラさんがそう続ける。
そりゃそうだろうな。言ってたことと全然違う事態になってるんだし。しかし村では何も言わなかったのは空気を読んでくれたってことだろう。
ここに来る前に俺も何をどう話すのかは腹を決めている。
「はい。俺の予想なんですが、今回受けた依頼の真相が分かったという事なんです。」
「なんだと?」
「あくまで予想という事なんですが9割方はあっていると思います。」
「とりあえず話を聞こうではないか。」
「えぇ。まずはタタラさんは魔人と言う存在はご存知ですか?」
「まさか!?」
俺の言葉に驚きの声を上げたのはアリアだった。
「あっ、失礼しました。」
アリアが気まずそうにそう言って黙る。アリア達には先に【念話】で伝えておいても良かったんだけどタタラさんに説明する時にも聞かされるから、もう一緒でいいかと思って言ってなかったのだから仕方がない。
「魔人だと?それは一体?聞いたこともないが。」
アリアの方から俺に目線を戻しタタラさんが言った。
「そうですか。俺もあることで出会ったことがあるんですが人でもなく、魔族でもないその中間の存在と言えばいいんでしょうか。」
「それがどうしたというんだ?」
「あの村の村人全てがその魔人だという事なんです。」
「なんだと!?」
タタラさんが流石に驚いて言った。
「あの村の村人たちは普通の人に見えましたが全員魔人と言う種族でした。人ではない者の村ってことです。」
そう、あの村は魔人の村だった。
最初ブランが気付いた。ブランは【鑑定眼】を持っている。基本的に常時人のステータスが見えているという事だ。俺自身も【鑑定眼】は使えるがオンにしたりオフにしたりと言う使い方をしている。なかなか全部の物や人の詳細が見えるってのも疲れるんだ。そこら辺も細かく意識して見る見ないとか選べそうだけどオンオフとした方が楽だから俺はそうしている。そもそも俺とブランの見え方も違うのかもしれないけど。
そして村についてブランがおかしな表情をした時も【鑑定眼】で何かを悟ったんだろうなって言う事はすぐに分かった。他の事だったらガイやシータも気付くかもしれないだろうし。もしかして気配とかで気付いていたかもしてないけど。
俺もその時点で【鑑定眼】を使ってマイヤーさんを確認した。すると種族の欄に魔人とあった。スキルに関しても常人とはかけ離れたスキルを持っていた。
以前にあった元ディーンとはスキルの構成が違っていた。別の種類の魔人ってことになるのかもしれないが。そもそも魔人って何かがよくわかっていないので何とも言えない。
とりあえず魔人が村長をやっている。その時点できな臭い。とりあえずどうなっているか確認が必要だし、距離を置いた方がいいだろうと思いそそくさと村から離れることにしたんだ。
村から離れる間に俺は【分身体】を幾つか作った。全て【鳥獣戯画】で小さなネズミにして村に放った。そして全部の分身体に【鑑定眼】を持たせ村人たちを確認した。【索敵】で確認してもいいが魔素を使ってるから相手に気付かれる可能性もあったのでやめておいた。分身体には他にも【隠匿】などのスキルを付けているから見つかることはないだろう。そして思った通りと言うかなんというか、確認した村人全てが魔人だったという事だ。
魔人の村。
元々魔人と言う種族がいてそれが集まって形成した村。
もしくは元々は人の住まう村だったか何かの理由で魔人が住む、いや魔人になった者達が住む村になった。そのどちらかだろうと俺は考え付いた。
ただそのどちらかだとしても今回の事件の真相としては思い付くのは1つしかない。
そこそこの腕を持った冒険者がその村の依頼を受けて誰一人として帰ってこないんだ。どう考えても魔人の村に行ったのならその村そのもので何かあったと考えるのが妥当だ。
そして俺はディーンと言う元が人だった者が魔人に変化した事実を知っている。
となれば恐らくこの村も元々人の村だったが途中から魔人の村に変わったという可能性の方が高い。
その村がわざわざ冒険者ギルドに異変調査の依頼をする。人よりもずっと力のある種族の者がそんな依頼をわざわざするだなんて恐らく・・・。
元いた世界でもアニメや漫画でもよくあった設定、場面って言ったところか。
「魔人が冒険者に何かしら依頼する、そしてその冒険者が誰一人帰ってこない。状況から考えてその冒険者達はあの村で何かあったと思うのが自然だと思います。」
「いや、それにしても魔人と言うのはなんのだ?それに本当に魔人だったのか?普通の人間にしか思わなかったが。」
タタラさんが不審な表情をして言った。そりゃそうだろう。俺でもいきなりそんな事言われて信じるかどうか。ただ証明するのは難しいんだよな。だからどう説明しようかここに来るまでに考えていたんだけど、大していい案は思い浮かばなかった。だから単刀直入に言ってみることにした。下手に嘘つく訳にもいかないだろうし。
「それは俺にも詳しくはわかりません。それにあの村人達が全員魔人だって言うのも証明することは難しいですね。俺とブランは【鑑定眼】のスキルを持っているのでステータスを見て分かったとしか答えられないです。俺言葉を信じて貰うしかないですね。
一応そう言う事だったので急ぎあの村を離れた方がいいだろうと思ってここまで来ました。
そしてこの魔法の範囲内であればこの話も他に聞こえることはないので今話してるんです。」
「う~むっ」
タタラさんが腕を組み。悩む。
「信じる信じないはタタラさんにお任せしますが俺達はその様に今後動きます。」
「その様に?」
「えぇ、今回の事件はあの村が原因であると。
恐らく冒険者達をさらうか、殺していると思います。」
俺はそう言うが心の中では別の考えを持っている。こういう場合のお決まりなんじゃないかと。
「そんなことが・・・。」
「まぁ俺の予想であって外れている可能性もありますよ。
実はその魔人って種族でも敵わないモンスターでも沸いて来て、それを人間の冒険者に倒させようとしているとか。
ただその場合だと誰一人帰ってこないというのがおかしいんです。
それだと困難なモンスターの討伐と一緒でしょう。油断しない様にしている冒険者が1人も帰ってこないのはおかしいはずです。
帰ってこないのは不意を突かれて全滅した可能性が高いでしょう。
薬でも盛られたか、それとも何らかのスキルか。それはわかりませんが恐らくそういう事だと思います。
俺の中での一番可能性が高いと言う予想なんですがね。
この話も証明も出来ないであろう、あの村全員が魔人と言う人とは違う種族だという事が前提なんですけどね。
だからタタラさんには信じられない話なのかもしれませんがね。」
「その、お前が言った予想がどうあれお前達はそうだと思って行動するんだろう?
具体的にはどうするつもりだ?」
もしかして何を馬鹿な事を、と一蹴されるかもしれないと思っていたが割と柔軟なんだな。
それなりに信用を得ていると考えていいのか。
それとも俺がどうするかを聞いてから考えるのか。
「俺も証拠もなしに種族が魔人であるというだけで今回の事件の犯人だとは決めつけたりしませんよ。
ここはやっぱり泳がせて尻尾を掴むって感じでしょうか。」
俺はそう言って今後の予定についてタタラさんに説明をした。
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