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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【新大陸へ】
208/237

釣り

「えっと、じゃあ開けてみるね。」



 俺はそう言って瓶の蓋を持って回す。

 今回のはネジ式と言えばいいのか、蓋は回して開ける様にした。王冠タイプだと栓抜きが必要だしな。

 これなら力を入れて回すだけで開けることが出来る。



「こうやって蓋を持ってこっち側に回して頂ければ開くので。」



 俺はみんなの前で開けてみせた。

 しかし皆まだ手を出さない。飲み物の説明の方が先か。



「この器に入ってるのはジュースって言って甘みのある飲み物で主に果物の汁と花の蜜なんかを混ぜて作ったものなんだ。

 好き嫌いはあるかも知れないが美味しいと思うんだけど・・・。」



 俺がそう言うと仲間達は恐る恐る瓶を手に取って蓋を外す。そして各々瓶に口を付け始める。

 ガイとアリアはフルーツ牛乳、ブランが炭酸飲料、シータは100%のジュースを飲んだ。



「うっ、かなり甘いな。」


 

 ガイがそう言って眉をしかめる。まぁガイはそんなに甘党って感じがしないしちょっと甘くし過ぎたか。



「私には丁度良いです。しかしこのような飲み物初めて飲みました。美味しいですわ。」



 アリアの口にはあったみたいだ。



(あるじ)これはいったい?口の中が何とも言えない、チクチクすると言いますか。」



 炭酸を飲んだブランが複雑な表情をして言った。



「あぁ、それは炭酸飲料って言ってそのシュワっとした感じを楽しむ飲み物なんだ。口に合わなかった?」


「驚いただけで味は美味いですわい。」



 ブランはそう言ってまた炭酸を飲み始めた。

 シータを見ると100%のジュースだからか特に驚きもせず飲んでいた。と言うか一瞬で飲み干していた。



「まだあるし他のを試してみてもいいよ。」



 俺は他の瓶を眺めるシータにそう言った。その言葉を聞いてシータは他の瓶に手を伸ばした。

 しかしタタラさんはまだ瓶には手を伸ばしていない。



「えっと、いかがですか?毒なんて入れてませんし。口に合うかどうかわかりませんが。」



 俺はそう言ってフルーツ牛乳の瓶を手に取ってタタラさんに勧めた。



「うむっ。」



 タタラさんは俺の手から瓶を受け取る。

 この状況で一人だけ飲まないって言うのも変だし、興味はあるだろう。今までこの世界にはなかったものだしな。

 タタラさんも瓶の蓋を回して開け、口を付け少し含み飲み下す。



「これはっ!」



 タタラさんがカッと目を見開いで叫んだ。



「香りはいくつかの果実の合わさった複雑な香り。それを口に含むとそれぞれの果物の味が絶妙なバランスで口に広がる。その後に牛の乳のまったりとした口当たり、そこに花の蜜の甘味。全てが混然となり完璧な味に昇華している。こんな飲み物があったとは!」



 タタラさんが早口で感想を言った。

 え~っと、どういうこと?



「お気に召して頂いたみたいで・・・、こちらの炭酸飲料もどうでしょう。」



 俺が勧めるとタタラさんは炭酸飲料の瓶をバッと手に取り蓋を開け、口を付ける。一口飲み下しまた口を開く。



「なんだこれは!口に含んだ瞬間にシュワっとした、小さな空気の粒の様なものが口の中に広がりそれが弾けて味わったことのない感覚を与える。味は先程飲んだものよりも甘味は少ない、がそれがまたすっきりとした味わいにしている。これはクランプの実の味。それをこの飲み物に使ったのか。料理などでしか使う事がないと思っていたがまさかこうして飲み物に出来るとは・・・。」



 タタラさんが興奮気味でそう呟いている。

 え~っと、どこかの評論家か何かでしょうか。それともその内に感想を叫びながら口から光を出したり、海を走って渡ったりしないんでしょうか。

 喜んで貰えたようで良かったんだけど、この豹変ぶりは若干引く。

 あれかなシータのお父さんかもしれないし食については並々ならぬこだわりでもあるのかもしれないが。



「あの、まだありますのでゆっくり飲んでください。」


「う、うむっ。」



 俺の言葉を聞いて若干気恥ずかしくなったのか佇まいを直し咳払いをするタタラさん。いつの間にか立ち上がっていたがソファに腰を下ろし持ってるジュースを飲みだした。

 何事もなかったように振舞ってるけど目がさっきと違ってるんだけど。ものすっごくキラキラしてる。



「えっと飲みながらでもいいので少しお話聞いても良いですか?」


「どういうことだ?」


「シロウさんからは聞いていらっしゃるかもしれませんが、俺達Sランク冒険者になったらウィクルーアに行こうと思っているんです。そこでタタラさんに色々と情報を教えてもらえたらと思いまして。」


「一応は聞いている。」


「行く前に色々と知っておきたいこともあるので、あぁそうそう、話して喉が渇いたら先程の飲み物まだまだあるのでそれで喉を潤して下さい。もしお気に召したならお土産として持ち帰って貰ってもいいですし。」


「何!?いや、うほんっ。俺で分かる事であれば教えてやろう。他の大陸へ冒険しようなどとは中々見込みがありそうだしな。」



 うん、なんかチョロそうだ。



「とりあえずお聞きしたいんですがタタラさんはどうやってウィクルーアに渡ったんですか?自分で船を買って、とかですか?」


「いや、俺は護衛と調査と言う依頼を受けて行っただけだ。」


「護衛と調査ですか?」


「あぁ、物好きがいたってことだ。向こうに渡り色々と調べたいと言ってた。

 この大陸とは違う植物や鉱物、後はモンスターも生息しているし。

 それを調べて役に立てたいと言っていたな。」


「海路でウィクルーアに渡ったんですよね?」


「当然だ、他に何があるというのだ。海岸線に沿って行き、一番ウィクルーアと距離が短い所で一気に海を渡ったんだ。おおよそ2カ月程かかったがな。運も良かった。特にモンスターとも遭遇することはなかった。」


「着いてからは?」


「向こうにも港町の様なものがある。名前は確かルクセ・クルセだったか。そのに船をつけたんだ。」


「向こうにも港があるんですね。」


「あぁ、そこまでは大きな町ではないがな。こちらからの定期船などはないから停泊するだけなら簡単だ。かなりふんだくられた様だが。」


「その町って言うのは人族の町ですか?」


「いや、人族以外にも獣人などもいたか。」


「そうなんですね。」


「獣人の中にも商人の様に物を売り買いする者もいる。だからその町は大きくない割にかなり栄えていた。」


「それからはどこかへ行かれたんですか?」


「そうだな。調査という事で町から出て近くの森や山を探索した。

 そこで植物の採集やモンスターを倒して素材を持ち帰ったりの日々だった。」


「向こうの大陸では生息するモンスターも違うんですよね?強さとかってどんなものなんでしょう?」


「それに関してはこの大陸でも場所によって出るモンスターも違う。向こうの大陸だから一律強いという訳ではなかった。」


 そうなんだ。てっきり別の大陸とか行くとモンスターのレベルとか上がって強くなったりすると思ってた。そこら辺はRPGとかとは違うんだ。

 さてどうしよう。本題に入ってもいいのかな。この流れで一旦話してみた方がいいかもしれない。


「そう言えば獣人がそのルクセ・クルセですっけ?その町にもいたんですね。じゃあエルフとかもいたりしたんですか?」


 俺がそう口にするとタタラさんは眉を顰めた。そして空気が冷たくなる。


「何故そんなことを聞く?」


「いや、気になったからです。俺も獣人やエルフには会ってみたいんですよね。その町で会うことが出来るんであればそれに越したことはないかなって思いまして。」


「エルフはいない。彼らは森の民だ。自分達の森からは出る事はない。」


「そうなんですね、知りませんでした。タタラさんはエルフに詳しいんですか?」


「どういう意味だ?」


 タタラさんの鋭さがさらに増す。

 ん~、これ以上は今はやめておいた方がいいか。


「いや~、周りに知ってる人がいないもので。詳しいのなら聞いてみようと思っただけですよ。

 後獣人についても知ってることを教えて欲しいんですが。」


「獣人と言っても種族があるから簡単に伝えれることはない。」


「獣人も森の民なんですか?特定の森に住んでるとか。」


「さっきも言ったがそれは種族による。平野に住む種族もいれば水辺に住む者もいる。」


「なるほど。」


 それはそうか。獣人と言ってもリザートマンみたいな感じの種族もいるだろう。彼らなら森って言うよりも水辺に住むだろうな。


「また思い付いたら質問してもいいですか?」


「俺で分かる事であれば教えてやろう。」


 俺の言葉にタタラさんはそう答えた。しかし空気は少しも緩んでない。余計なことは聞くなって感じがビンビンする。今の会話を聞いている者も『エルフ』に関しては聞かない方がいいって言う事が分かるぐらいだろう。それだけ俺がその単語を口にした瞬間のタタラさんの纏う空気が変わった。地雷臭が凄いな。どうするべきか。このまま素直に聞いても何も答えてくれないだろうし。

 いっそのこと核心に触れる様な事を言ってみるか。知り合ったエルフがタタラさんの知り合いみたいだとか。

 いや、さっき俺はエルフの事に詳しくないって言ってしまったし。

 いきなりそんな話をしたら信用を無くしそうだ。その後だと余計何も話してくれなさそうだ。

 う~ん、どうするか。難しい問題になってきた。さっきの話の流れで聞けたらいいと思ったけど、タタラさんの拒否してる感じが強い。エルフと何かあったってことなんだろうか。

 ここは様子見かな。もう少し信用か信頼でも得てから話をするかだな。やっぱり依頼をきっちりこなしてSランクに相応しいと思って貰えば少しは俺達に対する態度も軟化するかもしれない。

 もしくは飯で釣ってみるか・・・。なんかそれで上手くいきそうな気もするけど。

 俺はそんなことを考えながら瓶に残ったジュースを飲み切った。



 向かっている村へは馬で4日程の行程だ。今乗ってるトレーラーハウスを走り続けさせれば明日は着く。急がせれば今日中に着くだろうが流石にこのトレーラーハウスを街道で爆走させる訳にもいかない。

 その為一晩このトレーラーハウスで夜を明かすことになる。

 そして今は夕食時。トレーラーを一度止めて外で食べても良かったんだけど、止めないと料理できない訳でもないし。元々俺の【倉庫持ち(アイテムボックス)】の中には色々とすぐに食べれる食料は入れてある。職業スキルの【料理人】を作った時に面白半分、お試し半分で色々と作っていれておいたんだ。

 昼食はこの世界のどこにでもあるようなサンドイッチみたいなものにした。それでも俺が作るんだから味はかなり美味い。タタラさんはまた一口食べて早口で感想を言っていた。お気に召したようだが。

 そこで夕食はカレーにしてみた。

 この世界ではカレーを俺は食ったことがない。元々この世界には香辛料は少ないみたいだ。

 どこかの一部の村や町の郷土料理の様なものであるかも知れないがそこまではわからないし。

 しかし俺には色々なスキルがある。元の世界のカレーを再現するなんて今では簡単な話だ。香辛料の代わりになるようなものを見付けたり、自分で作り出したりもできるんだからな。

 それに再現するとすればこれだろってことでカレーにした。寿司や天ぷらとかって結局その食材を入手しなければいけないからな。カレーであれば野菜や肉はこっちのものも簡単に使えるし。

 で、一応辛さも別けて作ってみた訳だ。甘口から激辛まで用意してみた。米はないからナンみたいなパンを作った。

 いざ食べてみようと思った時に皆に説明するのが困った。なかなか辛いって言うのを伝えるのが難しいんだ。舌がピリピリするとか、喉が焼けるとか言ってもよくわからないし。

 とりあえず甘口から激辛まで一口ずつ食べて貰ってみた。そして激辛になるにつれてその『辛い』って言うのが強くなるって伝えた。

 みんな食べて行ったが皆辛口ぐらいまでが限界だった。

 辛口でも美味いと言ったのはガイだけだった。まぁイメージ通りと言うかなんというか。

 意外だったのがブランだった。ブランは中辛でも無理みたいで甘口がいいと言っていた。なんかブランも辛さには強そうって感じがしてたんだけど。

 アリアは見た目通り甘口で、それよりも辛いのは全部駄目だった。

 シータもなんでも行けるのかと思ったが辛口ぐらいが限界みたいだった。まぁ元の世界でも激辛を食べる人って一部だった気がするしな。


 そしてタタラさん。

 おっかなびっくりでカレーを眺めていたけど、その前にジュースやサンドイッチとか食べてい俺が作る料理は外れがないってわかっているみたいであまり躊躇せず口に運んでいた。

 そして一口食べるたびによくそこまで色んな表現できるなって程カレーの味を説明してくれていた。同じカレーで辛さが違うだけなのによくそこまで言葉が出るよねって。本当に評論家か何かやってるんだろうか。グルメブックとか出してそう。タタラのお勧めの店100選とか。

 カレーも気に入ってくれていたみたいで作り方なんかをしつこく聞かれた。こっちが色々と聞きたい立場なんだけどな~。ただカレーの作り方を教えてもスパイスを手に入れないことには再現できないことを伝えると絶望したようにガッカリしていた。この世界でも似たようなスパイスがないか研究して教えてあげた方がいいかも。その代りでエルフの事教えてくれないかねぇ。まぁ無理か。

 今の所の不安は今からの依頼よりもタタラさんからどう話を聞くかの方が困難の様な気がする。

 暫く食べ物懐柔作戦も続けていくとするか。

お読みいただきありがとうございます。


新年一発目の更新です。大分間が空いてしまいました。

今更ですが明けましておめでとうございます。

今年はスペシャルな大吉を引いてどんな年になるか楽しみにしてます。

こちらもぼちぼち更新していこうと思ってますので宜しくお願い致します。

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