対峙
冒険者ギルドの本部があるイベリオンに向かう最中立ち寄った町で一泊した。
夜俺はいきなりアリアに呼び出された。
2人だけで話がしたいと宿の外まで呼び出されたんだ。
寒くもなく暑くもなく過ごしやすい夜。
見た目は可愛い女の子による宿の外までの呼び出し。
普通だったらドキドキするイベントなんだろう。
だが俺とアリアであれば何ら起こるはずもない。
と言うかわざわざ外に呼び出すってどういう用事なんだろうか。
その気になれば【念話】で内緒話もすることは出来る。そうではなく面と向かって話さないといけない様な事は思いつかないんだが。
「で、一体どうしたんだ?」
目の前に立つアリアに俺は問いかける。
アリアは何やら思い詰めた顔をしていた。
俺に惚れたとか?
う~ん、流石にそれはないな。うん、絶対にない。
アリアはアリアだからな。
「えっと、どうお伝えすれば良いかわかりませんでした。
ですからこうして2人だけでお話ししようと思ったのです。」
「ほうっ、まさかの告白?」
「誰が誰にですか?」
「アリアが俺に。」
「冗談はほどほどにして下さい。天地がひっくり返ってもそんなことはありませんわ。」
「そこまでかよ。
まぁいいけど、で何を話したいの?」
「それが・・・、いえ、単刀直入に申し上げましょう。
ダイゴ様がお亡くなりになります。」
「はぁ?どういうこと?
・・・・・もしかして【天啓】で何かわかったのか?」
俺がそう聞くとアリアはコクリと頷いた。
「なるほどね。詳細を聞かせて貰うか。」
俺は先程と雰囲気を変えて真剣にアリアの話に耳を傾けた。
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俺は1人で街道を歩いている。
そう、1人でイベリオンに向かっている。
アリアの話を聞いてそうした方がいいと思ったんだ。
朗らかな日差しを受け、ゆっくりと俺は街道を進んで行く。
暫く街道を進むと人影が見えた。
数十m先に佇む人影。
周りには誰もいない、俺の後ろにも誰も来る気配はない。
俺は気にせずそのまま進む。
人影が近づいてくる。そして人影ではなくしっかりとした輪郭が見えてくる。
街道に突っ立っているのは1人の男の様だ。恐らくとしか言えないがな。
立っている人物は見た目は人族とは異なっていた。
青白い肌に長い黒の髪。顔は整っていて美形と言えるだろう。
しかし頭には見慣れない角が生えている。2本の角が耳の後ろから生えていた。
体は黒いマントで覆っていて分からないが、背も高く体付きも良さそうだ。
その容姿をみて俺は男だと思ったんだが。
俺が近づいて行ってもその人物は微動だにしない。
このまま俺が進めばぶつかる筈だが避けようともしない。
「貴様が勇者だな?」
ある程度近づくとその人物が声に出して聞いてきた。
少し低めの通る声だった。男で間違いないようだ。
しかしその言葉には色々と引っかかるものがある。
勇者だな、と言うには俺が勇者であることを分かったうえで確認しているという事だ。
もしわからなければ勇者か?と聞くはずだろう。
「勇者?何のことでしょう?」
俺はすっとぼけてみる。
まぁ無駄なんだろうがな。
その間に【鑑定眼】で相手の事を確認する。
名前:ダインス・ゲレズ
年齢:370
種族:魔族
性別:男
スキル:
【剣術 LV.10】
【闇魔法 LV.10】
【体術 LV.10】
【暗黒魔法 LV.10】
【影魔法 LV.10】
【呪眼 LV.10】
【邪眼 LV.10】
【絶影】
【闇走り】
【散影華】
【MP高速回復 LV.10】
【気配察知 LV.10】
【スキル習得度アップ LV.10】
【異常状態耐性】
【魔法攻撃耐性】
称号:
六魔将 闇闘士 影使い 邪眼使い 魔王の側近 冷戦沈着 合理主義者 一騎当千
想像通りと言ったところか。
いや、称号に六魔将やら魔王の側近がある。
称号通りなら魔族の中でもかなりの地位の人物だという事だ。
魔族の襲撃に関しては予想していた。いつまでも勇者を放置しておくとは思えない。
力量を測ったりしたいはずだ。
しかしそれにしてもいきなりこんな大物を送り込んでくるとは思わなかった。
適当な魔族を偵察代わりに送り込んでくるかと思ったんだが。
能力的な問題かどうかはわからないがスキルに関してもヤバそうなのが色々とある。
【暗黒魔法 LV.10】なんてものは俺の知るスキルの中にはない。これも多分オリジナルスキルなんだろう。こいつしか持っていないスキルだってことだ。
どう考えても【闇魔法】の上位版って感じだよな。
だがこれは魔王の持つ【八百万のスキル】から覚えたのか、それとも本人の力だからなのか。そればかりはわからない。
「ではこれ以上の質問は無意味だ。」
ダインスと言う魔族はマントを開き腰に差した剣に手を掛けた。
それはこちらも同じことだ。
どう考えても目の前の相手は俺を殺す気だ。殺気をビンビン感じる。
こちらとしても大人しくしてる訳にはいかない。
俺も腰に差した北斗に手を掛ける。
一触即発、そんな空気が辺りに漂う。
先に動いたのはダインスだった。
一足飛びに俺に剣を抜き迫ってくる。
俺も北斗を抜き構える。
ダインスの動きは素早い、ただ俺もステータスやスキルのレベルでは負けてはない。
袈裟切りのダインスの剣を受け止める。
キンッと甲高い音がして剣同士がぶつかる。
おかしい、俺の北斗には光が纏われている。スキルの【断罪】を使っている。剣を受け止めればその剣を切り裂くはずなんだが。
ダインスの剣をよく見ると黒い光が剣を覆っていた。
闇闘士って称号にあったな。【暗黒魔法】の中には剣に闇でも纏わせる魔法でもあるんだろうか。
しかしそうなると【断罪】でも剣を受け止められてしまうという事だ。普通だったら一合剣を合わせただけで相手の剣ごと切り裂くことが出来るんだが。
考えていても仕方がない、ダインスは剣を引き更に斬り付けてきている。
その剣を捌き後ろに下がる。
ダインスは後を追ってはこない。
俺がいた場所に静かに佇んでいる。
なんともやりにくい相手だな。
剣の腕だけで言うと恐らくガイの方が上だろう。
ただ奴の称号には剣士と言う称号はなかった。スキルの方も剣を極めたという感じのスキルではない気がする。称号には闇闘士とあった。恐らくは戦い方はそう言う事なんだろう。
剣だけであればなんとかなったかもしれないが俺の知らないスキルを持ってるとなると、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるかはわからない。
ダインスは何か呟いている。
魔法の詠唱か。
しかし呟いている言葉を聞いても知らない言葉だった。魔族語か何かか。
「【死神の槍】」
ダインスが魔法を唱える。
ダインスの影からいくつもの真っ黒い槍が伸び、こちらに向かってくる。
【影魔法】?それとも【暗黒魔法】に属しているのかそれはわからないが、ヤバいことには違いない。
迫りくる黒い槍を剣で切り払う。
しかし槍は剣で切られたところから新たに新しい槍を生やし迫ってくる。
剣では対処できないってことか。
俺は何とか槍を切り払い、下がりながら詠唱する。
「全てを照らす光よ。
我が前に立ちふさがる敵にその一撃を。【光の槍】」
俺も魔法を唱える。
目の前に何本かの光の槍が現れ、それぞれがダインスが放つ黒の槍へと向かう。
光る槍と黒い槍が衝突しかき消える。
闇か影の魔法だから光魔法であれば相殺出来たんだろう。
「この程度であれば傷も付けれないか。」
ダインスが1人そう言った。
嫌な感じだ。冷静に分析しているって感じだな。
だったら少しは俺の力も見せてやる。
「全てを照らす光よ。
その力を雄々しき龍と化し、我が敵を討て。【光龍演武】」
俺の声に応じ目の前に光が集まる。そしてその光は次第に龍を形作る。
俺の前に東洋の龍を模した光の龍が現れる。大きさは俺より少し大きいくらいだ。
光で作っているから普通であれば攻撃能力は低い。
ただ光魔法は魔族によく効くらしい。そう言う性質を持ってるからかもしれないが、これならばかなり効果があるだろう。
「行け!」
俺が命令すると光の龍はその身を翻しダインスへと向かう。
ダインスに慌てた様子などはなく、何か魔法を詠唱している様だ。
「【邪龍降誕】」
ダインスが魔法を唱えるとダインスの足元にあった影が大きく揺らいだ。
そして盛り上がり形を成す。
影から伸びたのは一つ目の龍だった。胴体はダインスの影に潜ったままだった。
ダインスの背丈ほど伸びた龍の瞳が怪しく光る。
赤黒い光を宿した瞳が光龍をじっと見る。
その瞬間に光龍の動きが鈍る。
動きが鈍った光龍に邪龍と呼ばれた龍が体を伸ばし巻き付いて行く。
2匹の龍がその身を捩りお互いがお互いの体に巻き付いて行き大きな一本の縄の様にも見えた。
光龍は巻き付かれ、締め上げられている様だ。光龍自身も締め上げようとしているが動きが鈍っている為されるがままになっている。
邪龍目には何らかの力があるだろう。
ダインス自体も【呪眼】や【邪眼】と言ったスキルを持っていた。その力を乗せてるのか?だとしたら本人の目にもそう言った力があるんだろう。俺に対しては使ってきていない様だが。
俺には【精神攻撃無効】なんかのスキルがあるのが分かってるんだろうか。
それとももうすでに試していて俺が勝手に攻撃を無効化しているって可能性もあるが。
だがこのままだったら光龍がやられ、その邪龍が俺に向かってくるかもしれない。
だとしたら面倒だ。
仕方がない、光龍には悪いが。
俺はそう思って魔力を込める。
すると光龍の体が膨れ、爆発する。その爆発に飲まれ邪龍も消えた。
魔力を操作して光龍が持ってる力を全て解放したんだ。そして邪龍も共倒れにしてやった。
ダインスはそれを冷静に見ていただけだった。
冷たい目で全ての光景を見、何か感情を表すようなことはなかった。
少しばかり焦ってくれたりするといいんだけどな。
こちらもポーカーフェイスを決め込んで特に感情を出さない様にしている。
今の所は五分五分と言った戦況だ。
しかし相手には色々と奥の手みたいなものもありそうだし。
【絶影】や【散影華】は攻撃スキルの様な気がする。【鑑定眼】で見ても詳細が分からないんだよな。
問題は相手が様子見の場合なんだよな。
戦況が悪くなれば離脱して情報だけを魔王の下に持ち帰る。
そうなるとこちらの手の内も知られそうだから迂闊に大きい技は出せない。
【闇走り】は恐らく移動系のスキル。俺の【転移の門】に似たスキルだったらこの場からの離脱も簡単だろう。
それがあって一気に攻勢にっていう気になれない。
でもこうして戦っていても埒が明かない。
相手が俺の力量を見て満足して帰ってくれるとか、俺か相手のどちらかが倒せばこの戦闘が終わるんだろう。
六魔将と呼ばれる魔王の側近を簡単に倒せる気がしない。
出来ればこのままお帰り頂く方がありがたいんだがな。
「大体わかったので終わりにしよう。」
ダインスはそう言って魔法を詠唱し出した。
終わりにするだと?大技を放つつもりか。
どうする?どういう攻撃かわからないからどう動いていいかわからない。
魔法の詠唱が終わる前に突っ込むか?いやどれくらいの詠唱かわからないし、魔法に突っ込む可能性もある。一旦距離を取るべきか・・・、そう思って俺は後ろに大きく飛んだ。
「無駄だ。【冥府送り】」
ダインスがそう言葉にすると俺の体に衝撃が走る。
背中からドンと押された感じだ。
視線を下に向けると俺の胸から手が生えていた。真っ黒い禍々しさを持った手だ。
よく見るとその手は動く何かを持っている。
そして俺は気付く。
その手が持っているのは俺の心臓だという事だ。
脈打つ心臓はその禍々しい手によって握りつぶされる。
それを見た瞬間にやっと自分の置かれた状況が分かった。
すぐさま【復活】を唱えようとするが喉の奥から登ってきた血によって言葉を発することが出来ない。
ガハッと血を吐く。意識がなくなりそうだ。
もう無理か。
俺は地面に倒れ込んだ。
体から少しずつ熱が引いて行く。意識も朦朧として何も考えられなくなってきた。
これが死ぬってことなのか。
こんなところで、こんな簡単に。
そんな俺の様子を見てもダインスは顔色一つ変えない。
何の感情もない目で俺の事を見ていた。
地にひれ伏し、ピクリとも動かなくなった俺の事を見たダインスが一言呟く。
「後2人。一度報告に戻るべきか。」
ダインスはそう言って自分の影に溶け込むように消えた。
その場には地面にうつ伏せに倒れた俺だけが残されていた。
お読みいただきありがとうございます。




