勇者・・・?
俺が次に目を開いてみた光景は殺風景な部屋だった。
薄暗い部屋で壁は煉瓦出来ている様だった。明かりは蝋燭だけだったが結構な数が周りを囲んでいた。
ふと足元を見てみるとわずかに何か文字の様なものが光っていた。目で追ってみると床に俺を中心として、円と文字が書かれていた。それが光を放っていたが少しずつその光もなくなり、石の床だけになる。
魔法陣か何かか?
先程話した神からは召喚されると聞いていたし、今の状況に特に驚きはなかった。
儀式の様な物が終わったのか、さっきまで静寂が辺りを包んでいた部屋に「おぉ」と声が上がる。
俺を取り囲むのは重たそうなローブを来た4人のおっさん。4人共一様に少し疲れた表情をしていた。
しかし何かを成し遂げたかの様に満足げな雰囲気を出していた。
目を奥に向けると俺をじっと見つめるおっさんがいた。いや、俺達か。
そう、俺の近くにはおっさんたち以外に2人いた。神が言っていた俺以外の勇者なんだろう。
どんなやつなのか確認しようと思ったが奥のおっさんから声がかかる。
「ようこそお出でくださいました。勇者様。
ささ、これからのことをご説明いたします。ついてきて下さい。」
おっさんはそう言うとさっさと部屋から出て行った。
俺は2人の勇者だという奴らと目で合図して、ぞろぞろとおっさんの後ろをついていった。
そうだ、先に使っておかないとな。
俺は神に貰ったスキルを使った。
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「申し遅れましたが私がこの国グラントの王、グラント・ウィル・サルエールです。勇者様達を国を代表して歓迎いたします。」
俺たちがおっさんの後を追って通されたのが西洋の城にありそうな謁見の間だった。おっさんは当然の様にその中央に置かれた馬鹿デカい椅子に座ってそう言った。
さっきの部屋でえらく豪華な服と王冠をしてるから何となく予想をしていたが、俺たちの目の前にいるのが今いる国の王様で俺達を召喚した人物なんだろう。
俺たちはサルエール王の挨拶を立ったまま聞いていた。
周りには近衛兵みたいな西洋の鎧を着た人たちが王に向かって片膝をついていた、しかし俺はそんな作法は習ってもいない。下手にやっても様にならないだろう。
しかし目の前に王様は何とも。
見た目の話なんだが中小企業の課長でもやってそうな少し貧相な感じだな。髪の色は金髪なんだが褪せた色だし、瞳の色もなんか濁ってる。髭を生やしているが口髭だけでチョビ髭みたいになっちゃってるし。
う~ん、ないな。
「勇者様たちよ、お主達がなぜこの世界に来たか理解されていますか?」
サルエールの問いに俺と後の2人が目を見合わせる。
「魔王討伐の為に召喚されたと聞きました。」
俺達の言葉を代表したように隣にいた茶髪が答える。
「そう、今世界は危機に瀕しておる。お主達には是非とも神に授けられたスキルを使い、魔王を打ち滅ぼして頂きたい。」
王は満足そうに頷きそう言った。
いや、いきなりこっちの都合考えず召喚して、当たり前の様に魔王討伐しろって言われると何となく納得できないものがある。
他の2人の顔を見るとどこか不満げだった。俺と考えていることは変わりないのかもしれない。
「まずは神に貰ったスキルを確認させて頂こう。」
王がそう言って右手を上げると、左右からさっきのローブを着たおっさんが手に何かを持って俺たちの前に来た。
持ってきたものを見ると一つは綺麗な飾りが付いた台座の上に水晶玉の様な球体が付いたものだった。
もう一つは大人2人が運んできた大きな鏡だった。2mくらいありそうな鏡でこれまた鏡の周りは豪華な飾りがついていた。
「それは魔法具の中でもスキルや色々な情報を見ることが出来る物なのです。」
王は俺達に説明してくれる。
「さぁその球に手を乗せて見て下さい。」
球の魔法具と言うものを持ってきたおっさんがそう俺達に伝える。それを聞いて球の一番近くにいたやつが一歩踏み出して手を球に乗せた。
ブゥンと低い音を立てて球が少し発光したかと思ったら、今度は鏡の魔法具が光を放ち、その光が集まり文字になっていく。
名前:佐藤 彰
年齢:20
種族:人族
性別:男
レベル:1
HP:130/130
MP:80/80
STR:24
INT:16
AGI:20
DEX:30
スキル:
【断罪】
【剣術 LV.6】
【世界順応】
称号:勇者 剣聖 律する者 質実剛健
鏡にはそう表示された。
へぇ~、こんなことが分かる魔法具とかあるのか。しかし全部見られるってなんかやだな。
神から貰ったスキルってスキルの一番上に書いてある【断罪】ってやつかな。
「流石勇者様。素晴らしいスキルと称号をお持ちですね。」
ローブのおっさんがため息をつくようにそう言った。
しかし剣術のスキルって?貰えるスキルって一つだけじゃなかったっけ?
世界順応とかもあるけど。
「剣をお使いなんですね、しかも相当のレベル。余程鍛えていらっしゃったのでしょう。」
「えぇ、子供の頃から剣道を習っていました。居合も合わせてやっていましたし。」
ローブおっさんに彰はそう答えた。
神から貰ったスキル以外にも身に付けた技術とかはそのままってことか。
そう言えばこっちの世界でもスキル習得できるんだから、俺たちが前の世界で習得した技術なんかはそのままスキルって形で使えるのかも知れない。
剣道や居合って単語が分からないのかローブおっさんは適当に頷いて流したみたいだった。
俺は2人のやり取りを聞きながら彰を観察した。
身長は180ないぐらいで体重はそうだな~、70台中盤ぐらいか。髪は黒の短髪、凛々しい眉と切れ長の目。鼻筋も通っているしそこそこの男前だろう。白いシャツで茶色の綿パンを履いている。雰囲気からして真面目なんだろう。
勇者ってこうゆうタイプがなるもんなんだろうな。
「続いてどうぞ。」
ローブおっさんに勧められ俺の横の茶髪が前に出て球に手を乗せる。なんだか嬉しそうだな、こいつ。
名前:立花 勇
年齢:20
種族:人族
性別:男
レベル:1
HP:110/110
MP:100/100
STR:20
INT:20
AGI:20
DEX:20
スキル:
【福音】
【世界順応】
称号:勇者 オールラウンダー 才能ある者 自己愛者
勇ってやつは【福音】をもらったのか。しかしそれ以外のスキルないけど。
「【福音】をお持ちなんですね、素晴らしいです。
称号には才能ある者ともありますしこれからの成長に期待しております。」
ローブおっさんは驚いたように勇のスキルを見て言った。
称号?持ってる称号によって何か効果があったりするんだろうか?
スキルのことは神から聞いてたけど称号は聞いてなかったな。また後で聞いてみよう。
勇ってやつはドヤッって顔していた。
自己愛者ってあったしナルシストなんだろう。
褒められてうれしかったんだろ。あぁ~はいはい。
その勇の見た目は・・・
茶髪の毎日いじってますって感じの少し長めの髪。
中肉中背、服はチャラチャラしてるんで説明もしたくない。
ホストとかやってそうと言えば想像できるだろうか。
「失礼、では最後にどうぞ。」
ローブおっさんは少し落ち着きを取り戻して俺に勧めた。
そう言われた俺は仕方なく球の前まで移動して手を乗っける。
そうして表示されたのが・・・
名前:大山 大悟
年齢:20
種族:人族
性別:男
レベル:1
HP:10/10
MP:5/5
STR:5
INT:5
AGI:5
DEX:5
スキル:
【体術 LV.1】
【世界順応】
称号:異世界人 巻き込まれた者 平凡 平和を愛する者
俺のスキルが表示される。それを見た全員が驚愕の声を上げる。
まぁ当然だな、有用なスキルを持たず勇者でもないと書いてあるんだから。