2日目
俺達は観客席まで戻って来た。
闘技場の修繕が完了するまでにもう少し時間がかかりそうだな。
観客席に戻ってくると同じクラスの奴らが俺達のことを待っていた。
皆少し興奮している様子で俺達の事を結構な騒ぎで迎えてくれた。
全16チームあり、それぞれ1回戦だけ本日行う事になっている。その為俺達の出番はもう明日になったという事だ。今日は8試合が行われるという事だ。1試合にそれなりに時間がかかるし、闘技場の修繕なんかもあること考えられる。後は選手のHP、MPの回復も必要だしな。HPに関しては回復魔法、MPに関しても回復用の薬なんかがあるけど高価なものだし、もう少しチーム数が減ってから使う事になるんだろう。
トーナメントの開催予定日は今日と明日だ。俺達が戦いに出るのも明日になる。だからクラスの皆も大丈夫だろうと思って近くに来たんだろう。後は俺達も観戦するだけだしな。
このままゆっくりと試合でも見ていくことにするか。
一応はどんな戦い方をするか気になるし。ただ明日一番最初に当たるのは【赤の鷹】チームだ。今回と同じように楽勝だろう。
そんなことを考えながら、クラスの子供達と話をしながら試合を観戦することにした。
結論から言って問題ないだろう。
一応全試合を観戦して見た。だがどのチームも同じような戦い方をしていた。一応俺達のチームみたいに攻撃、防御、サポートと組んでるチームもあったけどたどたどしい連携でチームとしてあまり機能していないようだった。
元々魔法使いだけでパーティーを組むってこと自体ないことだしな。
相手も魔法しか使わないっていう前提があるから成り立っていると言ってもいいだろう。
普通なら魔法使いは後衛職。その後衛職だけが固まっても戦い方は似たり寄ったり。
そりゃ戦い方も似てくるってもんだ。
全試合見て勝ちあがったチームへの対策も考え付いている。だから問題なく戦って勝つことが出来るだろう。後はお祭りとして楽しむくらいだろうか。チートな人間がこんなイベントに参加しちゃ駄目だよな。周りの人間が可哀想だ。迷宮攻略の時はあまり感じなかったが、こうして一般的な人と一緒にいると改めて自分のチートさを痛感する。
ベックやアーサーを特訓していったが契約の効果を使わない成長がこんなに大変なものだとは思ってもみなかった。俺達の場合はすぐにガイやブランも奴隷契約をしてチートの仲間入りをしたようなもんだったから。そう言うスキルを持ったりしていない人間がスキルレベルを上げるのは物凄く大変だ。
恐らく奴隷契約をしていたらすでにベックやアーサーのスキルレベルは10になっている頃だろう。しかし今は2人は5ぐらいしかない。それでも周りの人間よりはかなりスキルレベルが高い。俺もかなり効率的なスキル上げをしていたと思っていたがそれでも半分ぐらいにしかならない。それにここからまたレベルを上げようとしたら更に厳しくなっていくんだろう。
やっぱり効率的にスキルレベルを上げようと思ったら奴隷契約なり師弟契約なりが必須になってくるんだろうな。これからこの世界もそうなって行くのかもしれない。もう少ししたら一般的にも広まっていくんだろう。
しかし契約をしたらこんな効果があるって言うのは他のスキルとかに比べて優遇されているって言うかなんというか。他のスキルも他の人に影響を与えるスキルって言うのはあるけどこうして持ってるスキルの影響までを他の人に分け与えるって言うのはなかなかない。【刻印術】だけ何か特別なんだろうか。そう言えば俺は勝手に使えるようになったけど、どうやったらスキルを憶えられるんだろうか。魔法みたいに人に教えて貰って使える様になる気がしないんだけどな。今度時間ある時に聞いてみようか。
奴隷契約にしても無理やりする事も出来ないし。奴隷契約だけじゃなく師弟契約もだけど双方が同意しない契約は出来ない。【刻印術】を使っても一方が承認しないと契約は完了しない。
だったら違法な奴隷はいないんじゃないかってことになる。シータが誘拐されて奴隷契約させられるとかの話があったが、あの時も本当ならシータが拒否すれば奴隷になることはない。
しかしシータの場合は上手く乗せられて奴隷契約に持って行かれる場合もあるだろう。食い物やるから契約しろとかね。
それ以外の場合はどうなるか、拒否し続ければいいんじゃないかと思うがそう簡単な話でもない。
奴隷契約をするまで拷問され続けるんだ。怪我を負っても回復魔法がある。そんなことをずっと続けられて心が折れない人間はほとんどいない。そんな目に合うぐらいならと奴隷契約をしてしまうらしい。
犯罪者の場合は奴隷契約を承知しない場合は即死刑になる。生きる為には奴隷になるしかないってとこだ。
って俺はなんでこんなことを考えているんだ。今考える事じゃないな。
でも、何か引っかかる所があるんだよな。ここまで深く考えたことがなかった契約。
【八百万のスキル】もバージョンアップしたし、もしかしてもっといい契約を作れるようになったんじゃないか。他のスキルと組み合わせて作ったらもっと効率のいい、役に立つような契約・・・。うん、ちょっと考えてみるか。ただ今はまだ試せないな。ガイとかと合流する時までに作って試してみるか。
本日の全試合が終わり勝ち上がった8チームが出揃った。
学長の話があり一時解散になった。各々学生寮に帰って明日に備えて休むことになる。
流石に闇討ちとかは来ないだろう。なんかそう言うのありそうなんだけどな。妨害工策とか。そこまでの根性ある奴がいるかどうかだな。そんなのが見付かったらトーナメントの失格どころの話じゃなく、この学園からの追放だろう。学生寮だから人の目もあるしな。あったらあったで面白そうだと思ってしまうのはそんなのに慣れてしまってるからなんだろうか?
部屋に戻ってもアーサーは落ち着かない様子だった。そんなに緊張したりすることないと思うんだけどな。
寝付けないみたいだったから一緒寝てあげようかと提案して見たが、余計寝れなくなると却下された。
う~ん、惜しい。
しょうがないのでこっそり支援魔法の【眠り】をかけてやったらそのまま寝たようだった。
さて俺も寝るか。
翌日目覚めは良かった。アーサーもよく眠れたようだったし、後で合流したベックもしっかりと休めたようだ。
今日も朝から試合がある。学生寮で朝飯を食べてからすぐに昨日と同じ闘技場へ向かった。
闘技場は今日も満員御礼だった。
今日は俺達が第1試合だから用意しないといけないな。開会式の様なものは今日はなく簡単な学長の挨拶があってからすぐに試合って感じだ。
俺達は既に闘技場に入る為の通路で準備している。
「今日はプランBかな。」
「あぁ、あれか・・・。」
俺の指示にベックがゲンナリして答える。
「今回はアーサーにも頑張って貰おうか。頑張るほどでもないかもしれないけどね。」
「えっ、どうしよう。ぼくちゃんと出来るかな?」
「アーサーがちゃんと出来なくても作戦的には問題ないんじゃないか?」
「そうだね。」
アーサーが不安げに答え、それにベックが聞いた。確かにプランBはアーサーの魔法がなくても一応成立する作戦だ。
「だけどアーサーもチームの一員なんだからちゃんと役目を果たして貰わないとね。」
「う・・・、頑張るよ。」
「その意気だよ。」
俺はそう言ってアーサーの頭に手を置いてなでなでした。確実に同い年がするようなことじゃないな。でも仕方ない。そうしたくてたまらないんだからな。うん、今日も安定した可愛さだ。
さて今日もさっさと終わらせよう。まだまだ先は長い。図書館にすら辿り着いてないんだしね。
時間が来たようで目の前の扉が開いたので俺達は闘技場の中に入って行った。
目の前からは【赤の鷹】チームも入場してきている。
見ると緊張した面持ちだった。昨日の俺達の事をみて警戒しているんだろう。一応は対策は考えてあるんだろうけど、こちらとしては関係ないかな。
2日目だったが選手の紹介はするらしい。昨日見ていなかった人用ってことなんだろうか。
それともあれだけのチームがいたので憶えていない人用かもしれない。
その間にアリアが魔法を唱え闘技場の準備も完了する。そしてフィリップ先生からの声がかかる。
「では【赤の鷹】対【円卓騎士団】の試合開始です。」
試合の開始が宣言されて両チーム共動き出す。
【赤の鷹】3人は固まった位置にいた。恐らくだが俺の【深淵の霧】を警戒しているんだろう。そして魔法の詠唱から見て広範囲系の魔法を3人同時に唱えいた。霧で視界を防がれても広範囲に炎を撒き散らかしこちらに攻撃する為だろう。だとしてもだ。
「大地よ、我に力を。我が前に深淵を覗かせよ。【奈落の穴】。」
当然の様に俺が先に魔法を唱える。今回はプランBだから【深淵の霧】を使う予定はない。
俺の魔法によって【赤の鷹】の3人の姿が消える。
当然だ。3人の足元に4m位の落とし穴を掘ってやったんだ。一瞬で3人は穴の中に消えた。
「守りの壁よ。その力を持って彼の敵より我が身を守れ。【魔法の壁】。」
それからアーサーの声が響く。
【赤の鷹】面子が落ちた穴を魔法の壁が蓋をした。
「おっと、またしてもいったい何が起きているのかが分かりませんね。」
フィリップ先生の実況が飛ぶ。
「あれは・・・えぇーーっと。」
アリアが困ったように呟いた。アリアはこれから何が起こるか察しがついたんだろう。
俺とベックは【赤の鷹】が落ちた穴の方に歩いて行って中を覗いた。
すると3人は上を向いて何か喚いていた。
もう勝負はついたようなものだ。
今回の戦いのプランはいたって簡単。落とし穴作戦だ。昨日の俺達の試合を見て【赤の鷹】の奴らが【深淵の霧】を警戒してくるのはわかっていた。火魔法しか使えないやつらなら対応策は限られる。視界を奪われても自分達の周りを広範囲に魔法で焼き尽くしたらいいって思ったんだろう。自分達はその魔法の被害にあわない様に1か所に固まる。
1か所に固まることによって【土の塔】で高い位置に持ち上げられる可能性も考えただろうが足元が競り上がってきたらすぐに飛び降りたら済む話だしな。昨日は視界を奪ってから使ったからとっさに反応できなかっただけだろう。だから【赤の鷹】の奴らにとって注意するのは【深淵の霧】の方だったんだろう。そして短期決戦で終わらせる為3人広範囲の魔法を使おうとしたんだろうな。
俺はそれが読めていたからさっさと落とし穴を掘って3人を落としたってことだ。
ベックは一度これを俺にされているから今回の作戦には思う所があったんだろう。自分がされた嫌な思い出を人にするんだからな。
落とし穴に落とされて、なおかつ出口は魔法の壁で塞がれている。こうなってしまったら火魔法しか使えないやつらにはもう何もできない。そんな狭い空間で火魔法を使えばどう考えても自分達の方へ炎がやってくる。
これで相手が土魔法を使うとか、もしくは水魔法なんかでも落とし穴からは逃れることが出来たかもしれないけどな。やっぱり対策は大事ってことだ。
さてと、仕上げかな。
俺が手を上げるとアーサーが魔法の発動を止め、蓋をしていた魔法の壁が消える。
「【火炎流】。」
歩きながらすでに準備していた魔法をベックが唱える。ベックの手から炎が放出され、落とし穴の中に満たされていった。
「おっと【赤の鷹】3人の魔法具が壊れたようです。」
フィリップ先生がそう言い、アリアが急いで【闘技場】の魔法を解除する。それによって落とし穴の炎も全て消え去った。一応中を覗くと3人が背中合わせにへたり込んでいた。
う~ん、なんかトラウマとかになっていなければいいけどな。
「勝者は【円卓騎士団】の様です。しかしこれはまたあっという間でしたね。何がどうなったのか解説をお願い出来ますか?」
フィリップ先生がそう言ってアリアの方を向いた。
俺は仕方がないのでまた【念話】でアリアに向けて説明していった。
「えっと、そうですわね。ある程度は予想になるのですが・・・。
まずは【赤の鷹】チームの3人は昨日の【円卓騎士団】チームの戦闘を見て作戦を練ったのではないでしょうか。」
「作戦ですか?」
「はい。試合開始されてから3人は固まった位置から動かず全員で広範囲系の魔法を唱えていました。
恐らくですがナイト君の霧の魔法を警戒したのだと思います。」
「なるほど。昨日もその魔法によって大きなアドバンテージを【円卓騎士団】チームは持ったようですしね。」
「えぇ。霧を張られても炎で吹き飛ばそうと思ったのでしょう。ただナイト君、【円卓騎士団】の方が1枚上手だった。霧の魔法が警戒され、1か所に集まることを読んでいたんです。
そこで【赤の鷹】チームの足元に落とし穴を掘ったんです。
落とし穴を使われたと思った瞬間に飛びのいていたら落ちずに済んだでしょうが、そこまでの判断には至らなかったという事ですわね。その為3人共落とし穴に落下しました。」
「急に足元がなくなるとは思いませんでしょうしね。」
「そこは経験の差かもしれません。相手がどんな魔法を使ってくるのかも魔法使いであれば把握しておくべきことでしょう。それによって対処方法は変わりますし。」
「魔法使いは後衛職、チームのブレーンになることもありますしね。その点は考慮すべきと言ったところでしょうか。」
「そうですわね。解説に戻りますが、ナイト君の落とし穴が成功し、そこからアーサー君が魔法の壁を作り穴に蓋をしました。そうするともう【赤の鷹】チームに出来ることはなくなります。
魔法を放っても魔法の壁に弾かれ、その魔法は穴の中に充満することになるでしょう。土を溶かす様な炎をあの中で使う事も出来ないでしょう。火魔法だけしか使えない【赤の鷹】チームには打つ手がなくなったという事です。
そしてタイミングよく魔法の壁を解除した瞬間にベック君の火魔法が穴の中に放たれました。【赤の鷹】チームには防ぐ術はないでしょう。炎の壁を作ろうにも空間が狭すぎて機能しないでしょうし。
そうして今回は勝負が決まったという事ですわね。」
「そうでしたか。やはり今回も【円卓騎士団】の作戦勝ちという事でしょうかね。」
「えぇ、今回も大した魔法は使わず、その場に適した魔法を使って勝利を収めたという事です。」
「今後も【円卓騎士団】の活躍に期待が持てますね。」
「そうですわね。」
アリアとフィリップ先生が色々と話、場を盛り上げていく。結構あっさり終わっちゃったしね。会場を盛り上げないといけないだろうし大変だね。色々と考えていたのにこうもあっさりと行くとな。特攻してナイフで片を付けるとかのプランもあるんだけど、日の目を見ないかもしれないな。
それにこれでちゃんと研究生とかになれるのか?大したことはやってない気がするんだけどな。オリジナルの魔法も霧の魔法しかまだ使ってないし。俺の目的はそっちなんだけど。まぁ次の試合はちょっと派手にしてもいいかな。
その時俺はそんなことを考えていた。しかし思いもよらない事態が起こり、緊張感を欠いていたことを後悔することとなった。
お読み頂きありがとうございます。




