迷宮攻略41
「お疲れ様。で聞きたいんだけど、さっきのは一体何?」
俺はガイ達の所に歩いて行って質問した。
「さっきのって【朱雀】を倒した奴か?」
「それ以外に何があるって言うんだ。2人共同じ型を使ってたみたいだけど、終の型って言う。」
「あぁ、あれはとっておきなんだよ。」
バロンさんが答えた。
「とっておきですか?」
「そうそう、最終手段的なもんだな。」
2人もそう言うの持ってたんだとちょっと感心する。
「元々考えてたのと変わったけどな。」
「そうなんですか?」
バロンさんが顎をさすりながら言った。
「元々は普通に龍の形をした気を飛ばす技だったんだけどな。
お前の神を作ったってのに触発された訳だ。
だから俺も龍の中で一番の王様を作ったんだ。」
「またぶっつけ本番でそんなことやったんですか?」
「まぁ元々全力で龍の形の気を飛ばせるのはわかってたから、なんつーか、お前でいう所のアレンジを加えたってだけだけどな。
でもやっぱり使ってみたら威力上がってたから結果オーライってとこだろう。」
俺も人の事言えないからバロンさんの言葉に何も言えないんだけど。バロンさんも直感で戦う人だからそんな芸当が出来るんだろう。
「ガイの方は?爆発しそうだった【朱雀】が姿を消したけど。」
「あぁ、あれか。
俺のはもっと単純だ。塵になるくらいまで切り刻んだだけだ。」
「いやいや、単純でもないし、どういうことだよ。」
「【瞬行】ってスキルがあるだろ?俺はあのスキルを使ってる間でも攻撃できる様に修行したんだ。」
「そう言えば【光刃・斬鬼牢】って技だっけ?移動した所に斬撃が残るみたいだね。」
「そうだ。あれは一瞬で目的の場所まで移動してる。じゃあ剣を持ってる腕に【瞬行】を使ったらどうなるか。当然一瞬で剣を振るうことが出来る訳だ。」
「当然なのか?そんなの思いつかなかったけど。」
「それを繰り返して数万の斬撃を作り出して相手を塵にした。塵になったことで持ってたエネルギーって言うのか?力が分散したってとこだな。だから爆発しなかった、そういう事だ。」
「は~っ、何となくの理屈はわかるけどよくそんなこと出来るな。」
「お前に言われるとは思わなかった。神とか作ったお前にな。」
「いや、まぁそれはそれとして。でもこれまたなんで今まで使わなかったんだ?」
「終の型って言っただろ?あの技を出すとその後は戦えなくなる。」
「そうそう、右に同じく。」
ガイが答えて、バロンさんも続く。
「それってどういう事だよ。」
よくわからないから俺は質問する。
「俺の場合は凄まじいスピードで剣を振ることになるんだぞ。剣に気を集中させているし、腕にもかなりの気を纏わせておかないと腕が千切れて吹っ飛ぶ。今は右腕で剣を振ることが出来ない。」
「そうそう、俺もほぼ体力と気力使い切ってるから、立ってるのでやっとって感じだ。」
ガイとバロンさんは2人共大したことない様な感じで言った。
【鑑定眼】で2人のステータスを確認すると、HPやMP、他の値も軒並み下がってる。ってマジだったよ。
俺は急いで【復活】を唱えて2人を回復する。HPは回復するけど他のステータス低下は時間で回復するしかない感じだな。一時的に下がってるだけなんだろう。
本当の奥の手ってことだな。その技で倒し切れなかったら逆に倒される危険があるってことだもんな。
「よくそんな技使ったね。」
「まぁ、あいつも最後の大技だったみたいだしな。勝てば他に敵もいないし何とかなるだろうと思った訳だ。」
バロンさんがそう答えた。
俺のとっておきと同じようなもんだな。俺の場合はMPだけだから何とかなるかも知れないけど。
それにしても【白虎】【玄武】と来て【朱雀】を倒してけど、一番楽に倒せたんじゃないのか?
皆いきなり強くなりすぎだろう。
いや、元々それぐらいの力は持ってたってことだ、やっぱり俺が皆が強くなるのに歯止めを掛けてたのかもしれないな。今回俺は敵を弱らすぐらいしかしてないし。
しかしホントに俺達のパーティどこまで強くなるんだろう。このまま強くなっていったら魔王なんてワンパンで沈めれるんじゃないか?そうだといいな~。だったら魔王倒してからゆっくりするのに。
「ともかく皆が【朱雀】を倒してくれた。ありがとう。
ついに90階層も攻略できたし地上に戻ってゆっくりしよう。」
「そうだな、そうするか。」
俺は皆にお礼を言ってから魔法陣の方へ歩いて行った。
皆で魔法陣に乗っていつもの十字の部屋へと行った。
「そう言えばこの階層の攻略報酬って何だろう。」
すっかり忘れていた報酬の事を思い出して俺は口に出した。
「さぁな、90階層なんだからかなりの物じゃないのか?」
俺のつぶやきにガイが答えた。
「そうだよな、ちょっとワクワクするな。」
俺はそう言いながら宝箱がある方の通路に進んだ。
俺達の前に現れた宝箱はさほど大きくなかった。一辺が50cmぐらいの大きさの宝箱だった。
えらく小さいな、これだったら剣とか装備品じゃない感じがする。もしかしてまた魔法具系だったりするんだろうか。
俺はドキドキしながら宝箱を開けた。
そして中身を見てちょっと落胆した。
宝箱の中に入っていたのは何かの本の様な物だった。片側を紐で綴っただけの簡単なものだった。本というよりメモ帳とか自由帳とかそう言った感じがする。表紙には何も書いていない。一応紙のようだがあまり綺麗でもない紙だった。
なんだこれ?そう思って手に取った。本とかだったらキュクロさんの写真集とかの方がいいな~、それだったら楽しめると思うんだけど。って楽しめるのは俺1人か。いや、アリアがいた。それを見てニヤニヤしてる俺を見て楽しむこと間違いない。
いやいや、そんな妄想は良いからと思って俺は何気なくペラペラとめくって中に書いてあることに目を通していく。
中身は写真集などではなく、文字と絵が描かれていた。
しかし読み進めていくと俺は背中にびっしりと汗をかいた。
マジかよ・・・。
「それには何が書かれているんですか?」
アリアに声を掛けられてハッとなって顔を上げる。皆俺の方を心配そうに見ている。俺の表情は大分強張っていた。そんな顔して読んでたんだ、何が書いてあったか皆不安になったんだろう。
「あぁ、すまない。えっと、なんていくか今回の報酬はレシピだったみたいだ。」
「レシピですか?」
俺が答えたことにアリアが質問する。
「そう、手順書と言ったらいいのか。ある物の作り方が載ってるメモというか、本というか。そういうものだよ。」
「はぁ、それでいったい何の作り方が載ってあるんでしょう?」
「えっと、皆この内容は他の誰にも話さないって約束してもらってもいいか?」
俺からいきなりそんなことを言われるとは思っていなかった様で皆困惑している。それでも皆頷いてくれた。
「ここに書いてあるのは魔石の作り方なんだ。」
俺が説明する。しかし皆あまりよくわかっていない様な感じで不思議そうな顔をしている。
「なんですと!?」
ただブランだけは違った。驚き、声を荒げた。
「なんだ?どういう事なんだ?」
バロンさんが聞いてきた。
「俺とブランは魔法具を作ったりもしてるから良くわかってるんですが、魔石ってどういう物かご存知ですか?」
俺はバロンさんに聞く。
「あぁ、あれだろ。魔法具に付いてるやつ。それが魔法具の動力になったりするんだろ。」
「そうです、ほとんどの魔法具や、一部の武器だったり防具についてたりします。それによって魔法みたいな現象を起こすことが出来たりします。」
「だよな。」
「それで魔石ってどうやって手に入れるか知ってますか?」
「確か魔素の濃い所で出来たりするらしいな。鉱石みたいに掘ってるって聞いたがな。」
「そうなんです。今の魔石は魔素が濃い所で何かしらの要因が重なって出来る物として言われています。ただそうそう魔石が取れるところはないんです。ドワーフの町の近くにある鉱山も【ガイアドラゴン】の死骸から漏れ出た魔素があるからそこで取れるって言われてます。
魔石は他の鉱石なんかに比べて数は取れないんです。だから希少価値もあってかなりの金額で取引されます。」
「そうだな、お前に頼まれていくつか取り寄せたけど、あんな小さい石がバカみたいな値段だったもんな。」
「えぇ、ただこのレシピを使えば自分のMPから魔石を作ることが出来るみたいなんです。」
「おい、それって。」
俺の言葉にバロンさんも俺の言いたいことが理解できたみたいだ。
「はい、無制限に魔石を作れるってことなんです。」
「ってことは何か?それを売ったら大金持ちになれるってことか?いや、市場に出回ると希少価値は下がるか。」
「いや、それだけではないじゃろう。」
そこでブランが割って入る。
「今まで大したことのない大きさの魔石しか取れなかったが、万が一それよりも大きな魔石が作れるのであれば今の魔法具よりももっと大掛かりな魔法具を作ることが出来るようになるじゃろう。それに研究するにもじゃ。今までは高価な魔石を使って実験するなどなかなかできんかったが、いくらでも手に入るのであれば新しいものに色々挑戦できるじゃろう。そうすれば新たな魔法具や、魔石を使った装備品などドンドン出来るに違いない。
それを考えると経済だけではなく、もしかすると今の生活をも大きく変えることになるかも知れん、という事じゃ。」
「そんなことが・・・。」
俺の思っていたことをブランが皆に説明してくれた。
その説明に驚くシータ以外。シータは最初の方でもうついていけなくなったのか座り込んであくびをしていた。
「そういう事だ。流石に他の人間にこれを知られる訳にはいかない。
ただざっと読んでみたけど普通の人には作ることは出来ないみたいだけどな。」
「そうなのですか?」
「あぁ、色々なスキルが必要になるみたいだし。ある程度のMPもないと無理だ。まぁこの迷宮を90階層まで攻略できるような人間であれば作れるだろうと思ってたんじゃないか。多分これを書いたのはキュクロさんだと思う。」
俺はブランに答える。
どう考えてもこんなのを知ってるなんてキュクロさんしか思いつかない。しかしこんなの教えていいんだろうか?神って人にあんまり干渉できないんじゃなかったっけ。
魔石は魔素が凝縮して固まった物。そう考えたら魔素を固められたら作れるじゃん、みたいなことで普通に思いつくだろって感じなのかもしれないが。
「とりあえずこれは俺が持ってることにする。俺だったら魔石を作る様になれるだろうし。まだどんな大きさのもので、どれぐらいの数が作れるわからないから一回作ってみる。それからどうするか考えることにするよ。」
俺はそう言ってレシピを【倉庫持ち】にしまった。
今回の報酬は今までの中でも一番驚いた。いや、惚れ薬の方が衝撃は強かったか。まぁあれは使えるかどうかもわからないし。今回のは確実に役立つだろう。今まで以上の魔法具が作れるかもしれないし、装備にももっと魔石とか組み込んで色々作れるようになるかもしれない。いや~、楽しみだ。
俺は興奮冷めやらぬままギルドへと戻ってきた。
そう言えば忘れていた。恒例の祝勝会ムード。いつにもましてギルドの中はお祭りムードだった。
前日から皆ギルドに泊まり込んでたみたいだ。なんか実況とかもしてたみたいだし、俺達が新しい階層に行くとギルドの方ではわかるみたいだから『今82階層に着きました~!』みたいなのをギルドの職員が皆に教えて、乾杯とかしてたみたいだ。
俺は受付だけ済ませてとっとと気配を消して宿に戻ることにした。
当然貰ったレシピを早く使ってみたいってことだ。
新しい本とかDVDを買った時って急いで家に帰って見たいって思うだろ?
今回はこの世の中で恐らく俺しか持ってないものだよ。ドキドキワクワク感が違うね。
これは念願叶って手に入れたゴニョゴニョDVDを買った時の様な感じだよ。いや、そんなことあんまりないよ。ホントだよ。こっちの世界にはそんなものはないだろうしね。こういう気分を味わえるのって稀だろ。これからの人生でこんなことないかもしれない。たまにはいいだろう。
早く部屋に帰ってニヤニヤしながら読もう。
あれだよ、本当に魔石の作り方のレシピが書いてあっただけだからね。




