迷宮攻略40
「さてと、準備はいいか?」
俺は皆に聞いた。
昨日この場所で一晩を明かした。起きてから朝飯も食ったし、準備も万全。
アリアに新しく作った支援魔法【防火の鎧】と言うのも教えてる。すでに俺達には先程言った魔法の他にもいくつかの支援魔法が掛けられている。こうして戦う前に準備できるんだ、下準備はしっかりとさせてもらう。
「あぁ、いつでもいけるぞ。」
「そうだな、どんな奴か楽しみだ。」
バロンさんとガイは楽しそうに答える。何がそんなに楽しいんだろう。
「今回わしは役に立つかわかりませんが、やるだけやりますわい。」
ブランがそう言った。
「私も皆さんの事を精一杯お守りしますわ。」
アリアも続く。
「シータも頑張るよ~。」
いつもながらのシータもそう言った。
「よし、じゃあ行くか。」
俺達はそう言って魔法陣の中に足を進めた。
景色が変わる。
先程までは社の中っと言った感じだったか、今は以前の階層の様に岩と溶岩しか周りにはない。
しかし俺達の目の前には既に炎を纏った神々しい鳥が宙に浮かんでいた。
いきなりだな、目の前に浮かぶ【朱雀】を見てそう思った。
俺達の100数十m先に空中に静止した【朱雀】が見える。羽ばたきもせずに空中に羽を広げた姿でいた。大きさは翼を広げても5m程しかない。今までの奴に比べたら大きさは小さい。ただ小さいという事は攻撃を当てにくいという事だ。
体は炎を纏い揺らめいている。その色は赤からオレンジと揺らめきながら色を変えている。頭の上には立派なトサカの様な羽もあった。尾の様な羽も何枚もあった。とりあえず確認だな。
名前:朱雀
種族:幻獣
レベル:100
スキル:
【火魔法 LV.10】
【風魔法 LV.10】
【火食再生】
【炎羽】
【火炎ブレス】
【飛翔】
【空中制御 LV.10】
【炎熱吸収】
【異常状態無効】
【物理攻撃無効】
【水氷耐性】
【鑑定眼】でステータスを確認する。名前は【朱雀】で間違いないようだ。それにスキルにある【火食再生】【炎熱吸収】【物理攻撃無効】ってある。予想通り火炎を吸収して再生するみたいだし、物理攻撃が効かないってことは実体がないようだ。【鑑定眼】で確認してもそう見えるしな。【弱点発見】で見ても核の様な物や弱点もわからない。
予想が当たったようだ。こういう時は当たらなくていいのに。でも90階層のボスなんだからそれぐらいじゃないと務まらないんだろうな。
「俺の予想が的中した。悪い方にね。再生しなくなるまで削らないといけないみたいだ。
俺は魔法に集中するからしばらく時間を稼いでくれ。」
俺は【念話】で皆に伝える。
「任せておけ。」
そう言ってバロンさんとガイが【朱雀】に向かって突っ込んでいく。
躊躇しないよな。
俺もとっとと魔力を集中しないと。
ガイとバロンさんは普通に【朱雀】に向かって突っ込む。大丈夫なのかよと思っていると先に動いたのは【朱雀】の方だった。息を吸い込んだように見えると、次の瞬間に火炎のブレスを放った。
真正面から迫る火炎のブレスをガイは【瞬行】を使って避ける。
しかし何を思ったのかバロンさんはそのまま火炎のブレスの中に突っ込んでいった。
バロンさんが炎に飲み込まれる。だがその炎の中から大きな気の塊が【朱雀】に向かって飛びだしてくる。【朱雀】は火炎ブレスを吐くのを止め、空中で旋回して気の塊を避ける。
火炎ブレスが収まった所には剣を構えた無傷のバロンさんがいた。
「この防火の魔法は大したもんだ。」
バロンさんはそう言って自分の体に問題がないか見ていた。
いや、試したりしないで欲しい。見てる方はかなり心臓に悪いぞ。まぁでもかなり魔法が有効だってことはわかった。
バロンさんに攻撃が効かない姿を見ていた【朱雀】が急にその場から移動する。【朱雀】がいた場所をガイの発した赤い光が残る。ガイが空中を走って【朱雀】に斬りかかったのを、飛んで避けられたんだ。ガイはそのまま空中を走り【朱雀】に迫るが、【朱雀】の移動速度の方が早い。一気に距離を離される。
凄いスピードだな。空中戦で【朱雀】挑むのは分が悪い。
ガイは仕方なく皆のいる地上まで戻る。
「一応こちらの準備は整った。だがあれだけのスピードがあると魔法を展開してる間に範囲外に逃げられてしまう。何とか数秒でいいから動きを止めてくれ。」
俺は【念話】を使って皆に伝える。
もうすでに魔力は練り終わっていて魔法自体は唱えられる。しかし【退魔結界陣】は相手を閉じ込めるまでに数秒の時間がかかる。普通に唱えると魔法を察知して範囲外まで逃げられるだろう。
「だってよ。」
「大きな傷を負わせれれば、その場で再生するかもしれないな。」
「その傷をどうやって負わすんだって話だよ。」
「頭が柔らかいんだったらお前が考えたらいいだろう?」
「何?やんのか?」
俺の言葉を聞いたガイとバロンさんが何やら言い合いを始めた。こんな時までじゃれ合わないで欲しい。
「あの2人放っておいて、こちらでやりましょうか。」
「そうだね、姉様。」
アリアとシータがそう言った。
「【凍える雨】」
アリアが魔法を唱える。これってアリアが作った魔法だっけ。小さな氷の粒を雨の様に降らせる。その氷の粒に当たると、そこが凍り付くって魔法だった。そこまでの威力はないがかなり広範囲に氷の粒を振らせることが出来る。ただこの階層ではかなりの熱があるから、いつもより更に威力は落ちるだろう。なおかつ【朱雀】は体が炎に覆われている、当たっても凍り付いたりしないだろう。
空からばら撒かれた氷の粒は【朱雀】の周り一帯に広がる。【朱雀】は体を覆っている炎を大きくして、振り来る氷の粒を蒸発させた。周り一帯にばら撒いているから下手に避けようとして動くと自分から氷の粒に当たりに行くことになる。こちらからの別の攻撃を警戒しているんだろう。小さな攻撃を避けた瞬間に別の大きな攻撃が来るんじゃないかって。
ある意味アリアの攻撃はそれで間違いない。【凍える雨】を使ったのは目隠しの為の様なものだ。
【朱雀】の背中に何かが当たった次の瞬間、その当たった場所が爆発した。白い煙を出し、【朱雀】が一瞬空中で押された様な形になる。しかしそれで終わりではなく【朱雀】の背中から一気に氷が出来て【朱雀】を包み込む。氷漬けになる【朱雀】、しかし数mの氷の厚さがあってもすぐに脱出されるだろう。
俺は今だと思い、魔法を唱える。
「第一、線。第二、壁。第三、閉。第四、判。」
俺は一気に魔法を唱えて【朱雀】を中心とした結界を展開させる。
「第五、【退魔結界・吸魔の陣】発動。」
四角く光る結界が出来上がる。【朱雀】を中心に30m四方の光る箱みたいな結界だ。当然ガイ達はその中にいる。
結界が発動した数秒後に氷の中から【朱雀】が出てきた。何とか間に合ったようだ。
先程【朱雀】が氷に閉じ込められたのはシータが魔法具を使ったからだ。
今回俺はボスが【朱雀】だろうと思っていた。だから先に役に立ちそうな魔法具も当然作ってあった。今回魔法具に込めた魔法は俺が初めて魔獣を倒した時に使った【凍てつく棺】だ。ピンを抜いたら3秒後に思いっきり魔力を込めた【凍てつく棺】が発動するように作った。
その魔法具をシータが【追跡者】を使って【朱雀】の後ろ側に回って【凍える雨】の氷の粒に紛れて投げ落としたんだ。【朱雀】は恐ろしく早い。普通に魔法具を投げつけても避けられるだろう。しかも【凍てつく棺】の魔法具は範囲攻撃だから、使った人間も範囲外に逃げないと巻き込まれて凍る。今回使ったのが【朱雀】だから更に問題だ。体に炎を纏っているから【凍てつく棺】が当たればそこから氷が蒸発して水蒸気爆発が起きる。さっき【朱雀】の背中で爆発が起こったのはそう言う事だ。
アリアが魔法で【朱雀】の注意を引いている間に、気配を消したシータがスキルで接近して魔法具を上手く当てて凍らせたんだ。シータはちゃんと魔法具を投げてからすぐに【追跡者】をアリアに対象を変えてその場を離れている。おかげで俺の魔法も【朱雀】を閉じ込めることが出来た。ただ俺はもう魔法に手いっぱいだから後は皆に任せよう。
氷を溶かし、姿を現した【朱雀】。
先程よりも体を覆う炎はその勢いを弱めていた。
俺が今使った【退魔結界・吸魔の陣】は【退魔結界陣】をアレンジして作った魔法だ。
【退魔結界陣】は結界内に取り込んだ敵を判別して、その敵の魔素の動きを阻害したり、吸収したりする。魔素と魔力で動いているアンデットなんかにはよく効く魔法だ。それ以外にも目の前にいる実体がなく魔素だけを固めた様な敵にもよく効くだろう。
そして俺はさらにアレンジして今回は魔素の吸収力を上げた【退魔結界・吸魔の陣】を作った。敵の魔素を吸収する力を元の魔法を何倍にもしてる。そして吸収した魔素をMPに変換してこの結界の維持に当てれる様にした。だから敵の持ってる魔素がなくなるまでこの結界は維持することが出来る。でもその間俺は結界の維持で他の事は出来そうにないけどな。
この結界内であれば【朱雀】も大きな威力の攻撃を使うことは出来ないだろう。それにずっと魔素を吸収され続けたら再生力もあまり働かないはずだ。
結界に閉じ込められた【朱雀】は辺りを見回している。氷に閉じ込められたと思ったら今度は別の壁が周りに出来ていたんだ、そりゃ驚くだろうな。しかも自分の力がどんどん減っていってることに気付くだろう。
【朱雀】が翼を広げる。するとそこから羽が抜け落ち辺りを漂いながら地上に降ってくる。もしかしてあれが【炎羽】ってスキルか?
バロンさんが気を放つ。それが振ってきた羽に当たると羽が爆発する。あの羽は何かに触れると爆発するってことか。
「シータ、奴に向かって風を吹かせるんじゃ。」
ブランがそう言った。
「うん、わかった。ププ。」
シータはブランに言われた通りにププにお願いして【朱雀】に向かって風を吹かせる。しかし宙に浮く羽は風を受けても今まで通り地上に舞い降りてくる。【朱雀】も風魔法を使えるからか?それともそういうスキルなのかはわからない。風の力ではあの羽をどうする事も出来ないのか。
そう思ったが次の瞬間宙に浮く羽が片っ端から爆発していく。
何が起こったのかと思えば、ブランが空中に砂をばら撒きププが起こした風に乗って【朱雀】に向かって行っていた。何かにぶつかった時に爆発するんだったらと思いブランが考え付いたんだろう。ブランは魔力を操作して地面の岩を砂に替えて広範囲にばら撒いている。ププが作った風の力を受けてその砂が舞い上がり羽を全て地上に降りてくるまでに無効化する。
その光景を【朱雀】はじっと見ている。流石に鳥の表情は読めないからな。怒ったりしてるんだろうか。
しかし今のでほとんどの攻撃は効かないってことが分かっただろう。今も【退魔結界・吸魔の陣】に魔素を吸い上げられてるんだ、時間が経てば弱っていくのは【朱雀】の方だ。
【朱雀】は俺と同じ考えに至ったのか体に纏わせた炎の量を一気に上げた。
そうだよな、今の状況で出来る事って限られるよな。
【朱雀】の今出来る一番の攻撃と言えば自分の残った魔素を一気に叩き込む方法。突っ込んでいって、その場で自爆だろう。
【朱雀】の力が一点に集中しているのが分かる。今ある力をかき集めて一気に開放するつもりだろう。
「なんだ、面白そうな展開になったじゃないか。」
「あぁ、俺達好みだな。」
バロンさんとガイが言った。面白くもないし、そんなの好んで欲しくもないし。どうせ好むならもっと違うシチュエーションがいいと思うよ。
なんてことを思ってるがバロンさんもガイも本気の様だ。
アリアとブラン、シータはそれぞれ支援魔法や水魔法、風魔法を使い、そして【砂の人形】を作っている。攻撃は2人に任せて防御するのに専念するみたいだ。
バロンさんとガイもいつの間にか剣に気を溜めている。
これで勝負を決める気だ。
【朱雀】がクルッと宙返りをして空から突進する。30m位の結界の中だから一瞬で皆の所へ到達するだろう。
「闘気解放・終の型。【奥義・龍王顕現】」
そう言って振るったバロンさんの剣から、今まで見たことのない大きさの龍の形をした気が放たれる。今までの龍の型をした気とは違いまるで本物の龍の様な姿だった。東洋の龍の形は変わりがないが、その体は大きく、エメラルドグリーンの鱗まで見て取れた。その龍が大きな口を開き【朱雀】に向かって行く。
【朱雀】とバロンさんの龍が激突する。
龍はその大きな口で【朱雀】に喰らいついた。【朱雀】の突進はそこで一旦止まる。龍は【朱雀】に噛み付き、その体を喰らった。
体の大部分を食われた【朱雀】の体が膨らむ。
そこで爆発するつもりか。
そう思ったら【朱雀】の目の前にガイがいた。自分から【朱雀】に向かって跳んだみたいだ。
「闘気解放・終の型。【奥義・霧散葬刃】」
そう言ったガイの剣を持った腕が消えた。俺達には見えなくなっただけなんだろう。その証拠にいつも見える赤い剣の軌跡がいくつも走る。ただそれは幾千、幾万という数なんだろう。最初は何本もの線だった赤い軌跡は寄り集まって。【朱雀】を包み込んだ。
【朱雀】は赤い光る玉に包まれた。
最後にガイがその赤い光る玉を上から下に一刀の下に斬り付けた。光る玉は真ん中から2つに割れ、砂になったようにサラサラと消えていった。その場には何もなかった。爆発しそうになっていた【朱雀】の姿もだ。
ガイが地面に着地して剣を収めてバロンさん達の方へ歩いてくる。すると【朱雀】がいたはずの場所の下に魔法陣が現れた。ってことは【朱雀】を倒したってことだよな。
ふぅと一息ついて俺は【退魔結界・吸魔の陣】を解く。
いや、しかし色々聞きたいことがまた出てきたんですけど。
さっきのは何だ?どうなったんだ。
なんか最近こんなのばっかりだな。俺達どうなっていくんだろう。
お読み頂きありがとうございます。




