聡明生徒会長 9
「お、おい、隼人――」
「臣ちゃんさあ」
止めようとする武山さんを遮って、
会長は言う。
いつものように明るくて優しい声じゃなくて、
冷たい声で。
「いざとなったら僕が守る、って・・・言ってたよね」
「・・・・・・っ」
「これでもし、桜ちゃんが伊達に酷いことされてたら・・・どう責任とったの?」
「責任・・・」
「桜ちゃんは女の子なんだよ。身体にも心にも、一生消えない傷を負うところだった。
この事件のせいで男性恐怖症・・・いや人間恐怖症になっていたかもしれない」
「それは・・・」
「臣ちゃんの軽率な行動が、桜ちゃんの人生を壊すところだったんだよ」
僕の行動が、飛島さんを・・・
僕のせいで・・・
「ちょっと伊波くん!さっきのを聞く限り、森本くんだって・・・森本くんの方が傷つけられていたのよ」
「それは自業自得」
会長が僕から離れていく。
「桜ちゃん、大丈夫?」
「は、はい。私は・・・」
「よかった。じゃあタケ、桜ちゃんを家まで送って行ってもらえる?」
「お・・・おう。隼人は?」
「俺は国府津先生に携帯届けてくる。大事な証拠だもんね。行こう、奈津美ちゃん」
「でも・・・わっ」
「ほら、早く早く!」
会長は花沢先生の手を引いて、部屋を出て行ったようだ。
二つの足音が、遠ざかっていく。
僕はぶたれたまま、顔を上げられなかった。
だって・・・会長の言うとおりだったから。
使命感と正義感を背負ってここへ来て、
結局、僕の力じゃどうすることもできなかった。
飛島さんを危険な目に合わせて、
会長たちに助けてもらった。
「・・・ったく、しょうがねぇな、あいつ」
武山さんが近づいてきて、僕の頭に軽く触れた。
「武山さん・・・」
「ま、あいつが怒らなかった俺が怒っていたところだけどな。お前も、飛島のことも」
「え・・・」
「つーか、俺が怒ると思ったから先に怒ったんだろうな。内心、すごく心配してたくせによ」
その言葉に、顔を上げる。
武山さんは笑っていた。
「お前たちが行ってから、あいつすぐに花沢先生に言いに行って、国府津先生に言ってもらって。
あのときの隼人の焦りよう、二人に見せたかったわ。長年の付き合いだけど、初めて見たもんなぁ」
焦っていた?
あの・・・会長が?
「そう、ですか・・・やっぱり僕、信用が無かったんですね」
「あ?」
「僕には飛島さんは守れないって思ったから、すぐ行動したんでしょう?会長」
信用されていない。
その言葉を口にして、涙が出そうになる。
だけど、目を瞑って必死に堪えた。
「んー・・・そうなのかもしれねぇけど、あいつ、知ってたんだと思うぜ」
「・・・知ってた?」
「伊達が両刀だって。むしろ最近は男に手を出すことの方が多くなってるって」
――え?
思わず、飛島さんを見る。
「・・・じゃあ、会長が心配していたのは、私よりも――」
「飛島!・・・お前も被害者だ。だから早く帰るぞ」
「あ・・・はい」
なぜだろうか。
不安そうだった飛島さんの顔に、笑顔が戻っていた。
そして二人は部屋を出ようとして、僕の方を見る。
「臣も、気をつけろよ。生徒会室に隼人がいるから、送ってもらえ」
「・・・・・・はい」
「・・・森本さん」
「はい」
「ありがとう・・・ございました」
・・・飛島さんは、強い。
あんなことされたのに、もう笑えるなんて。
こんな目にあわせた僕に、お礼を言えるなんて・・・
それに比べて僕は、弱い。
「・・・・・・くっ」
だめだ。そんなことを考えたら、涙が出てしまう。
僕のせいでこんなことになったのに、
僕が被害者面して泣くのは、絶対に間違っている。
両手を痛いくらいに握り、必死で涙を押しとどめていた。
誰もいなくなった、部屋で。