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青天の彼岸花-regain the world-  作者: 文房 群
三章 組織とSF、帰る場所
38/79

ーー4

「ちなみに赤神父くんね、コードネーム『カズ』くんになったから〜」

「そうか! じゃあ改めて――――前衛部隊、鋭撃班所属のマスだ! よろしくな!」

「…………よろしくお願いします」



 一通りおじ様とリッパーによってマスさんが犬扱いされ、おれのコードネームも紹介されたところで、改めて。

 口上を述べ、スポーツ選手のように爽やかな汗を流すマスさんと握手を交わしたおれは、亡霊同伴で機材を調整し終えたルイスさんから、これから行われる検査の説明を受ける。


 ――――「ヒマだしな!」とのことで、何故かマスさんも参加することになったが、最早犬としか思えなくなっているマスさんについてはさておき。



「これがカズくんが発生させるI粒子を細かく感知する機械ね〜」



 緑のLEDが一つ点灯した、時計型の機械をルイスさんから渡される。

 利き腕につけてね〜、と指示されたので言われた通りに右手首につければ、ぴぴっという電子音がし機械の中で何かのスイッチが入った。

 一見アナログ時計である計測器をよく見てみれば、秒針にあたる細い針の進み方が通常とは違うようで。

 じっと観察していると、リズミカルに動く秒針はどうやらおれの心拍に合わせて進んでいるのだということに気付く。

 どういう仕組みなのかよく分からないが、専門家にしか分からないような構造が複雑そうな機械だ。


 少しでも雑に扱えば壊れてしまいそうだ、と時計型の精密機械に思っていれば、そんなおれの心を読んだかのようにルイスさんが口を開く。



「それはね〜、耐熱耐水防塵耐衝撃の四拍子揃えた機械で、とりあえず想定千キロまでは耐えられるように設計してあるんだ〜」

『千キロ……?』



 どうやら繊細そうなこの計測器、思った以上に性能は良かったようだ。

 想定で耐え切れる重さのスケールが桁違いでいまいち実感の湧かない計測器をまじまじと見つめながら『これが?』と疑惑の声を上げるリッパーは、指先でつんつんと時計型の機械をつつく。

 疑わしい気持ちはおれも同じだ。じいっと時計を観察する。


 …………どう見ても、ブランドものの時計にしか見えないこれが、千キロの加重に耐えられるらしい。

 科学は日々進歩していたようだ。



「それでね〜、これはつけた人のどこからI粒子が発生しているとか、濃度とか個人の周波とか型とか、あと量とかも測定してれる優れものなんだよ〜」

「えっ。I粒子がどこから出てるとかそんなのあったのか?」

「大体みんな脳とか心臓から発生してるんだよ〜。発生場所によってちょっとずつSFの特徴にも差が出てるみたいだし〜」

「へえぇ…………」



 差があるのかー、と感心深くルイスさんの解説に相槌を打つマスさんは、首に巻いたスポーツタオルで汗を拭きながらルイスさんの隣に立つ。

 おれのSFを測定するところを見学するようだ。

 おれ自身の準備は測定器を身に付けることだけらしいので、測定器に関心を寄せているおじ様とリッパーの会話を聞きながら少しの間待っていれば、準備を済ませたらしいルイスさんは手元のパットを操作し、にこやかにおれを見て小さく頷く。

 向けられたそのアイコンタクトに、おれは小さく頷きを返した。

 そろそろ検査を始めるらしい。



「リッパーは見ていて欲しい」

『おう』



 計測器に興味津々だったリッパーに声をかけて、ルイスさんと計測器の受信機と思われる機械から少し離れる。

 おれのSFはおじ様の力を使うものなので、おじ様の方の準備は出来たかと思いながら傍らに立つ串刺し公を見上げれば、ジャージを着たことで若干親しみやすい雰囲気になった名高きワラキア公は『うむ』と頭を振った。



『いつでも良いぞ、我が子よ』

「準備できた? それじゃあ始めちゃって〜」



 ルイスさんがSF発動の許可を下す。

 その合図を聞き届けたおれは、先程四苦八苦しながら解除した自分の中のスイッチに意識を向けるため、静かに目を閉じた。



 SFを解除したり発動させるための、己の中にあるスイッチの切り替え。

 それは人により便意であったり水道の蛇口であったりと、千差万別の認識があるらしい。

 そのため自分の意識の切り替え方を認識するまであれではないこれでもないと試行錯誤を繰り返したが、一度自覚すれば発動と解除の切り替えは簡単なものだった。


 おれの場合はルイスさんや医務部の人達が言っていたような具体的なものではなく、ちょっとした意識の仕方がSFのオンオフに関係していた。

 その意識の仕方というのが感情的な部分自分でもあまり良く分かっていないが。


 ――――目の前のものを、見るか見ないか。


 心の中で目を瞑る事を意識すると、身体中を巡る血液に似た熱い何がパチンと塞き止められ、循環が止まる感覚がある。

 するとそれきり僅かな身体の重みを感じると共に、少し先まで見えていた景色がぼやけ、身体能力がこちらに来たばかりのものに戻るのだ。

 逆に目を開こう、目の前のものを見ようと意識すると、目の奥が一瞬熱を帯び、そこから熱いものが全身を流れ始め身体能力が上がる。


 それがおれのSFのオンオフ方法だ。

 まったく、不思議な感覚のする切り替え方だと思う。


 それからおれの場合は無意識の内にSFを発動しているところがあるらしく、SFによる効果で見えているはずのおじ様とリッパーの姿が、SF解除後もはっきり見えている。

 その理由は測定器でおれを測っていたルイスさん曰く、非常に微弱で不随意なおれのSFによるものらしく、そのおかげでSF解除後もおじ様とリッパーとのコンタクトを可能にさせているのだという。

 SFに随意とか不随意とかあるのかと問えば、「俺も不随意系のSFだからね〜。心筋みたいなものだから気にしなくて良いよ〜」と医者は答えた。

 そういうものなのかと、なんとなく釈然としないがとりあえず納得はした。

 おじ様とリッパーの存在は心臓と同じなのだらしい。



 ――――そんな、おれの意思でコントロール出来ない方とは逆のSF、おそらくB型のものと思われるSFを発動させるため、目を開き目の前の景色を見るという意識をしたおれは、目から始まった熱が身体の全身へ行き渡る感覚を得た。

 数秒もしない内に熱は冷めていくが、身体の中へ意識を集中させれば確かに巡っている『何か』の熱い流れ。

 これがSFを発動させる原動力になっている、おれの中で精製されたI粒子かと、改めて原理の未知な循環に感心していれば、パットを眺めていたルイスさんが「お〜」と声を上げた。



「測れたよ〜カズくんのI粒子〜。B型だよ〜」

「おおっ! なになにオレも見てぇ!」

『オイテメェヤブ医者、オレにも見せろ』



 わらわらとルイスさんのパットに群がるマスさんとリッパー。

 彼らがパットに表示された数値を見る様子をおじ様と遠巻きに見守っていると、おれの測定結果を見たマスさんが「おお!」と歓声を上げ、結果を読み上げる。



「B型I粒子、数値110!」



 B型ということは身体能力強化のSF。

 その数値が百あるということは、それなりに良い数字なのだろうかと。

 読み上げられた数字から推測するも、刹那。



「しょぼっ!」



 続いて上がったマスさんの一声に、ごっそりとやる気を削がれがっくりと肩を落とした。

 期待したおれが馬鹿だった。

 そもそもこんなおれに才能とかそういうものがあるはずがなかった。恥ずかしい。

 期待したおれが馬鹿だった。

 おれが馬鹿だった。



『ああ!? 末っ子がしょぼいだとテメェ、訂正しろクソマスゴラァ!』

「イヤだって事実だし実際しょぼいし待っておまぇ、っナイフどっから出した!?」



 慌てて飛び退くマスさんが一瞬前までいた場所を、リッパーの振るったナイフが通過する。

 そう簡単に殺害しないとか言っておきながら遠くから見ても分かるくらいに殺す気満々で小型ナイフを構えるリッパー。

 腰を低く落とし今にも飛び掛りそうな切り裂きジャックにマスさんが「ひいっ!?」と引き攣った悲鳴を上げた。


 あれは止めた方が良いだろうな、と。

 「しょぼい」と言われ少しショックな気持ちを引き摺るおれが思うと、ルイスさんがほわっとした調子でリッパーの前に立ち塞がる。



「まーまー、リッパーくん落ち着いて。確かに数値はしょぼいけど、最初の方は大体みんなこんなもんだよ〜」

『…………そういうもんなのか?』



 そういうものなのか。

 疑惑の眼差しを向けるリッパーに動じる様子もなく、さらりと「しょぼい」発言にフォローを入れてきたルイスさん。

 おれもそういうものなのか、とおじ様と顔を見合わせ首を傾げていれば、さり気なくルイスさんを盾にしながらマスさんが便乗して「しょぼい」発言を弁解する。




「そうそう! オレだって最初カズと同じぐらいしか無かったしな!」

「B型のSFは使えば使うほど、鍛えれば鍛えるほど能力が上昇するからね〜。平均は500から700だけども、元々の身体能力が高いカズくんならすぐ平均値になるよ〜」

「班長なんてカズより低かったしな! 初期数値!」


『…………まあ、末っ子も成長期だしな。これから伸びるか。おう、悪かったな』



 マスさんの必死の弁解とルイスさんによる大人なフォローを受けてか。納得したと頷きながら爽やかな笑みを浮かべ、ナイフを仕舞うリッパー。

 流石の切り替えの速さである。

 これにマスさんは「生きた心地しねぇよ…………」と警戒しながらルイスさんの後ろから出てきた。

 その一通りの流れを見て、おれは薄々考えていた事を今はっきりと疑問として頭の中に置く。

 リッパーの言う常識的とは、一体なんだろうか。



「うん。基本的にはB型のSFが発動するみたいだね。亡霊が見えるためのI粒子は見当たらないみたいだけど…………カズく〜ん。次は串刺し公の力使ってみようか〜」



 多分直ぐに暴走しないという意味ではおじ様が常識的だと思う。

 ころころと感情が入れ代わり立ち代わるリッパーにおじ様とそんな雑談をしていると、ルイスさんからおじ様の能力を使えという指示が下された。


 おじ様の力、と言われたおれははて、と考える。

 おじ様の力――――もといSFとはなんなのか。ピンと来なかったのだ。


 少し思考を巡らせたおれは「ああ…………確か」と直ぐに心当たりのある事を思い出す。

 おじ様のSF。

 それはおれがこの数日間生き残るために使ってきた、あの十字架槍を持ってみろということで良いのだろうか。

 あの槍はおじ様と、おじ様の力を使っているおれ以外が持つと危害を加えるようであるらしい。

 つまりあの槍を持っている時は、おれがおじ様の力を使っている、ということになるのだと以前おじ様自身が言っていた。


 ――――つまり、おれはおじ様から十字架槍を受け取れば良いという事なのか。


 数時間前に見たマスさんのSFに比べれば地味だが、それがおれの身体能力を向上させる以外のSF。

 おそらく今回の検査で一番測定しなくてはならないものなのだろう。

 そう思い当たったおれは『クソ親父の力? は?』という、何言ってるんだコイツと言わんばかりのリッパーの視線がルイスさんに突き刺さる光景を横目に、おれと同じところに行き着いたのか。

 既に槍を持って待機していたおじ様と視線を交わし、橙色の彼の眼に了承の意が浮かんでいるのを確認してから、十字架の形を模した黒い槍に手を伸ばし――――橙の光沢を放つ串刺し公の愛槍を、掴んだ。



 その時、槍から洗練された熱い力がおれの中に流れ込んで来るのを感じた。

 眼球の奥深く、視神経に当たる場所から再び炎のような熱いものが胸の中に落ちていき、洗練されたそれと混ざり、渦を巻き、全身に巡っていく。

 みるみるうちに身体中をに行き渡る、自分のものとは違う熱の感触に目を見開くおれは、おれの熱より遥かに強靭なその力の持つ質量と、清涼な流れに、『串刺し公』という人物の偉大さと畏敬の念を抱いた人々の恐怖と紙一重の憧憬を再度知り。



 ――――夕焼け。




「おお…………おおおおおお!」



 はっ、と。

 唐突に意識が現実に戻され、おれは夢から覚めたようななんとなく尾を引く気持ちになりながら、声の上がった方へ頭を向ける。


 驚きの声を上げていたのはマスさんで、彼はルイスさんの持つパットをまたも覗きこみ、表示された数値を読み上げた。



「A型I粒子、数値1000! 初っ端でこれはすげぇぞおい!」



 千。

 一番最初に測定したおれのB型I粒子の、十倍である。



「これやべぇな! 即戦力になるじゃねぇか! な、ルイス!」

「そうだね〜。周波も串刺し公のものと完全に一致してるし…………カズくんが串刺し公本人と言っても差し支えない数値だね。面白いなぁ〜」



 興奮しいてもたってもいられないのか、バシバシとルイスさんの背中を叩くマスさん。

 勢いと音からして絶対に痛いはずであるが、しかし何事もないようにスルーするルイスさんは「B型I粒子も平均値に届いてるし、面白いなぁ〜」と穏やかな顔貌をさらににっこりとさせてご満悦そうである。

 痛くないのだろうか。背中は。


 それにしても――――と。

 検査結果を聞きこちらも満足そうであるおじ様を見上げて、おれは思う。


 やはり、おじ様は凄い。…………と。


 おれと比べ物にならない数値を、いとも簡単に弾き出してしまった。

 今も意識すればおじ様のものである清涼な力が、体内を循環しているのが分かる。

 数値という分かりやすい形にしてもらったことで、しみじみとおれはおじ様の実力、その力の強さを実感した。



 これだけの力を、おれなんかが使って良いのだろうか。

 そういう風にも、思った。



『我が子よ』



 そんな事を考えているおれの心を読んだように、おじ様はマスさん達に気付かれないようにと、ひっそり、おれに語りかける。



『そう暗い顔をするでない。それはお前の力、我が子であるお前のみが使える力であるぞ』

「…………ウラディ公。これは貴方の力だ。おれの力じゃない」

『否。それはお前の力である』



 断言するウラディ公。

 かつてワラキアを治めていた領主としての威厳を損なわず、威風堂々とおれの前で佇む彼は、ふっと唇を緩め細めた橙眼でおれを見る。

 その表情は、慈愛と、誇りに満ちていて――――


 意に従わぬ者を次から次へと串刺しにしていった残虐さなど、欠片も感じられない。

 労り、尊ぶような優しい声で、串刺し公は言う。



『力とは、たとえ星の数ほど持っていようとも、使えぬならばそれは何も持たぬのと同じ。形を持たぬ幻ぞ。

 力は自在に扱えてこそ、力である。

 我が子よ。確かにそれは我が生前使っていたもの。今では失われたもの。我にとっては過去の栄光。

 今、無くした我の力を、嘗ての栄光を使えるのはお前のみ。


 我が子よ、己を誇れ。己の力を誇れ。

 それはお前のみが許されたもの。

 我が威光を継ぐに相応しいと、我が認めた証である。

 故に顔を上げよ我が子よ。

 お前は恥じぬ事の無い、我が自慢の子だ』

「――――――」



 さも、当然のようにおれに笑いかけるウラディ公。

 真正面から惜しみないかの名高い領主の称賛を受けたおれは、目を逸らし、口篭り、顔を背け、槍を握る。

 何かを言わなくては。

 何か言葉を、返さなくてはと、思った。

 なのに気持ちばかりが焦るばかりで、言葉などぐうの音も出ない。

 なんというか――――その、おれは――――今…………。



「……………………ウラディ公」



 思いもよらず褒められて。

 照れて、いる。



「…………その、お褒めにあずかり…………じゃない。誠に…………違う。心に…………ああ、そうじゃない…………」



 言わなくてはいけない事。その内容は分かっている。

 だが、急に舌っ足らずになったこの口はうまく動いてくれず、頭の真っ白になるばかりで綺麗な言葉が出てこない。

 褒められることなんて、慣れていないことだった。

 だから、咄嗟に反応することができなかった。


 照れ隠しに槍を力一杯握りながら何度も言葉探し組み立てても、文脈が滅茶苦茶になるばかりだ。

 そうして最終的に、ようやく絞り出せたのは、苦し紛れのような小さく単純な、感謝の気持ち。



「…………あり、がとう………………」



 褒められて、誇りだと言われて――――嬉しかった。

 心に掛かっていた重みが、軽くなった。


 あまりに拙い、感謝の気持ち。

 頬のあたりに身体中を巡る熱とは違う熱が集まるのを感じながら、照れている気持ちを誤魔化すように和気藹々と騒ぐルイスさんとマスさんの方へ顔を向けた。


 ちらっと隣を見れば、おじ様は片手で目元を覆いながら明後日の方向を見ていた。

 何をしているのだろう。おじ様は。


 あといつからいたのか。

 おじ様とは反対方向、おれの斜め後ろに立つように場所を移動していたリッパーがおじ様と同じように目元を隠し、しゃがみこんでいた。

 何をしているのだろう。リッパーは。






『(我が子が我に「ありがとう」と…………っ、照れながら「ありがとう」と…………!!!)』

『(末っ子、スッゲー頑張ったな…………「ありがとう」言えたなあと予想以上に可愛かった…………!)』


「あれ? あいついつの間にあそこに行ってたんだ?」

「本当だ〜。後なんであそこの空気がぽわぽわしてるのかな〜?」

「ルイス、意味わかんねぇその言葉の意味が」


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