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青天の彼岸花-regain the world-  作者: 文房 群
二章 防衛組織と前衛部隊
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一話 邂逅-前衛部隊-



 ――――灰色の街サバイバル生活四日目。

 既におれの空腹は、限界点に突破していた。



「……おじ様。いい加減おれは化け物のジビエに挑戦するべきだと思うんだ」

『不許可だ。毒でもあったらどうするのだ』

「……………………気合いで」

『お前が堪え忍ぶ前に我の精神が狂ってしまうから止めてくれぬか』



 頼む、と半泣きで懇願されたらはいとしか言い様がないおれはそんなわけで、今日も無限に湧き出る水で空腹を凌いでいく。

 そろそろ味のついたものを口にしたいものだ。

 紅茶とか。とくに紅茶とか。



 なけなしの食糧であった苺ジャムパンとストレートティーを二日目で平らげてしまったおれは、亡霊であるおじ様の助けも借りながら無人街と化したこの街の探索を続けていたが、未だに食べられそうなものを見つけられずにいた。

 化け物を倒せば土地に実りが訪れるというおじ様の説明通り、遭遇した化け物を倒し続けた結果住宅街とオフィス街だけだったこの街の範囲も広がり、今や隣町の商店街まで散策できるようになったが。

 食べ物はなかった。

 ついでに、返り血で汚れていく制服から着替えるための衣服も。

 探索出来るようになった全範囲で電気・ガス・水道が自由に使えるようになるよりも、食べ物と衣服の方がおれは欲しかった。

 何故ないのだろうか、食べ物と着替えが。


 あと範囲が広がったと言えども、未だにおれの住んでいたマンションは復活していない。

 だがマンションがあった土地まで残り五メートルにまで探索範囲は広がってきている。

 おれが家に帰れるようになるのも、時間の問題だろう。

 その前に、飢え死にしなければの話だが。



『水のみで一ヶ月生きていけるとお前は言っていたが、それは大人しくしていた時の話であろう?』



 サバイバル生活三日目にしておじ様が言った言葉に衝撃を受けたおれは、このままじゃ自分が二週間も生きていられない可能性がある事に気付いた。

 人間確かに体格などで条件差はあるが、水があれば一ヶ月は生きていられる。

 だがそれは昼間も何もせずダラダラとしていた時の話だ。

 現在おれは昼間は街の散策と化け物退治。夜はたまに化け物に追われている生活。

 体内エネルギー消費量はとてつもない数値を記録しているはずだ。

 つまりどういうことか。


 おれは水だけじゃ生きていけない、という事だ。


 今更になって危機的状況に自分が追いやられている事に気付いたおれは、三日目、四日目と。想像を絶する空腹に耐えながらも探索と化け物退治を続けていたのだが。

 ――――そろそろ、胃が限界かもしれない。



「…………おじ様」

『何だ、我が子よ』

「おれ、次の化け物が食べられそうな形をしていたら、丸焼きにして食べるよ」

『!?』



 驚くおじ様の表情を余所に、街で一番高いビルの屋上から初日より範囲の広くなった街を見渡すおれは目を凝らし、化け物の姿を探す。

 今朝からずっと鳴っている腹の虫を治めるため、なにより食糧調達を優先するべきだと思ったのだ。

 元の世界に帰る方法も、おれ以外の被害者も今のところ見つかっていないので。


 一先ずやるべきは食糧調達。

 そう決めたおれはこの数日で不思議なことにかなり良くなった視力を駆使し、隣町の隅からこの街の隅までぐるりと見渡して――――うぬ、と。

 隣町とこの街の境界付近で、見たことの無い影を見つけた。

 影、と言えどもおれからすればゴマの粒が動いているようにしか見えないのだが。


 すぐにおれは『亡霊故に空腹の苦痛を分かち合えぬとは…………!』と昨日からおれに対する罪悪感でいっぱいのようであるおじ様を、現実へ連れ戻す。



「……おじ様、あれは…………?」

『ぬ…………あれは、人影の様であるな』

「…………人影?」

『うぬ。それも複数人…………服装に統一性が見える。武器らしきものを持っている故、軍であるやもしれん』

「…………軍?」



 この化け物の巣窟と化した街に、軍。

 まさかおれのようにこの世界に軍隊が迷い込んだのだろうか。

 そんな予想を立てるおれの傍らで、『ぬっ』と数十キロメートル先の人影を見詰めるおじ様は声を上げた。



今女(おんな)が一人、怪物に襲われた』

「…………女?」



 それは女兵士か、という事を訊こうとする間もなくおじ様は実況を続ける。



『女は怪物の一体に目をつけられた。女の仲間である軍隊は別の怪物に囲まれ戦っている』

「……その女の人、戦えるのか」

『分からぬ。こちら側に来たのであれば何かしらの力を使えるはずだが…………どうやら襲われた際に負傷したようである。逃げることは無理なようだ』

「……そうか」



 軍隊であるなら、素人のおれより上手く化け物と立ち回れるかもしれない。

 そう思い出来るだけ軍隊の邪魔をしないように、手助けが出来ればと思っていたおれたが、事態は緊急であるようだ。



「――――行こう、ウラディ公」



 少し前のおれなら決して言わなかっただろう決起の言葉を口にしたおれは、ビルの屋上にある落下防止の為につけられているフェンスの上に立った。

 自分の力を自覚し、生き物を殺す覚悟をしたあの夜から積極的に化け物退治をするようになったおれの成長を誰よりも喜んでいる串刺し公は、満足げに笑いながらおれに槍を手渡す。


 十字架の形をした、串刺しの槍。


 この数日で使い慣れてきた長物を握ったおれは、両眼球から生じた熱が全身に巡って行くのを感じながら、燃える眼を開く。

 先程よりもずっと、明瞭に見えるようになった視界。

 ゴマ粒のようにしか見えなかった人影が、服装から表情まで正確に見えるようになったところで、おれは落下防止フェンスを蹴り――――


 ビルの屋上から屋上へ、住宅の屋根を伝っての移動を開始した。



 この四日間。昼夜問わずおじ様の槍を振るい続けたおれの体には、変化が現れていた。

 おれが槍を振るう度、おれがおじ様から槍を受け取るごとに、身体能力が著しく上昇したのだ。

 たとえば屋根から屋根へ飛び移ったり、数十メートルの跳躍をしたりと、頭の中で思い描いていた現実的には不可能だった行動が、出来るようになったのだ。

 それは脚力に限らず、槍を投げる時に使う腕力や化け物の攻撃を見切るための動体視力、はたまた化け物の気配を感じ取る触覚まで。

 おじ様の力を使うごとに、向上していったのだ。


 おじ様の話によると、これはおじ様が持っていた本来の力がおれに馴染んできた、という事らしい。

 槍を使い始めた当初は疲労感と空腹感に襲われていたおれだったが、今では空腹感だけが戦闘の後に訪れるようになった。

 絶大な力を使った代償は無くならないらしいが、体にかかる負荷は軽くなったのだろうと、化け物退治後息切れをしなくなったおれはおじ様の力の定着を実感してきている。


 同時に、力を使っていない時のおれの身体能力もかなり上昇しているらしく、先程のように遠くのものが見えたりするようなった。

 力も煉瓦を拳で砕けるほど強くなったし、毎朝行っているジョギングもあまり疲労を感じなくなっていった。

 ただ、力を発動していない状態で段々と常人離れしていくのは、嬉しいようであまり喜べないような、微妙な心境である。

 スパイ映画の俳優も軽く凌駕する身体能力。

 ようこそ人外へ、と素手で硝子を破って無傷だった時に、おれの中で何かが囁いた気がした。



 ――――そのような変化が多少あり。

 今やおじ様の力を借りなくても、長距離の屋根移動が可能になったおれは軍のいる場所に向かって跳んでいる。

 力を使用している証拠である眼球の熱は滞りなく全身を循環し、身体中から溢れる力で空腹すら感じなくなったおれは、ウラディ公が実況していた女の人の様子を見ていた。


 女の人――――というより、おれと同い歳ぐらいの女の子が、化け物を前に地面に座り込んでいる。

 そのままじりじりと後退りする女の子に迫る化け物は猪の形をしており、牙にあたる場所に人の腕が生えた不気味な生き物だった。


 女の子の近くではおじ様の言っていたように、女の子と似た洋装に身を包んだ男女が、見たこともない武器を手に猪型化け物の群れと戦っていた。

 形状は剣や槍、銃などと説明できるが、その形は機械のように近未来的で、淡く発光しているのだ。



『あれは力によるものであるな』



 どうやら化け物と戦っている軍隊はおれのような被害者じゃないようだ、と分析していたオレのすぐ隣で、亡霊特有の移動方法で空を滑っているウラディ公は物珍しそうに唱える。



「ウラディ公の槍みたいなものか?」

『否。似たような気配は感じるが我のものほど強力ではなく、多彩であるぞ。興味深い』

「あっハイ」



 欲しい物を見つけた子どものようにキラキラとした瞳で言ったおじ様に、適当な相槌を打ったおれはスーパーマーケットの屋上を蹴り、化け物との戦闘が起きている現場に急行する。

 おれも、おじ様以外の力を見たことがないので、軍隊が使う近未来的な武器や使う力に興味はあるが、今それは後回しだ。

 今、おれが何よりやるべき事は。



 ――――あの女の子を殺そうとしている化け物を、串刺しにすることだろう。




 おれは女性を尊敬している。

 我が身を犠牲に子を産み、育て、無償の愛情を注ぐ全ての女性を敬う。

 たとえ自分の産んだ子どもでなくても、我が子のように全ての愛情を与える女性を、尊敬している。

 時に叱り、時に褒め、どれだけ我が子に嫌われようとも、それでも我が子を信じている女性を尊敬している。

 決断力に優れ、迷い苦しみながらも我が道を貫き通す女性を尊敬している。


 誰かを愛する事で無限の力を手にする。

 強く、逞しく、脆く、儚い女性を――――尊敬している。


 だからおれは女の人が好きだ。

 優しくし、尊重し、護るべき存在だと思っている。

 どんな女の人も等しく、護るべきものだと考えている。


 故に、おれは女性を傷付けるものを許さない。

 それが女性より、遥かに強い力を持つ生き物なら、尚更。

 だから――――



「まずは、あの子を助けよう」



 ぽつ、と独り言を呟いたおれに、おじ様何かを唱えたが、それは女の子に狙いを定める化け物に意識を集中させていたおれが聞き取る事は出来なかった。



『さて…………我が子は今回何人の女を虜にするのか…………』



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