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エピローグ

 俺は意識を取り戻した。場所は、ヴィオラ嬢に眠らされた場所と同じだった。膝が笑っているが、何とか気力で立ち上がる。周りを見渡すが、アルス王子とリーズロッテ嬢の姿はない。恐らく、ヴィオラ嬢が治療して、連れて帰ったのだろう。俺だけ森に置き去りというわけだ。


 そして、俺は時刻を確認する。6時半だった。王宮に来いと指定された時間は、7時。今から、ふらふらの足取りで歩いても、王宮へは充分に間に合う。きっと、俺の意識が戻る時間はヴィオラ嬢の魔法によって操作されていたのだろう。


 王宮に俺が到着する頃には、全てが終わっているのだろうか。婚約破棄され、呆然とする妹。王から爵位剥奪を告げられる父。結局は、俺は何も出来なかった。原作シナリオの強制力っていう奴だろうか。いや、そんなのは言い分けだ。原作を、つまり未来を知っている俺が、無力だっただけだ。


 王宮に行った方がいいのだろうか。行っても結局無駄なんじゃないか。没落決定。後の祭り。アルス王子とヴィオラ嬢の婚約が成立し、シャルロットを見下すような笑みを浮かべる。発狂するばかりのシャルロット。アルス王子やヴィオラ嬢、そして、リーズロッテ嬢側からしたら、最高の「ざまぁ」だろう。

 でも、俺には分かる。シャルロットだって、あいつなりに一生懸命だったんだ。方法や手段は間違っただけかも知れないけど、一生懸命だったんだ。俺は、妹の努力を「ざまぁ」って、薄ら笑うことなんてできない。


 俺は、決めた。たとえ、アルス王子が、ヴィオラ嬢が、国王が、リーズロッテが、会場にいる貴族全員が、妹のことを「ざまぁ」と思っても、俺は彼女の努力を、彼女の愛を褒めようと。讃えようと。お前は、お前なりに頑張ったと妹に言ってやる!!!! 少なくとも、前世の俺が出来なかった努力をシャルロットはやっていた。俺の自慢の妹だ。たとえ誰が妹を罵ろうが、俺は最後まで妹を庇う。守ってやるんだ!!

 

 俺は王宮へと急いだ。


 ・


 王宮の入口に辿り着いた俺を迎えた兵士は、

「お待ちしておりました、ウィズワルド様」と、俺はあっさりと入城を許される。


「こちらで、衣服をお着替えください。衣装は既に用意されております」と、今度は豪華な応接室に通される。

 いや……。俺のマントはアルス王子に斬られたり、泥で汚れているけれど、今更着替える必要はないんじゃないか? どうせ没落だろう? いや、でも、こんな格好で行ったら、恥の上塗りになるだけか。焦る気持ちを抑えて、俺は服を着替えることを承諾する。


 そして案内される鏡の間。この場所に19時に来るようにと、アルス王子に言われた場所だ。時間も偶然に近いがぴったり19時だ。


「こちらで少しお待ちください」と、鏡の間の入口から少し離れた場所で待つように衛兵に指示される。そして衛兵が扉を開け、「ロマネスク・ウィズワルド様。ご到着」と高らかに叫ぶ。そして、衛兵が俺の到着を告げ知らせると、鏡の間でなっていた音楽が停止する。扉から洩れていた談笑の声も止まる。


 静寂が訪れ、そして衛兵が、「ロマネスク・ウィズワルド様。どうぞお入りください」と俺を誘導する。俺は黙って、鏡の間の門を通る。


 好奇の目で俺を見つめる貴族令嬢達。アルス王子も、ヴィオラ嬢も薄ら笑いを浮かべている。リーズロッテ嬢も、扇で口元を隠しているが、きっと笑っているのだろう。


「みなさん、せーの、で行きますよ!!」と、明るい声が響く。シャルロットの声だ。声の方向を見ると、シャルロットは一番高い場所にいた。


「せーの!!!!」とシャルロットが叫ぶ。






「お誕生日、おめでとう!!!!」





 会場にいる全員の息の揃った一言。そして、その後、楽しげな音楽が演奏し始める。


 そして唖然としている俺に近づいてくる偉そうな夫妻。


「ウィズワルド君。君が優秀であることは息子から聞いているよ。今日は、誕生日おめでとう」と、貫禄のある宝石を鏤めた杖を持った貫禄あるおっさんに言われた。


「暫く見ない間に、随分と男らしくなって……。シャルロットちゃんが娘になるのも待ち遠しいけれど、貴方が義理の息子になるのも楽しみだわ。それに今日は、お誕生日おめでとう」と嬉しそうに言う貴婦人。


 ん?


 この夫妻は、国王と王妃様?


 思考が止まっている俺に、次は、アルス王子がやって来る。


「いやいや、先ほどの魔法は効いたよ。今度、是非先ほどの魔法を教えてくれ。そして今日は、誕生日おめでとう」とアルス王子は言って、そして去って行く。


「やぁ、息子。今日のパーティーに出席している令嬢からなら婚約者を選んで良いぞ。この国の百花繚乱、全て集めたつもりだ。お前も早く、婚約者を見つけろよ!! まぁ、何にせよ誕生日おめでとう。あと、4つを取れば家督が譲れるな。俺は早くお前に家督を譲って、田舎でのんびりしたいから、いろいろ頑張ってくれよ」と、父のロバート氏は言う。


「ウィズワルド。お誕生日おめでとう。立派に育って、母は誇らしいわ」と、目に涙を溜めながらマリアテレジアさんが言う。


 そして、大きな皿を抱えながら妹がやって来た。後ろに、リーズロッテ嬢とヴィオラ嬢の姿も見える。


 なんか、妹は、いつも俺の前では見せないような、もの凄い笑顔なんですけど……。


「お兄様、お誕生日おめでとうございます」とシャルロットは言う。


「あ、ああ。ありがとう」と俺は月並みの返事をする。


「最近あまり目障りじゃないお兄様の為に、こんなパーティーを企画した訳でもないし、この料理を作った訳じゃないんですよ。でも、お腹減っているなら、誕生日ってことを多めに見てあげるから、早く食べなさいよ!!」とシャルロットが俺に対して言い始める。


「ちがうでしょ。シャル。半年間ぐらい元気のないお兄様に対して、何か出来ることはないかと考えて、このサプライズ誕生日会を企画しました。是非、お楽しみください! でしょ?」とリーズロッテ嬢が妹の言葉を翻訳していく。


「それに、お兄様への誕生日プレゼントとして、手料理を一生懸命作ったので、食べて下さい!! でしょ? シャーロット様」と、ヴィオラ嬢が笑いながら妹の先ほどの言葉を訂正している。


「そ、そうよ。だから、お兄様は、いろいろと感謝しなさい!!」とシャルロットは言う。


 俺は、魔力が減っていて、空腹だ。当然お腹が空いている。そして、妹が両手で持っている料理は、とても美味しそうだ。


「いただきます」と俺は言って、それを喰い始める。美味しい。旨い。


「お兄様、そんな泣きながらお食べになるなんて、下品でございますわ。私、非常に不愉快です」とシャルロットが叫んでいる。


「だから、そういうときは、美味しそうで何よりです。私は嬉しいです、って言えば良いんだよ?」とヴィオラ嬢が妹に説教をしている。


「ちょっとお兄様。もう一皿あるからって、これを全部食べて良いという訳ではございません!!」と妹が叫ぶ。


「だ・か・ら、別の料理も用意してますので、存分にご堪能ください! でしょ?」と、リーズロッテが妹の頭を軽く扇で叩く。


 みんな、俺の誕生日の為にいろいろ準備してくれたんだ。すっごい嬉しいよ。


「今日集まってくれた皆さん。お礼を言わせてください。ありがとう。そして、これだけは言わせてください……みんな、大好だ!!!!!!!!!!!!」

 俺は力の限り叫んだ。


「口に食べ物が入っている状態で、お話にならないでくださらない? 口の中のものが見えて、不愉快ですわ!!」と妹も同時に叫ぶ。


 だが俺は気にしない。分かっていた気がする。気付いていた気がする。この世界は、悪役令嬢を題材にした小説の舞台なんかじゃない。みんな必死に生きている。

 

 俺は、この世界の全てが大好きだ!!!! この世界で俺も必死に生きてやる!

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