3 武闘会 ~妹の戦い~
俺が意識を戻したのは、ベッドの上だった。
「お兄様、お目覚めになられたのですね」とシャルロットが言った。
「ここは?」と俺は周りを見渡す。
「保健室ですわ。お兄様は、魔力切れで、泥酔した者のように下品に闘技場に倒れてしまっていたのですわ」と、どうやら看護をしてくれていたような感じのシャルロットが言う。
「俺は、負けた?」
「それはもう、無様に」とシャルロットは言う。
「そっか。ごめんな」
「私に謝ることなんてありません。決勝リーグまでいけないなんて、ロマネスク公爵家始まって以来でございますわ。ロマネスク公爵家の誇りに傷が付きましたわ」
え? なに、その一族の恥的な感じ。俺、頑張ったんだけど……。
「それで、シャルロットは?」
「次は、準決勝です」
「相手は?」
「ヴィオラですわね」
「そっか。強敵だな」と俺は言う。結局、原作通りになってしまったようだ。
「いえ。ヴィオラは、既にどっかのアホとの戦いで魔力切れの状態ですわ。気力だけで、戦っているという感じですわね。魔力切れで気を失ったどっかのアホに、彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいものです」
えー? その「どっかのアホ」って、絶対俺のことだよね? 「お兄様」から、「どっかのアホ」におもいっきり格下げ?
「では、私は準決勝の試合がございますので、失礼します」とシャルロットは、席を立ち保健室から出ていく。
彼女の座っていた椅子の横にバスケットが置いてあった。メイドが持たせてくれた俺の弁当だったので、とりあえずその弁当を食った。いやー。魔力切れってまじ空腹で、死ぬかと思ったぜ。
・
食事が終わり、観客席へと行くと、準決勝が始まるところだった。シャルロットとヴィオラが闘技場に上がる。
ヴィオラは既に足取りが覚束ない。彼女の着ている服も所々が焦げ付いている。まぁ、焦がしたのは俺の可能性が高いんだけど……。魔力切れなのだろう。
そして試合が始まる。
先手を取ったのはシャルロットだった。瞬時に距離を詰め、レイピアで攻め続ける。ヴィオラも双剣でその攻めを捌いていく。
だが、この戦いは変だ……。会場は歓声で熱気に包まれているが、俺は違和感を感じる。
なぜ、シャルロットは、魔法での攻撃を使わないんだ?
ヴィオラも既に魔力切れの状態だとシャルロットは言っていた。普通なら、安全な距離を取って魔法を使えば良い。魔力切れの相手なんて、一般人とほぼ変わらないのだから、魔法を放てばそれで勝負は決するというものだ。
しかも、レイピアとダガーでは、間合いが違う。距離を詰められれば詰められるほど、レイピアが不利となる。現に、徐々に試合はヴィオラが優勢となってきている。それに、双剣とレイピアでは、攻撃の手数が違う。ダガーの方が完全に有利だ。
もしかして、シャルロットも魔力切れの状態なのか? 俺が気絶している間の戦いで、シャルロットも魔力を使い切ってしまったのか?
剣での打ち合いが続く。
シャルロットは徐々に押されていき、じりじりと下がっていく。そして、後半歩下がれば、場外に落ちるという崖っぷちだ。
シャルロットもそれに気づいているのか、渾身の一撃を放つ……が、それをヴィオラは見事に躱し、逆に、足払いによってシャルロットが地面になぎ倒される。
いや、あのヴィオラ嬢、俺の時もそうだったけど、足癖悪いな……。
地面に倒れたシャルロットに素早くヴィオラは、マウントポジションを取り、ダガーをシャルロットの首元に突きつける。
勝負有り。
準決勝の勝者は、ヴィオラ嬢だった……。