1 学園生活半年の総括
アルヴァンディア学園に入学して半年が経った。この世界に不慣れな点は多々有ったけど、学園の新入生として不慣れな部分が多いのは他の学生も同様で、あまり俺の粗相は目立っていない。俺が憑依した人間、悪く言ってしまえば、ウィズワルドという人格を乗っ取ってしまったということは、周囲にはバレていないと思う。いや、バレていないと信じたい。
そして、肝心の妹の断罪イベント回避に関しては、具体的な対応が出来ていないというのが本当のところだ。この世界での俺、つまりロマネスク公爵家ウィズワルドとしての振る舞い方やこの世界での常識を覚えたり、そして学園の授業をこなすということで精一杯で、半年が過ぎてしまったというのが実情だ。
しかし、残念なことに、アルス王子とヒロインであるヴィオラ嬢の関係は、徐々に深まっているようだ。俺はBクラスで、Aクラス内のことは詳しくは分からないが、魔法実技でペアをアルス王子とヴィオラで組むことが多いというような噂を聞いた。それはもちろんその噂というのはヴィオラ嬢の悪い噂でだ。
ヴィオラ嬢。オリエントな雰囲気を漂わせる、栗色の髪の毛に黒い瞳。髪の染色が当たり前だった元日本人の感覚からいえば、あまり珍しい感じはしないのだけど、この国の貴族にとっては珍しい色だ。この国の貴族は、金髪が当たり前だ。だから、栗色の髪のヴィオラは、下賤の血が入っているという陰口を叩く奴らは多い。Bクラスでは、本人もいないということであった、大っぴらに貴族令嬢達はヴィオラの悪口を言っている。
それに、彼女が「特待生」であるということも、貴族令嬢達の癪に障るらしい。そもそも「特待生」枠は申請制で、ある程度の魔力と成績があれば「特待生」の認定を受けて、アルヴァンディア学園の授業料や学園での生活費を免除されるのだ。この国の貴族であれば、血統により魔力は生まれつき強いし、申請さえすれば大体はその申請は認可される。しかし、そんな学園の学費が払えないほど生活に困っている貴族なんていないし、貴族で「特待生」枠を申請すれば、周りから白い目で見られるのだ。貴族からすれば、「特待生」を申請するというのは、家が貧しいと公言しているということでしかないし、「特待生」の称号は、貴族にとっては恥ずべき称号なのだ。
それもあって、「特待生」枠は、平民から突然変異のように生まれた強い魔力を持つ者の為の枠というのが貴族間の認識だ。今年の新入生で言えば、ヴィオラ嬢がそれに当てはまる。平民出身のヴィオラ嬢は、平民からすればとても払えないような金額であるアルヴァンディア学園の学費は払えない。でも、強い魔力は持って居るし、その魔力を活かした仕事に就ければ、平民では絶対に手に入らないような給金を得ることができる。だから、ヴィオラ嬢は、平民でありながら、99%が貴族の子息であるというこの学園に入学してきたのだ。
だから、「特待生」であるヴィオラに対して、学費も払えない貧乏人が、格式高いアルヴァンディア学園に入学してきて、学園の品位を貶めている、という悪口が成り立つのだ。それに、「特待生」という言葉にはもともと、「特別待遇」という意味が含まれるし、当然、優秀な者という意味が含まれる。そこが貴族令嬢達にとって、鼻持ちならないところでもあるのだ。
しかし、実際にヴィオラ嬢は非常に成績優秀だ。先月のテストでは、堂々の1位に輝いていた。2位は妹のシャルロットで、3位がアルス王子だった。ちなみに俺は、中の上くらいだった。
前世では最下位だったことを考えると、大躍進だ。だが、どうせなら成績も楽してトップ的な感じがよかった。
だが、自分に言い分けをするということではないが、中の上ということも、それなりに凄いのだ。考えて欲しい。日本人の高校性が訳も分からず突然イタリアの高校に入学して、そしてイタリアの歴史に関するテストを受けさせられたらどうなるか?
おそらく、「中の上」という成績は取れないと思う。しかし、それを取れてしまうところが、ロマネスク公爵家ウィズワルドがハイスペックな所だ。魔方陣の暗記や歴史、地理など、暗記科目系など、どんどん頭の中に入ってくるのだ。これは、この世界の両親に感謝をすべきことだろう。まぁ、ボロが出るのが恐くて、この半年、できる限り両親との接触を避けてきたわけだけどね。
話を戻そう。アルス王子とヒロインであるヴィオラ嬢の距離は、この半年でかなり近づいているということだ。王子の婚約者である妹も、平静を保っているようだが、内心では大分気にしている様でもある。気にしているうちは良いのだが、その気持ちが嫉妬とか憎しみに転じてしまうと、断罪イベント直行となってしまう。
妹も、テストで2位だったことが相当に悔しいらしく、テストで2位という結果が発表された日から、夜遅くまで勉強をしているという日々が続いているようだ。俺が夜、トイレで起きて、妹の部屋を通る時、扉から明かりが漏れていた。きっと深夜近くまで勉強をしているということなのだろう。
俺はシャルロットを褒めるために、「2位だなんて凄いじゃないか!」と言ったら、妹は「次は1位となります。このような不覚は2度といたしませんわ。それにしてもお兄様の成績は、ロマネスク公爵家の恥としか言いようがありませんね。あのような無様な成績で、良くお天道様の下を歩く事ができますね。馬鹿、というのは、移るものだと聞いたことがあります。ですから、お兄様は私に馬鹿が移らないように自重されてください」と、嫌味を言われてしまった。
まぁ、そんな憑依してからの半年は、こんな感じで無事に過ぎていった……。