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プロローグ

 自転車に乗りながらスマフォを弄っていて信号が変わったことに気づかず、そのまま交差点に突っ込んで行ったらトラックに跳ねられて……。俺の頭の中は真っ白になった。


 見知らぬベッドで目を覚まして鏡を見た時にはびっくりしたね。なんだ? この金髪のイケメンは? うむ、どうやら俺のようだ。このかっこいいイケメンに俺は憑依をしてしまったようだ。長い異界トンネルを抜けると、異世界でしたって訳ね。OK、状況把握だぜ。


 とりあえず、でかい部屋の中を歩き回って、情報収集に当たる。机に置いてあったのは、学校案内だった。学校の名前は「アルヴァンディア学園」。机の上にあるカレンダーは、「4月7日入学式」と記載されている。そして、4月4日までの日付には×印が描かれている。つまり、今日は、4月5日なのだろう。そして、壁に掛けてある真新しい制服。


 それにしても、アルヴァンディア学園って、何処かで聞いたことがあるな……


 あっ!! 


 あの悪役令嬢を題材にした小説の舞台じゃないか。確か、悪役令嬢の名前は、ロマネスク公爵家のシャルロットだった。シャルロット公爵令嬢は、王子の婚約者なんだけど、アルス王子はアルヴァンディア学園に特待生で入学してきた平民の女の子、ヴィオラに惹かれ始めるんだよね。そして、シャルロットは、ヴィオラを苛めて……最後は断罪イベントで婚約破棄をされて……悪事を暴かれて追放されてしまうんだよね。公爵家も、監督責任を問われれ爵位はく奪、お家取り潰しに……。



 あれは、なかなか最高のざまぁ小説だったな。スカッとしたし。次々と暴かれ追い詰められていくシャルロット。読みながらドキドキしたよ。って、俺もアルヴァンディア学園の生徒ってことは、あの断罪イベントが行われる舞踏会に出席できるってことだよな。

 あの断罪劇を臨場感あふれる場所で見学できるなんて、ラッキーだ。憑依さまさまだな。どうせ、前世って表現していいか分からないけど、俺はトラックに轢かれて助かってねーだろうし。それに、引きニートのボッチだしな。


 このイケメンなら、そして部屋の豪華さから察するにこの家はお金持ちなようだし、俺にも恋人が出来たりしてぇ。いや、もしかしたら既に許嫁とか婚約者がいるかもしれない。どうせなら、婚約者は、幼馴染属性がいいなぁ。


 妄想はとりあえず置いておいて、情報収集を続けよう。えっと、学校案内の下に平積みされている本は……。魔術教本!! 来たこれー!! この世界は魔法がありなんて最高じゃん。ふっふっふっ。早速使ってみよう。


 俺は、右手に炎、左手に氷をイメージする。すると、体から血流のようなものが右手と左手に集中していく。右の手のひらには、太陽のコロナのようなものが渦巻いている球体ができた。左には、透明な氷の塊が形成されていく。どうやら、上手くいった。


「極大消滅呪文!!! メ○ローア!!!」と俺は叫びながら両手を合わせるが……。


 炎の渦と氷の塊は、煙のように消えてしまった。ああ、そうか。炎と氷で、プラスとマイナスとして相殺されてしまったのね……。どうやら、ドラ○エ的な魔法理論の世界ではないようだ。OK、状況把握だぜ!! だが、俺の燃え上がる中二病症候群に、油を注いだな。この世界の魔法、使いこなしてやるぜ、と俺は固く決意をした。


 ふぅ。それにしても、何だか急に腹が減ったな。もしかして、この世界ではマジック・ポイントを消費したりするのではなく、魔法を使うと、腹が減るっていう設定なのか? もしそうだとしたら、サ○ヤ人みたいに大飯を食わなければならないのかも知れない。まぁ、その検証は置いておいて、とりあえず、部屋から出て、食事を食べよう。


 ・


 高い天井に、大きなシャンデリア。そして、大きなテーブルがある部屋。ここで食事をするのに間違いないだろう。俺は、適当な席に座って、後ろで控えている執事らしきものに、「飯~」と指示を与える。 そうすると、執事らしき男は「畏まりました」と、腰を90度曲げるほどの一礼をして、部屋から出て行った。初老を過ぎたおじいさんから、あんな最敬礼を受けて恐縮してしまったが、どうやら俺はこの屋敷でも偉い部類らしい。この若さで家長ってことはないだろうから、どっかの貴族の息子なのだろう。

 どうやら俺は宝くじを当たった並にラッキーなようだ。文明度の低い異世界に行って、苦労するとか、ただの罰ゲームだろ。転位するなら、お金持ち、イケメン、特権階級でないと嫌だ。



「おはようございます。お兄様」と、俺と同じ年齢くらいの女子が食事の部屋に入って来て、俺が座っているテーブルの反対側に座った。


 俺と同じ金髪で、ゆるふわロングの髪型。光り輝くサファイアのような大きな瞳。肌は陶器のように白く美しい。仮に100人俺がいたとしたら、100人の俺全員が間違いなく彼女を、美少女だと断言するだろう。彼女は、俺のことを『お兄様』と呼んだということは、俺は彼女の兄なのだろう。


「ウィズワルド様。お待たせいたしました」と言って、執事が俺のテーブルの前に給仕していく。まだ蒸気が薄らと出ている焼き立てのパンに、良い香りが漂うベーコンと野菜。そして、柑橘系の果物を絞ったような飲み物が置かれる。うん、美味しそうだ。


「セバス・チャン。私にも食事をお願い。今日は気分が優れないから、お肉はいらないわ。果物を多めにね。あと、暖かいスープも」と、俺の妹らしき美少女は細かい注文を執事に言っていく。


 一応、彼女の料理が来るのを待ってから食べ始めた方がいいのか? マナー的に。先に食べるのはまずいよな、と思い彼女の料理の到着を待つことにした。


 それにしても、俺の妹は美人だな。まぁ、俺もさっき鏡で見たときは、すっごいイケメンだったから、両親がハイスペックなのだろう。サファイアのような深い青色の瞳は、見ているだけで吸い込まれてしまいそうだ。なぜか、既視感があるんだけど、それは兄弟姉妹ってことだからだろうか?


「お兄様。先ほどから、私をじろじろと見ているようですが……気持ち悪いので、こちらを見ないで下さらない?」と、華麗な美少女は、眉を上げて言った。明らかな不快感を出して、高圧的に言われる。


「は。はい。ごめんなさい」と俺は視線を窓の方へと移す。どうやら、俺は彼女に嫌われているようだ……。


「お待たせ致しました。シャルロット様」と、執事が彼女の前に給仕していく。彼女の注文通り、カットされた果物が皿にたくさん載っていた。


 え? 今、彼女の名前「シャルロット」って言ったよな。まさか、あのシャルロット? 悪役令嬢の? いや、シャルロットなんて、どこにでもありそうな名前だ。たぶん。


 落ち着け俺! と心の中で思いながら、食事を食べる。そういえば、シャルロットは双子で、兄がいるという設定だった。妹同様、我儘で、プライドが高い最低野郎だった。それが俺っていう設定なの?


「シャ、シャルロットは、婚約者と上手くいっているかい?」と俺はとりあえず彼女と会話してみる。そういえば、女の子と会話したことなんて、10年ぶりか?


「口に食べ物が入っている状態で、お話にならないでくださらない? 口の中のものが見えて、不愉快ですわ。それに、私の心配をなさっているお暇があるなら、自分の婚約者をそろそろ決められてはいかがでしょう。身分と容姿はよろしいので、引き合いはいくらでもあるでしょうし」と彼女は言う。


「ごめんなさい……」と俺は謝る。なんか怒られた。それにどうやらまだ俺には婚約者がいないらしい。非常に残念な情報を得てしまった。


 重たい沈黙の後、「アルス王子とは先日、王宮に招かれて一緒にお茶をいたしましたわ。それに、明後日からは学園でご一緒に学べることをとても楽しみにしております。アルス王子と私は、同じAクラスということで嬉しいですわ。お兄様はBクラスで、お兄様と別のクラスになれたことも、もちろん嬉しいですが」と彼女は言う。そして、彼女の一言一言に傷つく俺がいる。


 あんまりキツイこと言うと、この世界でも俺、引きこもっちゃうよ? メンタル、紙の防御力だし……。


 しかし、アルス王子。間違いない。俺の妹が悪役令嬢のシャルロットだ。ってことは、これは破滅フラグの真っ只中じゃないか……。この世界に憑依できて、宝くじが当たった気分でいたけど、とんだ貧乏くじじゃないかーー! このままいったら妹の道連れで、俺まで破滅してしまう。

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