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悪役令嬢な妹を観察してみる  作者: 池田瑛
番外編:サイド視点
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リーズロッテ視点 ~障害があればあるほど~

 アルヴァンディア学園への入学。一日を屋敷の中で暮らす私たちにとって、学園で過ごすことができる日々というのは本当に得難い機会となる。専属の家庭教師ではなく、学友達と席を並べて学びを深める。それに、学校の中を自由に歩き、舞踏会やお茶会などとは違った形で親睦を深めることが可能となる。翼を手に入れ、自由に空を飛び回っているような、そんな気分となり、毎日がとても新鮮。


 昼休み、アルス王子、シャル。そして、新しく私たちの輪に加わったヴィオラと、木陰で食事をするのが日課となった。

 ウィズワルド様は、アルス王子やシャルとあまり学校で一緒に行動をしたりしない。ウィズワルド様だけがBクラスとなってしまったのも原因かも知れない。私も、仲の良いシャルと同じAクラスになれたことは嬉しいのだけれど、ウィズワルド様と席を並べて勉強できるのを楽しみにしていた分、ウィズワルド様とクラスが分かれてしまったのを残念に思う。

 ウィズワルド様とわたくしの接点は、廊下ですれ違っても軽く会釈をする程度。私と同じように、ウィズワルド様を慕う人達に囲まれて、少し困った顔で廊下を早足で歩く御姿。私に気づいて、目があい、そして軽く会釈をしてくださる。それがとても嬉しく、そして周りのご令嬢達に対して少しだけ優越感に浸れる瞬間。だけど、やっぱり落ち着いてお茶を飲むなり、立ち話でも良いからウィズワルド様とお話したい。


 

 一陣の優しい風が、私たちの座っている木陰を揺らして、木漏れ日が揺れた時。私は、さり気なく、ウィズワルド様のことを切り出した。

「ねぇ、シャル。そういえば、貴女のお兄様の婚約者って、誰になるのかしら?」

 

 私も婚約者が決まっていない。私は、婚約するならウィズワルド様と、お父様とお母様が婚約話も持ってくるたびにそう答えている。人の婚約の心配をしている暇があったら、自分の婚約の話を真剣に考えなさいなどと思われてしまうかも知れないけれど、気になるものは気になる。


「まだ、決まっていないわね。色々、婚約の話は、お父様が受けていらっしゃるけれど」とシャルは答えた。シャルも、ウィズワルド様の婚約の話が気になっているのね。申し込んだ側の名誉を守るために、婚約話が破談となっても、それは両親と本人以外に話すことが禁じられている。シャルのご両親も、ロマネスク公爵家のご当主とその妻。家族であるシャルにもウィズワルド様の婚約の話をするとは考えられない。ウィズワルド様も、貴族としての弁えのある方。きっと、お兄様大好きシャルが、こっそりと調べたのだろう。


「私なんてどうなのかしら?」と私は、冗談を言うような口調となるように努めた。


「残念だけど、貴女は無理じゃないかしら」と、シャルは答える。


「それは残念ね。理由を伺っても?」と私は聞く。

 平静を保っているつもりでも、舌が乾く。顔が火照る。私は、おうぎで自分の顔をあおぐ。


「昔、そういう話があったらしいの。でも、ロマネスク公爵家とハイネルラル公爵家が結びついてしまうと、王家を凌ぐ力となってしまうということで、ご破算になったらしいわ」と、シャルは言う。

 

 そういう一因もあるのね、と私は納得した。私が、お父様とお母様に何度もお願いをして、ウィズワルド様に対して過去に婚約を申し込んでいた。丁重なお断りを頂いたのだけど……。

「ウィズワルド様ご本人の意志でお断りになられたのですか?」と、お父様に尋ねても、明確な回答を貰えず、話をはぐらかされた。王家からの介入があったのだろう。ロマネスク公爵家の次期当主とハイネルラル公爵家の1人娘の婚約。2大公爵家での間の婚約となれば、この国のパワーバランスにも影響が出るから、王家にもお伺いを立てるのは当然のことではあるのだけど。

 それにしても、やっぱりシャルは、私が婚約を申し込んだことも知っていた……。シャルったらつれないわ。親友が失恋をしたというのに、何も優しい言葉をかけてくれなかったなんて。婚約を断られて、私、とても悲しかったのに……。シャルにも、ウィズワルド様をお慕いしていることを話していないから、シャルは、政略結婚の1つとしか思っていなかったのだろうけれど。


「それはとても残念だけど、シャルとアルス様が婚約されているのだから、ロマネスク公爵家と王家は結びつきは強まるわ。そして、ウィズワルド様と私が婚約すれば、王家、ロマネスク公爵家、そしてハイネルラル公爵家の結びつきが強まり、一枚岩となってこの国を支えていけると思ったのだけど? どう思われますアルス様? 」と私はアルス王子に話を振る。

 最初に切り崩すべきは、王家だろう。再度、ウィズワルド様に対して婚約を申し込んだときに、アルス王子からの口添えがあれば、私の恋が成就する可能性が大きく高まる。


「どうだろうね。でも、もともと僕がシャルロットと婚約したのは、僕が彼女に一目惚れして、我儘を言ったという経緯があるからね。どちらかといえば、ロマネスク公爵家と王家の婚姻は、例外ということだろうね」とアルス王子は答える。


 ロマネスク公爵家と王家の婚姻は、例外……。ロマネスク公爵家のウィズワルド様とハイネルラル公爵家の私の婚約を認めるつもりはなさそうね。何よ、この小心者。ロマネスク公爵家とハイネルラル公爵家が結託して王座を奪うとでも思っているのかしら。貴方が王座についたら、上手に公爵家の手綱を握るでしょうし、貴方の器量からしてそんな心配いらないじゃない! それに、ウィズワルド様が大切な妹が悲しむようなことをするはずがない。杞憂よ。


「『シャルと結婚できないなら、僕は死ぬ』と舞踏会で叫ばれたのでございましたね。妬けてしまいますわ」と私は言う。協力してくれない腹いせに、私はアルス王子を少しからかった。自分の我儘は通してシャルと婚約した癖に、なんて思うと少しばかり怒りがこみ上げる。少しくらいからかったって、バチが当たったりなんてしないと思う。


「あのときは、嬉しかったですけど、恥ずかしくて死んでしまいそうでしたわ」とシャルも恥ずかしそう。


「でもそれだと、私わたくしが、ウィズワルド様と結ばれようとしても、ハイネルラル公爵家という身分が立ち塞がってしまいますのね。どこかの恋愛小説の悲劇のヒロインね」と私はため息をつく。

 本当にそうだわ。嘆いても栓無きことですけど、2大公爵家という身分であるがゆえに、王家から婚約の賛同を得ることができない。


「あら。リーズは、悲劇のヒロインというよりは、物語のお姫様って感じでしょ」と、シャルが冗談で言う。「シャルの言うとおりだね」とアルス王子様も笑っている。

 物語のお姫様で、めでたしめでたしという結末を迎えられたらどれほど素敵か……。どうしようもないと諦めるつもりはないけど、事実は小説より奇なり。小説で読む分にはよいのだけど、まさか自分が同じ境遇になるなんて思ってもみなかったわ。それに、貴族としての務めを放り投げて、異国に駆け落ちなんて、私も、ましてやウィズワルド様も出来るはずがない。


「そういう話だと、ヴィオの方がチャンスがあるということかしら」と、私は言う。ロマネスク公爵家とハイネルラル公爵家というしがらみがヴィオには無い。それに、高い魔力を持っているという点で、卒業をすれば準貴族な扱いにもなるわけだし、ロマネスク公爵家とウィズワルド様の意向に沿えば、婚約ということも十分に考えられる。それに、自由恋愛というのかしら。私やシャルのように、婚約が成立してから交際が始まる、というような貴族の伝統にヴィオは縛られない。交際をしてから、婚約する、という順序も可能だ。はしたない言い方をすると、既に交際しているという既成事実を作れる……。

 

「そうなるわね。でも、ヴィオの気持ちが大事よ。ヴィオは、私の兄なんてどうなの?」と、シャルは答える。

 『そうなるわね』ってちょっと酷くないかしら。親友に、そしてウィズワルド様の妹でもあるシャルから言われると、私、気持ちが落ちてしまうのだけど……。やっぱり、シャルに打ち明けた方が良いのかしら。でも、恥ずかしいわ。


「えっ。いや、お話したこともないですし…… でも、素敵な方だとは…… 思います」とヴィオは恥ずかしそうに答える。

 そうよね。ヴィオもウィズワルド様の事が好きなのだものね。


「あら、満更でもなさそうね」と私はヴィオもからかうことにした。だって羨ましいじゃない!


「もし、ヴィオさえ良かったら紹介するわ」とシャルが言う。


「え? いいんですか?」とヴィオは嬉しそうに言う。

 私は、あーまたそれか、とちょっとシャルに飽きれる。たぶん、私もヴィオも、ウィズワルド様の事をお慕いしていると気づいていないのだろう。


「もちろんよ。でも、兄を紹介してくれと頼んでくる令嬢の方々には常々申し上げているのだけど、文武共に、私よりも優れてからね」とシャルは言う。


 案の定、ヴィオもそれを聞いてぬか喜びだったと気付いてとても残念そうな顔をした。悪意がシャルにはないのは分かっているけど、それでもちょっとヴィオが気の毒。


「もう。それは誰にも紹介する気がないってことじゃないの? 何だかんだ言って、貴女のお兄様を、まだまだ独占したいだけなんじゃないの?」と私は今度はシャルをからかう。

 

「そんなことはないですわ」とシャルは、真顔で否定するけれど、説得力が全くない。アルス王子も苦笑いをしているじゃない。

 そもそも、シャルって、自分のお兄様がどれだけ素敵な方なのかをいまいち分かっていないんじゃないかと思える時もあるのよね。シャルも、お兄様が大好き過ぎて、盲目になっているということなのだろうけど……。『お兄様ったら、本当にだらしがないんです』なんて愚痴を溢すようにシャルは言うけど、普段からウィズワルド様の近くにいれるシャルがどれだけ羨ましいか。それに、シャルのウィズワルド様への不満は大抵ハードルが高い。流石にその指摘はちょっと…… いくらウィズワルド様でもそれは無理なんじゃない? と言った類のものが多い。たとえば、先日の、『高等魔法を5連発打っただけで、お兄様はへばってしまって情けないんです』なんていう愚痴。普通は、連発できるだけでもかなり凄い実力者。それに対して不満を言っているシャルだって3連発できるかどうか怪しい。アルス王子も調子が良いときに4連発できるかどうか、という水準。それなのに、シャルはそんなことをお構いなしにウィズワルド様の愚痴を言うのだ。もちろん、お屋敷でのウィズワルド様のご様子を聴くことができるから、シャルの愚痴も楽しく聞かせてもらっているけど、たまにシャルの兄に対する感覚を疑っちゃう時があるのよね……。アルス王子も、苦笑いしているということは、私と同じ気持ちでしょ?


「分かりました……」とヴィオは小声で答えた。

 ヴィオは諦めるつもりはないようね。もちろん、わたしくも諦めるつもりなんてありません。

『障害があればあるほど、恋は燃え上がり、乙女は美しくなれる』。このことわざは的を得ていると思う。

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