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悪役令嬢な妹を観察してみる  作者: 池田瑛
番外編:サイド視点
14/17

リーズロッテ視点 ~傲慢だった私~

 わたしくの名前は、リーズロッテ。

 この国の二大公爵家である、ハイネルラル公爵家が一人娘。自分で言うのはなんなのだけど、容姿も優れている。魔法だって、ハイネルラル公爵家の長い歴史の中でも上位に位置するほどの実力を持っている。

 容姿端麗。そしてハイネルラル公爵家の一人娘という地位。少し品無く言ってしまえば、美しく、地位も、お金もある女。言い寄る貴族の男は数知れない。私の親友でもあるシャルが、この国の王子であるアルス様と婚約されてからは、人気は私に一極集中している状態。舞踏会には、他の貴族のご令嬢もおりますのに、なぜか皆様、紅一点であるかのごとく、殿方は私の周りを囲まれます。本当に困りものです。


 そして、本当にダンスを踊りたい方は、私の傍にやって来てはくださいません。

 冷徹とも思えるサファイア色の視線。でも、その先には誰よりも優しく、誰よりも頼もしいウィズワルド様。

 今日も、私はあなたとダンスを踊れない。仕立てたばかりのドレス。美しく巻き上げられた髪。イヤリングやネックレス。そして、身にまとう香水。すべては、ウィズワルド様に見ていただけたいから。

 私だけの特注の香水。親友のシャルも他の方も、どこの香水師が作った香水なのかを知りたがっているようだけれど、私は教えたりはしない。


 どうか、私だけの(かおり)よ。風に乗り、ウィズワルド様のもとへと届き給え。私の恋心と一緒に。残り香よ。ウィズワルド様にわたしのことを想起させ給え。


 ・


 ウィズワルド様と最初にお会いしたときから惹かれておりました。それは、幼い日。王宮の宮廷で、お茶会でご一緒した時でした。アルス王子、ウィズワルド様、シャルロット、そして私が初めて一堂に会した日。


 私は、お父様のご言いつけで、アルス王子と親交を深めるようにと言われていました。だから、ウィズワルド様とは自己紹介の言葉を交わしただけだった。それだけだ。でも、私にとってはそれだけではなかった。

 私が惹かれたのは、ウィズワルド様の優しい目だった。双子。ちょっとだけお兄さんであるウィズワルト様が、妹であるシャルロットを見る目の優しさ。羨ましかった。

 私は、ハイネルラル公爵家の一人娘。そして私は末っ子だ。年の離れた兄が2人いるが、その2人の年は2歳しか違わない。私とは、7歳も離れていた。私が物心がついたころ、兄たちと遊ぼうと必死に剣を振ったが、2人の兄の技量に届く訳も無く、いつも邪魔者扱いだった。


「リーズにはまだ早いよ」と、私は兄2人が楽しそうに魔法や剣の訓練をしているのを離れた所から眺めて居るだけだった。兄弟の輪に入れない寂しさがあった。


 兄達からの愛情に私は飢えていたのかも知れない。ウィズワルド様がシャルに向ける眼差し。それが最初、羨ましかった。ウィズワルド様に、妹のシャルを見るような優しい眼で、私自身をも見て欲しかった。

 優しい兄。私も、ウィズワルド様のようなお兄様が欲しかった。最初の感情は、私のただの無いものねだりだったのだと思う。だけど、彼の優しい眼はずっと私の心のしこりとなって残っていた。

 

 時は流れ、私は社交会に参加が許される年齢となった。私は、傲慢な女となっていた。私に言い寄ってくる男達に、私は「私とあなたでは、釣り合いが取れませんもの」と言って、ダンスの誘いをお断りさせていただいていた。私の美しい容姿に比べて貴方は? とか、公爵家の私と貴方が? というような相手を見下した言い方。


 ウィズワルド様と舞踏会でダンスを踊るきっかけを作ってくれたのはシャルだ。私自身も、男性からの誘いをあしらうのに大変だったが、ウィズワルド様も女性からのダンスの誘いを受けて、常に踊っている状態であった。そんな時、シャルがウィズワルド様を私の前まで引っ張ってきて「お兄様とリーズって踊ったことあった?」と私達を引き合わせたのだ。


「じゃあ踊ろうか?」とウィズワルド様が透き通るような声で言ったのを今でもはっきり憶えている。

 私達は踊った。情熱的でもなく、平凡なダンスだったと思う。一曲踊ったあと、さっと別れた。そして、ウィズワルド様は別の女性から誘われてダンスを踊り始める。私も、直ぐに別の男性と踊った。


 そして、ふっと私は思った。何がきっかけだったかは分からないけれど、胸にすっと落ちるように私自身が納得できた。

 それは「ウィズワルド様と私は釣り合っていない」ということ。私は、ウィズワルド様の傍らに立つには相応しくないということ。今まで散々、殿方を「釣り合いが取れない」と見下していた私が何故か自然にそう思えた。


 「釣り合いが取れない」と前回の舞踏会でダンスのお誘いをお断りさせてもらった殿方達が、次の舞踏会でも懲りずに私にダンスを申し込む。私は鬱陶しい、何度来ても同じよ、と思っていた。だけど、私の考えは変わりました。


「釣り合いが取れない」からと言って、すぐ諦める。そんな弱い貴族はいない。敵の大軍に囲まれて、諦めて降伏するような貴族はいない。戦い抜いてこそ、私達は特権階級である貴族なのだ。私の目が開けた瞬間だった。


 よく観察してみれば「釣り合いが取れない」と私があしらった殿方達も、次の舞踏会でダンスを申し込む際には、某かの変化があった。好ましい変化もあったし、眉をひそめたくなる変化もあった。ダンスの申込を受けても良いかな、と一瞬迷うような男性も多くなった。


 私は学んだ。「釣り合いが取れない」と諦めることを良しとしない貴族の矜持を。皮肉にもそれを教えてくれたのは、私とは釣り合いが取れないと見下していた殿方達だった。それから私は、誘いがあれば笑顔でダンスを受けることにした。そして、私も、今の私では釣り合いの取れないウィズワルド様と釣り合えるような女性になりたいと思った。


 そして、そのウィズワルド様への気持ちが、それが恋だったのだと気付いたのは、それから1年ほど経った後だった。


 アルス王子とシャルの婚約の発表。お父様はひどくガッカリされていたけど、私はホッとしたのだ。アルス王子はもちろん素敵な王子で、彼が王位に着いたならば、ハイネルラル公爵家の末席を連ねる者としてアルス様をお支えしたいと思う。

 ハイネルラル公爵家としては、アルス王子と私が婚約することは、一族の繁栄の嚆矢を射るようなもの。それが叶わなかった。お父様ががっかりされるのは無理のないことでしょう。


 けれど……私はホッとした。


 まだ、ウィズワルド様の傍らに立てるよう努力する時間がある、と。


 でも、なぜ、私が傍らに立ちたいと思う殿方は、いつもウィズワルド様なのか。ウィズワルド様の横に立っている私しか、私は想像できないのか? あぁ、これが恋なのか。そうすっと胸に落ちた。



お父様もお母様も、暇さえあれば「そろそろ婚約者を決めて欲しい」と急かしてくる。だけど、私には心に決めた人がいる。それは、ロマネスク・ウィズワルド様。私の親友のお兄様。


 いよいよ、アルヴァンディア学園に入学する年齢となった。私も、そしてウィズワルド様も……。

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