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悪役令嬢な妹を観察してみる  作者: 池田瑛
番外編:サイド視点
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シャルロット視点 ~乙女の勲章~

「痛っ」


 また、包丁で指を切ってしまった。何度目だろう。ゴツゴツとしたジャガイモの皮を剥くのに私は未だに苦労していた。


「シャルロット様。大丈夫ですか?」とヴィオが心配そうに私の指を見ている。私と同じ時間だけジャガイモを剥いているはずなのに、彼女の剥いたジャガイモは、山盛りになっている。私はまだ数えるほど。それに、私が剥いたジャガイモは、ヴィオを剥いたのよりも二回りほど小さい。皮を薄く切ることができない。


「大丈夫よ。ほら」と私は回復魔法を掛けて、傷を癒す。傷もすぐに消える。


「シャルロット様は、無意識にでしょうが、時々、包丁に魔力が流れ込んでいっています。それで、包丁の切れ味が不安定になっているんです」とヴィオは親切にアドバイスをくれる。

 魔力をおさえて、指先のチカラだけで、包丁を滑らすように……


「シャルロット様。今度は肩に力が入ってしまってますよ」


「む、難しいものね。それにしても、回復魔法を使えない人は、料理をすると、傷だらけになるのではないの?」と私はヴィオに尋ねる。既に4、5回、指を切ってしまっている。このまま行くと手は傷だらけとなるだろう。


「慣れれば大丈夫ですよ。私も、料理を始めたころは、よく指を切っていましたし。シャルロット様もコツをつかめば、大丈夫だと思います。双剣だって、すぐにコツを掴まれたじゃないですか」とヴィオは言う。


「双剣とは別よ。ジャガイモの皮を剥くよりも、ダガーで敵の肋骨の隙間から心臓を突き刺すほうが、よっぽど簡単よ」と私は率直な感想を言う。


「大丈夫ですよ。シャルロット様。きっとおいしい料理ができます」とヴィオは私を励ましてくれる。本当に素敵な子。


「痛っ。また、切ってしまったわ」と私はすぐに回復魔法を使う。


「練習あるのみですね。私は、モヤシの前処理してますね」とヴィオは微笑み、私もそれに連られて笑う。


「お母さんが私が料理を教えてくれたときに言っていたことなんですが……」と、ヴィオは、モヤシという野菜のひげ根と豆の皮を一つ一つ丁寧に取り除きながら話し出した。


「料理というのは、もちろん自分で食べるために作ることもありますが、大切な人、大好きな人に食べてもらうために作ることも多いと思うんです。だから、包丁で手を切ったり、油で火傷したりしても、それは恥ずかしいことじゃない。それは勲章なんだって。母がそう教えてくれました。シャルロット様も、お兄様の為に料理をしているのですから、その傷も勲章なんです」とヴィオは言った。


「べ、別に、お兄様を大切だとか、好きだとか思っているわけじゃないわ。誕生日だし、最近元気がないから、妹としてただ、見過ごすのもあれかと思ったのよ。そうね、貴族の矜持が許さなかったの」

「そうですね。分かりますよ」とヴィオは何故か笑っていた。


 痛い。また、切ってしまった。でも、これが勲章。大切な人、大好きな人の為に出来た傷。私達が敵からこの国を守るために戦ってできた傷と同じ。とても、誇り高い傷跡。


「回復魔法はお使いになられないんですか?」


「ん~。回復魔法を唱えるのも、飽きちゃったし、このままにしようかなって」と私は答える。


「そうですね。それはシャルロット様の勲章ですものね。ジャガイモはそれくらいで十分です。手を洗ってください。ばい菌が入らないように、包帯を巻きます」とヴィオは手際よく私の手の介抱をしてくれた。


「これから、炒めものをしますが、使うのは調理場の火だけです。上手く炒めれないからって火魔法をつかっちゃだめですよ」


「もう。そんなことはしないわよ」と、私は答えた。

 

 ヴィオが私の左手に巻いてくれる包帯。包丁で切ってしまった傷。


 それは私の勲章。

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