表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢な妹を観察してみる  作者: 池田瑛
番外編:サイド視点
12/17

ヴィオラ視点 ~貴族と平民のギャップ~

 武闘会が終わりました。優勝は、アルス王子。私は、準優勝という結果を残せました。シャルロット様にも準々決勝で勝てましたが、多大なハンデを貰って、勝ちを譲ってもらったようなものです。私との試合、シャルロット様は魔法を一切使われませんでした。魔力が底をついていた私に気を使っていただいたようです。


 試合後、勝ちを譲っていただいたお礼を言いに行くと、

「別にハンデをあげたとか、そんなつもりは無いわ。貴女の魔力が空の状態だったから、むしろ、剣技だけで勝負ができる絶好の機会だと思ったの。だって、貴女の双剣って、珍しいじゃない? 貴族はみんな、ロングソードかレイピアだもの。でも、敵がロングソードやレイピアを使ってくる保証もないし、双剣での戦いを経験しておくことも大事だと思ったのよ。結果としては、負けてしまったけど、次は負けないわ。また、今度剣技だけでの勝負をお願いしても良いかしら? それと、兄との試合で一度、貴女の足払いは見ているはずなのに、あの時、全く対処できなかったわ。気付いた時には、地面に私が横たわっていたわ。今度、アレ、教えてよ」と、笑顔でシャルロット様は言われました。


 この人には叶わないなぁと、思いました。もちろん、ウィズワルド様を諦めたりはしないので、私ももっと頑張ります!


 ・


 ・


 武闘会が終わって数日、いつものように4人で昼食を食べているのですが、シャルロット様の顔に憂いがあります。何処となく元気がありません。


「シャル、何か心配事でもあるのかい?」とアルス王子様も、シャルロット様の様子が気になったらしく、そうご質問なされました。


「実は…、兄の様子が少し変なのです。この学園に入学する直前から違和感はあったのですが、最近は特に、何か心配事があるようで、いつも暗い顔をしているのです」と、シャルロット様は、ぽつり、ぽつりと話されます。


「そういえば、先月のテストでも、成績はあまり揮ってらっしゃいませんでしたね」とリーズロッテ様がおっしゃいます。

 確かに、聡明なシャルロット様のお兄様であられるウィズワルド様であれば、成績トップでもおかしくはないだろう。


「人は、環境が変わると、不安定になったりするということを聞いたことがある。学園での生活に馴染むまで時間が掛かっているとか? だが、もう半年経っているしな。武闘会での戦いを見る限り、メキメキと実力を伸ばされているような印象だし……」とアルス王子様がおっしゃいます。


「確かに、学園に入られる前のウィズワルド様は、どこか他人を寄せ付けない空気をお持ちでしたけど、今は、角が取れたというか、少し柔らかい感じになりましたね」とリーズロッテ様がおっしゃられた。

 私の心は、少しだけチクリとした。私は、学園に入ってからのウィズワルド様しか知らない。でも、リーズロッテ様は、学園に入られる前のウィズワルド様を知っていらっしゃる。

 それに、シャルロット様は、産まれる前。お腹の中からウィズワルド様と一緒にいられた。

 そんなこと、仕方がないことななのに。学園に入れて、ウィズワルド様と出会えたことだけでも感謝しなくてはいけないのに。

 私はこんなに欲張りだった? 少し自己嫌悪になる。


「もしかして、恋の病かしら? でも最近、舞踏会でウィズワルド様をお見かけしていないし、お相手ができた、という訳では無さそうね」とリーズロッテ様が言う。

 貴族の舞踏会。きっと、華やかで優雅なのでしょう。平民の私は、もちろん参加したことが無いのだけれど。ウィズワルド様に恋人が出来た、という話ではないようなので、私は胸を撫で下ろす。


「そうね、リーズ。お兄様は舞踏会の参加も、半年前からずっとお断りされているの。恋人が出来たなんてことは、お兄様に限ってそんなことは無いと思うのだけど、舞踏会に参加されないこととも何か関係があるかも知れないわね」と、シャルロット様が深刻そうに言う。


「舞踏会で踊ったりすれば、良い気分転換になると思うのだけれどね。良かったら、僕が舞踏会を主催して、招待状を送ろうか?」とアルス王子様がおっしゃいました。

 ウィズワルド様とダンスを……。もし一緒に踊ることが出来たら、なんて素敵でしょう。でも、私はドレスを持っていなし、それに……ダンスなんて踊れない。


「アルスからの招待なら、お兄様もさすがに断ったりはしないでしょうけど、何か理由があって招待を断っているなら、無理に舞踏会に連れ出すのも少しね」とシャルロット様はどんどんとシンミリされていきます。いつも、笑顔を絶やさないお方なのに……。


「あの、シャルロット様の誕生日って、もうすぐですよね? 双子なのだから、ウィズワルド様の誕生日も同じ日ではないのでしょうか? それなら、誕生日のお祝いの会を開くというのはどうですか?」と私は言う。舞踏会には私は参加することなんてできなけれど、誕生会になら参加できるかも知れない。そんな私の打算ありありの提案だけれど。


「なるほど。それは面白いかも知れないね」とアルス王子様もそれに賛成される。


「そうね。それはいいアイディアね。ありがとうヴィオ。今日早速、家の者達に手配をさせますわ」とシャルロット様も同意される。


「堅苦しい会にしたくないのであれば、参加者は全員仮面を付けて、無礼講、というのはいかがですか?」とリーズロッテ様がご提案される。


「楽団にも、落ち着いた曲じゃなくて、明るくテンポの早い曲を演奏させるように指示をだしておいたらいいんじゃないかい?」とアルス様もご提案される。


「その会には、私達も招待してくれるのでしょ? 楽しみだわ。どのドレスを着ていこうかしら。それに……久しぶりにウィズワルド様とダンスを踊りたいわ」

「お兄様の好物の、鶏肉料理をたくさん作るように指示もしなくてはいけないわね」

「プレゼントも用意しなければならないわね。わたくしとお揃いの扇なんてどうかしら」


 リーズロッテ様とシャルロット様は、誕生日会の話で盛り上がっています。だけど、私にはよくわからないことがあるのです。それは、先ほどの「舞踏会」と「誕生日会」の違いです。

 私には、お2人がお話しているのは、お誕生日を祝う舞踏会であって、ウィズワルド様がお避けになっている舞踏会となんら違いがないように思えます。

 きっと、私が平民出身だから、違いが分からないのかも知れません。2人が話している内容を伺ったかぎり、到底私が参加できるようなもので無い、ということもあるのですが。


「あの、教えていただきたいのですが……」と小声で2人の話に割って入る。


「ん? どうしたの?」


「あの、ウィズワルド様のお避けになっている舞踏会と、今回の誕生日会の違いって、なんなのでしょう。その、わたし……平民ですし。私の知っている誕生日会と、ちょっと違うかなぁって」と私は小声で言います。

 シャルロット様、リーズロッテ様、そしてアルス王子様は、私を冷たく遇する他の貴族たちと違って、私を平民の子供だと蔑むようなことはされませんが、時々、住む世界が違うんだなって思わされることがあります。そして、ウィズワルド様と私の距離が、途方もないほど遠いような感覚になってしまうのです。


「そうね……。言われてみると……あまり違いが無いかも知れないわね。会の名前が違うだけ。それでは、ウィズワルド様の元気が出るような会にはならないかも知れないわ」とリーズロッテ様がおっしゃいました。


「ヴィオの知っている誕生日って、どういったものなの?」とシャルロット様は真剣なまなざしで聞かれます。


「あの、家族と、仲の良い友人を誘って、家でパーティーをするんです。誕生日の時だけは、お母さんが奮発して、七面鳥を買ってきてくれて、毎年、それがとても楽しみでした。それをみんなで一緒に食べて、すごい楽しいんです。私は生まれてきて、こんな大切な人たちが周りにいるんだって思えて、とても幸せな気持ちになれるんです。先月は、母の誕生日だったので、母には少し外出をしてもらって、私と弟と父で、内緒で料理を作って、帰ってきた母を驚かしたんです。母は、本当に喜んでくれたんですよ」と、私は答える。


「七面鳥を?」とリーズロッテ様は少し首を傾げられる。

 貴族様の家では、食材として特に珍しくないのかもしれません。学園の食事は、貴族様のスタンダードに合わせられているし、昼食に毎日お肉料理や新鮮な卵が出ます。豪華な食事にびっくりした入学したのは、懐かしい思い出です。


「七面鳥というのは、例えだと思ってください。普段は食べれない、その日が特別だということが伝わる料理って意味です」と、私は補足を加える。


「普段は食べることができない料理…… ちょっと思いつかないわね。ヴィオの家では、とても凝った誕生日会をしているのね。羨ましいわ。そう考えると、私がこれまで祝われてきた誕生日会は、平凡なものね」と、リーズロッテ様がおっしゃいます。

 いやいや、リーズロッテ様。それはちょっと違うと思いますが……。


「内緒で、というのは面白いわね。お兄様をびっくりさせたいわね」とシャルロット様がおっしゃいました。


「僕は、シャルが自分で料理を作って、それをプレゼントしたら、君のお兄さんも驚くと思うけどね」とアルス王子様が悪戯っぽくおっしゃいました。


「私が? でも、料理を作るのは、料理人のお仕事だわ。私達が悪戯に彼らの領分を犯すことは、良くないことではないかしら。もし、戦争が起こって私達が戦いに出る際に、料理人の方達も戦いに行きますって言ったら、私達の誇りを傷つけられたと思わない?」と、シャルロット様が仰います。


「確かにそうだね。でも、誕生日の日だけ、シャルロットが料理をする。そうすれば、『特別』という感じが出ると思うのだけど。それに、1年に1回だけなら、料理人も許してくれるんじゃないかな」とアルス王子は仰います。


「そうですね。確かに『特別』な感じはでますわね。ちなみに、私は料理したことがないから、『私の初めて』という意味合いも出てきますね」とリーズロッテ様は仰います。


「私も、料理をしたことはないですね……」とシャルロット様は頬を朱くされて、どこか遠いところを見ていらっしゃいます。


「シャルの『初めて』か……。やっぱり料理は無しかな。それは僕にとっておいて欲しいものだね」


「ご自分から言い出しておいて、今さら何を仰っているんですか」とリーズロッテ様が扇を仰ぎながら優雅に微笑まれています。


「料理、やってみましょう。だけど、どうすればいいか、全く見当が付かないわ。屋敷の料理人に教えを請う必要がありそうね」とシャルロット様が仰います。


「あの、もしよろしければ、私がお教えしますが」と私は言う。


 この学園に入学する前は、母の手伝いで料理を作っていた。母が忙しい時は、私が作ることも多々あった。貴族様の食べる料理も、学園でいろいろ食べて知ったし、実家でも材料がそろいそうな料理のレシピは、学園の料理人に聞いて知っている。


「え? ヴィオは料理ができるの? 貴女って、本当に多才よね。尊敬するわ」と、シャルロット様が真顔で仰いました。

 私は少し照れました。


「誕生日まであと8日。それまで、放課後は料理の特訓をしましょう」と私は言った。


「是非お願いね。ありがとうヴィオ」とシャルロット様は嬉しそうに仰います。


「僕も、つまみ食いにお邪魔するとしよう。そうすれば、シャルの『初めて』の手料理を食べたのは僕ということになるしね」とアルス王子様も仰います。


 私は、アルス王子様が、シャルロット様の「初めて」に拘るのが少し可笑しかったです。


「まず、明日は、ジャガイモの皮むきの練習をしてみましょう。包丁を持ってきてくださいね」と私はシャルロット様にお伝えをしました。


 ・


 次の日の昼休み、私とシャルロット様は、ウィズワルド様に内緒で料理の練習をするための打ち合わせを行っていました。教室では、何処に耳があるか分かりませんから、人けの無い校舎裏で打ち合わせをすることにしました。


「ねぇ、ヴィオ。包丁を持って来たのだけど、これで良いのかしら?」と、シャルロット様は、背負われていた分厚い鉄板でも切断できそうな大剣を私の前に差し出されました。


 え? それ? 何かのご冗談でしょうか。私の口の横の筋肉が硬直する。今日は、レイピアではなく大剣を装備されているんだなぁと思っていたけれど、冷静に見てみると、ちゃんとシャルロット様のレイピアは、腰の鞘に収まっています。


「あの、シャルロット様? 今日は、ジャガイモの皮むきの練習をするということでございましたが」と私は言う。


「ええ。それで、厨房室から包丁を借りようと思ったのだけど、驚いたわ。包丁にもたくさんの種類があるのね。それで、どれを使うのか分からなかったから、一番大きなものを持ってきたの。大は小を兼ねるってよく言うじゃない?」


「えっと、シャルロット様?」


 こんな分厚い刃肉の刃では、切ろうと思ったとしてジャガイモをむしろ押しつぶしてしまいますが……。どうがんばっても、ジャガイモの皮を剥くことなどできませんが。

 もしかして、料理のセンスが無い? いえ、きっと、シャルロット様は貴族の方。きっと調理される前のジャガイモなどご覧になったことがないのでしょう。


「シャルロット。こんなところで、何をしてるんだい?」


 突然の声。ウィズワルド様がそこに立っていらっしゃいました。


「お、お兄様。どうしてこんなところに?」とシャルロット様は大剣を隠そうとされますが、まったく隠せていません。


 私は、ウィズワルド様とこんなに接近するのは、初めてです。手を伸ばせばウィズワルド様に届いてしまいそうです。私の鼓動は早くなっていきます。


「俺は散歩かな。ところで、背中に何を隠したんだい?」とウィズワルド様はお尋ねになります。初めてお声を聞きました。お優しい声。来ては帰る海辺の波のような声。波に身を任せるように、この声に身も心も任せてしまいそうになります。


「さぁ、何のことでしょう?」とシャルロット様は必死に隠そうとされます。あっ。物質消滅魔法を使われた。あの大剣もそれなりの値段でしょうけど……。それに、消滅させて、料理人の方が困ったりしないのでしょうか。


「えっと、君は、ヴィオラさんだよね」


 ウィズワルド様が私の名前を呼ばれた。それに、ウィズワルド様が私の名前を覚えてくださっていたなんて。嬉しい。


「はっ! はい!」と私は怒られた時のように背筋を伸ばしてしまう。もう、私の馬鹿馬鹿。ちゃんと挨拶しないとだめじゃない。礼儀のなっていない人だ、なんて思われたらどうしよう。でも、緊張してしまう。貴族流の自己紹介の仕方は一生懸命練習したけれど、こんな状況じゃきっと失敗しちゃう。


「うちの妹が、さっき何か持っていたような気がしたけど、君は何か見なかった?」


 深い海のような瞳に私の意識は吸い込まれてしまいそうです。もう、何も考えられません。時間停止魔法を覚えておけばよかった。この瞬間を永遠にしたいです。


「えっと……」と、私は緊張しながらも口を動かします。そして、シャルロット様の視線を感じ、私は我に帰ります。そうだ、ウィズワルド様には内緒なんだ。誕生日会のことも。料理のことも。


「いえ、私は何も見てません」と私は答えます。ウィズワルド様に嘘をついてしまうのは悲しいけれど、シャルロット様の計画を台無しにしてしまうわけにはいきません。


「じゃあ、俺の勘違いかな。だが、シャルロット。お前はいつも、ロマネスク公爵家の誇りとか言っているからな。お前も、公爵令嬢として恥ずかしいようなことはするなよ」とウィズワルド様はシャルロット様に言われました。


「なっ!!」と、シャルロット様は驚かれます。


 私も驚きます。ウィズワルド様は、すべてをご存知なのでしょうか。シャルロット様がサプライズパーティーをご計画していることも。それに、料理をされるということも。なんて聡明なウィズワルド様。

 確かにウィズワルド様のご指摘の通り、シャルロット様が料理をなされることは、公爵令嬢としてあるまじきことでしょう。


「分かったな?」とウィズワルド様は優しくシャルロット様を諭されます。


 シャルロット様の目に涙が溜まり始め、「お兄様なんて、大嫌い!!」と言って、シャルロット様は何処かに行ってしまわれました。


 シャルロット様は最近元気がないウィズワルド様のためを思って、誕生日会を企画し、自ら手料理をされようとしていました。それを、そんな風に言われたら、傷ついてしまいます。シャルロット様の心の痛み、痛いほど分かります。それに、私も悲しくなります。ウィズワルド様は、料理ができる女性をお嫌いなのでしょうか。料理なんて平民がするもので、貴族がするものじゃないとお考えなのでしょうか。私が料理ができると知ったら、私の事をはしたない女だと思われるのでしょうか。私がどんなにウィズワルド様のことを思っても、それは適わないのでしょうか。


「えっと……。妹のシャルロットは、口が悪いし、負けず嫌いなところはあるんだ。だけど、本当はいい奴なんだ。それは分かって欲しい。この通りだ」


 ウィズワルド様は突然、謝罪をされました。


「あ、いえ。その……。頭をお挙げください」


 私は、心が悲鳴を上げながらも声を振り絞ってだしました。公爵令嬢であるシャルロット様が料理なんかをされようとしていたことを忘れてくれ、ということでしょうか。料理をすることが、そんなに悪いことでしょうか。料理ができる私なんて、嫌いですか? 謝罪をされているのは、私の貴方への恋心に対する拒絶でしょうか?


「もし、妹から何かされたら、俺が、君を守る。だから、何かされたら、遠慮などしないで、俺に言ってきてくれ。俺が君を守るから」


 え? 『俺が、君を守る』『俺が君を守るから』って? 私の聞き間違いでしょうか。いや、確かにウィズワルド様はそうおっしゃいました。そんな甘い言葉を言わないでください。私は料理ができちゃう平民の娘です。期待させるようなことはおっしゃらないでください。

 でも、誰から私を守ってくれるのでしょうか。話の文脈からすると、シャルロット様が私に危険を加えるような感じです。でも、それはありえません。


 はっと私は気づきます。私はどうやら勘違いをしてしまったようです。ウィズワルド様は、シャルロット様が料理をされることを悪いことだと考えているわけではないのでしょう。

 きっとウィズワルド様は、料理をされるシャルロット様から私を守るって言ってくださっているのでしょう。確かに、シャルロット様は、ジャガイモの皮を剥くのに大剣を使おうとされるほど、料理に対する知識が欠けています。あんな大剣を調理場で振り回されたら、油断をすると死ぬかもしれません。

 火で炒めるといって、極大の火魔法を調理場で使われたりするかもしれません。そんなことをされたら、屋敷が丸ごと吹っ飛ぶでしょう。


 嬉しいです。ウィズワルド様は私の事を守ってくださると仰ってくださった。それに、料理をされることに難色をしめされているわけではないと分かって、私は安堵しました。


「お気持ちは本当にうれしいです。でも、1週間後にはすべて終わってますから、大丈夫です。本当に嬉しかったです」と私は答えます。


 シャルロット様に料理を教えるというのは、私が自分で言い出したこと。それなのに、ウィズワルド様に迷惑をかけたりはしたくありません。私は、貴方に守られたい。でも、私も貴方を守りたいんです。そして、いつも貴方の傍らに立っていたい。貴方が傷つくときは、私も傷つきたい。貴方が泣くときは私も泣きたい。そして、貴方が笑うときは、私も一緒に笑いたいんです。


「1週間後って?」


 ウィズワルド様は、仰いました。


「あっ!!!」と、私は思わず自分の両手で口を塞ぎます。ウィズワルド様に嫌われていないということが分かって安心して、思わず口を滑らしてしまいました。


 ど、どうしよう!!!!


「その、一週間後って?」とウィズワルド様は、再度お尋ねになります。


 私の口からお伝えすることはできない。


「あ、ごめんないさい。忘れてください!! 私、用事があるので失礼します」


 私は、転移魔法を使ってその場から逃げ出してしまいました。思わず転移魔法を使ってしまったので、実家にまで帰ってきてしまいました。

「え、ねーちゃん、学校は?」と、家にいた弟が驚いています。


「あ、ちょっと忘れ物したから」と言って、私はまたすぐに学園の中庭に転移で戻りました。


 もう、私の馬鹿馬鹿。話の途中で逃げ出しちゃうなんて、なんて失礼なことを。

 でも、ウィズワルド様と二人っきりでお話ができるなんて素敵な時間でした。

 ウィズワルド様の誕生日会の日。私もこっそり料理をお出ししようかな。

 その料理を口にされて、ウィズワルド様がおいしいと微笑まれたら。

 そのときは、泣いてしまうかもしれない。

 でも、作ってみよう。そうしよう。


 家に帰ったら、お母さんのとっておきのレシピを聞こう。

 母が父に恋したとき、母が父に思いを伝えるために作った料理。

 恋を成就させる魔法のレシピ。

 私が子供だったとき、その料理のレシピを教えてとねだっても、


「いつか、ヴィオにも好きな人ができたら教えてあげるわ」と言って優しく私の頭を撫でた母。


 母も、今なら私に教えてくれるだろう。


 恋を成就させる魔法のレシピ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ