アルス視点 ~アルス王子の呟き~
自分の試合を終わらせ、観客席に行く。どうやら先に僕の婚約者のシャルは、試合を終わらせたようで、先に席に座っていた。
「試合は、どうだったシャル?」と僕は彼女の隣に座りながら聞いた。
「ええ。なんとか勝つことができましわ」とシャルロットは答える。
『なんとか』なんて謙遜をしているけれど、余裕で勝ってきたのだろう。僕も、時間を掛けないで相手に勝ったつもりだけど、彼女の方が先に席に座っていたことを考えると、相手を瞬殺してきたのだろう。
「次の試合、ヴィオラとウィズワルド」と審判が宣言をした。次は、ヴィオとシャルのお兄さんの試合か。どちらも実力者だ。そしてどちらが勝ってもおかしくは無い。
「シャルは、お兄さんの応援をするのかな?」と僕は聞いた。そして、試合の内容が細かく見れるように、自分自身に「思考加速」の魔法を掛ける。
「まさか。この試合の試合の勝者とは、おそらく準決勝で戦うことになりますので、敵情視察ですわ」とシャルは答えたが、視線は闘技場の方を見続けている。
先制は、ヴィオだった。彼女はダガーをウィズワルドに向かって投げる。しかしそれはフェイントだったようで、足払いが本命だったようだ。
しかし、ウィズワルドもヴィオの足払いを軽々と回避し、空中へ逃れる。だが、空中に逃れたウィズワルドに対して、ヴィオが追撃を仕掛ける。サンダー・メテオロギーの呪文だろう。
これは勝負あったか? と僕は思ったが、ウィズワルドは、逆にカウンターを仕掛けて、ヴィオにダメージを与えている。
「いやぁ。シャルのお兄さんはすごいね。あの鎖を避雷針として使ったのかな? どういう原理か分からないけれど、あんな見事なカウンターは、見たことがないよ」と隣で食い入るように観戦しているシャルに言う。
「私の兄ならが、あれくらいできて当然です」
流石はシャル。やっぱり兄には厳しいね。
ウィズワルドは、逆にサンダー・メテオロギーの呪文を3発、ヴィオに直撃させ、そしてさらに炎系の魔法でも追撃をする。
「あの魔法なんだろう。君のお兄さんは、優れた魔法使いでもあるけど、どうやら優れた芸術家でもあるようだね。炎を鳥の形に変えて襲わせるなんて、見たことないよ」と僕は称賛する。
実際に驚くべきことだ。通常の炎系の魔法であれば、単純に火炎を作り出し相手を飲み込む。しかし、ウィズワルドは、火炎で火の鳥を作り出して、それを相手にぶつけている。芸が細かい。
「あんなの、見た目だけでございましょう? それに、鳥の姿を模るのに相当の魔力を使っていますわね。威力事態に変わりはないのに、わざわざそんなことをするなんて、ただの魔力の無駄使いです。カッコつけているつもりであるなら、感性を疑います」とシャルは言う。
「ふ~ん」と僕は適当に相槌を打つ。シャルって、他の人には優しいし、人当たりも良いのだけど、自分の兄には異様に厳しいんだよね……。あんな魔法を打てれば、敵に対する威圧効果とかも期待できるし、有効な魔法の使い方だと思うけど。
追撃を受けたヴィオもまだ負けていないようで、ウィズワルドの火炎魔法を打ち消して、自らに回復魔法を掛けている。そして、ヴィオは「ヘル・フレア」の魔法を放つ。
さて、今度はどんな方法でウィズワルドは対処するのか……。
ヴィオとウィズワルドの間に、氷壁が形成される。炎に対して氷。無難な対応だな、と思ったが、その氷の壁は、まるで鏡のように光り輝く。
そして、観客席に熱気が押し寄せる。
まさかこれは、ただの氷の壁じゃない? ヘル・フレアの熱量を、反射させている? そうか、鏡が光を反射するように、熱自体を反射させているのか!! 守りに入っていると見せかけて、実は攻めている。
「熱いね。闘技場の中、ヴィオは、相当キツイんじゃないかな?」と僕は、シャルと自分の周りに熱遮断魔法を展開する。
「でもヴィオも頑張っていますね。魔力の消費量は、あの、鏡のような氷壁の方が多いでしょうから、先に、魔力が尽きた方が負け、ということになるでしょう」と、シャルは言う。冷静を装っているが、手に汗握っている。
まぁ、こんな高度な魔法を見せられて、興奮しない方がおかしいけれど、どちらかと言うとシャルは、兄の心配かな……?
「勝負有りましたね。どちらも倒れましたが、先に倒れたのは兄です。兄の負けですね」とシャルは言って席を立つ。
「何処へ行くの?」と僕は聞かなくても大体分かるけど、一応、聞く。
「無様に負けた兄を叱って参ります」と、シャルは言って、急いで観客席を降りて行った。
やれやれ。素直に、介抱しに行くって言えばいいのに。
それにしても、僕の最大のライバルは、シャルのお兄さんなんじゃないか? そう、時々思うよ。
アルス王子は誰にも誰にも聞こえないような小声で、そう呟いたのだった。




