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悪役令嬢な妹を観察してみる  作者: 池田瑛
番外編:サイド視点
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ヴィオラ視点 ~ヴィオラの決意~

 好きな人が出来ました。こんな気持ち初めてです。

 あの人を一目見たときから。

 金髪の流れるような髪の奥の、深い海のような瞳。

 その瞳の中に、どこか憂いを伴って歩いている姿。

 私には好きな人ができました。

 その人の名は、ロマネスク・ウィズワルド様。

 その人は、私と同じ新入生でした。クラスは違ったけれど。


 私は卑怯な人間かも知れません。

 ウィズワルド様に、双子の妹がいることを知りました。

 妹様は、私と同じクラスでした。

 ウィズワルド様と同じ蒼穹の瞳。

 私は卑怯な人間かも知れません。

 ウィズワルド様に自分から話しかけに行く勇気なんてないくせに、

 妹であるシャルロット様と親しくなれば、その兄であるウィズワルド様と何らかの接点が持てるのではないかと思ってしまったのです。

 そんな下心でシャルロット様に近づいた私ですが、シャルロット様は親切に私と接してくださいます。

 私は平民で、それに対する悪口が絶えないことを知ると、それとなく私を誘って昼食に行ったり、

 シャルロット様の婚約者であられるアルス王子様を紹介してくださったり、

 ハイネルラル公爵家のリーズロッテ様を紹介してくださったりして、

 私を悪く思わない貴族から私を遠ざけ、守ってくださっています。

 お優しい心を持ったシャルロット様。

 きっと、そのお兄様であられるウィズワルド様もお優しいのでしょう。

 もし、ウィズワルド様の深い海のような瞳で私を見つめ、

 優しく微笑んでくださったら、天にも上るほど嬉しい。

 いつかそんな日が来ることを、私は夢見ています。


 ・


 ・


 それは、優しい木漏れ日の中で、4人で昼食を食べていた時のことでした。


「ねぇ、シャル。そういえば、貴女のお兄様の婚約者って、誰になるのかしら?」とリーズロッテ様がそんな話題を切り出しました。

 私の心臓は飛び出てしまいそうでした。そして、右手に持っていたパンを思わず落としてしまいそうでした。


「まだ、決まっていないわね。色々、婚約の話は、お父様が受けていらっしゃるけれど」とシャルロット様はお答えになります。

 ウィズワルド様もシャルロット様も、由緒正しくロマネスク公爵家のご息女。私と結ばれるなんて、夢のまた夢です。


「私なんてどうなのかしら?」とリーズロッテ様は事もなげに言いました。平静を保ってさり気なく聞いているようですが、リーズロッテ様の瞳は真剣そのものです。


 私の胸は、チクリと痛みます。


「残念だけど、貴女は無理じゃないかしら」と、シャルロット様は言います。


「それは残念ね。理由を伺っても?」とリーズロッテ様は優雅に扇で自分の顔を扇がれながら聞かれました。


「昔、そういう話があったらしいの。でも、ロマネスク公爵家とハイネルラル公爵家が結びついてしまうと、王家を凌ぐ力となってしまうということで、ご破算になったらしいわ」と、シャルロット様はお答えになりました。


「それはとても残念だけど、シャルとアルス様が婚約されているのだから、ロマネスク公爵家と王家は結びつきは強まるわ。そして、ウィズワルド様と私が婚約すれば、王家、ロマネスク公爵家、そしてハイネルラル公爵家の結びつきが強まり、一枚岩となってこの国を支えていけると思ったのだけど? どう思われますアルス様? 」とリーズロッテ様も負けじと反論し、話をアルス王子様にお振りになられます。


「どうだろうね。でも、もともと僕がシャルロットと婚約したのは、僕が彼女に一目惚れして、我儘を言ったという経緯があるからね。どちらかといえば、ロマネスク公爵家と王家の婚姻は、例外ということだろうね」とアルス王子様はおっしゃいました。


「『シャルと結婚できないなら、僕は死ぬ』と舞踏会で叫ばれたのでございましたね。妬けてしまいますわ」とリーズロッテ様は、冗談っぽく扇でご自分の顔を扇がれています。


「あのときは、嬉しかったですけど、恥ずかしくて死んでしまいそうでしたわ」と、シャルロット様も顔を真っ赤にされています。


「でもそれだと、わたくしが、ウィズワルド様と結ばれようとしても、ハイネルラル公爵家という身分が立ち塞がってしまいますのね。どこかの恋愛小説の悲劇のヒロインね」と、リーズロッテ様は残念そうに言います。


「あら。リーズは、悲劇のヒロインというよりは、物語のお姫様って感じでしょ」と、シャルロット様がそう言うと、「シャルの言うとおりだね」とアルス王子様も笑ってそれに同意されます。


「そういう話だと、ヴィオの方がチャンスがあるということかしら」と、リーズロッテ様はおっしゃられました。私の心臓は早鐘のように鳴りだしました。


「そうなるわね。でも、ヴィオの気持ちが大事よ。ヴィオは、私の兄なんてどうなの?」と、シャルロット様は私に話を突然お振りになられました。


「えっ。いや、お話したこともないですし…… でも、素敵な方だとは…… 思います」と、私は答えました。もう、私の馬鹿。大好きですって白状しちゃえば、協力してもらえるかも知れないのに! と、私はそう口に出してから後悔します。


「あら、満更でもなさそうね」とリーズロッテ様は囃し立てます。


「もし、ヴィオさえ良かったら紹介するわ」とシャルロット様が意外なことを仰いました。


「え? いいんですか?」と私は思わず、顔を上げて言ってしまいました。


「もちろんよ。でも、兄を紹介してくれと頼んでくる令嬢の方々には常々申し上げているのだけど、文武共に、私よりも優れてからね」とシャルロット様はおっしゃいます。


「もう。それは誰にも紹介する気がないってことじゃないの? 何だかんだ言って、貴女のお兄様を、まだまだ独占したいだけなんじゃないの?」とリーズロッテ様は笑います。


「そんなことはないですわ」とシャルロット様は、真顔で否定されます。


「分かりました……」と私は小声で言います。



 私は卑怯な人間かも知れません。

 ウィズワルド様に自分から話しかけに行く勇気なんてないくせに、

 妹であるシャルロット様と親しくなれば、その兄であるウィズワルド様と何らかの接点が持てるのではないかと思ってしまったのです。


 だけど、私には目標ができました。私は頑張ります。

 私は勉強も魔法の訓練も、あまり好きではない。だけど、頑張ろう。

 いつかシャルロット様に、正々堂々、ウィズワルド様を紹介してくださいと言えるようになるその日まで。


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