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魔王の定めた義務②

労働において、最も多くの者達が配属されるのは畑、つまり農業だった。

初期の時点での配属は、全ての場所に人材がいないという状態での配属であった為に、新人もすぐに牧畜や鉱山に配属されていた。だが、頻繁に起こった騒動に反省したことで、新人はまず農業に配属するものと定められた。


配属されたばかりで、農業についてなんて何も知らない人々は、まず多くの者達で共に作業をする畑に配される。農業部門長に任命された者の指導を受け、農業のいろはを学ぶ。つまり、研修期間だった。それご終われば、一人一つの畑が任される。

この国独特の単位ていえば、一反。全てが同じ大きさに区切られている畑を一人で管理し、収穫を得るまでが農業部門へと配属された者達の義務だった。しかも、その収穫、つまり収穫できた分の半分は、自分のものとして手元に残すことが出来るのだ。それをどうするも彼らの自己判断に任されるとあって、全員が収穫を増やそうと張り切って作業する。

この農業部門。農作業に必要な、彰子が提案し、鍛冶師達と相談の上で作り上げた農具は、貸し出し申請をすれば誰もが使うことが出来た。そして、農業をするのに最も重要な作物の種もまた、必要数、必要な種類を申請すれば、他の地での事を考えれば本当に僅かな代金を支払うか、収穫を終えた際にその収穫の中から現物で支払うか、という選択をした上で書面に記せば、惜しむことなく配給された。


彼らに必要とされること。それは、何を育てれば大きな利益を得られるかを考えることと、収穫量を増やす努力だった。


他に作る者がいない作物をならば、自分の取り分を売りに出した時には大きな利益を得ることが出来るのだろう。だが、それは同じ作物を作る者が少ない、作業工程での協力を得られないということだった。どうすれば収穫量が増えるか、という経験談も少ないということで、配属されたばかりの人間には向かない。何年も農業部門に属する人間に推奨された。


***********************


毎日、毎日、自分に与えられた畑で、零さんばかりの笑顔を浮かべて作業する男が農業部門にいた。


この男は、元居た場所では貧しい土地を耕し、僅かな収穫を得て何とか食い繋いでいた農民だった。貧困の中、妻は「こんな生活はもう嫌だ」と逃げ出し、残された二人の子供と共に男は必死になって、土地を耕し作物を育てた。だが、そもそも土地そのものに地力というものがなく、どれだけ男が苦労し、努力を費やそうと収穫が増えるわけもなく、むしろ年々収穫は減っていた。

お腹が減った、と父親には見せないように兄弟で慰めあう子供の姿に、善良であった男の心は闇に染まった。

家の近くにある山道で、次に通った旅人からその荷を奪おう。金目のものがあればそれを売り、子供達に何時ぶりかも忘れた、まともな食事を…。只人では太刀打ちも出来ない魔獣が出現することもある世界で、旅をする人間など自衛を手段を当然の如く持っている。そんな相手に、やせ細った農民が挑んでも何が出来る訳もない。そんな正常な判断も出来ないほど、男は追い詰められた状態だった。


男にとって幸いだったのは、男が覚悟を決めて目を光らせていた山道に現れたのが、この世界というものをもう少し観察してみよう、と考え付いてブラブラと足を運んでいた、『魔王』であったことだ。

ガイド役の天使や、護衛役を務める為に新たに生み出された式神が共に居たのだが、その姿は彰子以外には見えないようになっていた為、男には年若い身なりの整っている少女が一人、無防備に歩いているようにしか見えなかった。切羽詰まった男は勢いよく飛び出し、彰子に襲い掛かったが、式神がそれを簡単に阻み、男を捕縛した。


もう一つ、男にとって幸いなことがあった。

それは、男が捕縛された途端に、男とは違う場所から飛び出し、彰子達に襲い掛かってきたのが男の大切な子供達であったことだ。

二人のやせ細った子供等も、簡単に式神によって捕縛されたのは言うまでもない。


男や子供達に、罰金が払える訳がなく。

そうして、男は二人の我が子と共に、裁きの地である暗黒大陸に送り込まれたのだった。


男は『刑法さん』によって刑期を言い渡され、農場へと配属された。

10歳、9歳という男の子供達は、少し前に裁きを受ける子供達の多さに必要性を感じた彰子によって生み出された、『少年院法さん』『児童福祉法さん』『児童虐待防止法さん』が管理している、施設に通うことを義務付けられた。

城下町の一軒家に住む事が許され、男が犯罪を犯してでもと望んだ充分過ぎる程の食事も一日三食、親子三人で得ることが出来た。


男は自分の運の良さを、毎日のように子供達の幸せに満ちた寝顔を目にしながら、涙を流して感謝していた。


*****************************



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