魔王の四天王①
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「私が『魔王』たる為に、ある重要な事を今から決めようと思うの。」
暗黒大陸に渡ってきた記念すべき一人目の勇者、ヒロという存在を、仕掛けていた罠によって撃破した彰子は、六法や天使、城下町での顔役を果たすようになっていた数人の住人を集めて、そう切り出した。
ゴクリ
人間だけでなく、六法達までもが、彰子のその真剣な面持ちに喉を鳴らした。
暗黒大陸に生えていた、巨大な木を輪切りにして作られた一枚板の円卓を囲み、彼らは彰子の発言の続きを待つ。
「ま、魔王様。それは一体…」
「それは、六法の序列よ!」
それには全員、息を飲んで待っていた重苦しい空気を四散させた。呆気に取られた顔で、首を傾げる。
「序列、ですか?」
「そう。魔王を倒そうと立ち上がる勇者の前に立ち塞がる、魔王の側近というのは定番よ。そして、それは四天王というのが、多い。まず、私達が決めるべきは、六法の内の誰を四天王にするか、つまり六法の内で四人選ばなければならないの。そして、その次に決めるべきは、四天王の中での序列。始めに勇者に当たるのは、四天王最弱たるものでなければならない。四天王の一人を、苦戦に苦戦を重ねて倒したと思い込む勇者達に、他の四天王が"それは我等の中でも最弱の…"と鼻で笑ってみせて、絶望を与えるのよ。まぁ、本当の勇者ならば、それに絶望するだけに留まることなく、より強くなろうと努力を重ねるものなんだけど。あっ、四天王にならなかった他二人にだって、役目はあるわ。魔王に扮して勇者と相対する存在とか、勇者の仲間に紛れ込んで裏切ってみせるとか。これも話し合いの余地があるわね。」
うんうん、と持論を展開しながら、彰子は満足そうに頷く。
呆気に取られながらも、彼女の行動や考え方に慣れ始めている彼らはすぐに正気を取り戻し、彰子の意見について討論を始めた。
「魔王に扮して、というものは『憲法さん』ですね。ということで、四天王には選ばれませんね。」
それだけは、すぐに決まった。
後は最終的に決定するまで、何日も要しても決めることが出来ず、魔王の国全域を巻き込んだ論争へと発展していった。商人達にとっては『商法さん』が恐るべき存在で、他の職業や文化の人々にとっては他の六法こそが強い、と四天王最弱というレッテルは中々決まらなかった。
「あらあら、中々決まらないわね。」
まぁ、こうなることは分かっていたけど。
彰子が腰を上げたのは、半月程経った頃。
四天王最弱、という話題は国中に広がっていた。人々は自分が強いと思う『六法』の内の誰かこそが、と主張し合っている。
法律においての最弱なんて決まることはないだろう、そう思っていながらも彰子は半月の間静観を決め込んでいた。
それもこれもが、全て通常であれば絶対に許して貰えない、ある提案を押し通す為の彰子の布石だった。
彰子がやりたい事。
それは…。
『六法』だけでなく、天使達だけでなく、裁きを与えられている最中の人々まで、彰子の意見に声を張り上げて反対する光景を、彰子は予想した通り数時間後に見ることになった。