魔王の財宝
「あ、彰子様…なんですか、これ?」
「これ?あぁ、まだ見せたこと無かったかしら?」
彰子が用事を言いつけた為に、暫く彰子の前に姿を見せていなかった天使ニコルが、呆然とした面持ちで彰子の背後に広がっている光景に目を向けていた。
金。銀。銅。それぞれに輝く硬貨が、それぞれに大きな山を作って積まれている。
硬貨に比べれば数は少ないが、色とりどり、大小様々な宝石が光を放ちながら無造作で、専門家が見れば悲鳴を上げそうな扱いで山を作っている。
彰子の背丈の倍はありそうな山の数々を前にして、彰子は大きな樽に棒を入れて掻き混ぜていた。
何をしているのですかとニコルが問えば、彰子はニコルを手招きして呼び寄せると、樽の中を見せた。
覗き込んだ樽の中では、透明な液体の中に銅で出来ている硬貨が大量に沈んでいた。
「これ、重曹を溶かした水ね。今、銅硬貨を綺麗にしているの。」
錆が取れて綺麗になるわよ、と彰子はニコルに説明する。
「あっ、そうなんですか…。この世界ではそんな事をする人は居ないので、汚れは酷いんでしょうね。」
呆気に取られたまま、彰子の説明に感心したニコル。だが、すぐに正気を取り戻し、本当に聞かなくてはいけないことを口にしたのだった。
「じゃなくて、これは一体。なんですか、この下手な貴族よりもありそうな…」
「何って、ただの罰金よ?」
「罰金。」
「そう、『六法さん』達の裁きで徴収されてきた罰金。銃刀法違反に、人権侵害、言論の自由などなど。何より、そもそも国民の三大義務とかの、あちらでは普通で常識的な権利や法の、その根本たる概念から存在していないから。世界中を渡る『六法さん』達が仕事のし甲斐があるって過労死しそうな状況よ。」
「……」
顎が外れる、とはこういう時のことを言うのだろうか。ニコルは他に何も考えることも出来ず、そんな事を頭に過ぎらせた。
「ど、どうするんですか、こんなに集めて…」
国でも買えそうだが、買う気か?それとも…。
「そうなのよね。ねぇ、ニコル。これ、どうしたらいいと思う?」
聞かれても困る、とニコルは年甲斐もなく、上級天使という立場も忘れて泣き叫んでしまった。