講習会一日目~生徒会室
「……じゃあ、今日やったところは復習しておくように。今日はこれで終わりだ。気を付けて帰れよ」
「起立、礼」
当番の号令に合わせて、頭を下げ、講習会一日目は終わった。教室にざわめきが広がり、生徒が一人また一人と教室から出て行く。
プリントのカゴを持って教室から出ようとした田代先生が、入口のところで、振り返った。
「そうそう、真田?」
「はい」
先生の近くに歩いて行くと、田代先生は、カゴから茶封筒を取り出して、私に渡した。
「これ、お前が欠席していた間の授業をまとめたプリントだ。家でやっておけよ」
「……ありがとうございます」
ずしっと重い。プリントぎっしり入ってそうな封筒。田代先生はふっと笑って、頑張れよ、と言い残して、廊下へと出て行った。
……面倒見がいい先生なんだなあ。さーちゃんも『田代先生の授業はわかりやすい』ってほめてたし。
「お前、なんか今日変だよな」
横を見ると、背の高い茶髪クンが、何とも言えない表情で立っていた。
「……山城くん?」
また、なにか、からむ気かなあ? と、警戒してみたけれど……ちょっと違う?
なんか不思議そうな目をして、私を見下ろす山城くん。疑われるような事したの、私? 思わず目が泳いでしまう。迂闊な事は言えないし……。
(ど、どうしよう……)
と、思っていたら、後ろから低い声がした。
「真田、今日の打ち合わせ出るのか?」
振り返ると、今度は鞄を持ったメガネ男子がいた。
「日向……くん?」
(……打ち合わせ……ってなに?)
さーちゃんからは何も聞いてない。日向くんは、目を丸くした私を見た後、山城くんの方を向いた。
「悪いな、山城。真田は今から生徒会の準備がある」
山城くんは、へいへい、とあっさり引いて、教室から出て行った。
(……うーん、助かったの、私!?)
……いや微妙だ。だって、何の事だが、全然判らないんだもの。
「え? 打ち合わせってなあに?」
ナイスなタイミングでみのりさんが登場した。きらり、と日向くんの眼鏡が光った……気がした。
「十月にやる文化祭の準備だ」
日向くんはみのりさんを見た後、そのまま私に視線を移した。
「講習会の後、集まって文化祭の打ち合わせすれば一石二鳥だ、と言って、生徒会役員全員、講習会に誘ったの、お前だろ」
「え」
ちょっと、さーちゃん!! そう言う事は、ちゃんと言っておいてよ!
「……まだ、体調悪いなら最初だけでいい。顔は出してくれ」
そう言った日向くんは、さっさと教室を出て行った。
(み、みのりさん~……)
小声でみのりさんに縋る私の態度に、みのりさんは、はあ、と溜息をついた。
(ちょっとこっち来て。生徒会室の場所とか簡単に説明するから)
(はい……)
私とみのりさんも、周りから怪しまれないように、そそくさと教室の外に出た。
さーちゃん……なんでこんな大事な事、言い忘れてるのよ~っ! ごまかしきれなかったら……どうするの!? 本当に、頭痛くなってきた……。
私は、ずきずき痛み始めた頭を押さえながら、みのりさんの後を歩いて行った。
***
――はあああ、と思いっきり息を吐く。それから、私は『生徒会室』、と書かれたプレートのドアをノックした。
「どうぞ?」
「……失礼します」
ドアノブに手を掛け、そっと回して扉を押し……生徒会室に足を踏み入れた。
(き、緊張する……)
心臓の音がやたら大きく聞こえる。眼鏡とマスクで顔が隠れてて良かった。私は、そっと顔を上げ、生徒会室を見回した。
部屋の奥のガラス窓の前に、立派な机が一つ置いてあった。生徒会長ってプレートがあるから、あれが会長の席だろう。その机の前に、向かい合わせで並べられた長机が二つ。右側の壁にもドアがある。左壁には天井まで届きそうな本棚がずらりと並んでいた。ファイルや本がいっぱい並んでる。
……長机の前に座り、ノートPCを触っていた”女の子”が顔を上げ、私を見た。
(え?)
あれ? 女の人? 私は首を傾げた。確か、みのりさんは……
『生徒会の役員は五人。会長の日向くん、会計の川崎くんは分かるわよね。あと、副会長の扇くんと玉木くん。この二人は講習会来てなかったわ。全員二年生よ』
(女の子って、さーちゃんだけじゃ……ないの?)
何も言えずに固まっている私を見て、彼女はふふっと笑った。
……すごい美人。切れ長の瞳に長いまつ毛。肩より少し下まで伸びた、黒髪ストレート。桜色の唇が、三日月形になった。
「どうしたの? 沙織ちゃん」
うわあ、ハスキーボイス。かっこいい……と、ぼーっと見とれてしまった私は、はっと我に返った。
(ど、どう答えたらいいの!?)
……っていうか、この人、誰。さーちゃんのアルバムにいたっけ??
「会長だったら、担当の田代先生に呼び出されて席外しよ。もうじき戻ってくるわ」
「は、はい……」
すっと彼女が立ち上がり、私の方に歩いて来た。モデルみたいに背が高くて、すらっとしたスタイルだ。
「もう、沙織ちゃんたら、かわいいわね~。ちょっと、お化粧させてもらえない?」
「はぁ!?」
何の事だが判らない私に、じりじりと彼女が間合いを詰めてくる。獲物を狙う様な視線に、身体が強張った。
あと一歩の距離まで近づかれて、私は思わず一歩後ろに下がった。
(……あれ?)
背中が何かにぶつかった。大きな手が、私の両肩に後ろから載せられる。
「……ひろみ。からかうのもいい加減にしろ」
「ひゅ、日向くん!?」
顔を振り向いた私の目に入って来たのは……とんでもなく近くにいる日向くんの顔。
(う、うわわわわわっ!)
慌てて顔を元に戻す。し、心臓がばくばくいってる……。
(ち、近すぎるって、日向くんっ!)
頬が熱くなって、俯いた私は……はた、と気がついた。
(……日向くん、今、『ひろみ』って……呼び捨てで呼んだ?)
「なーんだ、もう帰ってきたの? つまんなーい」
ひろみさんが拗ねたような声を出した。背中に日向くんの体温を感じる。手を置かれた肩が熱い。
(お、落ち着かない……っ)
私は、ちょっと体をひねって向きをかえ、日向くんから一歩離れた。ひろみさんは、にこにこと笑っていて……日向くんは。あれ?
……眉間にしわ寄ってません? 日向くん……
日向くんが、ひろみさんを睨む。ひろみさんは、私に、バチン、と色っぽいウィンクを投げてきた。
どうしたらいいのか判らず、おろおろしている私を見て、日向くんがひろみさんに向き合い、低い声で言った。
「……さっさと、制服脱げ」
……え?
私の目が点になった。ちょ、ちょっと、今、何て言ったの!?
(せ、制服……脱げ……って……!?)
「いきなり~? 全くおもしろくない男よねえ」
ひろみさんが、はあ、溜息をついて、私を見た。どきんと心臓が跳ねる。
「そう、思わない? 沙織ちゃん。会長だからって、こう真面目じゃなくてもいいと思うでしょ?」
「あ、あの……」
戸惑う私を見た日向くんの目が鋭くなった。
「余計な事、こいつにふるな」
氷の声がぴしゃりと言う。ひろみさんは、どこ吹く風、だ。
「それとも、俺が脱がさないとだめなのか?」
……俺が、脱がす!? な、何言ってるの、日向くんっ!!
口をぱくぱくさせている私を見て、ひろみさんが色っぽく笑う。
「もう~、沙織ちゃんの前で大胆発言ねえ」
日向くんの後ろから、地獄のような、どす黒いオーラがぁぁ……。
(ど、どうしたら、いいの!?)
何も言えず、ただ目を見開いていた私に、天の声が聞こえてきた。
「ごめん~、ちょっと遅れた~」
のんびりした口調とともに、川崎くんが入ってきて、ドアを閉めた。あああ、もう、本当に天使のように見えるわっ、川崎くん!! 後光が~っ。
「ねえ、聞いてよ、真悟」
ひろみさんが口をとがらせる。そんな仕草すら、色っぽい。
「翔ったら、制服脱げ、なんて言うのよ~? ほら、沙織ちゃんも固まっちゃったじゃない?」
川崎くんは、ぽりぽりと頬をかきながら、日向くんとひろみさんを交互に見た。
「そりゃー、ひろみが悪いだろ」
え?
「とっとと、自分の制服に着替えたら? 女子の制服も似合うけどさ」
え? え? え?
ちょ、ちょっと待って。それじゃ……もしかして……
「いい加減、その格好やめておけ。男に誘惑されたってショック受けてる一年生が何人いると思ってる」
「ユーワクなんて……ちょっとからかっただけよ~?」
「会長が本気出す前に着替えたら~?」
や、やっぱり……ひろみさんって……
(……オトコっ!?)
固まったまま、何も言えない私に、川崎くんがこそっと囁いた。
「あー、もしかしてひろみのこの姿、初めて見た? だよねー、まだ生徒会に入って間がないし。 こういうの、いつもの事だから、気にしないで」
い、いつもの事~っ!? これが!? ううう、本気で頭痛い……。
眼鏡とマスク、かけてて良かった……絶対、変な顔してるわ、私……
(さーちゃん、あなた、ものすごーい変な人たちと仕事してるのね……。おねーちゃん、感心したわ……)
私がほけっとしていると、いつの間にか日向くんが席に座ろうとしていた。私も慌てて、空いてる席に座る。ひろみさんは、「しょうがないわねえ……」とぶつぶつ言いながら、生徒会室にあるドアから隣の部屋へと消えて行った。川崎くんは私の隣に座り、「災難だったね~」と慰めて? くれた。
***
「……全員、揃ったな。第三十二回慶蘭高校文化祭について、会議を始める」
日向くんが宣言し、生徒会会議が始まった。
長机のお誕生日席に日向くん。その右手に副会長の玉木”ひろみ”くん、左手に書記の私。玉木くんの隣が、最後に来たもう一人の副会長、扇くん。陸上部の練習があって遅れたって言ってたっけ。日に焼けて、短い髪が少し茶色っぽくなってる。いかにもスポーツマンって感じ。
(扇くんは、結構マトモそう……)
そして私の隣が川崎くん。……小柄でふわふわの髪で、見た目かわいらしいけど……結構辛辣だったわよね、さっきも。
(なんか、すごいバラエティに富んだメンバーだなあ……)
メンバーの観察に勤しんでいる私に、日向くんの低い声が飛んだ。
「真田」
「は、はい」
ちょっと、どもってしまった。日向くんは、眼鏡の奥から冷静な視線を私に投げた。
「各クラスならびにクラブから提出された模擬店の申請書、来週中に一覧にまとめておいてくれ。内容がダブってないか、確認する」
「はい……」
私と日向くんの会話を聞いて、玉木くんが呆れたように口をはさんだ。ちゃんと男子のブレザー姿で、髪もゴムで一つにくくってる。こうしてたら、結構イケメンだから、不思議。
「ちょっと、まだ『真田』なの?」
あ、口調は変わらないのね……。
「生徒会内では、結束を深めるために下の名前で呼ぶっていうのが、習わしでしょ? そろそろ『沙織』ちゃんで、いいんじゃない?」
「え」
私は思わず日向くんの顔を見た。
「……」
日向くんは一瞬黙り込んだ後、ちらと私を見てから言った。
「……考えておく」
どう反応したらいいのか、困る……。私は何も言わず、目の前の書類を目で追うフリをした。
「……それから、毎年恒例の生徒会主催の出し物について、だが……」
……もし、日向くんが、『さーちゃんの好きな人』だったら?
それとも違っていたら? 生徒会の他の誰かだったら? クラスの誰かだったら?
『私』はどう言えばいいの? どうすれば、いいの?
(何かもう、こんがらがってきたわ……)
つい考え込んでしまっていた私の頭に、鋭い声が割り込んできた。
「……で、真田の意見は?」
はっと顔を上げると、日向くん達の視線を一身に集めていた。
うわ……聞いてなかった……。
「……ご、ごめんなさい。聞いてなかっ……」
謝りかけたところで、川崎くんが言った。
「しょーがないよ、まだ調子悪いんだから」
人懐っこそうな笑顔。優しいんだなあ、川崎くん。私は感謝の笑みを浮かべた。川崎くんが言葉を続ける。
「今、俺達生徒会でやる出し物のアイデアないかって聞いてたんだ」
「出し物……」
へえ、生徒会で出し物ってやるんだ……うちはやってないけど……。
川崎くんと話しながら、ぼんやりそんな事を思ってたら……あれ? ……なんか、右の方からの視線が痛い。日向くんの方を見ると……何故かこちらを睨んでる瞳にぶつかった。
(な、なに……?)
日向くんが不機嫌そうな声を出した。
「去年みたいなのは、勘弁してほしいところだ」
「去年って……」
ううっ……わ、判らない……黙っておこう……。
「俺、結構よかったと思うけどな」
と、扇くんが言った。
「皆でステージあがって、思い切りドラム叩いて、楽しかったぜ?」
「そうねえ、翔のボーカルに失神する女子もいたし」
玉木くん(ひろみさん?)が艶っぽく笑う。
「涼介のドラム、最高だったわ。真悟のキーボード、私と拓実のギターもリズムばっちりだったし」
「ベースの啓也先輩が一年生とバンドやるって言った時は、反対されたけど、あれ、今から思えば、私たちが次期生徒会だっていうパフォーマンスだったのよねえ」
うわ。見たかった。このメンバーでバンド!?
ものすごく盛り上がったんだろうなあ。きゃーきゃー言う、女子生徒が目に浮かんだ。見た目みんないいし、歌とかも上手そう。
(拓実……くんっていうのが、きっと転校した元書記なのかな?)
「だが、ステージの間、見回りが手薄になる」
日向くんが言葉を引き取った。
「去年、会長以外のメンバーが舞台に上がらなかったのも、裏方の作業をしていたから、という理由もある」
固いわねえ~と玉木くんが溜息をつく。
「だから、今年は事前に用意できるものがいいと思う。当日は文化祭の運営に専念したいからな」
「事前……ってなると……」
んー……、と私は考え込んだ。なんだろ。少しずつ準備できて、当日何もしなくてよくて、みんなに楽しんでもらえるもの……。
――その時、ふっと、みのりさんの言葉が頭に浮かび……思わず口に出していた。
「……映画、とか」
「「「「映画?」」」」
そんな全員反応しなくても。私は目をぱちくりしながら、説明した。
「確か、アニメ研が映画作ってるって……聞いたの。って、ことは機材があるってことだし、それだったら当日は上映するだけだし」
「「「「……」」」」
「映画のどこかに、ちょこっと出演させてもらったら、いいのかなあって……」
私の言葉が終わる前に、ぱん! と玉木くんが手を叩いた。
「いい! それいいわ!」
こちらを向いて、にっこりと笑う玉木くん。うわ、なんかドキドキする。すごい色っぽい笑顔。
「ちょっと待ってて~」
玉木くんが席をはずし、部屋の端でどこかに電話し始めた。
なんだろう、すごく嫌な予感がする……。
日向くんをちらりと見ると、無表情のままだった。
「……ってどうかしら~と……」
「そうなのよ~……うん、うん……」
ぼそぼそ声で聞こえにくい……。
ニ、三分後、スマホを切った玉木くんは、こちらに向かってVサインをした。
「OKよ、OK! 向こうもぜひやりたいって! アニ研の部長、すぐ来るわよ」
一体、何が……私を見る玉木くんの目が……コワイ……。
(……嫌な予感しか、しないけど……)
……とりあえず、私達はアニ研部長の到着を待つ事にした。
***
――って、言ってたら、五分後。
(もう来た……)
アニ研部長の藤沢くんは、二年生。受験が忙しい三年生じゃなく、二年生が部長やるのが習わし、だとか。丸い瞳にくせっ毛。ちょっとぽっちゃり体形気味で人懐っこそうな笑顔……いかにも『アニ研部長』っぽい人だった。彼は満面の笑みで、私達に言った。
「いや~玉木くんから連絡もらった時、信じられなかったよ! 今年の文化祭、うちも特撮やろうと思ってたからさぁ、ちょうど良かった! 生徒会メンバーが主演してくれるなら、ヒット間違いなしだよ!」
「え」
……主演!?
「でしょでしょ!?」
玉木くんの口調も興奮していた。
「藤沢くんが特撮やりたいってのは聞いてたし……メガネ王子とメガネ姫が主役やれば、絶対話題になるでしょ~!」
「えええっ!?」
……今、ものすごーくキケンな事、言わなかった!?
「本当、すごいよ! 学年TWOトップの二人が主役やってくれるなんて! 頼んだよ、日向くんに真田さん!」
は、い!?
(……って、なに!? しゅ、主役!?)
「ええええええええええええっ!!」
思わず大声が出た私に、藤沢くんが、あれ?とした顔を向けた。
「玉木くんから、『メガネ王子とメガネ姫の恋愛もの、やらない?』って言われたんだけど。聞いてないの?」
「たっ、玉木くん!?」
ちょ、ちょっと!! なに勝手に話進めてるのよっ!! し、しかも、恋愛ものって!!
「わ、私が言ってたのは、ちょこっと友情出演させてもらえればって……っ」
焦る私を尻目に、ぷぷっと扇くんが吹きだした。
「そりゃーウケルだろうなあ。翔が恋愛ものって見てみたいヤツ、ぜったい多いぜ?」
川崎くんまで、お腹を抱えて大爆笑してる。
「それだったら、俺、悪役やりたーい」
あなた、どう見ても、天使でしょうーがっ!!
ふっふっふ、と含み笑いの玉木くん。
「それに、眼鏡がかわいいと評判の沙織ちゃんが相手。もう、大ヒット間違いなし!」
「ちょ、ちょっと……!!」
ダメだ、この人たち、完全やる気……っ!
(あ、あとは、頼りになるの、日向くんだけだわっ!!)
――ぜったい、ぜったい、反対するよね……
私は日向くんに、縋る目を向けた。日向くんはずっと黙ったままだ。
玉木くんが、妖しい笑みを浮かべながら、日向くんに声をかけた。
「どう? 翔。やってみない?」
「……」
(お願い……!!)
思わず両手を組んで祈ってしまう。……考え込んでいた日向くんが、ようやく口を開いた。
「……夏休み中に終わりそうか?」
……はい!?
「どうせ撮影は校内だろう。新学期が始まってからでは、自由にはできないからな」
藤沢くんの顔がぱああっと輝いた。
「アニ研の技術、人員総出でやるよ! さっそくシナリオと撮影スケジュール考えるよ!」
「……わかった。じゃあ、頼む」
「ちょ、ちょっと……!!」
なに、それっ!! やること前提じゃない!!
呆然としてる私に、日向くんがしれっと言った。
「映画なら、当日自由になるからな」
「そ、そういう問題じゃ……!!」
「他に、何か問題あるのか?」
「っ……!!」
そ、そんな冷静に言われたら……っ!! 言葉に詰まった私の耳に、玉木くんの優しい声が響く。
「会長がいいって言ったんだから、誰も文句ないわよね~?」
(う……)
生徒会四人+アニ研部長の視線が全身に突き刺さる。この場で、私が言えるセリフは……一つしかなかった。
「……な……いで、す……」
……小声で言った私の返事に……一瞬日向くんの眼鏡が光った気が、した。
*慶蘭高校 生徒会メンバーはこうなっています。
日向 翔:生徒会長。学年一位の秀才。
玉木 ひろみ:副会長。
扇 涼介:副会長。
川崎 真悟:会計。
真田 沙織:書記。学年二位。
一位と二位は別格として、他メンバーも成績優秀。