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二日前~さーちゃんの部屋

*魔法のiらんどに投稿している作品に加筆修正しています。

 ……それは、さーちゃんの『お願い』から、始まった。


 ……波乱万丈、な、ニ週間。



「ねえ、しーちゃん。月曜日から私の代わりに、学校、行ってくれない?」


***


「……はい?」

 私は思わず、ベッドに寝ているさーちゃんの顔を見た。けほけほ咳をしながら、ほっぺたがまっかっかだ。右手をさーちゃんの額に当てる。まだ熱い。

「さーちゃん、まだ熱あるね」

「もうっ、しーちゃんったら」

 また、けほけほ咳が続く。私は手を伸ばして、背中をさすった。「ありがと」といったさーちゃんが、真剣な目で私を見上げた。

「熱のせいじゃないってば。本当に学校に行って欲しいの」

「だいたい学校って……来週から夏休みじゃない」

「そうよ……講習会があるの」

 さーちゃんが言うには、この高校二年生の大事な夏休みを有意義なものにするため(?)、担任の先生に掛け合って、講習会開催までこぎつけた……らしい。

「なのに、私が……行けないなんて、田代先生に申し訳なくっ……て……」

「しょうがないじゃない、もう少しで入院するところだったんだから」

 頑張り屋のさーちゃんは、勉強を頑張り過ぎて、夏風邪をこじらせて、もう少しで肺炎になるところだった。

「まだ気管支炎治ってないし、入院しない代わりに、治るまでベッドの上って約束でしょ? そんな状態のさーちゃんを、誰も責めたりしないわよ」

 本当、さーちゃんは責任感が強いなあ。病気だから、仕方ないのに。そう思ってると、さーちゃんがうるうる瞳になった。

「お願い、しーちゃん。私の眼鏡かけて、マスクして、ちょっと咳してれば、絶対ばれないと思うの。だって、私たち……」

 私は、自分と瓜二つ、の顔を見た。枕に広がる、さらさら黒髪も一緒だけど。

「そりゃね、私たちは一卵性双生児だし、見た目はそっくりだし、おかあさんだって時々間違えるけど……」


 絶対的に違う部分があるのよ、さーちゃん。


慶蘭(けいらん)高校みたいな超エリート進学校に、単なる公立高校生が紛れ込んで、うまくいくわけないでしょーがっ!」


***


 さーちゃんは、目を丸くした。

「えーっ、しーちゃんだって、成績、三笠(みかさ)高校のトップじゃない~。同じ高校生だもの、大丈夫よ~」


 ……いやいや、学校の差ってものが存在するのよ、世の中には。毎年、百人以上東大に受かるような学校と一緒にしてもらっちゃ、困るんだけど。


「大体、講習会だって希望者だけなんでしょ? 別に出席する必要なんて……」

 さーちゃんの目がますます潤む。変だ。何かがピン、と来た。

(……ひょっとして……)

「さーちゃん、もしかして……その講習会に、会いたい人でも来るの? ……好きな人?」

 ――熱で赤かったさーちゃんは、頬だけでなく、首筋まで真っ赤になった。

「なっ、なに、言って、る、のよっ!」

 ……すごい、あせり方。こんなさーちゃん、見たことない。私は目を丸くした。

 つーっと、とさーちゃんの目から、涙が頬を伝って、落ちた。思わずどきっとする。

「だって……私が、企画したのに……欠席、だなんて……きっと、あきれられる……嫌われちゃったら……」

「そんな事、あるわけないじゃない」

 そう、そんな事、あるわけない。こんな真面目で、頑張り屋さんのさーちゃんのこと、悪く言う人なんて、絶対いない。

「でも……でも……」

 また、けほけほと咳をする。あーもう、大人しくしてないと、良くならないじゃない……。

 はああ、とため息をつく私。本当、さーちゃんの涙に弱い……


「わかった、わかった。二週間だけね?」

「本当、しーちゃん!?」

 光がぱああっと射したみたいに、さーちゃんの顔が一気に明るくなった。

「ありがとう、しーちゃん! やっぱり私のおねーちゃんね!」

「はいはい……でも、出席だけよ? ばれないように、なるべく黙ってるし」

「うん、それでいいよ!」

 はあ、と溜息をついた私の耳に、おかあさんの声が聞こえてきた。

詩織(しおり)ー? 沙織(さおり)の様子どう?」

「んー、だいぶ良くなってきたみたい」

 とりあえず返事をした私は、持ってきた薬を手に持った。

「ほら、薬飲んで、大人しく寝ときなさいよ?」

「うん」

 こくりと素直に頷いたさーちゃんは、ちょっと気だるそうに、体を起こした。私が差し出した粉薬とコップを受け取って、んーっとしかめっ面をしながら、薬を飲む。

 こーゆートコ、本当にかわいい。女の子女の子してるっていうか……。

「私が男の子だったら、絶対さーちゃんの事、放っておかないと思う……」

「何、言ってるの、しーちゃん? しーちゃんだってもてるじゃない」

「そうでもないけど……」

 ……未だ告白した事も、告白された事もございません、ハイ。

 ふふっとさーちゃんが笑う。

「ありがとう、本当に」

 そう言って、ぱふっと枕に頭を沈めると、しーちゃんは目を閉じ……すぐに寝息を立て始めた。私はそのまま、起こさないよう、静かにさーちゃんの部屋を出た。




 ――この時の約束が、あんな事につながるなんて、思いもしないまま。

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