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こんな夢を観た

こんな夢を観た「紫の壷」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/07/22

「こんなものしかないけど」カップ入りケーキとサイダーを持って、部屋に戻る。桑田はクッションの上であぐらをかいたまま、部屋の隅っこをじっと見つめていた。

 テーブルにケーキとグラスを置くと、わたしはその向かいに座る。


「なあ、むぅにぃ」桑田は顔をあちらに向けたまま、ぼそっと言う。

「うん?」

「あの変な壺、前からあったっけ?」

 桑田が顎で示した場所を見るが、何もない。

「どの壺?」

「どれって……。角に置いてある、あれだよ。紫色をした、おかしな形の」

「何もないじゃん」わたしには何も見えなかった。「また、騙そうとしてる?」

「お前、ほんとに見えてないのか?」桑田は立ち上がり、壁のそばに寄る。「ほら、ちゃんと触れるし、確かに存在してるぜ」


 わたしも桑田のところへと行き、試しに手を伸ばしてみる。けれど、空をつかむばかりだった。

「もう、いい加減にからかうのはやめない? 何もないじゃん」わたしは少し腹が立ってきた。

「ほんとだって、あるんだって」桑田には珍しく、真顔で言い返してくる。

「でも、見えないんだけど。触れもしないし」

「叩いてみるな」桑田はグーで、何もない場所を叩く真似をした。

 クワン、クワン、と奇妙な音が響く。

「えっ、どうして?」わたしはぞくぞくっと寒気を覚えた。

「なっ?」これでわかったろ、と言いつつ、桑田もまた気味悪そうな表情を浮かべていた。


「どんな形の壺なの、それって」わたしは聞いた。

 桑田はうーん、と考え込んでしまう。壺をなで回したり、持ち上げて底を見る格好をするのだが、そこまでしても、説明に足る情報を得られないようだ。

「紫色ってことは話せるんだ」桑田は考え考え、伝えようとする。「でもよ、形がどうもはっきりしない。一輪挿しのようだが、ヤカンのようにも見えるし……」

「何それ。全然、違うじゃん」わたしは呆れた。

「そうそう、もう1つ確かなことがあった。口と底とがつながっていて、ループになってるな。水は入れられるが、出すところがない」


 桑田の説明を聞いていたら、ますます訳がわからなくなってきた。

「携帯で写真とか撮れない?」思いついて、そう提案してみる。

「そうか。やってみよう」桑田は携帯を取り出すと、パシャッとシャッターを押す。「どれどれ……。なんだこりゃ?」

 わたしは撮った映像を見せてもらった。

 紫色をした無数の影が、重なり合うようにして写っている。人の行き来する交差点を、多重露出にでもしたようだ。


 わたしの部屋にあると言う「紫の壺」は、ついにこの目で見ることなかった。見えていないだけで、まだそこにあるのかもしれない。

 そう思うと、何となく落ち着かない気持ちになる。


 ある時、桑田に呼ばれて、家に遊びに行った。

 華道を嗜む彼の母の見立てだろうか。玄関のラックには、紫色の壺がさりげなく置かれていた。

「ようっ、上がれよ」桑田が廊下の奥から手招きをする。

「ねえ、桑田。この壺、ちょっと風変わりだけど、やっぱり生け花用?」

「へっ?」

「だから、このラックの上の紫の壺」わたしは指差した。

「どれ? 何もねえけど?」

 口と底がつながったその壺は、どうやらわたしにしか見えていないようだ。

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