好きな子が寝取られて
昨日、幼馴染から彼氏ができたと報告を受けた。
別に付き合ってるわけでも、将来を誓い合った仲でもない。ただ、自分で勝手に両思いだと考えていただけだった。
次の日、目が覚めた直後もそのことを考えてしまう。当然だろう。一夜開けたとはいえ、たった一晩では気持ちの整理もつくわけがない。未だに胸が強く締め付けられるように傷んでいる。正直にいえば学校を休みたいのだが、今日は昨日までの文化祭の片付けがあるのでサボるわけにはいかなかった。
人間関係は面倒だなと知ったようなことを考えてしまう。
学校についてみれば、みんな昨日はしゃぎ回っていたのが嘘みたいに楽しげに話していた。俺は昨日の疲れと幼馴染のショックが合わさって元気が無いというのにずるいものだ。
「おはよう、竹中くん。お疲れのようだね」
席についた僕に栗毛のショートヘアーの女の子が話しかけてきた。
「篠塚か……低血圧なんだよ、俺」
先日まで、お互いに話したことすらなかった女子からの接近にびっくりする。
「そうなんだ。それならよかった。僕は君のこと全然知らないからね。もしかしたら昨日のことでまだ落ち込んでいるのかと思ったよ」
学生十人に聞けば全員が美人と答えるであろう端正な顔に、篠塚は作ったような微笑を浮かべる。
「お前、分かってて言ってるだろ」
少しイラッと来る。
「なんのことかな?」
「もういい。ほっとけ」
「つれないな―。昨日の打ち上げであんなに仲良く話したじゃないか」
そう、これまで話すらしたことなかった俺らが用もなく会話するようになったのは昨日の出来事が切っ掛けだった。
昨日は文化祭が無事終わったことでクラスで打ち上げがあった。普段ならこういうのに積極的に参加しないほうなのだが、昨日に限って、幼馴染のショックで自棄になり、柄にもなく打ち上げに参加したのだ。
そこで隣の席に座ったのが、俺と同じく普段ならこうした打ち上げに参加しない篠塚だった。お互い打ち上げの雰囲気に慣れていないので、隅のほうでどんなもんかと様子見をしているときのことだ。どこから聞いたのか、篠塚が俺が幼馴染に振られた話を持ちだしたのだ。
それを聞いて俺は熱弁した。アレは振られたのではなく、幼馴染が好きな人と付き合い始めただけだ、と。打ち上げの二時間丸々使って話し続けたのだ。ちなみに、この貧乳女は俺が必死に話しているときも、この胡散臭い微笑を浮かべ続けていた。
「……はぁ」
昨日のことを思い出し、また少しガックリきてしまう。いらんこと思い出させやがって、とかそんな感じだ。
「ため息はダメだよ。幸せが逃げるって言うからね。……そうだ、気晴らしに午後一緒に遊びにいかない?」
「えー、お前と……?」
一体こいつは何を考えているんだと身構えてしまう。振られた……わけではないが、俺の不幸話を更に掘り出して、どこかでこっそり笑いものにしようとでも思ってるのか?
「そんな嫌そうな声を出さないでくれよ。なにも含むところはないからさ。せっかく知り合った仲だ。例え二時間ずっと愚痴を聞かされることから始まった関係でも、やっぱり人とのつながりは大切にしたいって思うじゃないか」
そうだろうか。俺だったらそいつとは関わりたくないと思う。というか嫌味ったらしく言うんじゃない。
だがまあ、昨日は俺の愚痴にずっと突き合わせたのは事実。それを持ちだされれば俺だって少しの後ろめたさは感じてしまう。どうせ誰に誤解されるって話もないんだ。だったら一応女の変なやつに付き合っても問題ないだろう。
「わかった。今日の午後な」
「あ、ああ! 言ってみるもんだね。まさか頷いてくれるとは思わなかったよ。いや、僕は容姿はいいから当然なのかな?」
最初は呆けて、次に驚き、最後はいつもの微笑を浮かべる篠塚。コロコロ変わる表情は見ていて飽きない。でも自画自賛は本当のことでもムカつく。
「はいはい。キレイキレイ」
「心がこもってないよ。……まあいいや。君はいかにも女性に接し慣れしてなさそうだからね。僕がそのあたりも教えてあげるよ」
俺に先生ぶって教えるところを想像でもしたのか、篠塚はうんうんと満足そうに頷いた。そして「じゃあ放課後ね」と言って去っていった。
放課後、篠塚と向かった先はゲームセンターだった。このゲームセンターは俺も学校帰りに友だちと寄ることがあるところで、他のゲームセンターに比べてアーケードゲームの種類が豊富である。プリクラとかエアホッケーとかは無いのだが、他のゲームセンターが置かないようなマイナーなゲームがある。
篠塚はゲームセンターの中に入ると途端に表情を輝かせた。くるくる辺りを見回してどんなゲームがあるかを覗きこんでいる。
「よかった。前から来てみたいと思ってたんだよ。君のおかげだね」
「俺のおかげってゲームセンターくらい、いつでも来れるだろ」
実際、うちの学校の女子だってゲームセンターくらい行ってる。……幼馴染だって行ったことあるはずだ。
「プリクラとか沢山あるところならともかく、こういう昔ながらのゲーム台がメインのところは男性ばかりじゃないか。そこに僕が一人で入っていくには勇気がいるんだよ」
言われてみればこのゲームセンターでは女子は見ない。いるのは男子やサラリーマンの人ばかりだ。
「たしかに女子がいると目立つな」
「でしょ。だから僕の夢の一つがようやく叶ったよ」
篠塚は本当に嬉しそうだ。いつもの胡散臭い微笑でなく心からの笑顔。正直ドキッとした。いつもこの笑顔が出せるなら彼女は学校で一番モテる女子になるだろう。なんというか惜しい奴め。
「ん、どうかした?」
「いや、何でもない。それより好きに見てこいよ。俺は後ろについてくから」
「あ、そうだね! じゃあ行こう!」
篠塚は待ちきれないといった様子で歩き出した。
ゲームセンターを出た頃には日が暮れていた。
「まさか三時間延々とシューティングゲームをやってるとは思わなかった」
「い、いやぁ、あのゲームってアーケードしか無いゲームでね。しかも他のゲームセンターには置いてないやつだから、今日を逃せばいつできるか分からなくて……」
流石に恥ずかしかったのか、篠塚はもじもじと体をよじらせた。
「まあいいよ。楽しんでもらえたなら何よりだ。俺だって自分の好きなゲームやってたし」
「うんうん。お互い楽しめたってことだね。とてもいいことだ。僕も君がちょくちょく顔を見せに来てくれたから、他の人に変な目で見られることも無かったよ」
「そいつは良かった。付き合ったかいがあったな」
これで二時間愚痴ったのはチャラだ。みっともなく晒した醜態にケリをつけることができてホッとした。
一方で篠塚はチラチラとこちらを伺っている。
「その、また今度も一緒にいかない?」
「え?」
「い、いや、ほらさ、昨日あんなことがあったでしょ! しばらくは嫌なこと思い出しちゃうだろうから気晴らしにでもさ」
「……という建前で、本音はあのゲームセンターに入りやすくするためだろ?」
「う……バレた?」
「バレバレ。……まあいいぞ。部活やってるわけじゃないし、暇な時は付き合うよ」
貸し借りとか抜きで、篠塚と一緒に遊ぶのも悪くない。それに悔しいが篠塚の言うとおり、遊んでいた方が嫌な気分から離れられる。
とはいえ、お互いに好きなゲームに向かうので、一緒に遊んでるかと言われれば疑問ではあるが。
「本当!? やった。言ってみるものだね」
「大げさだなあ。まあ、男がいないと入りづらいみたいだからしかたないか」
「今度は竹中くんも一緒にシューティングゲームやろうよ」
「え、俺シューティングゲーム苦手なんだけど」
「だったら練習するチャンスだ。よかったね!」
「……」
閉口してしまう。なんだこのポジティブ娘は。篠塚ってこんなキャラだっけ?
「それと、さっき言ったことは本当だよ。きっとキミは昨日のことを思い出して、今日みたいな渋ーい顔するだろうからね。そいうのを忘れるのは遊ぶのが一番だよ」
「ああ、そうだな……じゃあ失恋マスターの篠塚さんに頼らせてもらいます。よろしく」
「なんか凄く引っかかる言い方だね。……まあいいや、こちらこそよろしく」
そういって篠塚は、あの胡散臭い笑みを浮かべた。
なんだか不思議な関係。友だちではあるけど、でもそれじゃあ微妙にしっくりこない関係。よくわからない俺たちだった。
「よーし、それじゃあー隣にいるやつと準備運動を始めろー」
体育の授業、教師の野太い声が校庭に響き渡る。それに合わせて皆たらたらと動き始めた。
文化祭から早一ヶ月。光陰矢のごとしというけれど、なんだか密度のある一ヶ月だった。 流石にこのころになれば文化祭の雰囲気は欠片も残っておらず、俺はいつものと言ったら変な感じだが、何事もない平穏な日々を過ごしていた。
「よろしく」
俺のペアになる男子が声をかけてきた。
「おお、よろしく――」
とんでもないイケメンがそこにいた。確か隣のクラスの勅使河原だ。一緒のクラスになったことはないが、アイドルかってくらいの容姿に、冗談だろって名字だったので覚えてる。
今日は合同体育だから隣のクラスの生徒がいるのは当たり前なのだが、いきなりこんなイケメンと組むことになると何だか眩しくて腰が引けてくる。
勘違いしないでほしい。俺はこれでも人並みのフツメンというやつだ。いくらイケメンが出てきたって普通に接していた。……そう、接していただ。なんだか幼馴染の一件以来、イケメンを見るのが嫌になってるのだ。イケメンを見ると嫌でも思い知らされる。幼馴染はイケメンと付き合ってると。
俺ではなく、別の男と……。
「竹中、大丈夫か?」
少し元気をなくした俺に勅使河原が気使ってくれた。こんなところもイケメンだ。
「いや、大丈夫……って、よく俺の名前知ってるな」
「あ、ああ、お前って篠塚と仲良いだろ? 最近毎日遊びに行ってるみたいだし。それでだよ」
こんなところで篠塚の話が出てきて驚いた。
そう、あれから俺たちはよく一緒に遊んだ。示し合わせたというのではなく、篠塚が二日に一度の割合でゲームセンターに誘ってくるのだ。時間も決まってる。朝のホームルーム前に、さも今思いつきましたとばかりに「そうだ。今日よかったら遊びに行かない?」と決まり文句のように聞いてくるのだ。
こいつはどこまでゲームセンターが好きなんだ。そこで、篠塚とゲームセンターに行った次の日、俺は一度冗談めかして言ったことがある。「今日はゲームセンターはいいのか?」と。彼女は「昨日遊んだから今日はガマンしないとね」と返してきた。つまりこいつは二日に一度の俺(私?)ルールがなければ毎日でもゲームセンターに通いたいんだろう。ゲーム好きここに極まれり、という感じだ。
まあ、俺としても篠塚と遊ぶのは楽しいと思ってる。ゲームセンターのお誘いだって毎回二つ返事で了解してるし、本人には言えないが、ゲームセンターで見せる篠塚の素の表情の可愛さも少しは理由に入ってる……かもしれない。
ともかく、そんなこんなで散々引っ張りまわされた一ヶ月だった。だが今考えてみれば、こんなに引っ張り回されたからこそ、幼馴染のことでうじうじと悩まなかったのかなとも思う。本人の前では悔しいので絶対に言わないが。
「毎日じゃないけどな。それで俺の名前を?」
「ああ。篠塚と俺、幼馴染なんだ」
「――!」
胸が一瞬詰まった。心臓に意識が集中する。鼓動がどんどんと早くなり、そこから凄い熱が全身へと流れていくのを感じる。荒くなった息がバレないように呼吸を抑える。
幼馴染。イケメン。男女。俺の知らない関係。
「最近は話もしてないんだが、それでもこの高校だとたった一人の小学校からの付き合いのあるやつなんだ。だから何となくそいつの情報は気になってるんだ」
勅使河原は何でもないように言った。だが俺にとっては違う。俺にとってその言葉は重いもので、たった一言で一ヶ月前の嫌な思い出が蘇ってしまうほどだ。
ずっと息を我慢してきたせいで、頭がクラクラしてきた。早く呼吸をしないと。でも息が荒くなってるのがバレたくない。それになんだか頭がぼーっとしてきて気持ちよくなってきた。このまま、倒れてしまったらどんなに楽だろうか。変な緊張状態に追いやられた俺がおかしな考えを始めたそのとき。
「お、おい竹中、大丈夫か?」
勅使河原が心配そうに俺の肩を揺する。その声で冷水を浴びせられたかのように現実に引き戻される。途端に息が苦しくしかたなくなった。
「ゴホッ!」
咳き込むように息を吐き出し、思いっきり吸い込んだ。何度も吸ったり吐いたり繰り返す。ああ、空気がうまい。
「お、おい竹中?」
「悪い。息が変なところに入った。もう大丈夫だ」
まだ調子は戻ってないが、何でもないように装う。さっきの言葉で体調崩しましたなんて言ったら、後でどんな噂を流されるかわかったもんじゃない。
「準備運動しようぜ。もうみんな始めてるし」
周りを見れば、みんなダラダラと体操を始めている。このまま突っ立っていたら変な目立ち方をしてしまう。
勅使河原もそれに気づき、俺らは無言のまま準備運動を開始した。
体育の準備運動は好きだ。体を伸ばしているとリラックスできて、いろいろと煩わしいことも考えずに済む。体がほぐれてぽかぽかしてくると、もう動きたくなくなるのが難点だが。
黙々と体を伸ばしていると、乱れた息が整った。
「篠塚のことだったよな。これまで接点は無かったんだけど、一ヶ月前に急に仲良くなったんだよ」
俺から話しかけられるとは思っていなかったのか、勅使河原は少し驚いた表情を見せた。
「へー、一ヶ月前か。なんか切っ掛けでもあったのか?」
「ああ。文化祭の打ち上げのときに篠塚が隣の席だったんだよ」
それ以前には、会話どころか視線が合ったことすら無い気がする。
「篠塚ってそういう集まりには出ないやつなんだけどな」
「俺もあまり付き合い良い方じゃないけど、篠塚が出席したの見るのは始めてだったな」
何故かはわからない。あいつも文化祭で何かあったんだろうか?
「でもそれが切っ掛けで仲良くなったんだな。遊びに行くときはどこに行くんだ?」
なんだろう。やけに根掘り葉掘り聞いてくるぞ。昔からの知り合いで高校も同じということはやはりそうなのだろうか? ついでに言えば……幼馴染……だし。
ズキンと心臓が痛む。今度は息を止めたりしない。逆に整理体操で息が上がってきたように見せる。
「もっぱらゲームセンターだな。あいつ女一人じゃゲームセンターに入るのが恥ずかしいらしいから俺を誘ってるんだよ」
言外に恋愛関係はないと含ませて伝える。これで退いてくれればいいけれど。
「ゲームセンター? 篠塚ってゲームが好きなのか?」
「知らなかったのか?」
おかしい。篠塚に惚れてるなら、それくらいの趣味は知ってるはず。俺の勘違いだったのか?
「あ、ああ、いやゲームをするっていうのは聞いたことがあるけど、ゲームセンターに行くほどとは思わなかったんだ」
取り繕うように口にする勅使河原。おい、お前さっき篠塚がゲーム好きってことで驚いてただろ。
「……今度、俺と篠塚と一緒にゲームセンターに行くか?」
「え!? あ、いや、遠慮しとくよ。俺、バスケ部で忙しいからさ」
嬉しそうな顔を見せた癖に煮え切らない態度の勅使河原。こいつが何を考えているのか今一つかめない。もう少し話を聞いてみようかと思ったとき、準備体操の時間は終わった。次はマラソンだったので、俺らがその日話すことはなかった。
次の日、珍しく篠塚からゲームセンターでなく、本屋に行くから付き合ってとのお誘いがあった。どうせ篠塚と遊ぶだろうと思って予定も入れてなかったので、断ることなく付いていくことにした。
本屋でチャチャッと用事を済ませ、さあゲームセンターか? と思いきや、篠塚が喫茶店で一休みしようと言ってきた。正直こいつの口からゲーム以外の言葉が出てくることに不信感を隠せない俺だったが、また特に断る理由もないので言われるがまま付き合った。容姿でいえば、誰もの目を引く女の子と一緒にいることは気分のいいものだった。
「それで、なにか相談事か? ゲーム一筋のお前が本屋に喫茶店なんて経路を作るなんて」
不信感が募りすぎて身構えてしまう。
「僕だってゲーム以外の話もするさ。というか他の人と話すときは、それ以外がメインだよ。女子でゲームの話しても盛り上がらないしね」
篠塚は苦いものでも食べたかのように顔をしかめた。
「たしかに、あのゲームセンターで篠塚以外の女子見たことない」
「でしょ? それにゲーム好きだっていうのは、やっぱりマイナスの印象があるから言い出しにくいんだよね」
わかる。ゲームが好きだっていうのと、スポーツが好きだって言うのじゃ、圧倒的に後者のほうが爽やかで取っ付きやすい印象がある。そういう空気がある。
「それにしては俺のときはアッサリと話してたよな」
目的地も告げられないまま遊ぶ約束をして、放課後いきなりゲームセンターに付き合わされたはず。
「キミには出会ったときから弱みを見せてもらってるからね。僕が少し自分の好みをさらけ出したところで何も変わらないよ」
言ってくれる。弱み……間違いなく文化祭の打ち上げで二時間語ったことだな。まあ、うん。自棄になって言い訳を延々二時間も続けるやつになら多少の弱みを見せても問題ないな。
「あまり勘ぐらないでよ。偶にはキミとゲーム以外の話でゆっくりしようと思っただけさ。ゲームセンターじゃ騒がしく話どころじゃないし、学校でそんな親しげにして女子に勘ぐられても後が面倒でしょ?」
否定はしない。
「確かに他のやつにゲームの話しないようだな」
「ん?」
「お前の幼馴染に会った。勅使河原ってやつ」
「ああ、あの完璧超人だね」
そうそう。その完璧超人のこと。
「彼は凄いよ。顔よし、運動よし、頭よし。あれで誰にも優しい人だからね。彼以上に完璧超人って言葉が似合う人もいないよ」
「さぞモテるだろうな」
「モテるね。バレンタインなんて本命チョコだけで十個を超えてるよ。僕も何度か彼にチョコ渡しといてって頼まれたなー」
篠塚は、あれ結構気まずいんだよね、と渋い顔をする。その様子からは勅使河原には何も含むところはなさそうだ。
「でもどうしたんだい? いきなり勅使河原くんの話なんて」
「昨日の体育は隣のクラスと合同だっただろ。そのときに勅使河原に話しかけられたんだよ」
「ああ、そういうことか。彼とは小学校からの付き合いだよ。といっても話したことなんて数えるくらいしか無いから、ただの知り合いって感じ」
「ふーん……」
なんだか安心した。だがそれを表に出すのは気がひけるので、素っ気ないふうを装う。
「……もしかして気にしてくれるのかい?」
「バーカ」
なかなか鋭い篠塚に軽口で答えながら少し考える。篠塚の方に意識している様子はない。それなら、勅使河原の片思いってことになるのか。
そんなこんなで数日経ったころのこと。その日は篠塚との約束も無かったので、ホームルームが終わった後、俺は家に帰ろうとしていた。そんなとき勅使河原と廊下でばったりと出くわしたのだ。
すれ違うお互いに気づいたが、俺らは親しげに話し合う仲でもないので、軽く声をかけて通りすぎようとした。
「竹中、このあと時間あるか?」
以外なことに勅使河原の方から声をかけてきたのだ。特に用事もなかったし、予想もしてないことに驚いた俺は、どもりながらも了解した。
連れて行かれた場所は屋上だった。昼休みは生徒で人気のこの場所も、放課後となれば人気はない。話し合いにはぴったりなのだが、なんだか変に硬い空気が勅使河原から漂ってきていて落ち着かない。
勅使河原は屋上の中央あたりにくると、こちらへと振り向いた。その顔は険しかった。
「単刀直入に言う。篠塚と遊びに行くのを止めてくれ」
勅使河原はさぞ鬱憤が溜まっているかのような硬い声で、早口に言った。正直、一方的にこんな言い方をされてイラッとくる。
「単刀直入すぎるぞ。理由を言ってくれ。友だちと遊びに行くなって他人から言われて、はいそうですか、って従うやつはいないぞ」
「お前が篠塚と毎日遊びに付きあわせてるせいで、彼女の成績が落ちてるんだよ。お前は普通の成績みたいだからいいかもしれないけど、彼女はこれまでずっといい成績だったんだ。邪魔をしないでくれ」
「毎日とか付きあわせてるとか、いろいろ突っ込みたいことはあるけど置いておく。だがそれでも無茶苦茶だ。成績なんてこれから注意してれば上がるだろ。遊びを止めるほどじゃない」
「お前くらいならそうだが、上の方になると点数は簡単に上がらないんだよ。彼女の時間を奪うのはやめてくれ」
暖簾に腕押しというべきか。こいつは話をしているようで俺の言葉は何も聞いてない。なんなんだ。いきなり屋上に呼び出されたかと思ったら、一方的に無理な理屈で命令される。イライラが抑えられなくなってきた。
「篠塚の成績が落ちたっていうなら何とかしたいと思うが、だから遊ぶなは極論すぎる」
「お前が遊びに行くのを止めれば、それで解決する」
「いい加減にしろよ! 勅使河原、お前成績が悪くなったからって友だちと遊ぶのを止めるやつがいると思ってんのかよ!」
「篠塚のためだ! お前がつきまとってるから彼女だって勉強の時間が作れないんだ!」
「つきまとってねえよ! 俺らはお互いに楽しいから一緒に遊んでるだけだ!」
「それが篠塚のためにならないって言ってるんだっ!!」
勅使河原の一際大きな声が屋上に響き渡る。もしかすると校庭で部活をしている奴にも届くかもしれないほどの声。だがおかげで俺の熱くなった気持ちが少し落ち着いた。
「……お前、自分で何を言ってるのか分かってんのか? 篠塚の成績を戻すために、あいつの友だち関係を無茶苦茶にしようとしてるんだぞ」
「……うるさい。わかってるに決まってるだろ」
やり場のない怒りをごまかすかのように頭をかく。もう知るか。
「そうかよ。なら次は篠塚にそれを言えよ。俺は付き合ってられん」
勅使河原からの返答はない。だが一々こいつを気づかう余裕もないので俺は踵を返す。
「このことは篠塚に言わないでおいてやる。なんだか知らないが、今度話すときは頭を整理してから来てくれ。一方的にお前の感情を吐き出されても迷惑だ」
出口へと歩き出す。こんな馬鹿げた呼び出しには、もう一秒たりとも付き合いたくなかった。
「おい、待てよ」
その声を無視してドアノブに手をかける。
「お前の幼馴染が付き合ってる先輩、どういうやつか教えてやるよ」
「バタン!」とドアが閉まった。
そして屋上には勅使河原と、校内へ戻らなかった俺が残った。
「竹中の幼馴染が付き合ってるやつはサッカー部の先輩だ。部活は違うけど、運動部のつながりで情報は入ってくる」
勅使河原の方を見れば、俺が屋上に残ったことに自尊心が満たされたのか、嫌な笑顔をしている。
「あの先輩、表向きにはサッカー上手の爽やかな人って印象があるけど、裏では女の子を取っ替え引っ替えしてるらしいぞ。バスケ部の先輩が言うには、今知る限りだって三人の女子と関係を持ってるって」
屋上に不快なジメッとした風が吹く。
「基本は校外の生徒に手を出してるからお咎めないようだけど、ときどき校内の生徒にも手を出す。そしてしばらくするとその生徒は転校でいなくなる。なんでかわかるか? 変な噂が立って学校にいられなくなるからだよ。行為をビデオで取られたり、孕まされたりしてな」
面白いほどに饒舌にしゃべる勅使河原をじっと見つめる。彼はそれをどう捉えたのか、笑みを一層深めた。
「いなくなった生徒の転校理由は親の急な転勤だ。先輩の名前は出てこない。でもその直前まで学校に来なかったり、精神的に不安定になって暴れだす子もいたそうだ。たぶんビデオを撮られてるから脅されて言えなかったんだろ」
勅使河原の声に感情がこもり、話はまさに佳境を迎えているのだろう。だが俺はその言葉に意識を奪われることはなかった。
呼び出されてどれくらい経っただろうか。勅使河原はバスケ部に行かなくて平気なのかと見当違いのことを考えてしまう。
「お前が知らないところで、お前の幼馴染が酷い目にあってんだぞ!」
勅使河原の攻撃的な追求は続く。だが聞きたいことは聞いた。もう終わりでいいだろう。
「知ってたよ」
小さく、だけどハッキリと告げた。
「…………は?」
「先輩の悪い噂なら俺も知ってた。サッカー部の友だちに聞いたよ」
そいつは今聞いた内容を、俺のために説明してくれた。しかもその話のほとんどは先輩本人が自慢気に仲間に話しているのを聞いたらしい。
「い、いや、だって……」
勅使河原は他人のことだというのに狼狽する。その様子を見て、純粋なやつなんだと思った
「文化祭の日――あいつが俺に先輩と付き合い始めたって言ったときに伝えてる」
あれは文化祭の真っ最中だった。クラスの喫茶店の担当時間が終わったので、友だちと合流しようと校内を歩いているときのことだ。幼馴染にばったり出くわし、俺は今日みたいに屋上に呼び出されたのだ。
「前から幼馴染と先輩が仲が良いって聞いてた。サッカー部の友だちの話もあったから、今度注意しとこうと思った矢先だ。付き合い始めたって報告された。それで今、勅使河原が言ったのと同じ内容の噂があるって伝えた」
チラチラと俺の反応を伺ってくる幼馴染に、先輩は止めとけって言った。先輩の悪い噂も実際に流れてるから後悔することになるって。
俺の中に幼馴染を取られたくない感情があって、それが余裕の無い態度を見せたかもしれない。でも、決して噂を誇張したわけではない。そういった話があると幼馴染に伝えたのだ。
「ビンタされたよ。そのあと、最低ッて言われた。……幼馴染とはそれっきりだ」
もういい加減認めよう。
俺の初恋はそのとき終わったのだ。
好きって気持ちが認められずに、いざ幼馴染が別の男と付き合うときになって悪あがきしたバカな男の初恋は終わったのだ。
悪あがきで幼馴染との関係をぐちゃぐちゃにした上でだ。
「ときどき思う。あんな土壇場じゃなくて、もっと早く幼馴染に噂を伝えていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって。或いは告白してれば、たとえ玉砕したとしてもスカッと生きれたんじゃないかって」
そのとき慰めてくれた女の子のおかげで忘れていた初恋。玉砕して一ヶ月経ち、他人に促されて、ようやく認めた初恋。
それは俺を縛り続ける鎖でもあった。
「バカみたいだろ? 俺、ずっと自分の気持ちに整理をつけれずにずるずる過ごしてきたんだぜ」
勅使河原は黙ってこちらに顔を向けている。その目だけは留まることなく揺れ動いていた。
たぶん、勅使河原は一ヶ月前の俺なんだ。こいつは篠塚に思いを寄せている。それを表に出さないのは他の人に知られると恥ずかしいのか、それとも認めたくないのかはわからない。だが、結果として置かれている状況は俺と同じだった。違うのは、まだ幼馴染である篠塚が奪われていないことだけだ。
「お前はこうなるなよ」
俺と同じだから、ライバルだけど言わずにはいられなかった。
「お前が自分の気持ちにどうケリを付けるのかはわからない。でも俺は近いうちに篠塚に告白する。もう結論を出さずに失うのは嫌だ」
俺も前に進もう。もしかしたら玉砕して、遊びに行くこともできなくなるかもしれない。でも俺のために、篠塚に告白しよう。
そして俺は屋上を後にした。今度は勅使河原の止める声はしなかった。
そのまま校舎を出て帰路につく。ホームルームからしばらく経ったせいで道を歩く生徒はいない。普段は賑やかな道には俺一人しかいなかった。
時間が経って気づくこともある。あの時、彼女は俺に先輩とは付き合うなと言って欲しかったのではなかったのか。そうであってほしいというのは俺の願いだ。一方でもしそうなら、幼馴染と先輩が付き合っている事実は、俺たちにとってこれ以上ない悲惨なものになってしまうと考える。予想が外れてることを願うのだった。
三日後、帰りのホームルームの直前に篠塚にメールを送った。放課後、大事な話があるから屋上に来てくれ、という内容だ。
数分と時間を置かないで返信がきた。了解、という簡単な返事だ。そのメールを確認して、ふと顔を上げて篠塚の方を確認すると、彼女は神妙な顔をしてこちらを見ていた。軽く頷いて視線を前に戻す。篠塚もただならぬ空気を感じ取っているようだった。
そして放課後、篠塚が鞄を持って教室を出た。それを確認して、少し経ってから俺も屋上へと出発した。
あれから勅使河原の話は聞いていない。元から話し合う仲でもなかったし、なんだか動向を伺うのが怖くて放っておいている。でも、もしこの告白が成功したら、それとなく篠塚に聞いてみようと思う。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、丁度向こうから歩いてくる人がいた。黒いロングヘアーの同学年の女子だ。篠塚ほどではないが彼女も学校で十指に入る美少女で、特にそのスタイルは高校生離れしていると言われている。……その点では胸が貧相すぎる篠塚は歯牙にもかけられないだろう。
同じ学年の生徒なら皆知っている、そんな見覚えのある彼女だが、久しぶりに直面したその顔は変わっていた。白くツヤツヤとしていた肌は荒れていて、カサついて水々しさを感じられない。柔らかそうだった頬は痩けていて、しっかり食事を取っているのか疑ってしまう。思わず引きつけられてしまうパッチリとしていた目もクマができ、瞳に元気は無い。全体的に生力が欠けていた。
一ヶ月前は一緒に登校したり遊びに行ったりと毎日のように顔を合わせていただけあって、短い期間でこうも変わるのかと驚いてしまう。
「……遠路くん」
彼女が俺に気づき、名前を呼んだ。張りのあった声が、辛うじて聞き取れるほどのか細い声になってる。
「久しぶりだな、歌子」
緊張しつつも、それが表に出ないように気をつける。なにせ幼馴染との、あの一件以来の会話だ。身構えてしまうのはしかたないことだろう。
「うん、久しぶりだね。変わらないね、遠路くんは」
「そりゃあ一ヶ月じゃ変わらないだろ。……お前は違うみたいだけどな」
俺が一ヶ月で変わったことといえば髪を少し短くしたことくらいだ。体重なんて計ってないけど、劇的に痩せたなんてことは無い。
「まだ一ヶ月しか経ってないんだね。なんだか遠路くんともっと長いこと会ってなかった感じがするよ。……最近、ご飯食べても戻しちゃうんだ。食欲もないから構わないんだけどさ、すっかり痩せちゃった」
「そうか」
なんでそうなったんだとか、いつから食欲がないんだとか、食事は戻そうが食えとか。言いたいことはたくさんある。でも、話を続けて、彼女に向き合い続けるのが怖くて、短く答えた。
「……それじゃ」
歌子に視線を合わせないようにして歩き出す。
「待って!」
すれ違おうとした俺の右手を歌子が両手で掴んだ。すっかりカサついてしまった歌子の手の感触がする。変わり果てたその手を気遣いたくなる。だが、それをしてしまえば俺はまた進めなくなる。
「……悪いが、このあと待ち合わせしてるんだ。話はまた今度にしてくれ」
視線を合わせないまま、痛いくらいの力で俺を握る手を解こうとする。
「ねえ、私ずっと遠路くんのこと考えてた!」
「――!」
先へ進もうとしていた足が止まる。
「先輩と付き合い始めから、ずっと遠路くんのこと考えてた。どうしてこうなっちゃたんだろう、てずっと考えてた」
腕を掴む手が震えてるのがわかる。
「前みたいに戻りたい……そうすれば今度こそ間違えないのに……」
歌子は俯いて体を震わせる。ほんの一ヶ月前なら肩を抱いて慰めてやりたくなる姿だ。
だが、その言葉と姿を見た俺の心は怒りを覚えていた。
「勝手だな」
前みたいに戻りたい。そんな今を否定する言葉を吐かないでくれ。たしかに俺だってそう思ってきた。この一ヶ月、歌子のことを思い出しては忘れようとして、苦しい思いをしてきたけど、それでも一生の出会いや楽しい思い出があったんだ。
そんな一ヶ月を否定するような言葉を、ずっと一緒に過ごしてきたお前が言わないでくれ。
「……俺、好きな人がいるんだ」
「え?」
歌子の手から力が抜けた。サッと腕を引き抜く。
「この一ヶ月で仲良くなって、今じゃ好きだって思う人がいる」
お前が過去に戻りたいって思うのは勝手だけど、その言葉で俺の歩みを邪魔しないでくれ。俺を引き止めるために、そんな言葉を吐かないでくれ。
過去に囚われるな。綺麗な過去を思い出して、今を否定しちゃいけないんだ。
「過去を思ったって今は変わらねえよ。今が嫌なら進むしかない。たとえ戻りたい過去に帰れなくても、今よりはマシになる」
この言葉が彼女に届いたかはわからない。彼女の方を見ることなく俺は歩き出した。
後ろから彼女が座り込んだ音が聞こえた。小さく呻く声も聞こえる。前なら駆け寄って慰めていただろう。でも俺の心は揺るがなかった。今は一刻も早く篠塚に会いたかった。
屋上につくと、篠塚が手持ち無沙汰にフェンスに寄りかかっていた。篠塚は俺に気づくと頬をふくらませて睨んできた。
「遅いよ。待ちくたびれた」
「ごめん」
責められているはずなのに嬉しくなる。こうして篠塚と話していると、過去を振りきって進んだことが勲章のように思えてくる。
「なんで笑顔なのさ……全く、今日は竹中くんのおごりだからね」
「分かったよ。それくらい飲んでやる」
今日は記念日にするんだ。それくらい喜んで引き受けよう。
「うん。……でも、どうしたの? すごくスッキリした感じだね」
「ああ。幼馴染と決着をつけてきた」
言葉はすんなりと出てきた。そこには先程まで感じていた重い気持ちはない。
「……そっか。ねえ、それでもここに来てくれたってことは期待してもいい?」
「もちろん」
「じゃあ……どうぞ?」
「どうぞってお前……」
「雰囲気がない? だったら女の子を三十分も放っておくところから直すべきだね」
「ごめんなさい」
これに関しては即、謝罪である。なんだか尻に敷かれる、という言葉を思い出した。
「誠意はあとで見せてもらうよ。今日はたくさん食べるからね」
「ほどほどに、な?」
「誠意誠意」
そう言うと、それまで笑顔だった篠塚の顔が真面目なものに変わる。俺もなんだか気負ってしまい、黙りこんでしまう。
なんだか一気に恥ずかしくなってきた。先ほどまでは勢いで動いてただけに、それが削がれた今では緊張感がぶり返してくる。
だが、いくしかない。ここまで篠塚にお膳立てされて、最後も篠塚に決められでもしたら、もはや俺の権威を取り戻せないだろう。
「し、篠塚!」
「……はい」
「お、俺、お前のことが好きだ! 付き合ってほしい!」
顔が真っ赤になるのを感じる。視線を逸らしたくなるが、自信がないような素振りは絶対に避けようとふんばる。
篠塚はそんな俺の姿を見て、笑みを取り戻した。そしてとても嬉しそうな声で話しだす。
「これからもよろしくお願いします」
「……いよぉぉっし!」
断れることなんて考えてなかった。でもオッケーをもらえた気持ちは、これまで感じた幸福感を軽く凌ぐほどのものだった。
思いを伝え、通じ合う。俺は今、篠塚が好きで仕方がなかった。今なら何でも許せる気がする。
「でも、僕は重い女だよ」
「いいよいいよ」
バッチコイだ。
「独占欲が強いから、竹中くんが他の女の子と話してたら機嫌悪くなると思う」
「いいよいいよ」
むしろ嫉妬してくれると嬉しいです。
「あと僕は貞操観念がしっかりしてるから結婚まで覚悟してもらうけど、告白してきたのはそっちだから問題ないよね」
「ちょっ、それは早すぎだろ!」
「……なにそれ。気分を害したよ。もう怒った」
「えー!」
おかしい。俺から告白して主導権を握ったはずなのに尻に敷かれてる気がする。
でも……それでも嬉しい。傍から見れば尻に敷かれてる情けない男かもしれないが、俺は篠塚にこうして振り回されることが嫌いじゃなかった。
「じゃあ、怒りに任せて自棄食いするから、よろしくね」
「いや、篠塚さん。俺、理知的なあなたが大好きなので自棄食いは控えたほうが……」
「はいはい。いいから行こう」
でも、だからといって篠塚にリードされ続ける気はない。俺が自分から篠塚の関係を深めるために動くのだ。もう二度と、相手任せで取り返しのつかないことにならないように。
「ねえ竹中くん」
「うん?」
「離さないでね?」
「……絶対に離さない」
ここまでご覧いただきましてありがとうございます。
久しぶりに投稿した小説ですが、楽しんでいただけたら幸いです。