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良い男

 フィデリオのBRVから青い炎が渦を巻くように、どんどん巨大化していく。

 フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。風なりのような音と共に、青い色をした不死鳥が現れ飛翔している。そしてそのまま万姫に向かって飛来した。

「このあたしがそう簡単にやられるとでも思ってるの?」

 神通技 斬妖剣

 如意棒をまるで太刀を振るうように動かすと、高熱の斬撃が不死鳥を迎え撃つ。不死鳥が炎の両翼を羽ばたかせると、無数の炎の羽根が舞い散り、その羽根が斬撃へと衝突し、激しい熱風を吹かせる。

 その熱風を間近で受ければ、肌が焼ける。全身火傷は逃れられないだろう。そして不死鳥は再び翼を羽ばたかせ、一気に地上に向け降下した。

 その不死鳥の体当たりを万姫は逃げることもせず、受け止める構えを取る。それは万姫の意地だ。逃げるという事を許さない。それが彼女のプライドだ。

「やれるものなら、やってみなさいよ――――!!」

 そして物凄い爆音と共に、グランドが割れ砂塵がアリーナの高い天井にも到達する勢いで飛び散り、炎と砂埃がグランド中を支配した。

 皆が試合の終わりを感じた。

 それほどに凄まじい光景だった。

 この技を受けて、いくら猛者の万姫でも唯では済まないだろう。

そして皆のその予想は半分はずれで、半分が的中していた。

 砂埃と炎が静まり、視界が開けフィデリオは感嘆を漏らした。

「手応え的には、倒したと思ったんだけどな。・・・Es ist wunderbarすごいね

「当然よ。この程度であたしを倒せると思ってたんなら、考えを改めることね」

「うん。そうさせてもらうよ。でも・・・もう君たちの負けだ」

 フィデリオの言葉で察したのか、万姫が後ろに振り返り中国のフラグに目を向けた。中国のフラグはフィデリオが放った青い不死鳥の炎に焼かれ、折れている。

 フィデリオは、万姫に攻撃を仕掛け、敵の目線がフラグから離れている隙を狙ってフラグにも攻撃を仕掛けていたのだ。

 そのため、万姫はフィデリオの攻撃を防いだものの、フラグを考えるまでに至らなかったのだ。

「そんな・・・」

 呆然と呟く万姫を見ながら、フィデリオが口を開いた。

「今回は完全に攻撃一本に転じて、防衛を皆無と言って良いほど、怠った戦略負けかな」

「・・・・まだよ」

「え?」

「まだあたしは倒れてない!だから負けてなんかいない!!」

 万姫が怒りに身体を震わせながら、如意棒に赤く燃える炎を巻きつかせ、フィデリオに敵意を剥き出しにしている。

「やめて!試合はもう終わってる」

 フィデリオに敵意を向けている万姫に、ヤーナが叫ぶ。

 だがそんなヤーナの声が今の万姫に届くはずもなく、因子をどんどん練り上げ濃度を上げている。

 そんな熱を含んだ気流に髪を揺らされながら、フィデリオは訝しんだ表情をしながら

「わかった。次で決める」

 そう言ってフィデリオは再びBRVを構えた。

「あたしを虚仮にしたんだから、たっぷり報復は受けてもらうわよ」

 万姫は跳んだ。真上へと。

 そんな万姫を地上でフィデリオが迎え撃つ準備をしていた。

 聖剣四技 黒い(シュヴァルツ)雷(ドンナ―)

 地上から黒い稲妻が真っ直ぐに万姫に迸る。

 それを真っ向から、万姫が迎え撃とうと技を放った瞬間、万姫のBRVに亀裂が走った。

 パキパキパキキキキキキキィィィィ・・・・。

 オリハルコンで出来たBRVが鳴く音がする。

「嘘でしょ?」

 万姫が目を丸くして呟く傍らで、いとも簡単に如意棒が金属の欠片となって飛び散る。

 だが万姫の目前にはフィデリオが放った電撃が迫っている。それでも万姫が心ここにあらずという感じで唖然としている。

「危ないッッ!!」

 狼は叫びながらイザナギを構えて、万姫とフィデリオの間に割って入っていた。

 そしてそのまま万姫を抱え込みながら、イザナギでフィデリオの技を受ける。重い衝撃。その全身が身体に激痛が駆け抜ける。これがドイツの代表選手であるフィデリオ・ハーゲンの実力なのだと、痛感する。

 だが今はそれを噛み締めている余裕はない。

 狼は因子をイザナギへと流した。狼が行なったのはそれだけだ。今はそれのみで充分だ。

 そして狼は渾身の力を込め、フィデリオのシュヴァルツドンナ―を跳ね返した。

 跳ね返された稲妻が地上に衝突し、無数の電流を放ちながら霧散した。

 狼は万姫を抱えながら着地すると、安堵の表情を浮かべたフィデリオが近寄って来た。

「ロウ、ありがとう。本当は俺が対処できれば良かったんだけどね。あの距離だと確実に間に合わなかったよ。でも、よく間に合ったね」

「うん、まぁ。危ないと思った瞬間には、もう体が動いてたって感じかな。割とグランドの近くの席に座ってたし」

「だとしても、もう武選手の目前に放たれてた攻撃の間に割って入るなんて、最初からこうなるって予想でもしてないと無理なんじゃないかな?」

「ああ、それは僕の友達の情報操作士の子が、武選手のBRVが危険っていうのは、見抜いてたんだけど、その間にフィデリオが攻撃を放ってたから、僕も間に合わないと思ったんだけど、真紘のおかげで助かったよ」

「マヒロの?」

「うん、真紘が僕が跳んだ瞬間に、風を使ってサポートしてくれたから。・・・でも武選手も無事で・・・・痛ッ!!」

 狼が痛みを感じた横腹に目を向けると、狼が抱えたままにしていた万姫が狼の横腹を手でつねっていた。

「なんで人の横腹をつねるんだよ!?」

 狼がいきなりつねられた事に抗議すると、万姫が俯きながら

「名前で良いわ。それと我起来(もう立てるわ)」

「へ?」

 最後が中国語だったため、狼が首を傾げていると、万姫が一息吐いてから狼から離れ立ち上がった。

 そして狼とフィデリオに背を向けたまま、

「いいわ。認めてあげる。今回はあたしの負けよ。それにしても・・・你、極好的男人(アンタ、良い男ね)」

「認めてくれたのは良いけど、最後の中国語なんて言ったんだよ?」

 狼が自分たちに背を向けた万姫に訊ねると、万姫がくるりと身を翻して狼に向き直ると

「決めたわ。アンタをあたしの旦那にしてあげる!」

「「え?」」

 狼は自分を指で指し、フィデリオも指で狼を指しながら万姫を見ると、万姫は満足そうに頷いた。 

 そこで、狼とフィデリオ、そしてアリーナにいた全員が驚愕の声を上げた。


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