不死鳥
「へぇー、アンタからリタイアしたいのね。いいわ。その希望叶えてあげる」
万姫が如意棒を手に自分たちへと疾駆するフィデリオとそのまま衝突する。フィデリオが西洋型のBRVを万姫へと振りかざす。そこで如意棒と剣が交叉し、火花が散る。
一歩フィデリオから離れた万姫が、如意棒を巧みに操り、フィデリオへの攻撃を連打する。
神通技 火槍串
フィデリオの足元から炎の串が突き出された。フィデリオは横に跳びながらその攻撃を躱すが、万姫の攻撃はフィデリオを追うかの様に、次から次へと地面か突き出してくる。
「逃げても無駄よ。あたしの技からは絶対に逃げられないわ」
万姫が余裕の笑みを浮かべて逃げるフィデリオを見ている。だが、段々と万姫から笑みが消え、顔が曇り始めた。
「なんで、アイツあんなに笑ってるのよ?」
万姫が訝しみながら見ているフィデリオの顔は微かに微笑みを浮かべている。そして万姫と目が合ったフィデリオはくすりと笑って
「どこまでこの攻撃が持続するのかを見せて貰ったけど、なかなかだね。それじゃあ、俺も逃げてばかりはいられない。反撃させてもらうよ」
フィデリオが手に持ったBRVを万姫が放った火槍串へと一振りすると、今までフィデリオへと牙を剝いていた劫火が一瞬にして、冷気を放つ氷柱へと変貌させた。
それからフィデリオは一気に万姫へ肉薄する。
「んふふふふ。そう簡単に万姫ちゃんに近づけさせるわけにはいかないのよねぇ」
フラフラと千鳥足なりながら万姫とフィデリオの間に立ったのは、酒を手に持っていた雪麗だ。
雪麗は手に持った白酒をぐびっと一気飲みし、酒ビンをそのままフィデリオに投げ捨てた。
「きゃふーーー。やっぱり酒はいい!!最ッッ高!!」
両手を万歳するかのように上に上げ、雪麗は試合という事も忘れているかのように、リラックスをしている。
そんな目の前にいる雪麗に一瞬目を見開いていたフィデリオは、すぐに顔を引き締め、雪麗を無視するかのように邁進し始めた。
「ちょっと、ひどい!!どうしてあたしを無視すんのさ?」
雪麗がフィデリオの目の前に来ると、足を振り上げフィデリオの顔面を狙う。
フィデリオはそれを剣で受け止めた。
「大正解よ~?あたしの蹴りを素手なんかで受け止めたら腕が吹き跳んじゃうからね。じゃあ次はどう?」
フラフラとしているため、視点もフィデリオに定まっているかさえ分からない雪麗は、両手で手刀をフィデリオに加える。その動きは速い。フィデリオも少し苦い顔をして、その手刀を躱している。
そんなフィデリオの横を鉄鞭を持ったデトレスがすり抜けて行く。
「一人目は片付いたぞ。まったく最初から大物を狙うからこうなるんだよ。Narr!!」
「ちょっと欲張り過ぎたかな。でも、すぐ本命(万姫)を狙いに行くさ」
そんな冗談を言い合っている二人の横を一発の光弾がすり抜けた。その光弾がまっすぐにドイツ陣地にあるフラグへと飛んでいく。
「油断禁物。一番手っ取り早い方法で勝たせてもらいまーす」
「さすが!!紫薇。ちゃんと蝶凌の仇分も取ってあげてよね」
95式を持った紫薇を称賛しているのは、アデーレと中国刀で交戦している花淋だ。
フラグへと飛んでいく光弾は誰に阻まれるわけでもなく、ドイツのフラグを貫いた。
その瞬間中国代表を応援しに来ている中国人の席から、大きな歓声が沸き立つ。
だが、おかしい事にいつまで経っても、ドイツの敗北判定が出ない。それにフィデリオたちもまったくと言って良い程、動じてる様子がない。むしろ、各々がゲッシュ因子を練り上げ、技を放とうとしているようにも見える。
「ったく。どうなってるのよ!?判定員!!」
万姫がフィデリオたちの動きに注視しつつ、判定員に事の状況を教えるようにと怒鳴っている。
「残念だけど、俺たちは敗北してないんだ。フラグは折れてないからね」
「フラグが折れてないですって?嘘よ!さっき紫薇の放った銃弾が確かに当たったはずよ」
動揺しながら、万姫が苛立った声音でそう叫んでいる。
だが、フィデリオが言った言葉は本当だったらしい。たったいまモニターに映し出されたドイツフラグには、銃弾が貫通した形式もなければ掠めたという気配すらない。
「どうなってるんだ?」
他の観客に漏れることなく、狼が困惑した声を上げた。
「もしかして、あのヤーナとかいう子、防御がメインの子なんじゃない?だから、中国の銃弾も当たったように見せかけて、本当は間際で防いでたとか」
「いや、それはないね」
根津が立てた憶測を、鳩子がそれを一蹴した。
「なんでよ?」
グランドに目を向けていた根津が、鳩子に首を傾げる。
「確かにしっかりとBRVを使って詳しく調べたわけじゃないからあれだけど、ドイツのフラグ付近で感じた因子の流れは、防御的な方向の流れじゃなかったんだよね」
「流れなんてあるの?」
鳩子の隣に座っていた小世美が首を傾げながら、訊ねた。
「まぁ、ね。あるよ。大体攻撃的なのだったら、激しく渦巻いてるって感じの流れで、防御は一点集中って感じの動きをするんだけど、鳩子ちゃんが感じた流れは、攻撃的ってわけでも防御でもなくて、雰囲気的に言うと何かフラグを包み込むって感じの動きに見えた」
「なによ、それ?」
鳩子の抽象的な例えに根津がさらに首を傾げた。
「本当にそんな感じなんだって。それ以外に例えようがないの。もしかしたら、特殊系の人かもね」
「特殊系?」
今度は狼が首を傾げた。
「そっ。特殊系。攻撃でもなければ防御でもない人のこと。その分類に情報操作士も入るんだけど、他にも治癒とかもこの分類かな。まぁ言っちゃうとサポート系って奴よ」
「なるほど」
鳩子の説明に納得して、狼は頷いた。
「なるほど特殊系かぁ~。けっこう厄介な選手を入れてるわね」
根津が顎に手を当てながら、唸る様に呟いた。
「なんでさ?」
「特殊系はサポートって言っても、一区切りでそう言いきれないから、対処が難しい」
名莉がヤーナの方を見ながら、そう答えた。
そんな事を狼達が話している間も、グラウンドでは激しい試合が行われている。
「考えてても仕方ないわ。フラグが折れないなら敵をノックアウトすればいいんでしょ」
神通技 火尖鎗
万姫がカナダ戦で見せた技を繰り出す。その威力はカナダ戦の時よりも威力が上がっているようだ。
グランド内の約3分の1が炎で埋め尽くされる。そこから放出される熱がアリーナ全体を熱し上げている。
「こんな炎!」
アデーレがレイピアを構えながら燃え盛る炎へと駆ける。炎はすぐさまアデーレを包み込むようにグランドを奔る。
「あたしの技に飛び込むなんて、自殺願望でもあったのかしら?」
くすりと笑った万姫の傍らで、すぐに変化が起きた。
炎の中心から凄まじい程の水圧を持った水が下から上へと吹き出す。それは中心からだけではなく、円の様に広がる炎の円周からも水が湧きあがる。
「まさか、あたしの技があんな女の技で破られるなんて!!・・・だったら、次なる手を打つだけよ」
神通技 火龍
神通技 火虎
炎の龍と虎が一気にグランド内を支配する。熱い。炎の龍と虎が地面を焦しドイツの選手を威嚇しているように炎を撒き散らす。
そんな圧巻とも言える姿に普通なら臆してしまう者もいるだろう。
だがフィデリオはそんな火龍と火虎を前に西洋剣を構え、突進した。
聖剣四技 冷たい嵐
「はああああああああああああああああああああああああ」
声を張り上げ、フィデリオは疾駆する。
冷気の風を吹き荒らしながら、火龍と火虎に衝突する。そして凄まじい冷気を帯びた風との接触により白い濃霧が立ち込める。だが、その濃霧はフィデリオが万姫の技を打ち破ったことの証だ。フィデリオは足を止めることをしない。
その横ではデトレスも雪麗と衝突していた。
骨を砕く鉄鞭を雪麗が読めない足取りを取りながら躱す。そしてそのまま雪麗が後ろへと身を返しながらデトレスの顎先を足で蹴り上げる。
花淋も火尖鎗を打ち破ったアデーレと剣戟戦を開始している。花淋は中国刀をアデーレと突き落すように刃を振るう。アデーレがレイピアで受け止めると、アデーレがそのまま地面へと叩きつけられる。
「無理無理。あたしのBRVを受け止めようなんて無謀すぎ~」
そう言って、花淋がきゃきゃっと嬉しそうに声を上げて、地面に叩きつけられたままのアデーレへと斬撃を放つ。アデーレもその斬撃を何とかレイピアで薙ぎ払うが、圧力の掛かった花淋の斬撃を無傷で払えるはずもなく、腕からは血が噴き出す。
苦痛で顔が歪む。そんなアデーレを嘲るように花淋がBRVを構えた。
「残念でした。今回はこれで終わり。再見」
花淋の刃がアデーレへと降ろされた。
そこでモニターからアデーレの名前が削除される。
「よくやったわ。花淋。まずは一人目ね」
フィデリオと交戦しながら、万姫がまだまだ余裕そうに呟いた。
「じゃあ、次は君の番だ」
「ふん。できるもんならやってみなさいよ!!」
燃え盛る万姫の因子を巡らせたBRVは熱と炎を纏い、フィデリオの髪を焼く。フィデリオもBRVを紺色に光らせ、交戦する。激しく討ち合う。その討ち合いを離れては近づき離れては近づく。それを何度も繰り返す。
二人の間には因子が吹き荒れる。
「アンタ、これであたしに負けたらさっきのフラグで使った仕掛けを教えなさいよ」
「わかった。約束するよ。でも、そうなることはないよ。君はもうすぐ負けるからね」
フィデリオは万姫から離れると、フィデリオから青い気流が勢いよく吹き出す。
聖剣四技 青い不死鳥




