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sieg

「あーあ、昨日はあんまり寝つけなかったな・・・」

 未だに部屋で寝ているマルガとアレクシアを起こさない様にしながら、アリーナの周りにある散歩道を歩いていた。

 朝の風がセツナの髪を揺らした。

 その風を心地よく感じながら、セツナはふと立ち止まった。

「今日はマヒロ、試合に出れると良いけど・・・」

 セツナは顔を赤らめながら、そんな事を呟く。

 自分自身の気持ちなのに、まったく気づいていなかった。自分が真紘を気にしているのは、ただ単に憧れているからだと思った。いや、最初はそうだったのだろう。

 でもいつからか、その尊敬は好意へと変わっていた。自分でも驚くくらい自然に。

 まさかこんな形で気づかされるとは思っていなかった。でも、その気持ちがくすぐったいような、嬉しいようなそんな気分だ。

 でも、自分の中にもう一つの気持ちがあるのも事実だ。

 そうフィデリオへの気持ち。

 セツナは自分自身でフィデリオを好きだと思った。これは欺瞞でも勘違いでもない。フィデリオは間違いなくセツナの中で大切な人だ。

 でも今のセツナには、フィデリオを一番大切だと言い切ることは出来ない。もう、自分の気持ちは別の場所にもあるのだから、当然の事だ。

「やっぱり、二人とも好きっていうのはダメなのかなぁ・・・」

 それを考える事自体、途方もない事に思えた。

 いけないことだと言われても、自分の中にある気持ちが消えるわけでもない。

 どうしよう?

 セツナは短く息を漏らした。

「セツナ様?」

 後ろから声を掛けられて、セツナが後ろに振り向くとそこには黒い髪を押さえながら、誠が立っていた。

「マコトさん!どうしたんですか?もしかして、マコトさんもお散歩しに来たんですか?」

「ええ。まぁ。そんなところです。少し行き詰まってしまって・・・」

 誠はそう答え、苦笑を溢した。

 そしてセツナは誠が何に行き詰まっているのか、一瞬で分かってしまった。

「マコトさんも心配なんですね」

「え・・・?」

「ほら、マヒロのこと・・・」

「ええ。・・・そうです。よく分かりましたね」

 誠からそう言われ、セツナも苦笑した。

「誰だって、わかりますよ。みんな心配してるし・・・私も心配だから・・・」

 セツナは自分の言葉を噛み締めるように、少し視線を誠から外し、そう言った。

 セツナが誠から視線を外したのは、とても気恥ずかしくなったからだ。

 自分が真紘のことで何かする度に、周りに自分の気持ちを見透かされてしまいそうで。

 だからこそ、セツナは視線を逸らした。

「そうですか。それはありがとうございます。私がお仕えする方をそこまで心配して頂いて、本当に嬉しく思います。・・・真紘様にこんな素敵なお友達が出きて、良かったと思います」

 不意に誠からそう言われ、セツナは顔を上げた。

 顔を上げた先にいた誠は、セツナと目が合うとすぐに頭を下げ

「それでは失礼します」

 そう言って踵を返してしまった。

「ちょっと待って下さい!!」

「どうかしましたか?」

 誠は少しだけ顔をセツナの方に向けて立ち止まってくれた。

「あのマコトさんは、知ってるんですか?マヒロがいつもと違う理由・・・」

 セツナは目を瞑りながら思い切って訊いてみた。

 誠だったら答えてくれるかもしれないという淡い期待をしながら、誠の返事を待つ。

「すみません。私の口からは何も言えません。・・・ご期待に添えず申し訳ありません」

 淡い期待をしていたが、誠から帰ってきた返事はノーだった。

 セツナは軽いショックを受けながら誠を見ると、誠は既にセツナに背を向けて歩き出していた。

 セツナはそんな誠の後ろ姿を見ながら、悔しい気分になった。

 マコトさんは知ってるんだ。マヒロが変になってる理由・・・。

 だがそれは当然のことだ。誠たちは真紘の懐刀で、彼を昔からよく知っているのだから。

 それに比べ自分は・・・。

 真紘と会って、まだ半年も経っていない自分。

 そんな自分が真紘の事を深く知るというのは難しいことなのだろうか?烏滸がましい事なのだろうか?

 少し考えてから、セツナは自分の中にある想いを口にした。

「知らないなら知る努力をすればいい」

 そしてセツナは一度自分の頬を手で叩き、自分を叱咤してからホテルの方へと歩き出した。




 昨日に引き続きアリーナでは観客の声が沸き起こっていた。

 グラウンドには、ドイツに好戦的な視線を送りながら腰に手を当てている万姫率いる中国の代表選手と、冷静な態度でその視線を受け止めているデトレス率いるドイツの代表選手が立っていた。

「二日目第一試合は、一日目を圧勝したドイツと中国だ!!さてさて、今日はどんな旋風を巻き起こすのか!?」

 マイクが朝にも関わらず、高いテンションでナレーションをしている。

 狼はグランドから一番近い所に腰を下ろしていた。

 その横には、いつものメンバーと真紘、希沙樹、正義、陽向、棗などが座っていた。最初は皆が真紘を見て、何か言いたそうな顔をしていたが、真紘の硬い表情を見て、口籠ってしまっている感じだ。

 狼も今は目の前で始まろうとしている試合に集中しようと思った。この試合から学べることはきっと多い。狼はそう思った。

 両国とも第一試合の相手にチームを圧倒したチームだ。

 その二つがぶつかるのだから、皆の注目が集まるのも当然だ。

「ふふ。良い具合に盛り上がって来たじゃないの。さて、まずは誰から屍にしてあげようかしら?」

 万姫の挑発的な言葉と共に、中国の代表生たちの中国刀、95式自動歩槍型、ヌンチャクと中国らしいBRVが並ぶ中、髪留めで長い髪をアップにし、チャイナドレスからスラッとした足を覗かせた雪麗(シュェリー)という女性は片手に白酒(パイチュウ)の瓶を手にしている。

「えっ、酒って・・・あれ、アリなのか?」

「認められてるんじゃない?摂取型の人なら。摂取型は自分の肉体を強化するのがメインだから、その強化率を上げる為に、色々な試行錯誤をしてる人もいるくだいだし。あれもその内の一種かもね」

 驚いている狼に答えたのは、少し離れた場所に座っている棗だ。そしてそんな棗を見ながら鳩子が自分の台詞を取られたと言わんばかりに、悔しそうな顔をしている。

 狼はそんな二人に苦笑しながらグラウンドへと視線を戻した。

 そして中央部にあるモニターには、視界開始までのカウントダウンが映し出され、3、2、1・・・・ピー――。

「Icn gewinnen einen  sieg (勝利をこの手に)!!」

 フィデリオがそう叫びながら、先陣を切った。


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